プロローグの裏側で1(side玲の両親)
(母親side)
私は、専業主婦をしている。夫と、私と、息子の玲の三人家族。もちろん幸せなんだけど、玲は体が弱いから、病院から出たことがない。丈夫に生んであげられなくってごめんなさい、玲。
私の日課は、息子のいる病室に見舞いに行くことと、その道中にある神社で、息子が健康になることを祈ること。この二つは、息子が生まれてから欠かしたことがない私の日課なの。今は、お参りを終えて、神社から出たところ。
「ここからなら、歩きでも、30分かからないかしら。」
お医者様が、今日の朝、いつもより玲が元気だから、庭に出れるかもって言ってたから、いつもより、楽しみなんだ。だって、外で遊んでいる玲の笑顔ってホントにかわいいんだもの。
あれ、看護師さんからの電話だ。玲がなにか持ってきてほしいとでもいったのかしら。
「もしもし、看護師さんですか?何かありましたか。」
「玲君のお母さまですね。早く、早く玲君のもとに来てください。庭で遊んでた時に玲君が急に血を吐いて、意識が戻らないんです!!!」
「えっ……………わかりました。すぐに行きます。」
嘘だよね、玲はまだ死んだりなんてしないよね。
私は急いで玲の病室に走った。
そして、着いた時には、..........................玲が死んだって告げられた。
玲が3歳の時に初めて、いつ死んでもおかしくない状態だと言われてから、もうすぐ5年が経ち、いつかは健康な体になれるんじゃないかという淡い希望を抱き始めたばかりの日のことだった。
(父親side)
俺は、代々、政治家をしている白月家に生まれた。今は、議員を務めている。仕事で忙しいけれど、妻と息子と俺の三人家族で、幸せに暮らしていた。息子の玲は体が弱く、病院から出ることはできないけれど、休みの日には一緒に病室で遊んだり、体調のいい日には、病院の庭でだけれど、普通の親子のような遊びもできた。
玲はいつも、「自分みたいな体の弱い人とかも皆が笑顔で暮らせる国がいい」と言って、もし、大人になれたら、議員になりたいって言ってたんだ。憧れは、国のために生きた「ビスマルク」だとさ。少し前に、歴史漫画を持っていったらいつの間にか「ビスマルク」に憧れを抱いたらしい。俺としては、父さんが憧れだって言ってほしいところなんだけどな。
最近、玲の体調がいい日が続いていたので、余命宣告されていたけど、いつかは健康な体になれるんじゃないかって思っていたんだ。今日、妻からの電話が来るまでは。
普段、俺の仕事中に電話をかけてくることなんてない妻からだったから、違和感はあったんだ。
「.........ぐすっ……っ、玲が、死んだ。」
泣きながら、妻が言ったその言葉に、俺の時は止まったかのようだった。すぐに仕事を抜け出して、急いで、玲がいるはずの病室まで行った。
病室のドアを開けたら、妻が、まだ温かい、玲の手を握って号泣していた。
その姿を見て、玲の死が事実だとようやく俺も認識した。せざるを得なかった。
それから、俺が着いたことに気づいた妻と、ふたりで、泣き続けていた。
「玲、俺たちのところに生まれてきてくれて、ありがとう。でも、ちょっと逝くのが早すぎるよ…。」