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第05話 私の妹ちゃんは冒険者

お読みいただきありがとうございます!

第05話 私の妹ちゃんは冒険者


 最近、妹ちゃんが森で助けた黒い猫を飼い始めたんだけれど……あのね、その猫は普通の猫じゃないから。尻尾二股に別れているし、人間の言葉理解しているし、なんか会話が成立しているじゃない?


 魔物か精霊か……私の予想では魔物7の精霊3くらいの割合だと思う。





 妹ちゃんがコッソリ人知れず飼っていると本人だけが思っている『猫』なんだけれど、家人を始め使用人から近所の顔見知りのおじさんおばさんまで、妹ちゃんが森で拾ってきたんだという事を知っています。


 え、そりゃ、私が話題にして周知しているからだよ。だってさ、猫なんて希少な動物がその辺歩いていたらだよ、猫狩りに会うかもしれないし、迷い猫だと思って連れ去る奴だっていないとは限らないよね。


 まあ、万が一にもそれはないとは思うけれど、我が子爵家の飼い猫だよと周囲に知らせておくことで、不要なトラブルを避ける目的があるわけです。





 猫を飼うのは珍しいと言われるのはなぜかと言うと、これは、どこぞのボケ教皇が……えへん、お偉い教皇猊下が「猫は魔女の使い魔だから飼うのはだめ」というお触れを百年くらい前に出したからなんだよね。


 魔女? 魔術師とは違って、悪魔と契約してその魂と引き換えに悪魔の力を使えるようにしたんだそうです。へー 凄いね。ゴイスー。


 じゃあさ、そんなすごい力の持ち主が何で猫なんかを使い魔にするわけ?ショボいよね。鼠を捕まえるくらいしか能がないのにさ。そもそも、鼠が穀物を食い荒らしたり、病気を運ぶから猫を飼うようになったわけじゃない。なんで、それを禁止するのかな。妄想で。


 いや、聖征の時代だったら分かるよ、集団妄想に浸るのもさ。でも、実際、猫を禁止する事で、問題発生するわけじゃない? 神は自らを援ける者を援けるのではないのでしょうか。


 そもそも、猫ちゃんは鼠から麦を護る『麦穂の精霊』と呼ばれ、崇められてきた存在じゃないじゃありませんの。神に祈ってばかりいるから、自分の頭で考える力を失ってるんだろうね。そのお陰で、「教会の存在はおかしい。神と聖典に書いてあることだけが正しい、聖職者は不要」とか、極端な奴らが発生したりするんだよ、多分。


 猫だって、際限なく増やせばそれはそれで害になるけどさ、猫飼っているだけで魔女扱いとか、その猫何したの!! と暫く問い詰めたい。


 とにかく、黒猫と黒目黒髪の妹ちゃんはとてもよく似た見た目と性格をしているので、一緒にいる姿を見かけると「二匹の黒猫可愛い」と心の中で愛でる事にしているのだよ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 最近、すっかり冒険者っぽい装いで素材採取に向かう妹ちゃん。これはこれで美少年っぽくてとても可愛いカッコいい。彼氏にするなら、こんな人が良いのだが、ちょっとショタ感があって申し訳ない。


 べ、べつに小さい男の子とか、穢れなき少年が好きとかじゃないんだからね!私は、妹ちゃんだから好きなだけだし。他の、小汚いガキとか全然好きじゃない。むしろ嫌いだよ。


 大体、不躾に人の胸をジロジロ見んなという感じがする。あと、声出して「胸でかい」とか「おっぱい」とか言うんじゃない!! 


 妹ちゃんが自分の慎ましやかなそれと比べて、また落ち込んだり、自己否定したりするじゃないか。妹ちゃんは祖母似、私は母似なんだから体形だってそうなんだよ。





 さて、今日はお父さんの仕事の手伝いもなく、社交の予定もない。


「出かけてきます」

「行ってらっしゃい!!」


 妹ちゃんは日課の如く、王都の郊外の森に素材採取に出かける。やっぱり、庭で育てた薬草より、森の中で自然に生えているものの方が効果が高いと言う事で、予定が無ければ王都の外へと天気の良い日は採取に向かう。


 薬草をそのまま納める初心者とは違い、妹ちゃんは既に駆け出し枠扱い。何がどう違うのかは知らないけれど、ポーションをギルドに納品していた実績が評価されて、一つ上のランクからスタートさせてもらえたのだそうです。


 え、本人がそんなこと言うわけないじゃない? 冒険者ギルドからお父さんに定期的に報告書が上がる中に、特記事項として妹ちゃんの動向の報告が記載されているだけです。


 そりゃ、何かあったら冒険者ギルドが大変なことになるからね。お父さんも妹ちゃん愛に溢れているから。まあ、自分の母の若かりし頃に似ている妹ちゃんは贔屓しているのだよ。マザコン……今は別居しているし、まあほら、先代当主として跡取りのお父さんには厳しかったみたいだからね。


 思うところは色々あるんじゃないかな、よく知らんけど。




 私は素早く部屋に戻り、準備しておいた軽装に着替える。これなら、妹ちゃんを追いかけるに足りる庶民服だと思っている。使用人に聞いた感想も「どこから見ても、庶民でございますアイネ様」と言ってくれていたし。

 

 え、騙されてないと思うよ。私の見た目じゃなく、行動でバレる可能性の方が遥かに高いと思うけれど。人は見た目が十割だから。大丈夫。

自分を信じて!!


 妹ちゃんが出かける場所は当たりが付いているので、少しの時間差であれば問題なく追いかけることができる。方角は西の門、森が一番近く深い場所にある。この西門の先には、森の中を通る街道を進むと、我が子爵家が王家から預かる代官を務める村がある。


 王家からの給料のうち何割かは、そこの租税収入の代官を務める手数料が充当される。領地を持たない、王家の男爵子爵は、王領の町村の代官として務め、定められた租税の一定割合を自分の物とし残りを王家に納める事になっている。


 我が子爵家の場合、他に王都総監と言う役職の年金がもたらされるし、その他様々な許認可の手数料が入る。これは、子爵の署名入りの免状を発行する対価であり、賄賂とかではありません。役職に伴う収入だね。


 例えば、代官を務める村の税収を多くとって、王家に納める分を一定にしておけば儲かると思うじゃない? でも、村人から不満は上がるし、村が納める税はその対価に様々な問題解決を代官に求めるわけで、代官は撥ねた上前からその対策費も出さなきゃならないわけだよ。


 自分が担当している間に、搾れるだけ搾り取ろうとする代官もいないわけじゃないけれど、監察官が確認するしね。あまりに惨い下級貴族の代官は、代官の仕事取上げられるし。だから、ほどほどに治めておくわけです。


 私もそのうち、村に出かけて行くんだろうね。その練習であって、決して妹ちゃんのストーカーではありませーん。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 遠目から見ると、しっかり駆け出し冒険者に見える妹ちゃん。そして、足元の『猫』と何やら楽し気に会話しつつ、森へとむかっている。とても楽し気な表情に、私は思わず黒猫に嫉妬する。私も猫になりたい。


 誰ですか、『ペルシャ』とか言ってる人は!! ずんぐりした体つき、短い足、離れた両目の幅広の顔……そんな事ないよね。脚長いよ わ・た・し!! ずんぐりしてないよ、ボンキュッボンだよぉ!!まあ、ちょっとだけ目も離れている感じはするけど。まあ、許容範囲だよ。愛嬌のある顔だよね。


 妹ちゃんはズンズンと森の奥に進んでいくようです。あ、足元が湿っている。くぅー やっぱり長靴を履こうかな。うーん、手に入れなければ。理由は……市街の現場視察の為? ほら、王都も下町はどろっどろだから。長靴が必要だよね。馬車からちらっと見ただけで、後は部下の書いた書類を読んで仕事した気になっているのは良くない。

 

 私は現場主義の、迷惑な上司を目指しているから。来ないで欲しければ、ちゃんと仕事しろ!!って態度で示すから。





 妹ちゃんは時折立ち止まり、薬草らしきものや素材を採取しているようで、私はこっそりとその様子を観察している。他人の目がない場所では、妹ちゃんはとても朗らかな表情をしている。いつもの、おどおどしているというか、相手の様子をすごく気にしている感じがなくて、年相応と言うか、幾分幼く見えるのはそれがあの子の本当の姿だからなのだろうと思う。


 これが、もう少し年が近いか、うんと離れているかならきっとこんな感じの姉妹にはならなかったんじゃないかなと思う。今でも三歳の差は大きいし、求められる役割も違うんだから、私の出来る事を妹ちゃんができなくても本人以外誰も気にしていないんだよね。


 性格的には、お父さんと妹ちゃんはお婆ちゃん繋がりで似ていると思う。真面目で、しっかりと手順を踏んで自分の出来る事を手を抜かずにするところとか、私よりも子爵家の仕事に向いている。


 私は、お母さんと同じような感じで、要点を押さえて細かい所はそういうお父さんや妹ちゃんみたいなしっかりした人に丸投げして確認だけしたい人だからね。王都が拡大していくとしたら、今の子爵家のやり方では限界がくるから、ステップアップするためには子爵家の家業から切り離すべきだろうと私は思うんだよね。


 今のお父さんの部下の役割をそれぞれ役所の部署として確立してだね、それに適した官吏官僚を育成して任せるべき時期なんだと思う。人口もいま三十万? とかだけど、百年前はその三分の一か四分の一だったんだからね。この先はそうはいかない。


 なんて思いながら、気が付くと、妹ちゃんがゴブリンを殴殺していた。うん、気配隠蔽されているから、死角からいきなり剣で首を切り落とされてそれを見た仲間が騒ぎ始めるのを次々に斬首していくね。


 これは手慣れたもんだね。いや、危険だから追いかけるなんて事は金輪際やめておこう。あの『猫』も、ゴブリンの脚切裂いたり……凄くヤバい二匹の黒猫だと私は思った。うん、これからは気にしないようにしよう。




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