第08話 子爵家はニースで歓迎されるよ
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第08話 子爵家はニースで歓迎されるよ
『妹第一主義』を掲げ最期まで闘い続けます!!いや、ほんと、可愛いんだよ我が妹ちゃんは。
ニースに来て良かったねーほんと。
今私と妹ちゃんは……あとオマケのお母さんもかな。ニース家の御用船で船上パーティーの接待を受けております。夕日の沈む水平線ってとても幻想的です。隣に妹ちゃんがいるからなおさら。ダーリン? 誰のことかな?
薄緑色っぽい海の色、そして波もほとんどない穏やかな「鏡のような」って感じの穏やかな海。お母さんが馬車の中から内海を見て「こんな所に老後は住みたい」なんてぼやいていたけれど、今から老後のことを考えるのはまだ早いと思う。え、ブームはもう遅いですかそうですか。
――― このお話には、ざまぁ、もう遅い、婚約破棄は登場しません。しないよね?
ニースは良い所だね。暑いから、昼間はお昼寝があるんだよ。まあ、私の場合、王都でもお昼寝タイムは必須です。だって、夜遅くまで活動するのに、朝寝するか昼寝するかの二択じゃない? 朝は決まった時間に起きる習慣だから、どうしても昼寝をする必要があります。まあ、毎日じゃないけどね。
船はジーベック? とか言う櫂と帆が両方あるタイプで、甲板も広いし、人間も三百人くらい運べる大きな船なんだってさ。風がない時でも動かせると言うところと、大砲も三十門積んでいるそうです。今日は下ろしているけどね。
今日は優雅に、甲板でシェフが目の前で調理したりする演出付です。先ほど釣り上げたばかりの魚を捌いて軽く火であぶったりする料理をだしたりしているね。あと、ワインが甘い。王国のワインよりもこちらは古い品種が多いみたいで、甘口なんだな。料理には……ほら、ご当地の味だね。
「とても心地の良い風が吹いてきますね」
「海の向こうの大陸から吹いてくる風ですわね」
母と辺境伯夫人も良い感じです。妹ちゃんはちょっと緊張気味だね。それは……自分だけワインじゃないからです。
いや、まだ早いからじゃないかな。無理しなくていいと思うよお姉ちゃんは。
さっきから、私と関係ない所で子爵家と辺境伯家の王都でのやり取りなどがドンドン決まっていきます。この辺りはお母さんの守備範囲だねぇ。社交を頑張らねばならない方向に全振りされている。
「王都での事業、子爵家でもご協力いただけますのでしょうか夫人」
「わが夫である子爵からは出来る限り力になるようと言われております。法国内での縁故をお持ちの辺境伯家が王都で商会を営まれるのであれば、成功は難しくございませんでしょうから当然ですわ」
サラセンが艦隊を動員して、法国南にある『マレス島』に立て籠もる聖母騎士団を攻めるつもりみたいだね。その辺りで、法国の周辺は商売どころではない状態になりつつある。物を買わないから、職人たちも困っているのではないかな。底値でうちが買い漁るというのはどうでしょう。
ほら、お金って回転しているからね。作った物が売れない。でも、材料費や家賃は払わなきゃいけないじゃない。だったら、多少損しても現金にしたいと思う人が多いと思うんだよね。
「いいえ、確実にしてみせますわ。皆さま、興味津々でございましょうから」
と言う事で、私の中では、グルグルとお金儲けモードに突入し頭が回転し始めるわけだね。
「では、王都に戻りましたら子爵家の伝手を用いて、辺境伯家の商会を開設するにふさわしい物件をご紹介できるよう手配いたします」
まず、店構えで舐められないようにしないとね。金は後からついて来るものだし子爵家の伝手も使えるしね。いい物件紹介させよう。
「では、お義母様、お願いいたします」
「あらあら、気が早いことですこと」
三男坊、マダムキラー、マダムキラーなのか。末っ子男子と言うのは甘え上手らしいね。商売上手ならそれも構わんよ。だが、マザコン……てめぇは駄目だ。
それはないか。ないよね。ないと良いな。
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法国に買い出しも行きたい私とお母さん。そして、暇でしょうがない妹ちゃんという構図は早々に成立する。噂の妖精騎士のお話を広めつつ、タロットカードの話とかしていたら、いつの間にか、義兄候補である騎士団長と妹ちゃんが模擬戦する事になっちゃったよ!!
お姉ちゃんは悪くないよね。き、嫌われてないよね。
ねえ、お酒の場の戯言だって流さない? なんで、朝食の席で迄念押しするのかな君たちは。私ともしかして婚約したくないから、遠回しに嫌がらせされてるのかな。
横で溜息つかれている姉の身にもなれよ三男坊。あと、一緒に楽しみにしてるんじゃない。普通は母親が心配してやめさせようとしない?
「大丈夫よ姉さん。少しイラッとしたから、手加減するつもりないわよ」
「……妹ちゃん。お姉ちゃん、お嫁さんになりたいんだよ」
「大丈夫。まだ諦める時間ではないわよ」
ヨヨヨ……まあ、ニース楽しかったな。切り替えて行こう。
それでも、母は王都の父に手紙を書き、商会設立のための手続きを始めるようにしていたり、その後の段取りもウキウキと進めている。これは、大丈夫なのかと思いつつ、商会自体の設立手伝いと婚姻は別口かと自分を慰めてみたりする。
「まさか」より「やっぱり」の方が、心のダメージが少なくて済むからさ。私の結婚より、妹ちゃんが怪我しない事の方が大事だよね。そうだよね!!
翌朝、朝食前の涼しい時間に立会をする事になったんだけど、私は一晩ぐっすり寝て考えました。ここは、何が起ころうと、妹ちゃんへの愛を貫くべきだと。妹ちゃんは、ちょっとハードル上げた方がやる気になる子なのだよ。やっぱり、思う存分、私の婚約が白紙になったとしても心置きなく、戦う姿をお姉ちゃんは見たいのだよ。
「山賊の討伐の件もあって、是非とも生妖精騎士を見たいと、辺境伯様も強く御所望なの。姉の為に一肌脱いでちょうだい」
どやぁ!! 渾身の自虐前振り。燃やしすぎたことはもう忘れた!!
「せっかく覚えた護身術を母にも見せてもらいたいわね」
母よ、あなただけは娘の体の心配しなさいよね。あと、私の婚約が継続する事を神様に祈るべきだと思う。
ニース家勢ぞろい。そして、立会人は次期辺境伯であるお兄様。いや、お義兄様。世が世なら、公子様だよね。あ、三男坊もそうだな。それよりも、妹ちゃんと同世代の、キュ・キュ・ボンな女の子が同席しているんだけど誰だろう? 男三人兄弟で、長男嫁の妹? 騎士団長の婚約者……一体誰だろう。妹ちゃんを凄いガン見しているんだけれど。妖精騎士の熱狂的ファンという感じでもない。敵愾心を感じるもんね。
立会人が説明を始める。
「日頃、着用している防具を使用。武器は木剣を用います。頭を狙うのは禁止。それ以外の部位で、致命傷となる打撃を与えられたと判断した場合、その時点で立会いを止めます。幸い、騎士団には腕の良い回復魔法の使い手がおりますので、怪我に関しては致命傷でもない限り痛いだけで済むのでご安心ください」
――― 何それ、聞いてないんですけど!!
おい! 妹ちゃんが怪我したら痛いじゃすまないよね? 治るから怪我させてもOKとかさ、決闘じゃないんだから、そんなのおかしくない?
ギャランドゥな義兄騎士団長は、革の結構よさげな鎧を装備している。多分、手甲を外すと、指がギャランドゥなはず。でも、剣の練習のし過ぎで脱毛されちゃっているかもしれない。最近お父さんも、頭の使い過ぎで除毛されつつあるから、多分同じはず。
「随分としっかりした装備をお持ちですね」
「これでも『薄黄』等級の冒険者ですので、装備も整えております」
胸と腕にはしっかりした感じの金属の鎧を付ける妹ちゃん。でも、金属の棒で叩かれれば、内出血とか骨折とかするんだよね。お姉ちゃんは見ていられません。
あ、いざとなったら、私が魔術で乱入しよう。多分、三秒以内なら反則にならないはずだ☆ どこからともなく、流れ魔術が飛んできたりするはず。たまに空から落ちてきたりするよこの辺の天気なら。晴れ時々火球みたいな天気あるよね。
なんか、やるべきことが見えてきた。『姉道』が開けた感じするわ。
妹ちゃんは長い髪を後ろで束ね、なんかフリフリして可愛い。していなくても可愛いが、なお一層可愛い。魔銀色に鈍く輝く胸当もキュートだ。
「始め!」
10m程離れて向き合った、未来の義兄と義妹……是非実現してもらいたい。義兄貴は斜め上に天高く構える。一撃必殺狙いか。いや、殺すなよな!!
と思っていると、妹ちゃんはフラフラと動きながら牽制するだけなのに、騎士団長は激しく見えない剣先を躱すように動いている。あー 妹ちゃんの無尽蔵な魔力バンバンと飛んでるんだろうな。あれ、怖いよね。
自分はゆっくり動き、相手には激しく動かせて消耗を引き出すという事だね。身体強化を使っているから、魔力の消耗も激しいとか。騎士になるって事は、魔力量自体が少ない人だろうから、これは、そのままズルズルといっちゃうパターンだね多分。
と思っていると、案の定、未来の義兄は息切れしてしまい、妹ちゃんはここぞとばかりに剣を打ちこんでいく。うん、妹ちゃんの剣も一撃必殺の勢いだね。私の婚約も一撃必殺……されそうな勢いだよ……ヨヨヨ……
妹ちゃんは優しいので、肩の付け根の当たりを木剣で叩いて無事終了。
「そ、それまで!」
嫡子の号令で立ち合いは終了した。その場で騎士団長は荒い息を吐きながら座り込んでしまった。
私の婚約は一命をとりとめた。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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