第30話 私、妹ちゃんをを見守り、婚約者を見送る
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第30話 私、妹ちゃんを見守り、婚約者を見送る
ニース商会の王都支店に潜む私とギャラン。妹ちゃんとめいちゃんは、今、隣の怪しい商会へと潜入中。
「あの塊男はどこにいるんだいハニー」
私の魔力の感触だと、二階の一番奥まった部屋だね。妹ちゃん達もそれは把握しているだろう。
妹ちゃん達が颯爽と通りを駆け抜け、隣の商会へと突入していく。見えてはいないけれど、心証では間違いない。
「君の大切な妹と、我が従妹が危険な目に合いそうなら、手助けする用意は整っているが、君はどうしたい?」
そりゃ、今すぐにでも手伝いたいけど、それは駄目だね。絶対ダメ。
「自分自身で事件を解決するって事が大切じゃない? 大怪我でもして相手を取り逃がしそうなら手伝うよ。でも、そうじゃなければ、このままじっと見守らないとね」
少々寂しくもあるけれど、妹ちゃんはすっかり姉離れしてしまっているからね。え、そんなのずっと前からって……しょ、しょんなことないよね。ついこの間まで「おねえちゃま」って言ってあとついて回ってたじゃない?
はい嘘ですごめんなさい。いや、私の中ではいつまでもちっちゃな妹ちゃんのまんまなんだよ。心証ではね。
妹ちゃんとめいちゃんは、二階に侵入し、レヴナントの塊男を叩きのめして、ゴソゴソと証拠の書類らしきものを集めているね。恐らく、このまま証拠を騎士団本部(目と鼻差の先の川の中州にある旧王宮にあるんだけどね)に持ち込んで、捜査を任せると思う。
この先の商人たちの捕縛は騎士団の仕事だろう。それと、王都郊外の村にある誘拐した被害者が集められている拠点も押さえなければならないよね。
「どうやら上手く対応できたみたいですねハニー」
「ええ。これでようやく家に帰れるわダーリン」
夜中の商会に二人で息を殺して様子を見るのも大変なんだよ。お腹も減ったし眠たいし。
「夜食を用意させておいたし、この商会には来客用の部屋も用意してあるから、ハニーはそこで眠ると良いよ」
「……ダーリンはどうするのかしら?」
「私は、応接室のソファででも寝るよ。毛布もあるしね」
婚約者だから同衾しても多分問題ないんだけど……ギャランのギャラン・ドゥがドゥかと思うので今晩はお言葉に甘えて来客用の部屋で寝かせてもらうよ。ギャラン、気が利く男だよね。
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翌日の夜、妹ちゃんとリリアル生は、王都の東にある人攫いの拠点のある村へと向かった。私? こっそり馬車で付けて行きました。騎士団には話を通しておいたよ勿論。だって、勝手なことをしてるって判断されて現場で騎士に拘束されたりしたらカッコ悪いじゃない?
騎士団で妹ちゃん達の行動を確認した私は、夕闇迫る街道を東へとギャランと向かう。馬車は商会で使う荷馬車を借りて、ギャランと私と……
「大丈夫だろうか」
「大丈夫ですよ義父さん」
「君に、まだお父さんと呼ばれる筋合いはないよダーリン!!」
「……アイネ……私はお父さんと呼ばれて嬉しいのだが。息子ができて、我が子爵家も私以外に男がいるようになるのだから」
そうです。お婆様に母に私たち姉妹全員が女で、父・子爵だけが男性。お爺様が亡くなって随分と長い間、父以外全員女性なんだよね。だからといって、ギャランが加わっても家の主導権は全然握れるわけではない。
妹ちゃん達の馬車は街道から少し離れた所に村から見えない位置で停車。夜陰に乗じて村を封鎖し、明日の騎士団の捜索迄逃げ出さないように誘拐犯たちを確保する予定なんだよ。
だけど、リリアルのちびっ子だけでやれるんだろうか?
「騎士団は何故出てこないんだ」
「いや、このタイミングでは動員が間に合わないんだって。王都の騎士を非番の人間含めて明日は動員しないと王都が空になっちゃうじゃない?」
今朝の段階で手を回したとしても、集められるのは夕方くらいになると騎士団は判断したので、明日の朝一番で捕縛に向かうという事なんだけど、昨日の商会で塊男が捕らえられて、家探しされたという事は誘拐犯共に伝わっているようで、急遽、夜逃げの準備をして明日の朝より前に逃げ出すつもりなんだろうという事だね。
予想通り、夜中に逃げ出そうとする誘拐犯どもをリリアルの子供たちが討伐し、協力者であった村人たちも逃がさず、誘拐されて出荷待ちであった被害者の救出も無事成功した。その間に、何人かの犯人はリリアル生達に殺されたみたいだけれど、それは避けられない事だったと思う。
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どうやら、ニース辺境伯の家で、動員が掛かっているようです。
「サラセンが『マレス』に艦隊を派遣するようでね。ニースも教皇猊下の命を受けて、軍船を派遣する事になるんだ。それに父の名代として同行する事になったよハニー」
次期辺境伯である長兄、守りの要である次兄ではなく、三男坊が行くのは役目的にも理解できる。でもさ、死なない? 死んじゃわない?
「大丈夫。戦うのは聖母騎士団とその配下と島の住人だよ。私たちは救援物資と武具などの提供を主にする。まあ、行くまでにサラセンの軍船と遭遇しなければ問題ない。まだ、派遣途上だから、接触はないと思うよ」
今まで子供の頃から、船に乗せられ冒険商人=海賊の真似事をしてきたのはこんな時の準備だからと軽やかに言葉を続ける。でもさ、死んだらどうするか、ちゃんと話しておいて欲しい。
「私はどうすればよいのでしょうか?」
「ん? ハニーは私が無事帰る事をお祈りしていてもらえば良いと思うよ。
でも、万が一、億が一私が帰らなければ……」
婚約は当然無効。その上で、ニース商会の王都の本店は子爵家の持ち分として婚約解消の慰謝料代わりに差し上げますとのこと。その代わり、これからは親族のつもりで、商会を介して共同経営者になってもらいたい。そして、今の屋敷は私個人の財産として死因贈与にする手続きをしてある
という。
「ほら、これ。この契約書に署名してくれれば、成立するから」
署名するべき欄は埋めてあり、後は私と父の署名と王家の司法官の認証があれば成立する内容だ。まあ、それはいいよ。屋敷も困るし。実際いらないしね。
「共同経営の件は別に今進める必要もありませんし、この屋敷も不要です」
「……そうなの?」
「素敵に仕上がりましたけれど、あなたとの思い出が残る場所に一人で住むのは辛いと思われませんか?」
ヨヨヨ……とはいかないが、悲し気に振舞うよ私。実際、三男坊が死んで婚約解消になったら悲しいじゃない私の人生が!! 一方的に婚約破棄されるのとどっこいどっこいだと思う。
訳知り顔に同情めかして根掘り葉掘り聞きくる『親友』の相手をするのも面倒だし、次期子爵家当主としてまた婿選びし直さなきゃじゃない? 困るよね、悲しいくらい。
まあでも、この三男坊が海の藻屑になるというのも考えにくい。サメの餌にはなるかもしれないけど。
「ですから、このような物は不要ですわ」
「そうかい。じゃあ、それでいいか。自分でも縁起でもないと思っていたんだ。けれど、後のことも考えておかないとハニーが困ると思ってね」
「いいえ、ダーリンが戻れば問題ないのだから、無事にお戻りになって下さいませ」
という感じで、三男坊はギャランドゥな余韻を残し、王都を去っていった。うん、なお一層仕事が増えたね。まあでも、仕事に専念するのは妹ちゃんと感覚を共有できて良いかもしれない。
今まで以上にリリアルに顔を出そう。仕事が増えても、妹ちゃんに使う時間は一切妥協しないよ!!
その後、ギャランは一年以上戻ってくることはなかった。それなりに心配はしたけれど、他にやる事も沢山あったし、仕事は沢山あったからくよくよする時間は無かったんだよね。
それに、ニース商会の知名度も上がって、王都の貴族・富裕層だけじゃなく、近隣の都市にも支店を置かないといけなくなりつつあった。
リリアルも順調で、子供たちの相手を妹ちゃんと一緒にしながら、商会のお仕事を手伝って貰ったり、商会で採用したOG? のリリアル出身の使用人たちも手伝わせて、新しい王都の名物を作ろうという事になったね。
法国では卵とバターを沢山使ったふんわりとした食感のパウンドケーキが人気で、王国ではまだ作れる菓子職人も少ないんだよね。フィナンシェっていう金の延棒みたいな形のケーキを作ろうと思うんだけれど、沢山の卵が必要なんだよ。
だから、リリアルで養鶏も実験してもらおうかなと思っているんだ。上手く行けば、孤児院の子供たちにも働き口として提供できるし、菓子職人になれる子も出るかもしれないしね。
そんな感じで、私が二つばかり年を取る頃、ギャランは王都に無事戻ってきて、妹ちゃんは十五歳となり、正式に男爵に叙爵されることになるんだよね。
『リリアル男爵』となった妹ちゃんが、学院の子達と大活躍する裏で、こっそり私がサポートするのはまた別のお話。
これにて第一部の裏音声完結となります。第二部以降も機会があれば書いてみたいと思っておりますので、その時はまたお付き合いください。読了ありがとうございます。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
下部のリンクから移動する事も出来ます。
【次回作予告】5/29投稿開始します。
『灰色乙女の英雄譚』 オリヴィ=ラウスは舞い戻る
『妖精騎士の物語』と『灰色乙女の流離譚』を繋ぐ一連のお話です。オリヴィの冒険譚を中心に話は進み、時間を遡る中編の連続となる予定です。
一つの話=5万字程度の中編が積み重なり、『流離譚』の後から『妖精騎士』までのエピソードが繋がる事になる……はずです。




