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マーセナリープリンセス  作者: 黒ヌイ
学習院編
9/20

学校生活

 あれから3年の月日が流れた。


 私は12歳になり、ルドルフの子供たちであるジャック、オリビアと共に

学習院というところに通うことになった。

対象年齢は12歳以上であり、そのほかに入る条件は一切ない。


 ただ特徴的なのは得手・不得手関係なく学科と実技を行わせることだ。

その真意はローレシアの人材全体の能力向上、ソレすなわち国力向上だ。

『ロード』の家はこの学習院に特に多くのお金を出資しており

ゲオルグさんからは「あるものは使え! まぁソレ以上に楽しんでこい!」との激励を受けた。

逆にルドルフさんからは「ほどほどにな」とのごもっともなお言葉を頂いた。


 3年間、私は実の兄弟のようにジャック、オリビアと共に日々を過ごした。

しかしふたりとも実に血は争えないと言う感じで、やること成すこと無茶苦茶だったりする。


 長男のジャックは祖父のゲオルグ譲りの豪胆さをもっており、ゲオルグも

『ワシの若い頃を見ているようだ』と言っていた。恐らく家督を担う事になるだろう。

性格は極めて明るく、しかし粗暴で雑で、私から言わせてもらうとデリカシーにも欠ける。

だけど何処か憎めない、そんな奴だ。

 勉強は苦手だが、剣術を含む戦闘に関しては私と出会ったときから抜きん出た才能を持っていたが

才能以上に彼は筋力至上主義みたいなところがあって、毎日大人が両手で持つような剣を毎日100回

欠かさず素振を行っていた。同年代の相手であれば小細工云々の前に彼の初撃を受け流すことすら

出来ずにぶった切られてしまうだろう。

 ただ魔法に関しても結構な残念具合で、詠唱、思念の2系統は苦手だ。

彼が魔法の練習をする時、皆は巻き込まれないように大抵物陰に隠れるか、距離を取る。

大体火球を撃てば手元で爆発するし、なんなら火球しか撃てない。というか撃つ気がない。

『俺の火球はローレシア、いや世界1の火球を目指してるからその他はいらねぇ!』

とは本人談だが、まず的に命中するようにしてから言って欲しい。


 そして長女のオリビアはこれまた女性がこの家にいるとこうなるのかと思ってしまった。

実はゲオルグもルドルフも、奥さんが早くに無くなってしまっており

片親によって育てられたわけだが、『ある意味男勝り以上に男勝り』といえばいいのか。

ルドルフの冷静さとゲオルグの威圧感を兼ね備えて、口達者になった人。と言うところか。

たまにこの家の血を受け継いでいる中では最も怖いのではと思うことがあるほどだ。

同じ女性同士、女中も含めてよく話をすることがあるが、とても話がうまく

女性の中では人気があり、口下手な私とは大違いだ。


 そしてこの私はどうしていたかと言えば、『賢者』の後継者であるガウェイン氏のところで

せっせと通っていた。なぜかと言えば、結局魔法の行使が出来ないのは非常に不便なことで

例えば以前ルドルフが使っていた通信用魔法陣を使用したら爆発してしまったり

日常生活にも支障が出るレベルであったためだ。ルドルフとも相談したのだが

ガウェイン氏のもとへ向かうことを言い出したのは私からだ。

結局、転生術の知識がなければ私の現状は変えることが出来ないと言う判斷だ。

ルドルフは最初しばらく難色を示していたが、最終的には許可が降りた。


 そしてこうして今日もガウェイン氏に指導を受けているわけだが……

もっぱら時間の半分はガウェイン氏による転生術式の書き換えが主になっている。

その間、私は何もせずに座ってるだけだ。本当に座っているだけでいいなら楽なのだが

心の具現化を行い、書き換えをしているから余計なことを見るな聞くな考えるなといわれるので

なかなかこれが難しい……あまりに雑念まみれだと注意されるが最近は多少おなかが減ったなぁ

程度では何もいわれなくなってきた。施術の進行が進んで、処置がしやすくなったためでもあるのだが

単にもう諦めたという説もある。



 一体なにをしているかといえば、私が元に居た世界のイメージと今のこの世界のイメージが

言霊としてリンクするように色々微調整しているのだが上手く行かない日々が続いていた。

ガウェイン氏いわく、ただでさえ魔法抵抗力が無駄に高くて常時ガードされているような状態に

加えて、もう私は育ちすぎているのでそもそも魂の根源に関わる部分に

干渉するのは難しいということで、出来る限り可能な範囲で改善してもらった結果として

極簡単な誰でも出来るレベルの思念魔法を扱えるようになった事がまず1つ。

そして最も大きいのは私の違う世界のイメージするものをこの世界に落とし込んで

再現することが出来るようになったことだ。ただやはりこの世界にないものを呼び出すのは

極めて困難であり、アドバイスとしてもらったのは『如何にこの世界の概念でどうすれば再現できるか』

を考えろということだった。


 「明日から学習院に通うそうですね。丁度いい、私のところに通うのはもう今日で最後にしなさい」


 そういうとガウェイン氏は興味なさげに自分の研究をしていた。

元々は結構明るい性格だったらしいが、父が出奔してからはおとなしく……というよりは

暗くなってしまったらしい。祖父の知識の継承を受けてからは殊更口数も減ってしまったらしく。


 「私のためにここまでしていただいてありがとうございました」


 彼は私の顔を見ず、その背中は『もう去ってくれ』と言っていた。

また困ったことがあれば、彼を頼るしか無いのだが、なるべくそっとしておきたいと思った。

部屋を出るとき、再度無言で礼をしたとき、ガウェイン氏はぼそっと、寂しそうに言った。


 「兄は君に魔法など使わず、普通の人生を歩んでほしかった……」

 「わかってます。しかし必要があれば使うしかありません」


 それ以来、ガウェイン氏とは当分会っていない。

元々会いに行く理由も薄いのもあったが、顔を合わせずらかったのだ。


 そのあとはしばらく、前世の記憶の有効活用ができないかと、

こっそりと魔術行使の練習を行っていた。

 とりあえず、私はおちてる石を拾って、前世の記憶とそれを一致させた。

その上でその石は捨てて、再度今度は手の上に石の生成が可能かを試してみた。

すると手のひらから輝いて、先程捨てた石と同じものが現れたのだ。

このように、こちらとあちら、両方にあるものをリンクさせていくことによって

使用することが出来ることを認識した。

今ではもう、わざわざ再現しなくても見て頭で一致させれば具現化できるようになっていた。

ただ非常に難しい問題で、こっちの世界にも、前の世界にも、両方で存在するものしか

具現化させることが出来ず、相変わらず制約は多いままだ。

ただ、通信用の魔法陣を扱っただけで爆発したりするようなことはなくなったのは何よりだ。




 そして迎えた学習院初日。

どの授業の学科と実技も行わせるとは言ったが、興味がない物や明らかに適性がないものは

特別、出席しなくても咎められることはない。最初のオリエンテーションでそのような説明がなされた。

ジャックは配布された、授業日程と内容についての資料をパラパラっと内容を流し見すると

いきなりゴミ箱に放り投げた。見事なまでに綺麗にすぱっと本は中に入っていったが

流石に周りの生徒たちは唖然としていた。


 「あんだよ、どうせ俺は戦闘訓練とかの実地しか興味ないからなぁ。座学は肌に合わん。

  オリビアとルージュはどうするんだ?」


 オリビアはジャックをゴミでも見るような目線で眺めつつ

 「あなたと違ってとりあえず一応すべての授業を一度は受けるつもりよ。

  ただ私も必要ないと感じた授業は少しずつ減らしていくつもりだけれども。

  あまりにも内容が多いから、全部受け続けるのは難しそうだし

  ある程度そういう前提で授業が用意されてると思うし」


 実にオリビアらしい無難でそつのない選択だった

ジャックとオリビアが私のほうに顔を向けてくる。あとはお前はどうするんだ? ということだろう。

正直あんまりよくかんがえてないのだが……


 「まぁ私もオリビアと似たようなものかな……戦闘訓練にかかわる内容の

  座学と実技を受ける予定だよ」


 するとジャックはつまらなそうに言った。


 「座学なんてよく受ける気になるな。おれ絶対寝る自信あるから無理だわ」

 「でもあなた、ぶっつけ本番で実技訓練、こなす自信あるのかしら?」

 「まぁ剣技とかなら自信はあるぜ。魔法はなぁ。そもそも俺たちの血筋は魔法使うのには

  向いてないし、やる必要あるか? 打ち消すのがもっぱらの仕事だからあんまり受ける意味ないと

  思うんだけれどもな」


 まぁジャックが言ってることは最もで、『ロード』の家系は魔法体制や魔法の打ち消しは得意だが

行使するのはあまり得意ではない。この頃には流石に火球以外の打ち消しに属する

魔法を使えるようになっていたがただ素養が高くないだけで以前ルドルフから見せてもらった

初歩の魔術ではあるが、火球は魔術師として戦うこともできる水準にまでは到達していて

感服したものである。ジャックも素養は感じるのだが……まぁこいつの場合は暴発して

至近距離で味方を攻撃しかねないからな。ゲオルグもほとんど魔法は使わないらしいし。


 「じっちゃんの血を受け継ぎすぎたかもな」

 などというとオリビアは冷たい目線っでジャックを見つつ

 「ただ単に努力不足なのと、好き嫌いが激しいだけでしょ」


 とばっさり切り捨てた。たぶん妹に言われてなかったら確実にくってかかるタイプのジャックだが

オリビア相手では口喧嘩でも殴り合いでも勝てないのでしょげていた。

 そう、オリビアは頭も切れるが魔法・剣術ともに優秀で、力でごり押し気味のジャックと比べると

明らかに技量で繊細な戦いができるのだ。つまりこの3人の中では実はジャックが一番喧嘩は弱い。

私はといえば、体が自然と動く。戦いになると全く記憶すら無いのに体が相手を倒すために可動する。

尋常な試合だとどうなるかはわからないが、つっつかみあいの殴り合いなら圧倒的に私のほうが強い。

もちろんベースとなるフィジカルはジャックが一番優れているのだが、とにかく真正面から

ぶつかってくることしか無い。まるでイノシシだ。

ただ彼は敢えて戦士らしく戦う事を控えてるようにも感じた。

なんとなく予感だが、彼は「技」を使って戦う事もできるのだろうと。

だけど何らかの理由で行使するのを控えているのだと感じるのだ。


 そうしているうちにオリエンテーションも終わり、今日はもう帰るだけだ。

その割に、二人が話で時間を潰してるので何があるのだろうかと気にしていると

恐らくその原因と思わしき、現象……黄色い声がザワザワと聞こえてくる。


 「来やがったかあの野郎。アイツも俺と同じ年だからな、来ると思ってたぜ」


 ジャックはふんぞり返ってその黄色い声の中心にいる人物がこちらに向かってくるのを

じっと獲物を見据えるかのように眺めていた。


 そしてその人物は、ジャックの目の前までやってきた。

周囲の女性たちは黄色い声からどよめきに変わっていた。


 「……あの人だれかしら」

 「アルトリウス様も格好良いけれども、あの人もまぁまぁいい感じじゃない?」


 ジャックが格好良い? このイノシシが格好良いといえばまぁ格好良いかもしれんが

ジャックの前に立っている、立派な華美さも備えた甲冑を着たこの人物のほうが

数倍は美形に私には映った。ただ私もジャックとにた気質をしてるんで

見た瞬間「コイツはいけ好かないやつだ」と直感が訴えていた。


 「やあ、ジャック。最後にあったのは半年前かな? 相変わらず態度が悪いな

  まかりなりにも『ロード』の名をついでいるのならば貴族らしくしたらどうだ?」


 それを聞くとジャックは鼻で笑ってアルトリウスの方をみて言った。


 「俺の中での恥っていうのは『ナイト』の二つ名でこれ見よがしに実践に使えもしない

  外見だけの見栄っ張りな鎧を恥ずかしいとも思わずに着てくる、キザったらしい奴の

  ことを言うんだよ、分かったらとっとと失せろ、アル」


 ジャックの言動が相変わらず粗暴なのは今に始まったことではないが、開幕からして空気は悪い。

アルトリウスはジャックを無視して、続いてオリビアに挨拶をした。


 「オリビアも久しぶりだね。相変わらずイノシシみたいな兄を持つと苦労が耐えなそうだね」

 「そう? 貴方と違って頭が悪い分、コントロールしやすいから楽よ。とりあえず

  女性を見るなり誰彼かまわず色目を使うのは辞めたら?」


 オリビアは周りの女性達を一瞥してからそう切り替えした。

返答の仕方からしてオリビアもあまりアルトリウスという人物を気に入っってないようだ。


 「なんなのあの人達! アルトリウス様に向かって失礼ね!」

 「私知ってるわよ、あの粗暴を形にしたような『ロード』の家の子達よ」


 ほかにも人数が多いのでやんや、やんやと騒いでいるがアルトリウス当人は

周りに抑えるようにと軽くジェスチャーをすると、今度は私の方に顔を向けてきた。

ジャックやオリビアはルドルフに付き添って社交場に連れて行かれることも多かったが

当の私と言えば、ルドルフのいうように対面での折衝などは向いてないからと

そういうった場には連れてかれることはなかったのだ。


 アルトリウスは少し考えるかのように私を眺めていた。

 

 「何か用でしょうか?」


 正直後の取り巻きが、アルトリウスという人物が眺めているだけで

私の顔について中傷してくるのはわかりきっていたことではあったのだが

雑音が聞くに耐えないのでさっさとしてほしかった。

だが中々発言しないために、先にジャックがキレてしまった。


 「おいてめーら、女だからって何もされねーとでも思ってるのか?

  うちの家族に文句言ってるようなやつは全員学習院に通えないように

  脚をぶった切ってやっても良いんだぞ?」


 割とジャックは本気でやりかねないのでそうなると止めないといけない。

それでもしばらく私を見続けた後に出てきた言葉に呆れてしまった。


 「君は……顔の傷はともかくとして、美しいな。なんで君が彼らと一緒に?

  良ければ君も私と一緒に、このあとお茶でも如何かな?」


 何を言ってるんだコイツはと思いつつ、私は顔を背けて無視した。

アルトリウスの発言は周りのざわつきを更に大きくした。


 ああ、そういうことか。この男は私を遠回しに貶めたいらしい。

これだけ周りの女性が沸き立つ人物が、私のような傷物にいいようにすれば

悪評が立つのは容易に想像がつく。まぁ私の中での彼の評価は『下らん奴もいたもんだ』

程度で終わったわけだが。


 その瞬間だった、ジャックがアルトリウスの胸ぐらに掴みかかったのだ。

周りの女性達がざわめき立つ。まージャックの性格だとそうなるわな。


 「貴様にも『ナイト』の二つ名の矜持ぐらいねぇのか?」


 アルトリウスはジャックの手を払いのけようとしたが、あまりにも凄まじい力で

握りしめられてるため、払いのけられないでいた。周囲の女性たちは混乱して騒ぎ始め

あたりは騒然とし始めた。


 「……ぐ、ぐっ…貴様こそ『ロード』の二つ名らしい気品をもったらどうなのかね」

 「あいにく、こちとら身内をバカにされて、黙っていろなんて気品の教育うけてねえんだよ」


 まるで一触即発といったぐあいだが、オリビアは黙ってみていた。

正直私もどうでもよかったのだが、オリビアに聞いていた。


 「あいつら何とかしたほうがいいのかねぇ?」


 すると澄ました顔でオリビアは答えた。


 「もうすぐ勝手に収まるから心配ないわよ、それより関わらないようにしておいたほうがいいわ

  ああ、あと貴方たぶん目の敵にされるから気を付けておいたほうがいいわよ」


 いったい何のことだろうか、すると二人は急に、強引に引き離され

光に覆われた、そう、突然光の牢獄にとらわれたのだ。

本来天井があるはずなのにまぶしく輝く光の柱が天から降り注ぎ

そこから二人に注がれており、お互いがそこから出れないようになっていた。


 「この『神』の名を持つわたくし、スクルドの前で、神聖な学び舎を汚す行為を

  行わないでいただけませんか?」


 そういいながら、部屋のドアから現れたのは、ひときわ豪勢かつ神聖な雰囲気を持った

女性であった。周囲の黄色い声が今度はそちらの女性に沸き立っていた。女性にも人気の人物のようだ。

アルトリウスは檻に閉じ込められて、やれやれと諦めた様子だが、ジャックは

どうやら牢を破壊するようだ。ジャックは手のひらに光を灯すと共に言った。


 「破壊槌、召喚!」


 するとゲオルグ氏のとはまた形が全然違う、両手で扱うような巨大なハンマーが表れた。

しかし、ジャックはそれ以上行動することができなくなる。


 「ジャック……貴方、『神』の名を汚すつもりですか? あなたの行いは神の行いを

  否定する行いですよ……それは『ロード』たる貴方の家の

  すべての品位を下げることになりますわよ?」


 するとジャックはそのハンマーを取り消して、壁に蹴りを入れて不貞腐れていた。

このスクルドという人物の家柄は『神』と言っていたが、本当に神そのものなのか?

などと考え事をしていると、その当人が私の前にやってきたではないか。


 「あの……何か?」

 無言で目の前にずっと立って見られてる、いや見下されているような感覚に耐えられず

聞いてみると彼女はため息をついて、非常に残念なことを言ってきた。


 「『賢者』……あの忌まわしき一族がこの学習院に何の用ですか?

  いまだかつて、貴方達はここに来たことすらなかったのに」


 この人は私のことを知らないのだろうか? いや知らないわけがない。

……となるとこの人も当てつけに来たのか、ああそれでオリビアがそう言ってたわけね。


 「『神』を名乗るぐらいなのだから、ご存じだとは思いますが、私は『賢者』の家とは

  縁遠いものでしてね、ここで普通に勉強して生活していきたいと思ってますよ」


 するとこの女は、一瞬私の顔をみて、まるで汚物を眺めるかのような顔をして

そのあと、アルトリウスとジャックの拘束を解いた。ジャックのほうは

やれやれだぜという表情をしている。


 一方のアルトリウスについては、スクルドに跪き、手に口づけをすると

さも、神に仕える騎士かのように立ち振る舞ってみせていた。

その二人の様子を見てまわりの女子連中は特に大賑わいで黄色い声をあげている。


 オリビアが小声で私に話しかけてきた。


 「あなたも災難ね、一日にこの国でめんどくさい人二人に目を付けられるなんて」


 さも自分は関係ないという感じでオリビアは言う。『ロード』はどうなんだろうか?


 「あんたたち二人もそれほど親密には見えなかったけどどうなのよ」

 「親密ではないというより、家柄の格が違うのよ。『ロード』とは貴族ということだからね。

  国を守るナイト様や、ましてや神を名乗る連中と比べると劣るという話よ」


 ふむ、二つ名にも格があるとは知らなかった。

……という顔をしていたのがすぐに読み取られたのか、オリビアは付け加えて


 「別に大きな差異はないわ。言葉の意味として偉そうってだけで増長してるだけよ。

  ただ実際彼らはその二つ名にちなんだ独自の魔術を使えるし、ジャックが抵抗をやめたのも

  後々親にまでうだうだ言ってくるのがめんどくさいからよ」


 ということはもう1度や2度じゃなくてしょっちゅうやらかしてることだな。

まぁジャックの無鉄砲ぶりなら仕方ないが、むしろ踏みとどまったということは

よほど面倒なんだろうと逆に感心してしまった。


 そう聞くと非常にくだらない話を聞かされている気分になった。

ああ、それでオリビアは無表情なのか。ちなみにオリビアはルドルフと同じく

観察も含めての魔術を行使しての読心術に長けている。


 「明日から晴れて私たちは神とその従者に歯向かう愚かな悪役令嬢よ。どう? たのしみでしょう?」


 そういうオリビアは今日、初めて楽しそうな顔をしていた。

私は心の中で、穏やかで平和な暮らしがまた一歩遠のいた気がしたのであった。

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