第24話 私、共同墓地へ行く
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第24話 私、共同墓地へ行く
見事なものだね。共同墓地。あまり足を運ぶことはない場所だけれど、結構広い。この墓地の歴史は、我が子爵家と同じくらいの長さがある。元々は外にあった共同墓地を、この場所に移しているんだよね。聖なる場所で埋葬するべきだって理屈で。
元々ここにあった教会が、王都でも歴史のある大聖堂に並ぶ教会であったことが理由みたいなんだけどさ……
同じ場所に一年に何百何千と死体を埋葬するじゃない? 土が死んで骨にならないみたいでさ、今じゃ3mも掘り下げないとだめらしいね。おまけに、異臭はするしこの周辺はワインや食物も腐敗しやすいんだって。ワインが一週間で劣化するってどれだけ危険な場所なんだろう。全然聖なる場所じゃないよね? むしろ穢れていると私は思う。
更に、『デブ王』の時代に中央市場も近所に引っ越しさせられているので、猥雑さと通り一本でこの危険地帯が背中合わせなわけですよ。王都の台所がさ、物腐る危険な場所のそばってどう思う?
研究者は、疫病の発生源になり兼ねない墓地の危険性を指摘、新墓地建設後に王都内での埋葬を禁ずる法令も発せられたから、今のところ、良い方向に向かっていると思える。
でもさ……こんなに臭くて空気が悪いなんて……
――― 何それ、聞いてないんですけど!!
と私は言いたい。
ここに何を作るにしても、生活する場所にはしばらくできないと思う。自然に浄化されるのを待つか……妹ちゃん達に大量にポーションを作成してもらって地面に撒いて正常化するか、あとは王都の教会に浄化の依頼を出すかだと思われます。
兎に角、近くにいるだけで何だかとても気分が悪くなる場所だというのはよく理解できた。人も近づかないから、人目に付きたくない人が集まるって事なんだろうね。
でもさ、娼婦の女の子が被害者っていうのは、ちょっと悲しいよね。多分、その中には……孤児だった子、頼るべき人がいない子たちがたくさん含まれていると思う。
誰かがしなければならない仕事って世の中には沢山あるし、それしか選べない子というのも存在すると思う。だから、毎日が少しでも不安でなくなるように、楽しくない毎日が少しでも良くなるように私は出来る事をしなければならない。それが、私の、私たちの家の仕事だから。
それと、気になるのは地下墳墓の中。一応、入口には自由に出入りできないように扉があり施錠されているけれど、それは誰も出入りできないわけではないからね。合鍵なり、協力者がいれば問題なく出入りできる。
生きている人間には潜伏できなくても、アンデッドなら潜伏できるしね。吸血鬼は棺桶の中で寝ないと力が取り戻せないとか、霧となって移動できるなんて話も聞く。つまり、地下墳墓の中の棺桶に潜んでいても、全然問題なく出入りできてしまうのです。
因みに、地下墳墓は凡そ2㎞ほどの長さがあるそうです。ねえ、私、そんな距離一人肝試しする気に全然なれないんだけれど。誰かと肝試しデートか。ギャランのちょっといいとこ見てみたい☆
でもさ、地下墳墓の中の棺桶の中身をいちいち確認するって……大変だよね? 嫌だよね? 少なくとも私はやりたくない。だがしかし、人が嫌がる仕事を進んでしましょうという家訓も我が子爵家にはある。
これは「人に嫌がらせをしようね」という意味ではなく、「人が避けることでも自分は避けずにやろうね」という意味だからね。勘違いしないでよね!! まあ、私の場合は前者をする事もないわけではありません。うん、私だって天使でも女神様でもないからね。やる時はやるんだよ。
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「それで、私に協力して欲しいという事だねハニー」
「その通りよダーリン。だって、あなた以外の男性を同伴するというのは、問題あるじゃない」
「それはそうだね。王都で気になっていた事でもあるし、ここはハニーに私のいい所を見てもらう良い機会だね」
ギャランに墓地回りの捜索に協力を要請すると、二つ返事で承知してくれた。婚家の一大事……というわけではないけれど、お家の仕事でもあるからね。聞くところによると、妹ちゃんとめいちゃんも正式に受けて墓地回りの夜の調査をするみたいだから、もしかしてどこかでばったり出会うかもしれないね。ちょっと楽しみだ。
「それで、ハニーと私はどういう関係を装うつもりだい?」
「……客と娼婦とか?」
「うーん、それしかないのかな。でも、ハニーは娼婦の真似とかできるのかい」
客の真似は不要かもしれない。でもさ、貴族の客っていうのは夜会などで耳にするところに寄ると、馬車で流して見かけた良さげな女性に声をかけ、馬車の中で用事を済ませて適当な所で降ろすという事をするらしい。
……貴族風では駄目だね。全然ダメ。
ということで、市場の作業員風のギャラン(胸毛出し腕まくり多め)と、娼婦風の私(やや胸強調・薄着透け感あり)で事件の起こった場所辺りを探る事にしました。
いつもは余り体の線がはっきりしない……というか、体をデフォルメする貴族風の服を着ているのでよくわからなかったんだけれど、ギャランは結構いい体しています。騎士とか船員として全然違和感ない感じだね。
「どうだいハニー惚れ直したんじゃないかな」
「ええ、大体その通りねダーリン。意外と鍛えた体をしているのね」
「これでも私は、聖エゼル騎士団の聖騎士で、海軍所属だからね」
――― 何それ、聞いてないんですけど!!
ギャラン曰く、その昔、サボアの君主にニースが仕えていた頃、聖征の頃に作られた聖騎士団の一つをサボア家が受け取ったのだという。
「サボア家は聖王国の王位を継承しているから、その絡みでね。一時は教皇猊下を家族から出したこともあって、それで聖王国が亡くなった時に、幾つかの聖騎士団を預かっているんだ。海軍は当時海のある領地であったニースに拠点があってね。海軍に限っては、ニース辺境伯家の人間が騎士に叙任されてその系統を守っているわけだね」
長兄は辺境伯を、次兄は辺境伯騎士団を継ぎ、三男のギャランは聖エゼル騎士団海軍を委ねられてるという事になるみたい。
「ニース商会の仕事というのは、この辺りが基礎になっているんだ。少しずつ知ってもらえればいいけれど、私はサラセンとの戦いがあれば、教皇猊下の指示に従い出征することもあるんだ。多分、補給とかで船を出すことになるんだろうけれどね」
聖エゼルは、聖母騎士団みたいな巡礼者の救護を目的とする騎士団で、聖征の中頃に出来た騎士団なので他の騎士団程有名でもないし、所領も小さいのだという。おまけに、王国とサボア公国とニース公国で別れて支部ごとに活動を始めたため、今ではあまり知られていない存在なのです。
「だから、この剣も伊達ではなく、それなりに使えるから安心して欲しい」
「勿論だよダーリン。私も、この子爵家伝来の魔銀のクラブで自衛くらいはするつもりだよ」
魔銀のクラブは、肘から手首ほどの長さの物で、元々は魔術用の道具なんだけれど、ヘッドの部分が丸くなっていて魔力を込めるとピコンとトゲトゲが飛び出す魔導具でもある。魔力を込めて叩く事で、アンデッドにも効果があるみたい。若い頃のお婆様も良く使っていたと聞いているので、それなりに実績のある装備なんだよね。
「では参りましょうか姫」
「姫じゃないけどね。姫遊びでもないし」
私はギャランと現場近くまで馬車で移動し、闇の深くなる時間に墓地のそばに立つことにした。
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今回の事件は、その人間離れした怪力で殺傷されるという事件なのであり、比較的多いのは、娼婦と客が襲われて客が致死傷し、娼婦が攫われるという事件だったりする。それ以外にも、商人の見習や小間使いが行方不明になる事件もある。
見習小間使いたちは、隣接する市場で働く年少者であり、娼婦は年齢的にその少し上といった若い娘が多い。まあ、攫うなら若い娼婦だよね。年寄りの娼婦ではないと思う。
「犯人に心当たりは?」
「無いから騎士団も行き詰っているんだよね。騎士や夜警の警邏の時には見つからないし、襲われた人間の大半は消えるか死ぬか、大怪我した生存者も大男だと思う、人間離れした力と速さとかそんな断片的なお話だから」
だから、吸血鬼かそれに類する者だろうという話になっているだけど、娼婦を吸血鬼が求めるかという問題もある。それに、わざわざ客を取っている娼婦を狙って襲う理由がわからない。少なくとも、吸血されている痕跡や痕跡のある死体も見つかっていないから、多分別の存在なのではないかという見解だね。
それで、吸血鬼以外のアンデッドで人間と外観の変わらない存在である『レヴナント』なのではないかという話になる。でも、レヴナントというのは死に戻り・蘇りの死人のことだから、時間の経過とともに中の魂が摩耗して元の人格を失っていく存在なんだよね。
だから、早々長く事件が続くとも思えない。でも、事件は続いているからそれとも違う魔物なのかもしれないね。
「周囲に魔力の気配……あるじゃない」
私も妹ちゃんほどではないけれど、魔力を感じ取る能力はある。でも、こんな場所でぽつぽつと小さいながらも魔力を感じるっておかしなことだよね。
これって何なんだろう。
「ハニー……どうしたんだい」
「ダーリン、魔力を持つ存在がかなり潜んでいるわ。気を付けて」
魔力を持つ存在が何かは分からないけれど、私たちは平静を装い夜の薄暗い道を腕を絡めて歩いていく。当ててるんじゃない、当たっちゃってるだけだからね! 勘違いしないでよね!!
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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