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第28話 私、怪しい帝国の『伯爵』と手を結ぶ

お読みいただきありがとうございます!

第28話 私、怪しい帝国の『伯爵』と手を結ぶ


 青白い顔に、薄く血管が浮いている。俗にいう『青い血』という言葉が良く似合う。顔立ちは帝国でも王国でもない、さらに東の国の人に近い。褐色の髪に赤い目。そして尖った鼻。


 余裕を崩さない『伯爵』に私は少々動揺する。


『アイネ嬢、君は思ったより情熱的な女性なのだ……妹御よりもね』

「妹ちゃんね。あなたの家の娼婦と顔見知りみたいだね」

『ああ、生前、彼女には薬をもらったり……良くしてもらったのだそうだ。だから、私たちは王都で何か問題を起すつもりではない。世話になっているのは、私も使用人たちも同様だ。ただ……』


 『伯爵』は私たちは死んでいるだけだよ……と付け加える。


「じゃあさ、あの子達はレヴィナントなの?」

『いや、彼女たちはそうじゃないよ。レヴナントでは体を維持できないし、そもそも、魂だって劣化する。彼女たちも私も強いて言えばエルダーリッチだよ』


 エルダーリッチというのは、多分リッチの上位種だね。リッチというのは、魔術によって死体になった体に魂を癒合させたアンデッドだったはず。大体、生前優秀だった魔術師が自分の研究を死によって断絶させないため、自らの肉体と魂に術を施して、死後も魂が天に召されないようにしたもの

だったはず。


 普通は、『ミイラ』みたいな外見で、ワイトに見えなくもない。生前とは異なる如何にも『死体』という外見になる。でも、エルダーは……普通に生前の姿を維持できるみたいだね。どうやって、維持しているかはわからないけれどさ。


「吸血しているわけではない?」

『人の魔力ないし生命力を糧としているが、血である必要はない。血は処理が面倒だからね』


 接触による生命力の吸収、エナジー・ドレインだそうです。つまり、娼婦をしている子達は客からお金と生命力を頂いているわけだ。


『勿論、死んだりするほど貰うわけじゃない。それに、他にも確保する手段はあるが、高くつくのだよ』


 回復ポーションもしくは魔力ポーションでも代替は可能だそうです。まあ確かに、一本金貨数枚する場合もある。妹ちゃんは一二枚で卸しているみたいだけれどね。


『アイネ嬢の妹御には協力する代わりに、定期的にポーションを頂けることになったのだよ。だから、私と君は敵ではない』

「妹ちゃんの味方が私の味方とは限らないでしょう? あの子は言葉の裏を読んだり、駆け引きはしないからね」

『私は随分と信用がないね』

「そうだね。王都総監代行としては、その程度の口約束じゃあなたの存在を許容できない。所詮魔物だし」


 私は魔力を込め、ブンブンと玉ネギちゃん(oignon)を勢い良く振る。青白く魔力が揺らめく光る玉ネギぃー!!


『書面で取り交わすのではどうだろうか』

「私と子爵家に全面協力。アンデッドの使用人は全員登録制。王都から離れる時は事前に子爵の許可を取る。それから、帝国での商会のネットワークをニース商会に無償提供する」

『……おいおい』

「平和な王都に無料で滞在するなんて、他国の貴族に許されるとでも思っているのかな? 帝国の情報も王都での怪しい事件の情報も確実に報告することも義務づけよう。何かあれば、真っ先に疑われるのは誰がどう考えても自分だって理解してもらわないと困るんだよね」


 横で、ギャランがいい感じに深く頷く。ニース商会の諜報網に組み込むべきだよねこのエルダーリッチは。まあ、事後承諾をお父さんからもらわないといけないけど。多分問題ないはず。


「そうだね、これから扱う良いワインが手に入ったら優先的にプレゼントするという条件をニース商会からは提案するよ」

「そうだね。蒸留酒も含めて、モニター? これはあくまで個人的な意見ですって言いながら、社交界で進めてくれるという事も踏まえてならありだね」

『……承知した。但し、私は実権を持っていないので、部下に協力するよう伝えるということで認めてもらえると有難いよ』


 ということで、王都での『伯爵』の生活を保障する対価を頂く交渉が終了しました。まあ、何かあった時に子爵家が身元保証するという形だね。エルダーリッチなら、吸血鬼にありがちな『魅了』とか『動物を使役する』とかないから良いんじゃないかな? 私、鼠とか蝙蝠苦手だし。ふつう嫌いだよね、毛むくじゃらでさ。


 最近、ギャランは私が素手の時手を握らせないので、「ハッ!!」と気が付いたらしく、手の甲の毛が綺麗に無くなっていたよ。毛むくじゃら嫌いだって気が付いたようだね。ん、腹の周りの毛は今のところ関係ないので、結婚してからの課題かな。


 ということで、正式に『伯爵』は子爵家の外部協力者(どれい)となる事が決定しました☆


「じゃあ、明日にでも書面を取り交わすから、子爵邸に午後一で来て頂戴。アンデッドでも吸血鬼じゃないから、太陽の下でも関係ないよね?」

『……承知した』


 え、なんで呼びつけるかって? そりゃ、借りたい奴が貸主様にお願いに伺うってのが筋じゃないの。まあ、うちは管理人であって大家は王家なんだけどね。自分の意思で子爵家を訪れたのだから、クーリングオフの対象外なんだからね!! ってのも大事だと思う。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「例の帝国の『伯爵』がエルダーリッチか。契約を取り交わせばあの手の魔物は比較的安心だな。まあ、使い魔だと思って王都に住まわせることも良いだろうな」


 私以上に悪辣な父子爵であった。いや、流石に怒られるかと思ったけど、問題ないみたいだね。魔物も神様に帰依して、守護者になったりすることもあるから、魔物が悪い存在というのはあくまでも相対的な問題なんだろうね。御神子様に敵対していた説法者が使徒になったりするじゃない? まあ、神の最側近の天使が反逆者になって地獄落ちして悪魔になる事もあるけどさ。


 あの後、『伯爵』の周囲のエルダーな死女娼婦たちにも、人を襲う魔物の件は聞いてみたんだけど、どうやら共同墓地の中に抜け道のような物があるんじゃないかという話だったね。


 攫われた人が連れ去られて入っていくのは見るけれど、出てくるのは見たことがないみたい。


「可能性的にあるのは、地下墳墓内部と地下の下水道を繋げ、下水道から川に脱出させている可能性だな」


 王都の地下には下水道が存在する。とても不衛生だし、普通は入ろうとは思わないんだけれど、王都の中心を流れる川の王都手前から水を引き込み、王都の下流に出口を設けて川に汚水を流しているんだよね。


 川の上流の取水口と下流の排水口には当然、出入りできないように金属の格子が嵌っているんだけれど、外せないわけでもないし、常に見張っているわけでもないので、川上から舟でも入れて樽に詰めて下流側から川にでるのであれば、見つける事は難しいだろうね。


「張り込みをする?」

「いや、それもそうだが、王都近郊の人身売買組織が絡んでいるとすれば、魔物を追いかけるだけでは問題解決にならないだろう。幾つかある人攫いのうちの一つの手段に過ぎないからな。出来れば、組織全体を引き摺り出したい」


 結局、あの逃げられた魔物の住処を抑え、それを操る存在を把握するためにしばらく泳がせることになりそうだよ。


「じゃあ、私は私で、リリアルはリリアルでそれぞれ進める感じかな」

「いや、今回はリリアルに任せようかと思う。恐らく、お前より向いているだろう。それに……」


 リリアルのメンバーは騎士団と協力して人身売買組織を摘発させたいという考えもある。孤児を集めて何をしているのだという王宮に一部ある否定的な声を消す為にも、冒険者の真似事のような事ばかりでなく、王都の治安回復にも有用であると示したいのだ。


「孤児のネットワークも強化できれば、もっと情報が集まる有能な組織になるんだろうけれどね」

「孤児を集めて魔術師を育てるというだけでも、相当の貢献なんだがな。本来は、騎士団なり私たちが手掛けるべき案件だ。もしくは、冒険者ギルドの見習冒険者を使うか」


 見習冒険者はリリアルの見習魔術師たちと同じような存在だから、それが妥当かもしれないね。騎士団の騎士見習の周辺や冒険者ギルドの駆け出し冒険者を情報提供者として育成するというのはありかもしれない。


 騎士団は王都の治安機関としては未熟であり、見習時代に王都の情報を集める実務を学ぶことで、犯罪に対する情報収集能力を高める事ができるかもしれない。反対に、木乃伊取りが木乃伊になる可能性もあるので、諸刃の剣になるかもだけどね。


 まあ、必要悪だよ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その後、『伯爵』は妹ちゃんを介して、現状子爵家の上司である宮中伯と会談し、無難な協力関係を結ぶという取り決めを結んだね。子爵家とは隷属的な取決めだけれど。


 騎士団長も立ち会ったんだってさ。


――― 何それ、聞いてないんですけど!!


 王都を管理する子爵家の頭越しに話が為されたようなんだけれど、今回の襲撃事件? あの塊の魔物の対応に協力するという事であれば、そのメンバーで構わないのかもしれないね。


 でも、宮中伯や騎士団長は替わっても、王都を守る子爵家の役割りは今までずっと継続してきたわけだし、彼らとは王都の民との繋がりだって全然違うんだよね。個人としての繋がりしかないんだから、子爵家のように代を重ねた付き合いというのはないから。


 なんて、今回は妹ちゃんに花を持たせるつもりだから、「へー そうなんですか」と知らんぷりするように父からは指示が出ているので、私もそれに従うつもりです。


 今の段階で父が確認できた情報は、人攫いに使われている魔物は『レヴナント』であり、既に人間としての魂が消えかかっているので、かなり凶暴な存在だって事だね。


 それと、伯爵の周りにいるエルダーリッチ的レヴナントの子達のことも「諜報員」として扱う事で超法規的な存在とすることになりました。やっぱり、地下下水道を用いて誘拐された被害者は搬出されているみたい。


 妹ちゃん達に捜査は任せ、私はバックアップに専念する事にしたよ。




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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

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