第07話 子爵家のニース旅行はじまるよ
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第07話 子爵家のニース旅行はじまるよ
こんにちは、『妹ちゃんファースト』を次の選挙の公約に掲げて王都の議会で議席を狙おうと考えているお姉ちゃんのアイネです。バイ妹ちゃん運動も進めて進めすぎて、今や王都では空前の『妖精騎士』ムーブが始まっています。
今まで無かったお話だからね。いやー 最近は活版印刷? 金属のハンコでパスパスと印刷できるから、木版画よりも早く新作が出せるのかもね。お芝居の上演と並行して、『妖精騎士の物語』本も売れに売れています。その10%は私の取り分だけどね。え、情報料とみかじめ料だね。
一応、ほら、妹ちゃんにその気がないけれど、「誰に断ってこんなもの売ってるんだ」と言われた時に「本人の姉だよ」と言えるようにしたんだけどね。物欲薄いからね、うちの妹ちゃんは。ポーション頼みで荒稼ぎした時期もあったし、今回の報償金とかも村の復興に役立てて欲しいと村長に預けてそのままだし。それが資金としてグルグルと回り、観光名所化が加速しているみたい。
ゴブリンの群れが消えて狼が増えて、妹ちゃんが討伐してその尻尾をお守りにして売り出すとか……提案したりしてね。
ここで、私はある提案をする事にしました。勿論、ニース領に行く話ね。
「……なぜ私が、姉さんの婚約者候補の方の領地へ行かねばならないのかしら……」
「あら、辺境伯領なんて早々行けるものではないでしょう。それに、あちらは暖かいし、果物や海の幸も豊かなのだそうよ」
「ワインもね、フルーティーなんだよ。女三人旅も一度くらいいいじゃないね」
妹ちゃんは私が護衛として利用しようとしていると誤解しているみたいだけれど、そうではないのだよ。
この度、ニース商会に子爵家も出資してその見返りに『妖精騎士事業部』を設立しました。これは、お芝居や書籍、その他のグッズ販売の関する権利をタネにするお仕事なのだよ。
ニースに向かい、その先で本人が訪れる事で、ニースから法国まで、『妖精騎士の物語』のお芝居や本が売れるようになるという事だね。要するに、私の婚約先への挨拶だけではなく、プロモーション活動でもあるわけね。
妹ちゃんは若い貴族の女の子には「堅苦しい」とか「面白みがない」とか言われてあんまり人気がないんだけれど、娘や孫を持つ世代の王都の貴族や富裕な商人からは男性女性も問わず大人気だから。
あれだね、「うちの娘(孫)も見習ってもらいたい」って感じだね。確実に、辺境伯御一家には好意的に受け入れられると思う。何なら私より妹ちゃんをと申し入れられる可能性まである。
妹が姉の婚約者を奪って「姉さんごめんなさい、でも、どうしても心が抑えられなくて……」とか言ったら「よく言った。偉いよ妹ちゃん!!」と私は手放しで喜べる自信がある。
とは言え、三男坊氏は真顔で「ハニー」とか言い放つ男なので、妹ちゃんはドン引きして距離を置かれているから、それは本人的にはあり得ないんだけどね。
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妹ちゃんは二台の馬車の護衛に、ゴブリン事件でお世話になった? 冒険者の四人組を雇う事になったわけです。それは、子爵家は護衛を元々雇うほどの家ではないので、王都から出る時に従者になる人がいないため、流石に、馬車も護衛も先方持ちと言うのは失礼なので、護衛は自腹で冒険者を雇う事になったわけだ。
それで、折角なら知り合いをと言う事から、回復役の女性もいるというその冒険者パーティーを頼む事にしたのね。冒険者で貴族の女性とそれなりに対応できる人は少ないから、丁度良かったと思うよ。
一日あたり小金貨一枚で食事は当方負担。但し、ニース滞在中はそれに該当しませんという事になっている。むこうじゃ、辺境伯家の騎士が護衛につくので、送り届けたらそこで一旦解散するのです。多分十日くらい滞在するはずなので、その間はニースでお仕事探して欲しい。
迎えに来た馬車は思ったより良いものだったよ。流石は元公国だと少々感心する。こんな家の義理の娘になっても大丈夫だろうかと自分自身を鑑みてみるが、私には妹ちゃんがいるので大丈夫!! と自分で自分を勇気づける。
「令息様。この度子爵家が供として依頼した冒険者は、先日の村での騒動の際に同行した者たちでございます」
「おお、それはそれは。辺境伯領まで、あなた方の勇名は鳴り響いておりますぞ。旅の仲間として、身分を忘れてお付き合いください」
妹ちゃんが三男坊に冒険者たちを紹介。女の子は美人さんではないけど、しっかりした教育を受けた娘に見える。年は私と同じか少し上くらいだろうか。
さて、長い長いニースへの旅のはじまりはじまり。
うん、飽きたね。私とお母さんで話をして、三男坊が相槌を打ち、適当に話題を振る感じだね。お母さんは「ニースでは」とか「やはりニースは」みたいな観光気分が爆発中。妹ちゃんはたまに話を振られると「ええそうね」とか「どうかしら」と同じことの繰り返しである。クールだ。
まあ、私と妹ちゃんはかなりそっくり姉妹なわけで、黙って座っていれば見分けがつかない……訳もなく、私がボン・キュ・ボンなお姉さんだとすると、妹ちゃんはキュ・キュ・キュと磨き上げられた可憐な美人さんです。嘘じゃないからね。
法国の様々な都市はこれまで、聖征とそれに伴う東方の貿易とで利益を上げてきたみたいね。それと、サラセンの職人から学んだ技術を自国で囲い込んで、帝国や王国、それ以外の国々に売りつけたり、仲介したりで繁栄していたけど、サラセンが強力になって聖王国も滅んで、西へと進んでくるにつれて同じ事では生きていけなくなってきたと。
内海と外海の貿易も、帝国の商人同盟ギルドに利権があるし、法国の内部で戦争したり、帝国や王国も絡んで戦争があって、今では結構苦しいみたいね。ニースもその辺り考えて、法国や帝国の一部よりも王国に加わる事を決めたようだよ。
「『マレス島』の聖母騎士団はサラセンの攻撃を撃退しましたけれど、一時的なものでしょう。マレスはニースから船で数日くらいの距離ですから、サラセンとの戦いも近いかもしれませんね」
嘘、まあ王都に住んでいる私にはあまり関係ないけれど、ニース家って今大変な時期なのかもしれない。
ニース家は船を何艘か保有していて、自身も貿易を行っている。平時はニース商会の商船、戦時はニース海軍の軍船になるという事らしい。船の上は一つの国の領土だからね。
「船の上だと、鎧も付けませんから、剣での斬り合いになります。なので、曲剣が多いです」
「カットラスでしょうか」
「良くご存知ですね。曲剣はサラセンでは主流の剣で、三日月剣のシミターなんて呼ばれていますね。王国では『ファルシオン』というのがありますでしょうか。狭い甲板や渡した板の上で戦います」
どうやら、三男坊は剣もそこそこ使うようで「船乗りなら当然ですよ」と海の男アピールがウザイ。船乗りって、赤銅色の肌とかだよね。あと、体が潮臭いみたいなイメージだけど。領主の息子が甲板員みたいなことはしないから日焼けも少ないのかもしれない。
「船にも是非乗ってみてください。船上で食事会も計画しているのですよ」
「まぁ!! それは素晴らしいですわ」
ニース城は要塞なので、パーティーをするような場所が確保できないので、専用の御用船があるのだそうです。パーティー専用の船。流石だね。
十日も掛かるニースへの道のり。その内半分は野営になるのだよ。妹ちゃんは、冒険者魂が火を噴いているらしく、素材採取をしたり、夜は宿の別室で作業をしているらしい。なんで、旅行中も仕事するのかな。と、私は思いつつ、旦那には無理だわと思う。妹で良かったよ。
お母さんは「野営は体がきついわね」などとのたまっているけれど、それは年齢の問題だと思うよ……と言葉にはせずに心の中にそっとしまっておく。
山道をゴトゴトと登っている最中、妹ちゃんがそわそわし始める。何かな、お花摘みかな? と心配していると馬車の屋根が叩かれ減速する。
ナイスな中年の冒険者のリーダーが馬車の中の妹ちゃんに声を掛ける。
「山賊が来る。前方に20、後方に10といったところだ。どうする」
雇い主はお母さんなんだろけど、聞くのは妹ちゃんだよねと思いつつ、俄然盛り上がって参りましたと思う私。
「うまく牽制してまとめてもらえるかしら。前方の20名。後方の10名は騎士の皆さんにお任せしようかしら」
「いや、騎士が前方を、冒険者に後方を任せたい」
「姉は魔法が使えるのです。見てみたいとは思いませんか?」
なんと、妹ちゃんはお姉ちゃんに期待しているみたい☆ これは、いい所見せないといけない気がするよお姉ちゃん的にね。
「命まではとらねえ。俺たちも好きでやってるわけじゃねえんだよ!!」
小汚いオッサンが道の真ん中で意味の分からないことを叫んでいる。好きじゃないならやめればいいじゃない?
『心の奥の正義の炎が、悪を浄化せよと私に命ずる。迸れ魔力、目の前の悪しき男たちを浄化の炎で滅せよ!! 大魔炎』
私の頭上で大きな炎の塊が膨れ上がり、えいやぁ! とばかりに目の前の汚らしい身なりの男たちに向け投擲する。あれです、消毒だぁ!!!!
いやぁ、魔術と言うのはあれだね、生命のビートだから、詠唱? 自分の想いが乗っかれば何でもいいらしい。心を込めると魔力がドバッと上がる感じだね。ほら、ドバっと燃えている☆
魔術の先生からは「思いを込め過ぎです!!」といつも褒められていたよ私。
油を撒いてメラメラと山賊? の小汚いオッサンたちが燃え上がり、やがて冒険者と妹ちゃんにバッタバッタとなぎ倒されていった。私は、『魔法が大きすぎだわ姉さん』と妹ちゃんに怒られた。解せぬ。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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