第19話 妹ちゃん、ブルグントから戻る
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一仕事終えた妹ちゃんは、リリアルに帰る前に王都に立ち寄り、子爵家に挨拶に来ました。相変わらずの義理堅さです。
私の目の前には、今、膝から下がとってもギャランドゥな見た目少年のおっさんがいます。ギャランドゥな脚してる脚ギャランの歩人だよ。足の裏の毛がフェルトみたいだからって足音が静かとか……どんな昆虫だよって感じだね。
「姉さん」
「なにかな妹ちゃん」
「この男はビト=セバス。リリアルで従僕としてこれから躾けていく男よ。私の姉よ。挨拶なさい」
「……よ、宜しくな……でございますお嬢様」
「ねえ、妹ちゃん、こいつ馬鹿なの?」
妹ちゃんは悲しげな顔を作るとゆっくりと頷く。
歩人庄の里長の息子らしいんだけど、色々やらかして居づらくなって出奔、金もなく乞食同然の身で放浪しているところを例の偽装山賊団に捕えられ、売られるところを偶然助け出されて今日に至っているのだそうだよ。
「一応、私と主従の契約を結んでいるの。魔術も使えるし、見た目が子供に見えるので、密偵や暗殺のような汚れ仕事を主にさせるつもりなの」
「おいおい、聞いてないんですけどぉ……」
「だって話してないもの」
おすまし顔の妹ちゃんが今日も可愛い。まあ、そういう機会はないかもだけれど、手段としては持っておいてもいいかもね。
このちょっと可愛そうな存在である歩人は、従者教育の為に……お婆様のところに預けられる予定だそうです。うん、多分人生観変わるよ君。
「それで、今回のお話聞かせて貰える。お留守番、頑張ったからさ」
ふぅと軽く息をつくと、妹ちゃんは「しかたないわね」と今回の旅の話をしてくれたんだよ。
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「へぇ、ブルグント公とお爺様は親友なの」
「ええ。とても気さくな感じで交流されていたわ。若い頃からの親しい友人だと聞いているわ」
やっぱり……良からぬことを画策していたなあの爺は。ぎりっぎりで、ニースのお婆様経由で「妹ちゃんは王妃様とか全然望んでないから、余計なことすると嫌われるぞ!」と釘を刺しておいたのが功を奏したね。
どうやら、ブルグントの領内にヌーベ方面に向かう行商や旅人の情報を流す『盗人宿』のようなものがあって、その情報を元に、山賊に扮した傭兵が襲っていたんだそうです。
「私たちは女性三人に三人の行商人が同行する旅人って設定で、ヌーベには向かわず、その手前のソーリーという街まで出かけたのよ。その戻り道を待伏せされたというわけ」
なるほどね。行商した商品をもらっても足が付くから、売上に変わった後を襲うわけね。考えているじゃありませんか。
「元々、私たちがわざと捕まり隙を見て夜に中と外から根城を攻撃する事になっていたのよ」
「……そう。それで、賊は何人くらいいたの?」
「五十人よ」
五十人……傭兵五十人ってちょっとした規模だよね。
「首領は魔剣士で、『狂化』もする厄介な相手だったわね」
「それを妹ちゃんが討伐したの」
「いいえ、ニースのお爺様が生け捕りにされたわ。公衆の面前で処刑してブルグント公の顔を立てるためにね」
いろいろ配慮して……大変だったんだね。
根城はもう、普通に国境沿いにある中隊規模の戦力が収容できる要塞のような建物だったらしい。外には鍛冶場や使用人をしている攫われてきた人間の寝床もあったりして、ちょっとした規模だったのだそうです。
「そこには、既に売りとばされてしまった人達の記録が残っていたけれど、助け出せた人は十人もいなかったわね。酷い目にあっていた子もいるし」
城の彼方此方に火を放たれ、礼拝堂に収監されていた妹ちゃんとめいちゃんは燃え上がる礼拝堂から脱出する際に、見張りをドア越しに倒したり、その後、首領の執務室に侵入し書類を掻っ攫ったり、偶然出会わせた副首領を一刀の元に斬り殺したり、酷い目に合ってた少女を助け出したりしたのだそうです。
ねえ、もうかなりお腹いっぱいなんだけど。
「城壁の上では、お爺様の友人の修道士の方や、戦士たちが山賊たちと戦って次々と倒していったのよ。石段から叩き落したりね」
「魔剣士の首領はどうなってたの?」
「ニースのお爺様と一対一よ」
「……一対一……」
「ええ。凄まじい打ち合いだったわ。余人が介せない程のね」
妹ちゃんがちょっと熱く語るくらいの剣の応酬ですか。それは、是非ご本人に聞かないと、戯作者に伝えられないかもしれないね。
五十人の賊を、僅か九人で討伐を成功させ、囚われた人たちを救出したわけだから……これも良いお話になるでしょう。『妖精騎士の物語:ブルグント傭兵討伐編』これも大ヒット間違いなし!!
令嬢姿で妹ちゃん役が殺陣をこなすなんて……今までにない斬新な展開だね。舞台は山奥の古城。そこの城壁の上や城門の前、そして、城館の中で次々に斬り合いが繰り広げられる。
ついでに言えば、こういう犯罪者が王国内に潜んでいるので注意しましょうという啓蒙活動にもなるかもね。鎖国してるヌーベ公領には風評被害もないだろうけれど、わかる人にはわかる内容だよね。
「それで、姉さんはリリアルでどんなことをしていたのかしら」
「一緒にご飯を食べて、お昼寝したりだね」
「……他には……」
「薬草畑で土いじりとか? 魔術とかは何も教えていないよ」
「そうね。姉さんの雑な魔術では、皆が困惑するでしょうから、それが正解ね」
む、失礼だね妹ちゃん。私の溢れ出すパッションが、魔力を制御する事を許さないだけなのだよ。まあ、細かい制御が必要な妹ちゃんの好みの気配隠蔽とか、そういうのは苦手です。
でも、身体強化とか魔力纏いとか、あと大魔炎は得意だね。それと、剣よりもウォーピックとかメイスみたいな全力でぶん殴る武具の扱いが好みです。剣は折れるからね、細い鉄の板に刃を付けた、か弱い武器だよあいつは。メイスは、曲がるかも知れないけど、折るのは結構大変だから。あと、ピックは何でも貫通するくらい威力あるから人間にも魔物にも有効。
あ、勿論、手加減して平たい側でぶん殴る事もするよ。魔術師は普通、スタッフとか、ロッドとか言う木の棒を振り回すイメージだけれど、私はそういう固定観念にはとらわれないタイプなのだよ。練習すれば、ぶん殴りながらでも魔術は発動します。練習あるのみだね☆
家族会議の結果、脚ギャラン=セバス君は、暫く子爵家の使用人としてこき使われる事が確定。だって、頭悪そうなおじさんだから、今のままリリアルに向かわせるのは論外、さらに言えば、お婆様に預けるなんて火に油を注ぐ事になり兼ねないので不可です。
一応、私とお母さんと使用人頭の三人で、みっちり歩人の一挙手一投足にダメ出しをしたんだけど、ほら、駄目な子って自分が駄目なことが分からないから駄目なんだよね……って事が良く分かった。
一々、駄目なところ、その理由、改善すべき点を挙げて行ったらさ、ドンドン顔が土気色になってさ……駄目なおっさんだね。リリアルの子供たちに悪い影響があるとしか思えないけど、妹ちゃんは一旦リリアルに連れて行くみたい。
使用人の視点がどうこう言い訳ぶっこいたけど、使う人間の視線で考えて行動するなんて当たり前だよね。何でこっちが相手に斟酌して仕事たのまにゃならないわけよ。今までの人生、舐め腐ってたヒキニートだと私は確信した。
妹ちゃんも子爵家で預かるのはちょっと無理かなと思ったみたい。その、単純に言えば、家の仕事が止まっちゃうからだね。流れが悪くなる人間を子爵家に入れるのは不味いと判断したらしく、お婆様に丸投げすることになりそうです。
最終的には、脚ギャランセバスの育成をリリアルで教授役務めながらお願いするつもりみたいね。それはそれで、子供たちの勉強になるかもしれないから良いかとも思う。駄目な見本が身近にあると、賢い子は「ああならないように気を付けよう」とか「何であの行動が駄目なのだろう」と考えるからね。
流石に、「彼奴が怒られているから俺たちは大丈夫」とか考える程度の低い子はリリアルに選抜されないだろうから、脚ギャランはお婆ちゃんに滅茶苦茶ダメ出しされて、みんなの教材になると良いと思う。大人として、背中を見せてもらいたいね。
その後、歩人は妹ちゃんに相応しい『従者』になるべく、お婆様の厳しい厳しい教育を受け、更に冒険者として登録させられたらしい。妹ちゃんとめいちゃんの盾として立派に活躍して華々しく散って欲しい。
そうすれば、『妖精騎士の物語:歩人舞い散る編』として、いい感じで戯曲が書けると思うから。後から出てきて、テンプレの展開で「ああやっぱりあいつ死ぬんだな」ってそういう役があると思うんだよね。新人の騎士が必ず殉職する騎士団とか……そういう物語あるじゃない?
新人が張り切ってタレコミがあったので同僚を待たずに急いで出かけてさ、その現場で不意打ち喰らって、鎧通しで脇腹えぐられて、血を噴き出しながら腹抑えて『なんじゃこりゃぁぁぁ!!』って絶叫しつつ、人知れず死んだりさ。
やっぱり、主役を護って犬死する男の美学的なものってあると思うの。
因みに、お婆様からは滅茶苦茶ダメ出しされているみたいだね。従僕・従者から執事にハードルが上がっているみたいで、かなり気合の入った教導が行われているようだね。
「子爵家の分家筋として男爵家を切り盛りする執事にふさわしい教育を私が責任をもって授けましょう」
って言い切られたんだって。まあ、死亡フラグは一つとは限らないからね。学院からお婆様の家に呼び出されて厳しく指導されているらしいよ。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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