第04話 私の妹ちゃんは『妖精騎士』
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第04話 私の妹ちゃんは『妖精騎士』
妹ちゃんは魔物相手に村を護り、並の冒険者や騎士ではとても倒せない『ゴブリンチャンピオン』や『ゴブリンジェネラル』とかいう、強いゴブリンを一人で倒して、一躍時の人になった。お姉ちゃんも鼻高々です。
社交界でもすっかり話題の中心。
その上、騎士に叙任され王家の覚えめでたい存在となった。うん。喜ばしい事だね。
ところが、騎士として別家を立てる事になる妹ちゃんの将来設計的には今までの『王都の有力者の嫁』という選択肢が消えかかってしまったのが大いなる誤算であったりする。
他人の家を差配するより、自分で立てた家を育てる方が楽しいとは思うけれど、環境の変化に妹ちゃんは戸惑いっぱなしなのだよ。可愛いけれど。
この王都の妹ちゃんムーブを王国、いや全世界に発信するために、私は一計を案じました☆
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「いいね、そのシンデレラ・ストーリー」
シンデレラというのは帝国では有名なお話らしいです。へー でもさ、世界中に似たような話があるよね。虐げられていた主人公が、本来の力を見出され本人に相応しい場所へと導かれるお話。
なんだろう。な・ろ・う……うーん、喉元まで出かかっているのだけど残念☆
誰が、意地悪な姉だ!! 失礼な。この手の話ってのは、最初に母や姉から虐げられていた末の妹が魔法使いに見いだされ、磨き上げられ王宮の夜会に参加して、王子様に見染められて市井の中で見つけ出されてハッピーエンドになるんだよね。
その後、妹を虐げていた母と姉は王宮に呼び出され、衆人環視の中で焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊るように暴れさせられたり、目を謎の小鳥についばまれて盲目になったりするんだよ。酷い話だよ。
え、何今までの話聞いてたのかねそこの君。貴族の家では、後継ぎとそのスペアである次子とそれ以下の子供で扱いに差があるのが当然なのだよ。
確か、シンデレラは姉が二人以上いるよね。母は、貴族の家として当たり前のことをしていただけだよ。嫌なら、修道院にでも行くか他の家の養女にでも出してもらうしかないよね。行った先が変態商人とかじゃないと良いけど。
大して役にも立たない末子が家で使用人のように働かされるのは、別におかしなことではないの。自分より美しいとか、そういう理由で姉や母の当たりが余所より厳しかったのかもしれないけれど、それは誤差の範囲。
それと、継母がだとか連れ子の姉が云々という話もあるけれど、それは貴族を良く知らない平民の作家がそれらしい虐める理由を見出す為に後付けで造った設定だよね。
そもそも、血縁重視の貴族の家で、年齢が下でも父の血を引くシンデレラこそが正嫡であって、連れ子の姉には家を継ぐ権利なんてない。もしくは、シンデレラの母の持参金は少なくとも相続できるので、そんなに貧乏なわけがない。
持参金のない娘=相続財産がない=冷や飯食いという構図は成り立つから、金持ちの後妻を貧乏貴族が貰い受けたのかもしれないけどね。でも、貴族の爵位は姉はそのままでは継げない。普通はね。
「それで、どんな話にするのか聞かせて貰えるかい」
「大体、こんな感じだね」
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子爵の娘に生まれた『彼女』は、裕福な下位貴族か商人の家に嫁いで姉を支えることが求められていた。
そんな中、家の書庫で調べ物をしていた彼女は不思議な短剣を手にする。短剣は古の魔術師の魂の依代であり、対価を支払えば魔術を教えてくれるという。彼女は美しい黒髪を対価に魔術を習い、両親姉に知られることなく薬師ではなく錬金術師となるのであった。
――― 彼女は世界を変えたいと願っていた ―――
これは、『彼女』の始まりの物語―――
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友人の戯作家は大いに頷いてくれた。やっぱり、妹ちゃんは最高だぜ!!
「これ、実話なんだよね」
「うん、それに、黒猫の妖精? なんかそんなのもお伴にしている」
「いいね。子供と動物がいる話はとても受けがいい」
まあそうだろうね。特に、猫は希少な動物なので、貴族達の間でも人気があるのだよ。うちの黒いのは尻尾が二股に別れているナンチャッテだけどね。
今までの冒険者になるまでのエピソードをいくつかと、今回の事件のあらましで、関係者以外に教えても差し障りのない所を教えて行く。
例えば、先遣隊が行方不明……とか言うのは内緒なのだよ諸君。
「これは、前半の成長譚と、後半の大活劇とで二度おいしいね。最後は騎士様になってこれからの活躍に期待ができる。人気が出れば、続編も容易に続けられる。舞台に吟遊詩人の語りに、最近増えている活版印刷本にして富裕層に販売するのも良いね。舞台が直接観られない地方の貴族向けにしてさ」
「それはいいね。それで、妹ちゃんの姿って見た事ないよね」
「ああ。君が勿体ぶって見せてくれないからね」
残念、妹ちゃんを見せることは出来ないけれど、似たモノなら用意できている。それは、祖母の若い頃の肖像画である。家に飾ってあるので、それを友人に見せる事にする。声を一瞬失うほど見とれているのが良くわかる。
妹ちゃんには絶対合わせないようにしよう、そうしよう。
知る人ぞ知るお話なのだが、その昔、祖母の仕えた王大后様が健在であった頃、子爵家の当主を継いだあとでも、祖母は王宮に出入りし、彼の元主の元を訪ねる事も少なくなかった。
王大后様のところには、今の国王陛下になられる王子様が良く遊びに来ていたので、祖母もお相手をする事があったのだとか。
王子は「おねえちゃま」と祖母のことを呼び、とても懐いていたのは王大后様の信頼篤いことが幼い殿下にも伝わったからではないかと思われる。当時の祖母は二十代半ばで、父も生んでいてとても「おねえちゃま」と世間では呼ばれる立場ではなかったのだが、見た目が可憐で華奢な祖母は外見だけはとても美しい少女のように見えたのだという。
中身は、今と全然変わらない鬼のようで毒舌だけどね。
お陰で、父と王子殿下は幼馴染であり幼い頃は学友として、長じて王太子となってからは側近として当主を祖母から引き継ぐまでは近侍していたから、今でも親戚みたいな感覚で我が子爵家と接してくれるのだよ。
お陰様で、社交界における私の立場と言うのも、本来子爵家程度であれば、大して重きを置かれないのだけれど、王都を支える由緒ある家の直系で次期当主であり、王家の親族のように親しくされている家の娘と言う評価で社交界でも下位貴族グループの領袖として振舞えたわけです。
でも、昔の祖母を知る年配のご夫人からは「お孫さんなのねぇ」と言われる事がしばしばで、要は母似の私は祖母と容姿が似ていないと言いたいのである。
容姿としては、妹ちゃんはお婆様の若い頃にそっくりなのだという。黒目黒髪でほっそりとした華奢な印象。意志の強そうな切れ長の目に、長い睫毛に化粧もしていないのに雪のように白い肌。
その姿は……王様が騎士の叙任を行う際に、大いに驚かれていたことからも、祖母の若い頃の生き写しなのだと容易に分かったと式に参加した貴族達の口の端に登っているのです。
あれか、陛下の初恋の人とかなのかもね、うちのおばあちゃん。
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最近妹ちゃんは、あまり外出しないのだ。騎士になって色々制約があるのだろうかと思うと、ちょっと心配なので話しかけてみた。
「妹ちゃん、最近お出かけしないけれど、何かあるのかな?」
妹ちゃんはその可愛らしい顔をちょっと顰める。この私だけに見せる嫌そうな顔がとても愛おしいのは、私の妹ちゃん愛の為せる業だろう。Only my favorite!
「姉さん……最近、王都で話題になっているお芝居で『妖精騎士の物語』というのは知っているかしら」
話題爆発中だよね!! いやー 作家からインセンティブを貰っている私としては思っていた以上に反響があって驚いているのだよ。いや、私の妹ちゃんが素材なのだから当然だよね。
「あの、貴族の娘の冒険者の話でしょう。なんか、妹ちゃんぽいよね」
「……この前の代官の村の一件を元に話を書き上げたようなのだけれど、冒険者ギルドなどで、見知らぬ冒険者や私を出待ちしている方がいて、仕事を差し控えているの」
なるほど、お芝居と現実をごっちゃにしている人もいるわけだね。あのさ、妹ちゃんは子爵令嬢で国王陛下もお気にいりなのだよ。即座に、監獄にぶち込まれてもおかしくないほどの問題だね。
「……姉さん、その、私も少し家でゆっくりしようと思っているから、特に問題ではないのよ。だから……その何かしでかしそうな顔をするのは止めて頂戴」
ありゃりゃ、心の声が顔に出ていたようです。
だがしかし、私が絵姿や日頃のエピソードを戯作家に教えていたことは気が付いていないようである。暫くは、家にいる時間が増えたようなので、妹ちゃんとの親交を深めようと私は思う。いい機会だね。
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