第1話 追い出された防御馬鹿
「俺、勇者パーティーを追い出されたんだ」
俺は冒険者の街に住んでいるバカのシンクに言った。
「ほへー。それは残念。なんで追い出されたん?」
「俺は他の5人と比べて明らかに攻撃力が低いんだよ。だから「アタッカーにならない奴はいらない。出ていけ」ってリーダーのトラスに言われた。他のメンバーもトラスの意見に賛成だから俺は追い出された」
「それはなかなか面白い」
――このバカ女は傷ついてる俺の事が面白いとか言いやがった。腹立つなぁ。
「役に立たないのになんで勇者パーティーにいたんだい?」
「俺はメンバー達を守る盾役としてみんなを守っていた。最初はそれでよかったんだけど、みんなが強くなっていくうちに俺はだんだんいらなくなってきたんだ。だから追い出された」
「チョーウケるー!」
――ウケるかバーカ! ムカつくぅ!
「【攻撃は最大の防御】って事だね! そりゃあ防御しか取り柄の無いあんたはゴミになるわ! アッハッハ!」
――こいつぅぅぅ!! まじでムカつくぞぉ!!
「でもさ! あんたがいなくなった勇者パーティーは今どうなってんのかな!?」
「余計な奴がいなくなって楽しく過ごしてんだろ」
「そう? それなら試したい事がある!」
シンクはそう言うと、魔道具【デンワキ】を取り出した。
この【デンワキ】は離れている人とも話しができる魔道具。ただし、【デンワキ】を持っていない場合は話しができない。
「やぁルキ! ちょっとあたしのところに来てくれ! 楽しい実験の時間だ!」
その直後。部屋の窓から、女が飛び込んできた。部屋の床に顔面から着地。すぐに立ち上がって決めポーズを取った。
俺はいきなり現れたこの女に言う。
「誰だよ?」
その女はドヤ顔で喋り始めた。
「我! 大災厄をもたらす魔界の王! ルキ・ルマナドアーク!」
――あ。痛い奴か。
シンクは痛い女を指差して、
「こいつは馬鹿のルキ。災い1つももたらすことは無い人間界の平民。アハハハハハ!」
明らかな挑発行為をするバカのシンク。それでもめげずに決めポーズを取る馬鹿のルキを見ていると俺は馬鹿のルキをむなしい奴に思える。
「シンク! 実験ってなに? 血祭り? リンチ? 喧嘩? いじめ? バイオレンス?」
「せや! こいつのパーティーに送るパーティーの始まりや!」
――え? なに? パーティー? 俺のパーティーに対してのパーティー?
俺はシンクに聞く。
「俺の元パーティーとパーティーをするの?」
「せや! 暴力パーティーや! 防御特化のあんたがいらないっていうならさぞ攻守完璧なパーティーなんだろうな! だからルキを呼んだんや! 」
――あ。それ気になる。
「でもこのルキって強くないんじゃないか? 言っとくけど俺の元パーティーは全員攻撃力えげつないぞ?」
すると、馬鹿のルキは余裕っ面で、
「愚問だ。君が元いたパーティーの事はよく知っているが、奴らの攻撃力は我にとっては石ころと変わらない!」
――うわぁ、この人随分と自信満々だな。
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俺が元いた勇者パーティーがえらばれしもの(メンバーの中で俺以外が入れる)のみが入れる街に向かっている時、馬鹿のルキが道をふさいだ。
その様子を俺とシンクは街付近の木の下(元メンバーから見つからないように木の幹に隠れて)から見ている。
馬鹿のルキは勇者パーティーに向かって両手の中指を立てた。
「我! 貴様らイキりパーティーを葬る!」
馬鹿のルキにそんな事を言われたが、リーダーのトラスは馬鹿のルキを見下すように、
「……弱者の嫉妬か。下らない。みんな、行くぞ」
トラス達は馬鹿のルキを押し倒して、えらばれしものの街に進む。押し倒された馬鹿のルキはトラス達の後ろ姿に向かって、
「役者は揃った! ロイヤルストレートフラァァァッシュ!!」
馬鹿のルキ前方の広範囲に光線が放たれた。
10秒間続いた光線が止んだ。光線に直撃したトラス達は――全員倒れていた。街への被害は無い。馬鹿のルキが街に届かないように魔方陣をはっていたから。
「どうしたんですかぁ? 弱者の攻撃で気絶ですかぁ? 雑魚ですねぇ! 紙耐久ですねぇ!」
馬鹿のルキはトラス達を挑発するような態度で勇者パーティーのメンバーを踏んだ。
――なんだあいつ。すっごい調子にのってんなぁ。
すると、トラスが痛みで苦しみながらも剣を杖のようにして立ち上がった。
「くっ……なんだ……今の……?」
「我の必殺技でーす! 痛かったぁ? 痛かったよねぇ! だって他の奴気絶してるもんねぇ! お前だってボロボロじゃないですかぁ!」
「……違う! 不意打ちだったから防ぎきれなかっただけだ!」
「へー。お前ら盾役捨てたじゃん。つまり防御に自信があったのでは?」
「そ……それは……」
「【攻撃は最大の防御】って事ですよねぇ? でも不意打ちくらったらあっさり全滅。よっわぁぁぁい!」
「…………」
「お前達が捨てたあいつの防御力見せてやろう! ロイヤルストレートフラァァァッシュ!!」
――……おいおいおい! 俺の方向に放ってきた! うわぁぁぁぁぁ!!
光線は俺とシンクに直撃。10秒後、光線がおさまった。木は根っこから倒れていて、シンクは気絶していた。だが、俺は突っ立っていた。
――あいつの光線そんなに痛くなかったな。
そんな俺を馬鹿のルキはニヤニヤしながら見て、トラスは驚愕の表情で見ていた。
馬鹿のルキはトラスの斜め後ろから、
「おっやぁ? あいつが突っ立っているのに勇者パーティーたるお前達は気絶してますねぇ。お前達実は雑魚パーティーじゃないんですかぁ? それとも紙耐久パーティーですかぁ? アッハッハ超笑えるぅ!」
挑発されて震えているトラス。そして、
「私達はあんなゴミなんかより強いんだぁぁぁ!!」
トラスは光の斬撃を俺に向かって放った。光の斬撃は俺に直撃したが、馬鹿のルキの光線よりも威力の低い攻撃だったのでほとんど痛くなかった。
「っ!! ……そん……な……」
絶望するトラス。その様子を馬鹿のルキはニヤニヤしながら、
「弱っちぃですねぇ! 雑魚ですねぇ! 勇者パーティーから雑魚パーティーに変えたらどうですかぁ? アッハッハ!」
――……それ……いいな!
凄く悔しそうな表情をしているトラスは俺に近づいた。
「き……君の事を……追い出してぇ……すまなかった……お詫びはするから……もう一度――」
「おっやぁ? 王道展開来ましたぁぁぁ!! 追い出した奴が有能だと知ったとたんに戻ってこいとかいう馬鹿なメンバー! アーハッハッハッハッ!! なっさけねぇぇぇぇぇ!!」
馬鹿のルキに挑発されてさらに震えるトラス。それでも、俺に右手を差し出してきた。戻ってこいということである。
「お前! 雑魚パーティーに戻りたきゃその手を握れ! 嫌ならその女の顔面にストレートだ!」
馬鹿のルキはそんな事を言ってきた。
――俺はこの勇者パーティーに戻る事は――
「できん!!」
俺はトラスの顔面をぶん殴った。トラスは痛そうにしながらも非常に悔しそうだった。
――可哀想? そうは思わない。もうこの勇者パーティーと俺は赤の他人なんだ。気にする必要は無いんだ。
「トーラースーさーん。お前らのパーティー詰みましたねー? これを祝福として……ロイヤルストレートフラァァァッシュ!!」
馬鹿のルキはトラスに光線をぶつけた。10秒後、トラスは気絶していた。
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その日の夜。俺と馬鹿のルキとバカのシンクはえらばれしものの街で宴をしていた。
「この男は雷すら余裕で耐えられるんやで!」
バカのシンクが俺の評判を変な感じで上げた。ハードルが高まってしまうが、悪い気はしなかった。
馬鹿のルキは人を集めて踊っていた。
醜態を晒した勇者パーティーはえらばれしものの街には入れなかった。もう勇者パーティーではなく雑魚パーティーである。