第12話 妹ちゃん、王宮で騎士を叩きのめす
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第12話 妹ちゃん、王宮で騎士を叩きのめす
レンヌに向け、妹ちゃんはめいちゃんと頑張り中。どうやら、護身用の剣を買ったり、王女様に魔術を教えたりしているらしい。どこに向かっているのだろう、我が妹ちゃんは。努力の方向が間違っていないだろうかとお姉ちゃんは心配です。
でもさ、妹ちゃんにとって初めての友達だと思うので、色々経験して欲しい。ん、私? 貴族にとって本来の意味での友人はいないのだよ。それが普通。私が腹黒だからいないわけじゃないよ!!
家に戻ってくる妹ちゃんはとても楽しそうで、お姉ちゃん的には嬉しいやら寂しいやらです。三男坊? うちの客室に居候中。婿様だからね。我が家に滞在するのは問題ないでしょう。
妹ちゃん情報によると、王宮でも持ち込んで配ったタロットカードが王妃様とその周辺の侍女たち中心に流行の兆しを見せているらしい。まあ、接待タロットもあるかも知れないけれど、娯楽が少ない王宮の使用人の間でメンバーを入替え乍ら長く楽しめる手軽な娯楽は少ないからね。
どうやら、新しいカードを手に入れるべく手を尽くしているようなんだけど、王国と法国の間には色々イザコザがあって、パイプが細いんだよね。南都には戦乱を避けて法国の商人がかなり移住しているんだけれど、絹織物とかガラス工芸の職人・商人が多いから、日用雑貨系は本国に行かないと手に入らず、畑違いみたいだね。
これで、ニース商会の株も上がるってもんだよ。既に、ギャランな三男坊はニースに手紙を書き、出来る限りのタロットを購入し王都の子爵邸に送るように手配をしているらしい。
なぜなら……お母さん主催の茶会のメンバーに会えば必ず「欲しい」「手に入れて」「お母様の顔を立ててあげなさい」などと、母友人周辺から鬼の催促をされるからである。
「はぁ、ご婦人方のパワーには敵わないよハニー」
「ニースが注目されるのは良い事でしょうダーリン。それに、そろそろ妖精騎士タロットも仕上がって来るのではないの?」
ニース滞在中にプレゼンした商品が、そろそろ出来上がって欲しい。まあ、難しいだろうけれど。
「大アルカナだけなら間に合うけれど、小アルカナは普通の図柄になると思うよ」
「それで十分。完全版と二回購入する方も多いと思う」
「……そういう商売の考え方、割と好きだなハニー」
「ええ、私も、自分の考え方大好きよダーリン」
全然愛の語らいではないのだが、それっぽくしないとね。ほら、思っているだけでは相手に伝わらないからね。そういうの、駄目だよ。口にしないと。だがしかし、妹ちゃんには「姉さん、いい加減にして頂戴」と言われるんだよね。解せない……ツンデレ!! ツンとデレなのか妹ちゃん!!
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聞くところによると、騎士団本部で護衛の打ち合わせをする際に、妹ちゃんに騎士団の跳ねっ返り共が腕試しを挑んだらしく、鎧袖一触されたらしいね。細かく本人に聞くとお姉ちゃん嫌われかねないので、騎士団の関係者から様子を聞こうと考えています。
まあほら、そのうちニースのお爺様が王都にやってきて、騎士団や近衛騎士団に表敬訪問すると思うんだよね。法国方面で戦争がある場合、連携する事もあるみたいだし、実戦経験豊富なお爺様は、王国の騎士の間でも相当に尊敬されている。
それと、ブルグント公爵閣下とも親友付き合いらしい。王都では飲み明かせるんじゃないかと楽しみにしているとか……ギャランから話を聞いている。
「流石だね、君の妹はハニー」
「私も、そこそこやれると思うんだけどダーリン」
「うん、君の場合、騎士を燃やすのは禁止されると厳しいんじゃないかな」
何でもありの金網デスマッチなら、私の巨大火球が丸焼きにするんだけど、模擬戦ならそれは駄目だよね。むしろ、反則負けかもしれない。
「大火球寸止めなら勝ちかな?」
「相手が負けを認めればねハニー」
因みに、あの冒険者さん達も騎士に勝利したみたい。やるじゃん!! まあそうだよね。あのゴブリン騒動の時、戻ってこない騎士とかいたみたいだし、ゴブリンだって頭使う個体もいるみたいだから、騎士だからって自信過剰な奴は命取りになるんだよ。
え、私?……大魔炎でゴブリンは皆殺しだ!! だよ当然。血とか飛び散ったら嫌じゃない。
因みに、めいちゃんも妹ちゃんも騎士団のレンヌ行きの護衛部隊に圧勝して黙らせたそうです。細かい話は知らないけれど、無様に負けた話は近衛騎士経由で貴族の間に伝わっている。
近衛は貴族の子弟しかいないし、腕っぷしでは騎士団に敵わないので、妹ちゃんの勝利=貴族の勝利=自分たちの勝利と都合よく解釈して溜飲を下げているのだそうです。近衛って弱くても良いんだ……
王族を守るための騎士って街で見回りしたり、魔物狩りしている騎士より弱くても問題ないんだ。こんど、夜会とかで令嬢や御夫人方に聞いてみよう。
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妹ちゃんは、私に特に挨拶もなく王女殿下の侍女としてレンヌに旅立って生きました。うん、会えば別れが苦しくなるから、会わずに行ったんだよ。私が不在のことを確認して、するっとお母さんにだけ挨拶したわけじゃないと思う。絶対大丈夫。
そんな私は、お父さんのお手伝いをしています。
「大丈夫かなぁ」
「心配ない。旧都から川を下ってすぐだぞ。レンヌは王家と対立したこともある家で、騎士団だって優秀だ」
「でも、元連合王国側じゃない? その後も跡目争いで王家と付いたり離れたりしてさ。大公家はともかく、地元の貴族や商人は王女殿下と公太子の婚約を良く思っていない奴らもいるだろうし」
連合王国と商売や血縁で結びついている奴も多いはずなんだよね。それに、レンヌ大公の大叔父のソレハ伯爵ってのが対立派閥の長で、大公位を狙っているはず。
今回、王女殿下が嫁いで子が生まれた場合、その子が大公位を次いで子を成さずに死んだ場合……レンヌ公国は王家に没シュートされるわけなんだよね。
王国の王都周辺の伯爵領とか公爵領はそんな感じで、元王家のライバルだった貴族の家を婚姻で王家に取り込んだ家も多いんだなこれが。
残念ながら、今の王には娘が一人しかいないので、一番王都から近く対立した歴史のあるレンヌの公子の嫁に出したけどさ、適齢期の嫡子が独身で、王女殿下が複数いれば、ニース辺境伯や隣のサボア公国に嫁に出したはずなんだよね。
でもだがしかしだよ、それなら、妹ちゃんをわざわざ指名して侍女として王女殿下に付けた理由って相当キナ臭いからなんだよね。
「アイネよ、王家に仕える騎士として、お前の妹には危険となるだろうが、役目を果たしてもらわねばならない」
お父さん、やっぱ危険なんじゃない!! こうはしておられません。今から追いかければ、四日くらいでレンヌにつくじゃない? 妹ちゃんを守る為にお姉ちゃんは全力を尽くしたい!!
「これは罠だ」
「……王女殿下を囮にして、レンヌに潜む王家に敵対する勢力を引きずり出してクリーンにするのかな」
「それもあるが、王家に対して借りを作る形になる。今後のやり取りは、こちらが主導権を得られる。その為の、隠し札があの二人というわけだ」
それは、滅茶苦茶危険なんじゃないのでしょうかお父さん。確かに、騎士になっちゃったからには、王族を守るために体を張るのは当然なのかもしれないけどさ、ご褒美が自分の命をかけて王族守るお仕事とか……おかしいよね。
絶対、お母さんに対する王妃の嫌がらせだよね。
お父さんも、お婆ちゃんも王家第一主義だから、妹ちゃんが危険な御役目を押し付けられても「王家の信頼の証」とか頭腐った事考えているんだと思うよ。まあ、今目の前にいるんだけどさ。
「でもさ、十三歳の女の子二人に委ねるべき問題じゃないよね」
「……我が家は元々騎士の家系だ」
それがどうしたのさ。命を懸けて王都を護った夫婦の残した一人息子の家系でしょう? 一度でいいんじゃないかな、そういうの。
「お前の妹も、騎士として立派に王都と王家を守ってもらいたいと……言うしかなかろう」
「不本意でも? 宮仕えは辛いね。私には無理っぽいよ」
「ああ。だから、お前の代では王都の管理は子爵家ではなく、王都を管理する組織に移管できるようにするさ。伯爵に陞爵するなら、領地経営をすることになるだろう。王国の南側の王領はかなり杜撰な管理をされているからな。王太子領にして、てこ入れするのだろう」
「それをお父さんも手伝わされる?」
「お前が爵位を継いだら、私は『宮中伯』になって年金暮らしをしながら南都の再開発を手掛ける事になりそうだ」
お父さんは出世だけど、幼馴染が引退させてくれないらしい……俺が退位するまでは引退させぬ、等と意味不明のことを言われているらしい。生前退位しないよねこの国はさ。自分が死ぬまでこき使うって事かね。
「貴族って楽できないようにできてるんだね」
「ああ。本当にくたびれもうけの身分だよ。だが、南都ならニースも近いし料理も鶏肉や鯉の料理が名物だったかな。あと、大山脈が近いから、夏はそっちに避暑に行っても良いな」
未来の宮中伯にしては読みが甘いと思うよお父さん。まあ、今よりは楽になるのかもしれないね。私も、どこぞの領主様になって、自分用のブドウ畑でワインとか作っちゃおう~ やっぱ、魚料理には白がいいよね。フルーティで爽やかな後味のワインを飲みたいからね。
なんて、妹ちゃんのいない寂しさを、お父さんとの仕事で埋めていた私の変わらぬ生活と正反対に、妹ちゃんはレンヌから帰ってくると『男爵』に陞爵される事になっていたよ。
――― いったい何をやらかしちゃったのかな妹ちゃんは。
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【本作の元になるお話】
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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