第09話 妹ちゃん、先代辺境伯と意気投合する
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第09話 妹ちゃん、先代辺境伯と意気投合する
いやー 私の婚約危機一髪だったね。ドキドキしました。婚約した時よりずっとね。
そういえば、立ち合いの時にいた見知らぬ女の子の存在が判明しました。
「始めに皆さんに紹介しておこう。私の母の妹の孫娘、重臣である従弟の娘だ。お見知りおきを」
だそうです。つまり、三男坊とは又従兄妹と言う関係だね。年齢は妹ちゃんと同じ年らしい。
「男ばかりの兄妹なので、彼女は年の離れた妹のように可愛がられているのよ」
と一応ギリギリ未来の義母が付け加える。でもさ、あんまりニコニコしているタイプでもないのかな。割と気が強い系かもしれない。子供の頃から男の親族と遊んでばかりいると、男勝り系になるのかもしれないね。
そういう意味では、嫡子夫人も私もフェミニンな感じだし……感じだよね!! ちょっと系統が違うみたいだね。妹ちゃんは深窓の令嬢風冒険者だからこれも違う。
立会も終わり、妹ちゃんもドレスに着替え、ようやく朝食の時間です。感想戦みたいな会話が妹ちゃんと男性諸氏の間で進められているけれど、剣の腕はからっきしの三男坊はその少女と会話中。婚約者は放置で良いの?
とりあえず、私も話に混ざっとこう。
「密偵や暗殺には有効でしょうけどね」
騎士団長義兄が、妹ちゃんの魔力飛ばしに見解を述べている。妹ちゃんは気配隠蔽も得意です。というか、我が家の女性陣は皆得意。会いたくない人とパーティーとかで遭遇せずに済む必須スキルだよね☆
「夜這いにも有効だよね」
「……姉さんにも教えましょうか。私には不要なのだけれど」
ありゃりゃそう来るか。私のモットウは、来る者は選び去る者は追わずだよ。確かに、子爵家のセキュリティ的に夜這いは可能だと思うけどね。
「そこまで困ってないから大丈夫。教えられると困るから、男の人には教えちゃだめだよ」
何故か三男坊と目が合い、ウインクされたよ。あれ、片方だけ目をつぶるのって、ほ、ほら、結構難しいよね。ね!!
なんて思っていると、親戚令嬢が妹ちゃんを辺境伯の御隠居さんの所まで馬で遠乗りしないかと誘っている。なんだろう……好意的じゃなかったと思うんだけど、妹ちゃんは退屈しているみたいだから、折角だから行くと良いと思う。
妹ちゃんは礼儀正しいから、大体のお年寄りには受けがいい。話題も割と古い話とか得意だし。お婆様の相手をしているからかもね。
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どうやら、親戚令嬢は騎士団長を子供のころから好きみたいなんだけど、相手にその気がないのと、年齢的にかなり上なのと、辺境伯家の女性の親族が少ないという事もあるから、三男坊同様、辺境伯家の養女にして嫁がせることを計画中なのだそうです。
本人はニースを離れたくないみたいなんだけど、貴族の娘にそれは通用しないんだなこれが。
それに、先代の辺境伯だったご隠居さんって、ニースからかなり西に行ったところにある古い城塞を隠居所として改修して住んでいるって聞いたけれど、更に話を聞くと……ニース辺境伯騎士団の分駐所も兼ねて、訓練がてら訪れる場所だそうです。
そして、ご隠居さんはつい最近まで当主をしばらく前に譲った後も、騎士団長だけは続けていた人で、歴戦の騎士だったよね。今の孫の騎士団長より数段強いはず。
そんな元気なお年寄りのところに、最近話題の『妖精騎士』がやってきたら、今朝と同じ立会が行われると思わない? お姉ちゃん段々心配になって来たんだけど、今日はニースの商人のところで、法国の流行の情報なんかを聞かせて貰えるんだよねー……だ、大丈夫だよ、私の婚約。
妹ちゃんが無傷で帰ってくることを神様にお祈りしようそうしよう。
因みに、親戚令嬢は『辺境伯の姪』と言う事で、『伯姪様』と呼ばれているらしい。なので、お姉ちゃんは彼女のことを心の中で『めいちゃん』と呼ぶ事にします。三男坊? それはダーリンと勿論声に出す時は呼んでいるよ。ほんとだよ!
妹ちゃんたちは、ご隠居さんのところに泊りがけで遊びに行ったんだけど、予想通り気に入られていました。お爺様には模擬戦で……お婆様にはどうやら弾き語りしたみたいだね。妹ちゃんは竪琴とかも得意だからね。勿論、歌も上手です。
一泊して夕食には戻って来たんだけどさ、いや十三歳の女の子相手に立会を望むとか、脳筋ここに極まれりだと私は思う。けれどー 未来の親族に敬意を表して、私は夕食時に話を振る。
「前伯様に負けたんですって~?」
負けず嫌いスイッチの入る妹ちゃんは、これで会話が加速するはずです。スキル挑発!!
「いいえ、互角でしたよ。祖父は濃青等級の冒険者に匹敵しますので、俺より格段に強いです。実戦経験も豊富ですし、いまだ、この地の最強騎士は祖父なのです」
おっ、同行していた騎士団長のギャランの兄貴がフォローする。いや、そうじゃないんだよ!!
「ええ、とても素晴らしい経験をさせていただきました。供のものにも今朝、稽古を付けていただきましたので、護衛を引き受けて良かったと、彼らも感じていることでしょう」
あー 翻訳すると、ジジイがしつこく対戦したがるから冒険者になすりつけましたって事ね。OK だが、気に入られたことは間違いなさそうだね。
「とてもお強い方なのですね」
お母さん、踏んじゃったよスイッチ。これでもかとはじまる、先代辺境伯自慢。確かに、帝国と王国の戦争で大活躍した英雄様だけどさ、いやほら、身内があまり褒める者じゃないでしょ? 名物に旨い物なしって知りませんか。
「次の機会には、是非ご挨拶させていただきたいですわね」
私はそう答える事にした。だって、会ったら私まで立会させられそうだから。まあ、私の大魔炎で地獄に叩き落してやるけどさ。
とは言え、面白いお爺ちゃんだとは思う。親戚としてたまに会うのはいいかも知れない。スープの冷める距離って感じで。
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めいちゃんと妹ちゃんは仲良くなったようで、ニースの市街を二人で散策するという事になったらしい。私とお母さんは辺境伯家の御婦人方とお話をしたり、法国の商人の何人かと城内であったりしていたんだよ。
昼過ぎ辺り、城内が騒がしくなる。
「一体どうしたのかしらね」
「騎士団が動いておりますわね。何か捕り物でしょうか」
街中で事件でも起こったみたい。旧市街はごみごみしているし、余所から来た商人と街の人が揉める事もあるみたいだから、喧嘩? 暴動? と私が考えていると、辺境伯嫡子義兄が部屋に慌ただしく入ってくる。
「お、落ち着いてください」
「あらあら、落ち着かねばならないのは貴方様の方ですわよ」
嫡子夫人に窘められ、呼吸を整え改めて説明が始まる。
「ご息女と私どもの又従妹が人攫いに攫われました」
「何故落ち着いているのですかぁ!!!」
えっ、だって落ち着けって貴方が言ったじゃない? とは思わず、私もちょっと、いえ、かなり、いやいや、滅茶苦茶驚く。お母さんは「どどど、どうしましょう。お父さんに相談しなきゃ」と立ち上がりどこかへ行こうとしているし。
「それで、二人はどうなっているのですか」
辺境伯夫人がぴしゃりと息子を叱りつけるように言葉に出す。
「さ、幸い、逃げ出す事に成功し、今、誘拐犯たちの潜伏先に騎士団が急行し救助を始めております」
ふふ、だよね。妹ちゃんが易々と捕まるわけがないもんね。あれだ、ワザと捕まって様子を見て一網打尽にしたんでしょ? そんな事だろうと思ったよ。お姉ちゃんは信じていました。え、動揺していたじゃないって、当たり前でしょう。溢れる妹愛があれば、話を聞いて動揺しない方がおかしいよね。
良いかな諸君、冷静さとは心が揺さぶられない事ではなく、心が揺さぶられた後、冷静に戻るまでの時間の短さを示す言葉なのだよ。私、信じてた。
妹ちゃんが機転を利かせて、めいちゃんを逃がして騎士団を呼びに行かせ、自分は残って人攫い達を取り押さえ、他に攫われた人たちがいるのを知って救出に協力したらしい。流石私の妹ちゃんです。私も、妹ちゃんに救出されてみたい。
ニースの街でもこれで一躍『妖精騎士』の名前が有名になったね。お陰様で、私の婚約も無事進みそうだよ。だって、英雄の姉と領主の息子が結婚してだね、ニース辺境伯家と親戚になるわけじゃない?
これで、領民の辺境伯への好感度ガンガン上がるはず。嫁の私もとても鼻が高いというものです。婿取り婚だけどね。
とは言え、山賊とか人攫いとか王都の外は実に物騒だなと思うよ。
私の商会頭夫人生活、大丈夫なのかと今から心配になって来たよ。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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