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マーセナリープリンセス  作者: 黒ヌイ
転生:幼少期編
7/20

『ロード』の家

 私はまずメイドのエミリーのところへ向かっていた。

エミリーは今の時間なら、室内の清掃作業をしているか、休憩してるかだ。

まずはメイド達の控室に向かってみることにした。


 するとエミリーは室内で1人、椅子に座ったままよだれを垂らして眠りほうけてた。

我々がこの家にお世話になるようになって、まだ一週間も経ってないが、大体エミリーのことは分かった。

元々捨て子だったのをゲオルグ氏がたまたま見かけてそのまま強引に連れ帰り

そのままメイドにしたという、いかにもゲオルグ氏らしい話だった。


 そんな事をしょっちゅうしているので、ゲオルグ氏の家の中にはたくさんの使用人が居た。

しかもこれがすべてではなく、ゲオルグ氏の保有する所有地は他の場所にもたくさんあり

それぞれの場所にもたくさんいるとのことだ。


 最もゲオルグ氏はただの慈善家ではない。雇われた以上は働けというのが彼のいつものやり方で

各々の適性をみて、随時商売をやらせたり、時には護衛任務をさせたり、そしてドジっ子のエミリーは

まだ私と殆ど同じ年齢で大したことも出来ないので、ちょいど私がやってきたことを良いことに

家の管理と私の世話を命じられているのだという。

 ただあのゲオルグ氏なので、それぞれの資質を細かくみて決めるのが得意ではなく

もっぱらそこらへんは彼のたった1人の息子である長男、ルドルフ氏が行なっているという。

ゲオルグ氏はこの国で最も勇敢で、最も豪快で、最も強い剣士と言われているが

長男のルドルフ氏は文武両道で魔術にも長け、その他、家の一切合財を任されてるという。

このルドルフ氏にまず何らかのアドバイスを貰うのがよいのではないかと漠然と考えていた。

そのためにも、まずはエミリーに取次をお願いしようと思ったのだ。


 「エミリー! 起きて!」


 大声で耳元で叫んであげたら『ふぇぇっ!』などといって、椅子ごと転んでしまった。

ちょっとやりすぎてしまっただろうか。


 「……んー何よ―ってルージュっじゃない、酷いよ―何するの?」

 「ごめんごめん、まさかそこまで面白い反応すると思わなくて」


 エミリーはぷくーっと口を膨らませてわかりやすく怒ってみせていた。

『ロード』の家に代々受け継がれる言葉の一つに

「人はみな平等になる権利のチャンスが有る」というのが

一つあって、基本的に家に迎えた人はみな家族として扱うというのがしきたりだった。

なお、『チャンスが有る』という一文は、地味に現実主義なところで

チャンスに恵まれず、権利を手にできないものが居るのも致し方なく

全ての人を救えるわけではないという教訓なのだそうだ。

豪快だが現実主義。私はこの「家」の在り方がなぜだか妙に肌にあっていた。


 というわけで私と母も既に『ロード』の家の人間。様づけはする必要はないということで

この家では使用人も、来客がある時や客人自体には様をつけるが、内部の人間同士で話す時は

上下関係なく、名前で呼ぶことをが暗黙の了解になっているのだ。


 「……それでなあに? わざわざ私にイタズラしに来たの? それなら私も受けて立つわよぉ~」


 などと自信満々に言っているが、やりあっても全く負ける気がしないのが彼女の良いところだ。

人は隙があったほうが、愛されるという。――これも私の中にある記録の一部だ。


 「流石にそこまで意地悪じゃないわよ、それよりルドルフさんと今後のことについてご相談したい

  事があるのよ。だから取り次いでほしいと思って来たわけ」


 いくら敬称はいらないとは言え、あったこともない人を呼びつけにするのは

躊躇われたので、やんわりとした言い方に変えた。

割となんとかなるかなーと思っていたのだが、エミリーの顔は困った様子だ。


 「うーん、取り次げないわけじゃないのだけれども、ルドルフにいちゃんすごく忙しいのよね。

  今もこの屋敷には居なくて、ただこの後の昼食後に戻ってくるけど、会う時間が取れるか……」


 考えてみれば、ある意味ルドルフ氏がこの家の中核を成す人材であると言える訳で

多忙なのはよく考えてみれば簡単に分かる話だ。少し考えた末――


 「じゃあ、会えれば一番いいのだけれども、私の将来についてのご相談があります。って

  伝えてもらっていい?」


 すると無邪気な顔でエミリーは


 「そのぐらいならいいよー。ただほんとに期待しないでねぇ」


 と言いながら、エミリーは1人で紅茶を作り始めてた。仕事はいいのだろうか?


 「エミリー、この後清掃の仕事とかないの? 大丈夫?」

 「ああっ!!! ルージュとお茶でものみながらお話しようと思ってたのに!

  ごめんね! 行ってくる!」


 そういうと片付けるどころかメイド室を荒らしてエミリーは出ていった。

ちゃんとルドルフ氏に連絡してくれるのか少し不安になったがこればかりは任せるしか無い。

エミリーを慌てさせてしまった原因は私にあるわけだし。と思い、エミリーが散らかした

お茶の準備などを全て片付けようとしたら、今度は入れ替わりでドロシーが入ってきた。

あの講和会議とは名ばかりの……頭でまた父の顔と手を思い出して吐き気がしそうになった。

私は少しうつむき加減に膝をついたのをみてドロシーは素早く私のところにやってきて

背中を擦ってくれた。そう、彼女はエミリーの後に現れた長身のメイドである。


 「……大丈夫ですか? ……無理に返事はしなくていいですよ。落ち着くまで擦ってあげますので」


 そう言われ、私はゆっくりと呼吸を整えて落ち着くと立ち上がった。


 「ありがとう、ドロシー。 ごめんね、顔見ただけで具合悪くするなんて……」

 「致し方ないことです。むしろ貴方は年齢不相応に冷静すぎるほどです。困ったことがあれば

  遠慮せずに言ってください。私達は家族なのですから」


 ドロシーは身長がとても高く、父や母よりも凄まじくでかい。

ゲオルグの次に背が高いのだ。年齢的にも私と比べれば相当上なのだが

恐らく成人したてぐらいなので凄まじく大きい部類だろう。

ただ彼女の持ち前の落ち着きと大きさは会話していて安らぎを与えてくれる。


 そうだ、エミリーにお願いしてた件、エミリーには申し訳ないけど保険でドロシーにも

お願いしておこうと思った。ドロシーなら確実かつ、意図をくんで

說明してくれるのではないかと思ったのだ。


 するとドロシーは答えた。

 「そうですね、エミリーが言いにいっても、遊びに来たいぐらいにしか

  思われない可能性すらありますね」


 酷い言われようだった。


 「もっともそれを汲み取る力があるのがルドルフですが、わたくしが伝えたほうが

  より彼に手間を掛けずに済むでしょう。エミリーには私から伝えておきます。

  ただしかし……」


 ドロシーは少しだけ、どういう言い方をするか悩んでいるようだったが

少し時間を置いた後に私に問うてきた。


 「正直、この国内にも魔法が不得手なものは少なくありません。

  実際、エミリーは魔法が割と得意な方なのですが、彼女は体内の魔力量が小さくて

  実力以上の力を出せないでいたりしますが、彼女の場合は年齢が上がれば

  立派に魔法を使えるでしょう。しかし――」


 そういうといつも表情が乏しいドロシーの表情が更に無表情になったかにも見えた。


 「わたくしは詠唱魔法が一番得意な分野ですが、ほとんど一般の人が使えるレベルと変わりません。

  そして思念魔法や魔法陣などは全く扱えません。体内の魔力量も大きくはないです。

  そんな私でもこうして仕事を与えられ、まっとうな生活が出来ております。それは何故か」


 ここでドロシーの顔は自身に満ちた表情に変わった。


 「『ロード』の家に拾われたからこそです。もちろん、何の能力もないため、困窮している

  人が国内にいることは事実です。しかし少なくとも私と貴方は『ロード』の庇護下にある。

  そんな貴方が何を心配する必要があるのですか?」


 なるほど。 ここではドロシーが年齢をとっている事がアダになってしまっている。

そしておそらくだが彼女もゲオルグ氏から救われた身なのだろうと想像ができた。

彼女が言わんとしていることは理解できる。しかし私が求めていることはそう言うことではないのだ。


 もし万が一、ゲオルグ氏が倒れて『ロード』の家が急激に衰退したらどうなるのか?

あるいはルドルフ氏が倒れた場合も同じだ。それに私はまだ母方の一族についても置かれている

立場を把握してないが、少なくとも満足行く生活を出来てないのではないかという

危惧を抱いていた。


 心の中にある知識と経験が言っているのだ。自分の人生を他人任せにしてはいけないと。

 しかしその理念を今、ドロシーに伝えても理解してもらうのは困難だろう。


 「ありがとうドロシー。ただ私も母もこの家の住人になったんだ。いつまでも泣いてるだけじゃ

  ダメだと思うんだ。そのために、将来を見据えた話をしたいんだ。この家の役にたつためにもね」


 少しいい方を変えてみた。ドロシーの顔は相変わらず感情に乏しいが、彼女なりに微笑んだのだろう。


 「なるほど、仰ることが理解できました。わたくしの早合点でした。

  ルージュも我家の一員として共に苦楽をともに出来るのであればわたくしも嬉しいです。

  ルドルフは昼食後に一度館にお戻りになりますので、その時に可能であれば直接会えるように

  取り計らっておきますよ」


 おお、直接会えるなら一番ありがたい。


 「ありがとうございます、ドロシー。 楽しみにして待っています」

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