第25話 私、妹ちゃんを見かける
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第25話 私、妹ちゃんを見かける
何度か墓地の周りや市場の周辺を夜、ギャランと徘徊した。で、デートじゃないから。調査・操作の類だから。事件が起こる場所と時間には傾向があるので、それに合わせて警邏も動きを変えているから、ここ数日は新しい事件も起こっていない。
それに、足を運ぶ人が減っているようで客待ちの娼婦が余っているようにも思える。
でも、その中に魔力持ちの存在が混ざっているんだよね。魔物というには微弱だし、普通の人間かというとそうとも思えない。何だかよくわからない存在。見た目は普通の可愛い少女の娼婦なんだけれどね。
あれは一体何なんだろう。
「捕まえて話を聞き出しましょうか?」
「じゃあ、客として寝物語に聞いてもらおうかな」
「……ちょっと怖いですね。あれは……多分死に戻りの類でしょうから」
ギャランは肝が小さいらしく、アンデッド少女娼婦をお買い上げするのは躊躇するのだそうだ。いや、そこは私に出来ないところだから、頑張って欲しいのだよダーリン!!
でもさ、襲っているのは娼婦の女性ではないので、これは直接関係ない存在なんだろうと私は思うので、無理強いはしない。でも、目撃情報を持っている気もする。まあ、行き詰ってから考えよう。
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その翌日、商会で眠い目をこすりながら仕事をしていると、妹ちゃんがやってきた。暫くお婆様に学院をお願いして、本格的に王都の事件を探る事になったみたいだね。
「やっぱり、話が来たんだね」
「騎士団のやりたがらない仕事が回ってくるのよね」
「人の嫌がる仕事をすすんでするのは感心感心」
私は、自分の知っている範囲で王都で広がっている共同墓地周辺の事件に関するうわさについて話をする事にした。
「ほら、あの辺はさ、街娼の娘たちが多いじゃない。その中で、死んだ娘を抱いたとか……そんな怪談じみた話があるんだよ」
ギャランに調べて貰った範囲では、『死体のように冷たい体の娼婦を買った』という話が広まっているらしい。それよりも、死姦したことあるんかい!! と思わないでもなかった。だって、死体のように冷たいって比較なのか比喩なのかよくわからないじゃない?
ご飯食べてないと、体温低めになるから、きっと食事もままならない貧しい娼婦なのだよきっと。でも、あの魔力を感じる娼婦たちは血色こそ悪いけど、身なりも汚れていなかったし、なんかあるんだろうね。
「死んだ娘を抱いた話というのが気になるのだけれど」
「ああ、そんな大した話じゃないよ」
といえば、妹ちゃんは食いついてくるのは間違いない。
結論から言えば、妹ちゃんはリリアルの男……多分、ちっさいおじさんを供にして夜の探索に出るつもりみたいです。まあ、私も行くくらいだから、妹ちゃんも当然出かけるよね。でも、未成年の夜歩きは感心しないぞ!
「可能な限り、商会でも情報を集めてもらえるかしら」
「そうだね。お父さんも気に掛けているみたいだし、子爵家の仕事の一部分だろうから、彼にも伝えて協力するよ。また何日かしたら、顔出してちょうだい」
「ええ。急ぎの時は、子爵家に使いを出してもらえるかしら」
「そのくらいならね。お姉ちゃん頑張るよ!!」
そうです。妹ちゃんは元々怖いものが嫌いです。お化けの話とか、聞いたら夜寝られなくなるような気の小さい可愛い女の子なのだよ。ほんの少し前だってそうなんだから、本質は変わってないと思うんだよね。
でも、お仕事だから頑張るという妹ちゃんを止めるつもりはサラサラない。
「絶対、街娼の振りして他の娘に話しかけたりしないでちょうだい」
「えー なんでかなー」
「結婚、ご破算にしたいのなら構わないけれど」
「大丈夫だよ! ラブラブだから!」
妹ちゃん、安心してくれ給え。ギャランは街娼と客の振りをして夜の墓地を散歩するの、割と楽しいみたい。流石聖騎士様です。
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妹ちゃんと夕食を食べつつ、今回の件を少し探ってみようと思っているんだよね。
子爵家の夕食の時間、妹ちゃんは私とギャランがいる事が意外であったようで、驚いた顔をしていました。いや、私ここに住んでいるし、ギャランも三日と開けずにこの家で夕食食べてるよ。
「あれから、お姉ちゃんも調べたんだけどね……」
いやー 予想外の展開。襲った者の他に、助けた者もいる。それも、レヴナントなんじゃないか……という話だね。つまり、あの魔力をちょびっと感じる子達が死に戻りの娼婦ということになるのかな。でもさ、死に戻ってまで娼婦でいたいとは思わないんだけれど、何故だろうね。
お父さんも妹ちゃんがまた無茶するんじゃないかとそわそわし始めている。するに決まってるじゃんね。
「依頼とは言え、慎重に事を進めなさい。私も、自分の周囲で情報を集めているのだが、騎士団で情報がある程度止まっているのでな。詳しいことは王都を管理する我々にも伝わってこないのだよ」
事件が解決しないと、工事も積極的には勧められないし、色々問題が発生していて困ってるというのは事実。でも、騎士団は事件を解決する事を急ぐつもりもないようで、警邏を増やして、運が良ければ捕まえられれば良いくらいの感覚なんだよね。
だから、依頼も出させたし、妹ちゃんだけじゃなく私もそこに加わらざるを得ない感じになりつつある。
「気を付けてね。無理してはだめよ」
「ええ、少し遅くなりますがご心配なく」
母も気が気ではない。まあ、私はギャランを盾に自分だけ逃げる気満々だけれど、妹ちゃんは盾役もいないしね。
妹ちゃんを子爵家の馬車で下町まで運んだあと、戻ってきた馬車で私とギャランは同じように下町へと向かう。
両親には妹ちゃんのことを気に掛けるようにと言われるが、今だかつて気に掛けなかったことがないよ私。呼吸をするように、心臓が動くように何も意識することなく、心は妹ちゃんを気に掛けている。それが私だ。
「例の魔力持ちの娼婦の子達には元締めがいるみたいですね」
ギャランの情報網、子爵家より優秀。というよりは、子爵家はあまり裏の方との接点がない。あれば弱みと見なされかねないので、あまりよろしくない王都の関係者とは距離を置いている。その点、ニースは伝手もコネもあるので、この程度の調査は簡単にしてのけるようだ。闇深いね。
「流石ダーリン。で、そいつはどこの誰なのか、までは分からないんでしょう?」
私は、挑発するような言葉を口にすると、ギャランは「概ねわからないといったところです」と答える。
「下町にある旧騎士街の古い城館に住んでいる、外国の貴族ですから、調べるのには時間が掛かりそうです」
「もしかして、帝国の『伯爵』を名乗る胡散臭いおじさん?」
「ご存知ですかアイネも」
ご存知だとも『伯爵』様ね。血色が悪いまあ割と顔立ちの整った中年のおじさんだね。ちょっとサラセン風の衣装を着こなしたりとかしてさ。でも、帝国とサラセンって戦争してるよね? あんな格好で誤解されないのか不思議だね。確か、メインツかコロニアに本店を持つ商会頭でもあったね。支配人に丸投げして、自分は王都で新規顧客の開拓という名の放蕩を続けているなんて言われているよね。
下町に着き、私とギャランは一先ず、伯爵様の潜伏先を確認してみる事にした。その騎士街っていうのは、昔は下位の貴族の住む場所だったんだよね。新しく川の反対側に王宮と下級貴族街ができて移っていった関係で、残った屋敷の周りがスラムになっているんだよね。
元々、貴族の屋敷ってのは使用人の住む下宿みたいなものが沢山あるのが定番だから、そこを貸していたりしたんだろうね。管理するのも面倒になったり、家系が断絶したりして屋敷を管理する者が曖昧になった結果、今のように半ば放置されている建物が増えている。
墓地が近いのと、下町でもあまり治安が良くない場所なので、新たな借り手が付かないでドンドンと悪い方向に行っているんだけど、墓地を移転させて新しい施設を建設できれば、この旧騎士街も再開発されて……大家さんである王家の収入もドンと上がるわけ。
その計画の完結を賞して、子爵家は伯爵家に陞爵、私が次期当主となるって寸法だね。
「ここですね」
「ここかぁ……まあ、人の気配はしないかな」
「既に、ここに同居する娼婦たちは出ている時間だと思いますよ」
終課の鐘が鳴り、真っ当な人はそろそろ寝る時間じゃないかな。私も普通ならベッドでグースカ寝ている時間だね。
『伯爵』邸から共同墓地に向かう。妹ちゃんはいずこにいるんだろう。お、妹ちゃんの魔力の波動を感じる。どうやら、お伴のちっこい男の子とおじさんを連れて、妹ちゃんは娼婦の女の子とお話をしているようだね。
「ハニー、あの子は大丈夫だろうか」
勿論気が付いているわよダーリン。あの子、アンデッドじゃない? でも、妹ちゃんからは優し気な空気が醸し出されているから、多分問題ないよ。
あの優し気な空気、お姉ちゃんにも向けて欲しいんだけどな。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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