第26話 私、レヴナントに絡まれる
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第26話 私、レヴナントに絡まれる
「一つ聞いていいかしら」
『なに?』
「あなた、いつから死んでいるの?」
少し離れた所から、私とギャランは妹ちゃんたちの会話を聞いている。歩人は気が付いていないようだけれど、栗毛の少年は私に気が付いたようで目があったので、サムズアップで答える。
素知らぬふりをしてくれるみたいだね。
「あなたの体、ひどく冷たいと言われていない?」
『……い、言われてない。言われてなんかない!!!』
そして、相手の女の子が足早に……こっちにくるんですけどぉ!! まあ、知らんぷりだけどね。
あの子も『伯爵』のところにいるんだろうか。気になるところではある。妹ちゃんは、そのまま走り去った子と反対方向に三人で歩いていく。
「どうしますかハニー」
「今日も墓地回り一周デートをして帰りましょうかダーリン」
正直、警邏に職務質問されて子爵家の紋章を見せて「調査中」とギャランが答えると、相手が硬直するのが面白い。まあ、警邏の人は私の顔とか知っいるわけないしね。化粧ケバいし。
墓地の外周は2㎞弱だろうか。ゆっくり歩いて一時間弱というところだね。あまりムードのある散策ではないけれど、おじさん二人の警邏よりは怪異に遭遇する確率は高いはずだよ。
多分、私たちはイタすための場所を探して歩き回っている娼婦と客に見えると思う。そう見えないと困るんだけど……あまりベタベタ触られるとか不適切な関係は幾ら囮捜査とは言え、問題なんじゃないかな。
「段々と大胆な気持ちになりますよハニー」
「そこは自重をゴミ箱から拾ってもらおうかなダーリン」
等とくだらない事を言いながら、寄り添って歩いていると、不意に周りの空気が変わる。あれだ、獲物を狙う魔物の気配だね。
「ハニー……警戒を」
「ええ、心得ているわダーリン!!」
私は左腕の袖に隠してある魔銀クラブを握りしめる。ギャランは既に剣に手を添え、いつでも抜けるように構える。
Gaaa!!!
恐ろしい声を上げ、ギャランに飛び掛かる大きな塊。ギャランはバックステップで距離を取るが、私、今、単独なんですけどぉ!!
なんて動揺する事無く、袖を振り手の中にメイスの柄を握り込むと、私は飛び掛かって来た塊に向け、魔力を注ぎ込んだ魔銀のクラブ(ヘッドはトゲトゲ付き)を思いきり叩きつける。
『身体強化』と『魔力纏い』を用いた一撃が、黒い塊の背中らしき部分に命中し、手ごたえを感じるがダメージはさほどでもないようだ。生身とは思えない手ごたえに、やはり魔物なのだと確信する。
「ハニー!!」
「平気!!」
私は安否を確認するギャランの声にこたえ、数歩後退する。ギャランは、魔物らしき塊と正対しているようで、鋭い気合の掛け声とともに、片手剣を魔物に叩き込もうと踏み込んでくるのが気配で分かる。
しかし、素早い動きで剣を避けると、私に手を伸ばしてくるのが見える。キモい、ギャラン以上にギャランな腕が私に向かって伸びてくる。今夜は月のないくらい夜、事件が起こってもおかしくない闇夜なのだが、その密集した体毛は、真っ暗闇でも感じることができる。
もしかして、体毛で空気の流れを感じたり、気配を察知するのだろうか。思い切り燃やしたいと思う。全部抜けその腕の毛!!
短く持ったクラブで魔力を通して伸ばしてくる手の甲を激しく叩きのめす。ゴキッといい感触がして、恐らく手の甲の骨が折れたようだ。
GuGaaa!!
アンデッドにも痛みがあるのだろうか。私にはアンデッドの経験がないので何とも言えないけれど。でも、まあ、手の動きがおかしくなるので不快なのかもしれない。
腕を引っ込めるタイミングで踏み込み、下からメイスで顎をカチ上げる。
バギン!! と顎の先端と歯が砕ける音がする。何かがガラス片のように飛び散り、毛むくじゃらの掌で顎を抑えた塊が背後の墓地の敷地の中に飛び上がり逃げ込んでいく。
「ハニー 無事ですね」
「勿論だよダーリン。あれは……なに?」
「……人間のような外見でしたが、力は人間の範囲を越えているかもしれません」
魔力で身体強化したなら、あのくらいのことは十分できると思うけれど、行動がねぇ……人間ではないなと思った。レヴナントなら、既に自我が崩壊し始めているかもしれないから、あの行動や喚き声も理解できる。
だんだん本能に近い活動を始めるからね。人間的な心を失い、獣のような存在になっていく。それなら、墓地の中に潜んでいる事も何もおかしくないね。だって、死人なんだもの。
でもさ、どこに潜んでいるのか単独犯なのか、それとも利用している存在がいるのか……考えさせられるよね。死霊術師とかが使役して、人を攫うとか?
それが、あの怪しい『伯爵』の行いだとすれば、どこに目的があるのかってのも気になる。帝国貴族であるとすれば、王国に対する破壊工作とか嫌がらせの類だとすれば、十分に効果が出ているしね。
「一先ず今日はここまでにしましょう」
「そうだね。帰ろうかダーリン」
私たちは、予想できていたとはいえ怪しげな魔物の襲撃に少々疲れていたのは確かである。それに、このあと何の準備もしないで、夜の墓地に入り込んで魔物探しとかは出来る気がしない。
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翌朝、私は昨日の出来事を父に報告する。夜遅かったので、既に父は就寝していたからね。
「……という事で、二人の活躍で不審な者は見事撃退されました」
父は「はあぁ」と溜息をつき、私に厳しい口調で詰問してきた。
「アイネよ。とても危険だったのではないか。お前自身も、婚約者殿も」
「そうかな? 割と余裕をもって対応できたと思うけれど」
嘘です。ギリッギリだったから。でもさ、ギャランも騎士っぽく剣で斬りつけたり、私もしっかり魔銀トゲトゲクラブでぶちかましてやったし、意外といけていたと思う。でも、妹ちゃん達なら、きっちり止めを刺していたのかもしれないね。
「婚約者殿は聖騎士だから不安げなく対応されただろうが、お前が心配なだけだよ」
「やっぱりお父さん知ってたのね」
「当たり前だろう。どんな人物なのか、わかる範囲で全て調べた上で王家の承諾も得ているぞ。彼がニースの聖騎士であるという点も王家は評価した上で、婚約・婚姻の許可を出しているのだからな」
なるほど。王国の海軍は内海側にも存在するんだけれど、二流以下なんだそうです。神国や法国の船乗りたちには敵わないらしい。ニースは独自の海軍を持っているのだけど、王国と提携する上でギャランごと取り込みたいんだということだね。
「剣も一流、船の運用者としても見るべきものがある。まあ、見た目は優男然としているが、祖父である前辺境伯の血を最も色濃く継いでいるのは三男である彼なんだそうだよ」
それは知らなかったよ。若い頃は、今ほど脳筋じゃなかったって事かな。じゃないと、王都の双華と呼ばれた美人姉妹を揃ってニースまで連れて行くのは難しいかもね。今はともかく、五十年前は大戦争中だしね。
ギャラン、意外と王国内で高評価だったみたい。
「それで、共同墓地の中に逃げた魔物、どう追跡しようか」
「難しいな。一応、墓守達にはおかしな痕跡がないかどうか調べさせているのだよ。今のところ、それに対しての報告は何もない。もしかすると、正規の出入口以外に、地下墳墓に入る通路があるのかもしれないな」
昨日の襲撃のパターンと、今までの被害状況を考えると、襲われたのは私で、連れ去るのに邪魔なギャランを倒してから私を誘拐? するつもりだったんだと思うのよね。
じゃあさ、今までの被害者は地下墳墓に連れ込まれたのかって話だよね。多分そうじゃないと思う。地下墳墓からどこかしらに運ばれて、その後、売りとばされるとかじゃないのかな。
つまり、この話は、ニースやレンヌやヌーベで起こっている、一連の人身売買の問題と同じ組織もしくは主体者の行為じゃないかなと思うのだよ。
そうすると、あの『伯爵』がその仕事に関わっているという事になるのだろうか。でもさ、レンヌ・ヌーベは連合王国寄りだし、ニースは法国にでしょ? 『伯爵』様は帝国貴族だけれど、一体どうやって攫った人間を運び出して売りさばいているのか疑問。
それに、レヴナントを使役しているとすれば、あの魔物とは別の存在である可能性もあるじゃない?
同じ関係者か別々の存在なのか、どちらにしても『伯爵』様には一度ご挨拶に伺う事にしようかと思う。目的を探る必要がありそうだね。
「魔物討伐だとすると、リリアルが動いた方がいいのだろうな」
「さあ、もしかしたら手に余るかも知れないよね。少なくとも、お父さんから騎士団には手を回しておくべきだと思う。何かあれば、全面的に協力するようにね」
父は「宮中伯と陛下に話を通しておく」と頷く。妹ちゃんが優秀だとは言え、まだまだ子供なんだからさ。大人が快く手伝ってあげないと駄目だとお姉ちゃんは思います。
それに、リリアルが解決する事で、周囲からただの冒険者ではなく、王都の治安を守るための活動もしているって認められた方が今後の為だと思うんだよね。私も楽できるしさ☆
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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