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20話前後で完結予定です
二〇XX年 四月十二日。
豪奢な室内だった。
代官山の一等地を占領したマンションの四階は、ホテルのような内装だった。
4BRという耳慣れない間取り。
十畳ほどのベッドルームが三つ、二十畳の部屋が一つ、そして、五十畳を超えるリビングダイニングが一つ。
それとは別に共用スペースに会議室がある。
家賃は安い部屋で月百七十万円。
一般人なら敷金と礼金の支払いだけで一年分の稼ぎが飛ぶ。
しかし、驚くべきはそんなマンションが人気物件だということ、そして、空室待ちの世帯が数世帯もいることだった。
世の中は不思議だと、声を大にして言いたい。
警察学校時代、十平米のワンルームに住んでいた御子貝伊織はそう思う。
十平米と言えば、この家の玄関とクローゼットを足したくらいの面積しかない。
この玄関に自分の生活は集約されるのだ……。
上がりがまちで切なさを噛みしめつつ、靴をそろえる。
リビングでは四人の人間が待っていた。
「遅えよ! 人を使いパシリにして遅刻とはいい度胸だな!」
「まったくっす。けしからん奴っす!」
うちふたりは伊織の同僚で、口々に文句を言う。
矛先は伊織の隣にいる男だ。
彼もまた伊織の同僚である。
中背のやせ形。
肩幅はやや広めで、髪は癖のある黒。
長めの前髪を無造作に流しているので一部が目にかかっている。
すまし顔は緊張の裏返しではなく、彼は常に無表情だ。
名前は神庭桃獅郎。
一週間前に情報分析課から警視庁捜査一課へ転属されてきた刑事である。
「全員そろっているようですね」
神庭は平坦な口調で言った。
すかさず彼の先輩にあたる沖野が口を挟む。
「何が、全員そろっているようですね、だ。お前、自分が何をやろうとしてるか、わかってんのか?」
もちろん、とばかりに神庭は肯く。
沖野は眉間に皺を寄せる。
「このヤマは未解決事件として俺たちのところにやってきた。未解決事件ってわかるか? 警視庁捜査一課が汗水流して捜査して、解決できなかったってことなんだよ。それをお前はこう言った」
────これなら数日で解決できますよ。
「生意気言っただけじゃねぇ。お前は、あろうことか関係者を全員集めた。この現場に。意味、わかるか?」
転属から一週間と経たない新人が。
未解決とされている事件を見て。
わずか一日で「真相を突き止めた」と言い出し、関係者を全員集めさせた。
前代未聞。
異例の行為だ。
しくじれば懲戒処分は免れ得ない。
「お前は刑事の魂を懸けたんだ。わかってるな?」
「わからない方が問題だと思います」
室内に息を呑む音が響く。
沖野が何かを言おうと口を開き、しかし、諦めて口を閉ざす。
神庭は平然とした顔のまま淡々と語り始める。
「では、お話ししましょう。未解決事件となっていた本件の真相を。すべては科学的に説明ができます。科学は絶対です」