怠惰な日々 2
私は都会育ちではないため、都心のほうに行ったときは、
どこにでも人がいて、気軽に歌も口ずさめないなぁ、と思ったのを覚えています。
なにはともあれ、明日も更新しますので、よろしくお願いします。
学生時代の白雪がしてみせていた、こちらに媚を売るような笑顔が思い起こされる。
きっと、今も電話口の向こう側でそうしているのだろう。
すでに守られる必要などないくせに。
立場上、彼女のほうがよっぽど強者なのに…。
彼女に気を遣われる、心配されるというのが、酷く滑稽で、虚しかった。
その消化不良の苛立ちを叩きつけるように、かごめは語気を強めて言った。
「ごめんじゃなくて、何の用、って聞いてるんだけど」
「あ、ごめん…」
謝る癖が性根に染みついているようだ。このような自信のない態度で、勤まるものなのだろうか…、大企業というものは。
かごめは、辟易した気分で、これ見よがしにため息を吐く。
「で、どうしたの」
「あ、あの…」再び、沈黙。苛々して、電話を切ってやろうかと思っていると、ようやく白雪は続きを話した。「おばあ様、亡くなられたんだよね…」
「はぁ?」
何かの冗談みたいな質問だったが、白雪が冗談なんて言うはずがない。
「何それ、私、聞いてないんだけど」
「かごめちゃんのお母さんが、その、連絡取れないから、私から伝えてって」
母と白雪とのやり取りを聞かされたとき、自分がどうしようもなくだらしない人間だと言われているようで、無性に腹が立った。
どうして、それで白雪に連絡するんだ。
こういうのが重なっているせいで、白雪にまで哀れまれるんじゃないのか。
悔しさに歯軋りする思いをしながら、電話を握りしめていると、その無言を勘違いして受け取ったのか、白雪が心底心配そうな口調で問いかけた。
「大丈夫?かごめちゃん」
他人を心配する余裕のある彼女が、やはり、酷く疎ましい。
この苛立ちが妬み、嫉みから来ていることぐらいは理解している。だが、だからといって、簡単に抑えられるものではない。
「大丈夫、って何が」
「え、あの…、おばあ様…」
「別に、ばあちゃんなんて知らないよ。電話でしか話したことがないから、他人と変わらない」
「そんな言い方」
珍しく反抗してきた白雪に、ムッとして即座に噛みつき返す。
「何?じゃあ、白雪は他人が死んでも悲しいんだ?優しいんだね、白雪さんは」
「…口出しして、ごめん」
すぐに矛を収めた彼女に、さらに苛立ちが募る。
噛みつくなら、最後までそうすればいのに。
別に彼女は間違ったことは言っていない。むしろ、人道的な考え方から見れば、明らかに私のほうが不道徳だ。
しかし、そうなると、何はともあれ実家に戻らなければならなくなったのだろうか。
いくらまともな面識がないといっても、裕福ではなかった我が家は、祖母のほうから金銭的な支援を受けていたと聞く。
実家は、かなり遠方にあったわけだが、祖母の住んでいた場所はそこからさらに彼方、山の中に位置する集落となる。
ド田舎中のド田舎。まともな交通機関もなければ、インフラも整備されていない…というのが、母から聞いた話だった。
ただ、母自身も物心付く前に、麓の町で暮らす親戚の元へと送り出されており、まともな記憶がない、というのが本当のところらしい。
まあ、しょっちゅう叔母とは長電話していたけれど…。
帰省するための費用など、持ち合わせがあっただろうかと不安になっていると、機嫌を損ねないためか、おそるおそるといった感じで白雪が尋ねてきた。
「実家に帰るんだよね、かごめちゃん」
「まあ、さすがに…。私はどうでもいいけど、お母さんはそうしろってうるさく言うだろうから」
「大丈夫?」
主語のない発言にイラっとする。
「だから、何が」
「えっと、送って行こうか?」
「はぁ?何で白雪がここで出て来るわけ?」
「だ、だって…、この間実家に送ったとき、お金ないって…」
う、そうだった。
何でもなにも、私はよく白雪を足に使っているんだった。
正直、ありがたい申し出ではあるものの、ここで両手を挙げて喜んでしまっては、散々冷たくあしらっていた自分があまりにも格好悪い。
「…というか、白雪は仕事もあるでしょ」
「私なら大丈夫だよ。有休、かなり残ってるし。消化しろって上司もうるさいから」
有休、自分には縁遠い話だ。
悩んだ末に、白雪の、「使ってくれて構わないから」という一言に負けて、彼女を頼ることに決めた。
どこまでも下手にくる白雪に、ちょっとした優越感を覚える一方で、やはり、情けなさを感じずにはいられないかごめであった。
こうして彼女は、足を踏み入れることとなる。
人の狂気と、人ならざるものが支配する、おぞましい場所に…。
プロローグはこちらで終わりです。
ホラー然、または百合然とするのはもう少し先となっておりますので、
お待ち下さい…。
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