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第03話 私の妹ちゃんは村を救う

お読みいただきありがとうございます!

 王都には手紙を配達する王家の事業があります。百年くらい前の王様が自分の手紙を届ける組織を王宮内につくらせようとしたんだけど、四十年くらい前に先代の王大后様が王都を預かる我が子爵家に事業として成立させるように当時の当主である祖母の父子爵に命じた事で、子爵家の家業の一つとなっているのだよ。


 多分、お婆様が提案した結果だろうね。王の手紙なんて、公爵だ伯爵に渡すならば相応の使者が立てられるわけで、そうでないなら、王都の商人や在住の貴族にこまごまとした命令を伝える手紙がほとんどな訳。あれ献上しろとか、これやっとけみたいな王様の命令ね。


 どの道、王都内のやり取りはうちが絡むから、だったら最初から子爵家で手紙渡して、その場で返事貰った方が仕事が早いよねと言う事で、我が家の家業に追加されたわけです。


 


 で、何でこんな事長々話しているかって言うと、妹ちゃんのピンチに大いに役だったからだよ!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ねえ、妹ちゃん。代官の村まで出かけるって本当?」

「ええ。冒険者としてではなく、代官の代理として冒険者に同行して異常の調査をするの」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ危険なことはないわね」

「わからないけれど、何か森が変だったのよ。心配だわ」


 妹ちゃん、お姉ちゃんは妹ちゃんこそ心配です。大体、代官を務める村って領民でも何でもないからね。強いて言えば、王様の領民で、うちは徴税や沢山ある王領の一部の管理を王に代わって代行している人なのだから。先祖代々、関わりがあるってわけでもない。基本代官は不正防止のために数年ごとにローテするしね。


 そんな事わかっていても、貴族の娘としてのプライドなのか、父の代理が務める事ができるのがうれしいのか、とにかく張り切っている様子が目に見える可愛い妹なのだよ諸君。


 何度も装備を確認したり、お泊りセットを準備したり、猫に何度も同じことを話しかけたり……とても楽しそう。


 あー お姉ちゃんもご一緒したいー けど、無理だよね。無理だから。私が王都の外に出るとか、絶対問題になるから駄目だよね。これが、既婚者になって「**夫人」となると、話は別で当主の代理として活動できるようになる。


 貴族の妻と言うのは、戦時は出陣した夫の代わりに城や領地の差配を委ねられることもあり、また、戦死した夫の次の領主が来るまでの代理も務めるわけで、結婚すれば一人前の人間として認められるのさ。


 これが、未婚の娘だと親の付属品・家財道具みたいなもので、本当に犬猫の子供のようにやり取りされる。家を継ぐ者以外はとくに扱いが雑な事が普通であったりするのだよ。


 うちはそこまでひどくないし、二人だけの姉妹だから私のスペアとして妹ちゃんも相応に大切にされているけれど、四人五人と兄弟がいれば、上の二人くらいまでは貴族の子弟扱いだけれど、それ以外は無給の使用人みたいな扱いの家もないわけじゃない。


 早めに聖職者の道に進ませたり、小姓として家を出すことだって往々にしてある。まあ、それはいいんだけれどさ、妹ちゃんが意気揚々と家を出る姿をみながら、私はとても不安を感じていた。


 それは、父の手伝いをしている最中に耳にした、王都近郊に出した手紙の配達人の失踪が何件か発生しているという話を聞いていたからだ。


 今のところ、王都の商業ギルドに所属する行商人に委託する形で、王領の村や街への手紙を配達するようになっている。将来的には、王都近郊の騎士の警邏を増やし、扱う手紙類を商業ギルドの窓口で取り纏め仕分けし、騎士団本部の警邏部門に持ち込み、村ごとにそれを警邏の際に渡していくという形で、騎士団網を利用することを計画している。


 何かのきっかけで、騎士団が拡張されるとこの話が軌道に乗るのだが、今は難しいみたいだね。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 妹ちゃんを送り出し、落ち着かない日中を過ごしていた私は、夕方になっても妹ちゃんが戻らない事に不安を感じていた。いやいや、今日は村でお泊りだから。帰ってこないのは当たりまえ。


 夕食の時間に妹ちゃんの姿をみれないのはとても寂しいのだが、私も立派な成人した淑女なので、寂しくなんかないやいと思う事にする。


 騎士団からの急使が屋敷に到着し、黄昏時のまったりとした時間は一瞬で消し飛んだ。


「……至急、対応を願おう」

「ですが、明日の早朝に王都を発って、到着は昼前になると思われます」

「承知した」


 騎士団の伝令が館を出て行く。


「アイネ、お前も手紙を書くのを手伝ってくれ」


 母と私は騎士団幹部とその関係者の『夫人』に手紙を書く。


 騎士団の伝令曰く、妹ちゃんが滞在する村にゴブリンの上位種複数を含む百を超える群れが殺到しているのだそうだ。四人組の冒険者が調査の為に村に滞在していたんだけれど、応援を呼ぶために、弓使いと治療のできる聖職者を残して王都に危急を知らせに戻ってきたのがついさっき。


 妹ちゃんと冒険者二人で村人を指揮して、応援が来るまで村を守ると言う話だ。……嘘でしょ!!!


――― 何それ、聞いてないんですけど!!




 母と私は、それぞれ親交のある騎士団の奥様方に手紙を書く。ある正義感の強い奥方には「妹がたった二人の冒険者と村人を守るためにゴブリンの群れと対峙している」と伝え、夫の尻を叩くことを願う手紙をしたためる。


 ある奥方には、「戦も久しくないので、ここで先陣を務めれば騎士団の誉れとなるでしょう」と功名心を煽る。家格も大して高くなく、裕福でもない家からすれば、戦の手柄くらいしか誇るものがないのだからこれも有効。それに、報奨金が出れば、苦しい台所事情も緩和されるかもしれないしね。


 教会のボランティアなどで孤児たちに優しい夫人には、妹の生死が関わる事態だと告げ、また村にいる王の民が心配だと告げ、共に神に彼らの安全を祈って欲しいと伝える。信仰心の篤い妻には相応の夫がいるものであり、厚徳な騎士様が、危険を承知で先陣を願うかもしれない。いや願え!!


 一人一人の顔と言動と性格を思い出しながら、私は戯曲の脚本家もかくやと言うべき内容の手紙をガンガン書きしるし、母と二人で次々に使用人を呼び出し、直接、個々の家に届けるように命じる。


 我が家の使用人の数は決して多くはないが、子爵家の紋章を縫い印したマントを羽織り、夕闇迫る王都の中へと駈出していく。


 我が子爵家の紋章は、盾の中に王都を意味する城壁を描いたもの。五百年に渡り、王都を護ることをお役目として王家と王都の為に働いてきた自負が宿る。


 滅多に示さない子爵家の王都の盾の紋章だが、この紋章を身に纏う使者を追い返す者など王都にはいない。後でひどい目にあうのを知っているから。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌朝、明るくなる前に王都を発つ、騎士団の先遣小隊。その後に、百を越える本隊が早朝に王都を発つ。王都の騎士団の半数を動員する大規模な行軍なのだが、早くても昼前の現着になるという。


 あー お姉ちゃんも走って妹ちゃんのところへ行きたい!! 


 身体強化すれば、馬と同じくらいの速さで走れると思うけど、ドレスにこの細い靴では無理。今後のことを考えて、冒険者の着るような服や長靴も手に入れておこうと深く反省した。


 あ、この話の相談をして、妹ちゃんとお買い物に出かけよう。それで、帰りにお茶して帰ろう。そうしよう。


 私はとても明るい気持ちに一瞬だけなった。





 昼前に、村と妹ちゃん達三人の無事が確認され、徹夜で戦い続けた妹ちゃんは簡単な事情説明をした後、倒れるように眠りについたらしい。まあ、それはそうだよね。


 村の丸木壁と濠の中に立てこもって、妹ちゃんが単身斬り込みを繰り返して、ゴブリンの上位種を狩りながら、時間を稼いだんだそうです。魔法や人間の騎士並みの装備を持つ個体や、オーガ擬きの巨大な個体もいたらしい。


 えー これはすっかりと妹ちゃんは「英雄」になってしまったではないのかな。


 嬉しいのやら、寂しいのやらわからないけれど、これからの妹ちゃんの人生は大きく変わっちゃったことは間違いないね。


 王宮に呼ばれたお父さんが、一先ず国王陛下から妹ちゃんに対するねぎらいの言葉と然るべき褒賞を与える事を約束してくれたそうで、困惑した顔で王宮から戻って参りました。お疲れ様です。


「アイネ、お前の妹は……騎士に叙任される事になりそうだ」

「本人、望んでないと思うけれどね……」

「まあ、貴族の子弟で国の為に何か功を上げれば、騎士に叙任して、年金を支払うのが一般的な褒美の出し方だからな」


 複数いる場合は、『勲章』を制定してその功を一律評したりするんだけど、今回は、王家の忠臣の娘が一人でゴブリンから領村を守り抜いたという事で、叙任と言う話になるみたいだね。


 あー これから『騎士爵』として扱われるようになると、妹ちゃんの性格からして、騎士らしくあろうとするんだろうな。本人の意思と関係なくね。



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