第10話 妹ちゃん、王妃殿下に捕まる
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第10話 妹ちゃん、王妃殿下に捕まる
ニースでの妖精騎士布教活動も無事終了し、王都以外でも妹ちゃんの人気はウナギの滝登り状態になりつつある。だがしかし、ゴブリン退治をして、山賊と人攫いを捕まえたくらいでは、直ぐに人の記憶から消え去ってしまいます。
そんな妹ちゃんの活躍を世の中に知らしめ、記憶に残す為に、私は『妖精騎士の物語・続』の脚本監修に余念がありません。
妹ちゃんは相変わらずポーション頼みで冒険者ギルドに通い、将来の独立資金を地道に溜めているようなんだよね。騎士ってのは妹ちゃんの代限りだし、名誉を与えられたみたいなものだからあまり気にしないで、今までの積み重ねを忘れずに継続しているらしい。
とは言え、十三歳にして騎士の年金相当額が貰える妹ちゃんは、私よりお金持ちなのは間違いない。年間で金貨六枚を支給されるからね。でも、妹ちゃんのポーションは一本金貨二枚くらいするはずなので、妹ちゃんは騎士様より高給です。
多分、年収だけで考えるなら、男爵以上稼いでいるね。
妹ちゃんは自分のお芝居が下火にならず、ニースでの出来事までが新作として舞台に掛けられているので、ちょっと反省しているらしい。ごめんよ、妹ちゃんの意思に反してでも、世間の皆さんに知って欲しいんだよお姉ちゃんは。
で・も あんまり関心を持ってほしくない人が実はいます。まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。
「あー 何着ていけばいいのかしらー」
そうです。私の婚約報告もあるので、王妃様からの呼び出しに妹ちゃんと一緒にお茶会に向かいます。え、それは押し掛けじゃないぞ。私の報告にかこつけて、妹ちゃんもついでに呼び出されたんだよ、たぶん。
ゴブリン退治で有名になった妹ちゃんに、王家がちょっかいを掛けてきているわけなんだけど、これには裏があるのです。
王妃様はとある隣国の公爵家の『養女』として王家に嫁いできたんだけど、実際は王国のとある伯爵家の令嬢です。国王の正妃ということで、家格を合わせるために外国の公爵家の家に養女として出したわけで、バリバリの臣下の娘。
因みに、国王陛下の生母である王大后様は今は神国に纏まった「カステラ」王国の王女様です。なので、王族出身ではない王妃様に対してあまり良い心証を持っていない。
因みに、陛下の祖母である先代の王大后様は、法国の公爵家の娘で王家の親族であったりする。ギュイエの血筋だったかな。そして、ギュイエと神国は過去に色々あって仲が悪い。隣り合わせだとか、百年戦争の時に当時の神国の王家が救援求めてきた対価を踏倒したとか……色々あるらしい。へぇー 神様のことはともかく、助けてもらった『恩』は踏倒すんだあいつら、と私は心に刻み込んでいる。当時の救援を行った指揮官の王太子赤痢に罹ってその後死んじゃうし。
まあ、とにかく、自分絶対主義の奴らは信用できないって事だよ。
え、私。私は、妹ちゃん絶対主義だから信用できます。当然です。
それで、先代の王大后様はカステラ王女の嫁に対する牽制として、孫の嫁であり、自国の貴族の娘である当時の王太子妃を可愛がったわけです。先代王大后のお気に入りである私たちの祖母もその輪には含まれているのだよ。
つまり、王妃様は祖母経由で我が家はお気に入りというわけ。
だがしかし、ここには一つの問題があります。それは、我が家の子爵夫人、お母さんです。
王妃様と母は、令嬢時代、王都の社交界の二つの大輪と呼ばれていたらしい。いまじゃ、すっかりお母さんのおなかには年輪が刻まれているけれど。王妃様ほど若い頃のスタイル維持に気を使ってないからね。
で、なんで子爵家に伯爵の娘が嫁いだかと言うとだね、父の幼馴染でありお仕えする国王陛下の配慮だね。うん、いらん配慮なんだけどね。
国王陛下は王妃様になる伯爵令嬢を娶り、父はその双璧である伯爵令嬢を妻にしたらどうだろうかと当時の国王陛下に話をしたんだそうです。母は王妃の立場に全然興味が無かったみたいだけれど、王妃様になる当時の相手の伯爵令嬢は、凄く気にしていたみたい。
王都の令嬢のグループは、王妃様率いる高位貴族の令嬢のグループと母の周りに集う、子爵男爵とパッとしない伯爵家の令嬢の集団に別れていたんだってさ。
当時は、公爵や侯爵家の年齢の姫や令嬢が皆お小さかったみたいだね。だから、王妃様の周りに集う事になったようです。母の周りは、何となく互助会というか悩みご相談? みんなで助け合おう的なまとまりで、仕事の融通とか領地ごとの交流の橋渡しみたいなことを母が中心になって行っていたのだよ。
なので、母は王都を管理する子爵家の仕事の役に立てるとそのまま、当時の女性同士の交流を今でも続けているようです。小さな集団の寄りあい所帯なんだけど、それがいいみたい。
あまり纏まった大集団だと、王家に睨まれるからね。小さな集団に幾つも顔を出し、まとめ役くらいなら社交の範囲だし、子爵家の御勤めにも良い影響があるということで、ずっと続いている。
私の社交界での立場の七割くらいは母の恩恵だと思う。
母と祖母は仲が悪いというわけではなく、当主と夫人という立場の違いがあるので、分かり合えない事も多々ある。性格は水と油だし、仲良くはできないけれど、祖母は父を支える母を認めているし、母は子爵家の当主と母の役割を両方果たした祖母を尊敬している。だから悪くない関係だね。
でも、王妃様はそう思っていないから、自分の影響力の及ぶ祖母を通じて母に嫌がらせしようとしたりする。みたい。
なにも反応しないわけにはいかないから、祖母が適当に合わせているけど、母は「いつまでも娘みたいであの方にも困ったものね」なんて、笑っていたりする。
今回の呼び出しの理由は想像がつく。妹ちゃんはデビュタント前なので、公用のドレスをほとんど持っていないので、仕立てなきゃねという話をする。
「あなたの分もだよ」
「……なぜなのかしら」
「ああ、聞いていないのね。王女様、レンヌに行かれるのよ。将来的には、レンヌ大公妃ね」
パルドゥン? って顔しているけれど、この辺りは王妃様とうちの関係をよく知らないからだろうね。私は跡取りだけど、妹ちゃんはその辺り、まだ知らせていないからね。
「でも、それがどうかしたのかしら。まだ、結婚は当分先よね」
「そうそう、王女と公太子の顔合わせ? があるんだよ。王女様が1か月くらい向こうの城に滞在するんだって。まあ、結婚するまで全く知らないってのも揉める元だしね」
王女殿下は御年十歳だったっけ。年の近い遊び相手兼護衛が務まる『妖精騎士』の妹ちゃんに出頭要請があると私は思うんだよね。お母さんも同意しているから、これはそのためのお茶会なんだろうね。
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「……というわけなのよ~」
「素晴らしいですわ。妹なら、王女様の護衛も問題なくこなせますわ」
妹ちゃんは大いに動揺している。この動揺している顔も大変可愛い。え、だって、サプライズの方が面白いじゃない? 王妃様のウケもいいし私も堪能したかったんだよ。
「大丈夫でしょうか……」
いつもは自信満々の妹ちゃんが珍しく弱気だね。大丈夫、MY SISTER!
「侍女の真似事は難しいかもしれませんね」
「いいのよ、しばらく王宮で見習いとして来てもらうから。子爵にはお話ししてあるのよ」
今朝の時点で何も話は無かったから、口止めか先ほど話したばかりという事なんだろうな。いや、嘘じゃないから問題ないって事だろうね。
「あら、良かったわー。それに、悪い話じゃないのよー、短い期間でも王女付きの侍女をしたというのは立派な淑女の経歴ですものー。少なくとも伯爵夫人以上にはなれるわー」
いやいや、私の中で妹ちゃんは生まれた時から王女様だから。伯爵夫人なんて、役が足らないよ。伯爵でもギリギリかな。
だいたい、私の代で伯爵に陞爵するんだから、伯爵夫人なんておいしくも何ともないじゃない? 妹ちゃんは知らないから騙されそうだけどさ。なんだこいつって思ってもいいよね?
「重責だけど、やらないとね。子爵家のためにも、あなたの将来のためにも」
思ってもいないが、援護射撃をしておく。ここで笑顔を消すのは、令嬢として弱みを見せるのも同然だからね。
「ええ、承知しているわ」
よし、良く踏ん張ったね妹ちゃん。これで、体面が保てたよ。
王妃様の策略を逆手にとって、妹ちゃんは面白い事を考えました。めいちゃんをレンヌに同行させる侍女に巻き込む事です。辺境伯家の男爵の娘では本来王女の侍女には厳しいんだけど、『妖精騎士の物語:ニース編』の登場人物と売り込めば、問題ないだろうね。
お父さんも乗り気で、意趣返しじゃないけれど信頼できる親族の子女を一人同行させることくらいは出来るだろうし、ニース辺境伯家にとっても、臨時とは言え王女の侍女の役割りを命ぜられるという事は、先々良い効果があるだろう。
王女殿下・王妃様とお目見えの経験のある令嬢と言うのはそれほど多くないからね。さて、妹ちゃんの侍女姿、楽しみだよねー。




