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4話 マリアの騎士団生活

「総員!警戒態勢に移行!!」


「繰り返す!総員!警戒態勢に移行せよ!!」


「門を閉めろ!!弓兵隊!魔導師隊!総攻撃の準備をしろ!」


「ヤツを近づけさせるな!!」


ここ『王立ソノタタス騎士団近郊警戒警備隊詰め所』は突如現れた火竜使いの接近に、最大級の警戒態勢を敷くことを余儀なくされていた。

少々小型の火竜とは言え、火竜を使役できる実力を備えた、これまた小型の竜術士らしきエルフが、単身詰め所に接近してくるのだ。


詰め所内がざわつき始めてしばらくした頃、マリアにもその報が届く。


「部隊長殿!火竜を使役した小型のエルフがソノタタスの市街地に向け進軍しております!!」


「なんだと?火竜か・・・面白い、私も出るぞ!」


報を耳にするなり、いきなり飛び出していくマリア。


「どこだ!あそこか!?よーし!我ら近郊警戒警備隊の久々の活躍の場だ!竜術士に目にモノ見せて・・・」


遠目から火竜を視認したマリア。


すると聞き覚えのある、と言うよりは聞き飽きたとも言える声がする。


「おーい!マリア〜!いいモン連れて来てやったぞー!!」


「や?」


「オラ!見せモンじゃねェぞ!!てめーらザコ共300人分の戦力を持ってきてやったんだぜ!?感謝しやがれクソザコ共!!」


口が悪い。


「ぐぉん!!」


同調する火竜。


どう見てもルシエルな容姿、どう聞いてもルシエルな甲高い声色、いつ聞いても頭が悪いルシエルの言動。

間違いなくルシエルであると確認したマリアは、警戒態勢の兵士達や、今にも魔法攻撃を放ちそうな魔術士達を引かせて警戒態勢の終了を通達する。


「すまん、あれは私の連れだ・・・」


とても申し訳なさそうに告げるマリア。


「すまない、少しあいつと話をつけてくる。どうせ碌でもない提案だろう・・・皆が出ることはない・・・ハァ・・・」


とぼとぼと浮かない足取りで詰め所から出て来たマリアはルシエルと火竜の元へ赴く。


「おう!いいだろコレ」


「グォォん!!」


「いや、何がだ」


なんの気まぐれで火竜など連れて来たのか、全く理解出来ないマリア。


「ハァ?お前バカか?ここの兵士500人分の戦力だぞ?買え!」


強さこそ正義、正義こそパワーを振りかざし、その一助にしてやるという凄まじい押し売り。

先ほどまで300人分と言っていたが、相場が一瞬で跳ね上がるのはどういうことなのか、とマリアは呆れ果てている。


「何が500人分の戦力だ、幾ら個体が強かろうと使役するものが居なければ意味ないだろ?ついにお前も我らが騎士団で職に就くことに決めたのか?ならばお前ごとその火竜を雇って貰える様、上に報告しておくから覚悟を決めてだな」


「あーーーーー!うっせぇ!!誰が騎士団みてェなザコの巣窟に入るかよ!雑魚が感染るわ!!雑魚が!!んなこた良いから、この火竜を買い取れ!」


「いらん」


ルシエルのアホみたいな要求を即座に切り捨てるマリア。


「お前、こいつのブレスすげえぞ!水源地一面を更地に変えちまえる範囲と威力なんだぜ?今なら5000ゴールドで売ってやるからさ!買え」


「いらん」


「なんでだよ!」


「先ほど話した通りだが?その火竜を使役できるレベルのモノがおらん、何回も言わせるな」


「まだ二回しか言わせてねェだろが!」


もういい、とルシエルの謎の主張を無視して話を進めるマリア。


「その火竜よりお前が契約金5000ゴールドで此処に来い、それなら火竜もついてきてウチにとっては超お得なバリューセットだ。お前はウチの兵士8000人分は強いからな」


「アァ?い・ち・お・く・に・ん分だ、マリアてめェ舐めてんのか?」


「それが人と交渉をする態度か、全くお前と言うヤツは・・・」


大前提を忘れている、とマリアが続ける。


「そもそも、その火竜はウチで働く気など毛頭ないぞ?」


「ハァ?どういうことだよ・・・」


そんな事もわからず連れ歩いていたのか、と呆れることすら馬鹿らしくなっているマリア。


「お前の後ろで従順にお座りしているその火竜は、お前を主と定めているぞ?」


「ハァ!?」


「やはり気付いていなかったのか・・・火竜は竜種の中でも、闘争心も気位も高い。隙あらば、例えば闇討ちしてでも主従の逆転を狙う狡猾さも持ち合わせている。群れの支配者が闇討ちにより交代していた、など良く聞く話だ。」


「まァ、弱肉強食はどの世界でも当たり前だろ?」


「そうだな、しかしそれがどうした、その火竜は・・・まるで良く躾けられた犬のようではないか?しかもその個体、火竜の中では体躯が小さめとは言え、鱗の質、身体から放つ魔力量、どれを取っても一級品だ」


「そうなのか?普通に多少楽しめたくらいだったぞ?」


「お前がぶっ壊れなだけだ、戦闘狂。私は下準備の上、本気を出せば問題ないが、部下達では5小隊が束になっても敵うまい。身内の恥を晒すようで情けない話だが、そんな脆弱な部下達がこの火竜の世話などしてみろ。餌をやる係りは自らの腕から餌と化し、調教を試みる者は頭をしゃぶられあの世行きだ。半日と待たず兵達を皆殺しにして、お前の元に舞い戻るだろう。『ご主人様、お腹いっぱい食べてきました。おみやげどうぞ。ハイ、兵士☆』という具合にな」


容易に想像できる火竜買取後の詰め所の状況に、戦慄と同時に軟弱な部下に対して軽く怒りを覚えるマリア。


「そんな物騒なやつなのか!コイツ!さっきまでピィピィ泣いてたんだぞ?ほれ、コレ見てみ?」


『フレアドラゴンの輝涙石』をポケットから取り出しマリアに見せる。


「はぁ・・・」


「いや、なんの溜め息だよ」


「お前、その火竜のようなものが何なのか、本当にわかっていなかったのだな・・・私もそれを見るまで確信が持てなかったが・・・」


「いや、ただの小さめな火竜だろ」


「いい機会だ、教えてやる」


通常の火竜に比べ、若干体躯が小さいことに違和感を感じていたマリアが生の『フレアドラゴンの輝涙石』を目視したことにより確信を持ってルシエルに告げる。


「ルシエル、お前の後ろで甲斐甲斐しくお座りをしているそいつはな。火竜の中でも相当の魔力量を持ち、同種の中で闘争、と言うと聞こえはいいが、殺し合い、血肉の喰らい合いを繰り返した末に生き残り進化した、火竜の中の最上位種、フレアドラゴンだ。現存を確認されているのは世界で8体、そのうちの1体か新たな9体目の個体だ」


「ふーん」


「ふーんてお前、なんだその反応は」


「いや、そうは言われても私より弱いし、どうでもよくね?ソレ。・・・で、いるの?いらないの?」


「だから要らんと言ってるだろう!飼えるか!そんな代物!」


どれだけ物騒な生き物を連れて歩いているのか、マリアが思った以上に自覚がない様子のルシエル。

しつこく買え買えと迫るルシエルにマリアが宣告する。


「お前に懐いてるんだ、もうお前が飼え。さもなくば私はお前と言う友人を国家反逆罪で指名手配しなければならなくなる」


「ハァ?なんでそんな大事になるんだよ!」


「なるに決まっているだろう、そいつ一匹で街ひとつ滅ぶのだ、さっきウチの兵500人分と言ったな?そんなもので収まるものか・・・そいつは今もお前への服従の証として魔力も何もかも絞ってお座りしているのだ。バカなお前には大事なことだから重ねて言うが、本気を出せばそいつ一匹で街がひとつ滅ぶ。ついでに言うと、お前と組まれたら小国が機能停止する、少なく見積もってお前はそのフレアドラゴン3匹分は強いからな。お前がコントロールし、お前が餌をやり、お前が死ぬまで面倒見ろ。それはおそらく、このフレアドラゴンも望むところだろう」


尻尾をフリフリ、肯定の意志を示すただの火竜と間違えられていたフレアドラゴン様。


「はぁああああ??っざけんな!こんなでかいヤツ、メシ食わせるのも一苦労だろうが!」


「飯くらい自分で用意するだろう、今までもそうして生きてきていたんだ。 ・・・あ、人食いだけはさせるなよ?」


「知るか!勝手に食ってたらどうしようもないだろうが!」


「お前が国家反逆罪に問われたら、私はレイアを呼んでお前達を殲滅しに行かなければならなくなる」


「ちょ、ちょっと待て、万が一が起きたとしてもアイツ連れてくるのはやめろ」


「心苦しいが仕方ない、何せ国民の命が失われるのだ」


「わかった!わかったから!飼うよ!飼えばいいんだろ!!くっそ・・・明日からコイツの飯の事も考えないとな」


「晴れてお前のペットになったわけだ、コイツとか言わず名前のひとつでもつけてやれ」


「お前、今絶対楽しんでるだろ」


「そんなことは・・・ない」


顔を背けながら笑いをこらえるマリア。


「チッ、覚えてやがれ」


笑いを抑え、声を上ずらせながら提案を始めるマリア。


「と・・・とりあえず、レイアに一度このフレアドラゴンを見せてみよう、クッ・・・あぁ、すまない、つい・・・悪気はないんだ。許してくプッ・・・ふ、普段はアレだがレイアは街随一の優秀なテイマーだからな」


それをドン引きのジト目で蔑むように見つめるルシエル。

その視線に気付いたマリアはンンっと喉を鳴らし、今度こそ真面目に話を仕切りなおす。


「馬専門なところはあるが、この街で唯一の覚醒種ブリーダーでもある。覚醒種に住民が洗脳されないのはアイツが居るからと言っても過言では無いからな。私の場合は、今お前と対等に話をしているから、そのフレアドラゴンに襲い掛かられることが無いだけのようだが、レイアの場合は恐らくまた反応が違うだろう。もしかしたらレイアが飼ってくれるかも知れんぞ?」


とてもこのフレアドラゴンが主を変えるとは思えんがな。と、内心では思いつつもわずかな可能性をルシエルに伝えるマリア。


「マジか!じゃあレイアにお披露目がてら、夜に酒場で落ち合うか!」


「あぁ、私も同席しよう、お前だけでは話が訳わからなくなりそうだしな」


「ハイハイ、わかりましたよ!じゃあまた夜だな」


「それまでに名前くらい考えておけ」


「めんどくせェなぁ、わかったわかった」


こうしてルシエルの目論見はご破算になり、ソノタタス近郊警備隊詰め所を襲ったフレアドラゴン襲来事件は幕を閉じた。


その後、一連の出来事を大いに脚色した報告書を国王直下の組織に報告する近郊警備隊。

この報告書により、強力な竜種が発生する地域であると言う危険度爆上げの環境と認定され、国を挙げてソノタタス全体の防衛費を割かざるを得なくなった。


詰め所の強化はもちろん、ソノタタスの市街地を囲む防壁の強化費用、その他諸々をこの一件で勝ち取った住民達。

報告書に記した虚偽、もとい脚色に合わせ、被害を受けたであろう場所に、火炎魔法を魔術士団総出で放つなど、修繕ヶ所のでっちあげを行う。

もちろん、この虚偽の報告は国にバレればとんでもない事になる、と言うか街そのものが滅ぼされるだろう。


当然、騎士団は秘密裏に、そして超迅速に通説の流布を始める。

まず身内から固めようと、詰め所の全兵士を休日の者に至るまで全員呼びつける。

フレアドラゴンの餌になりたいか?それともフレアドラゴンの庇護の下、防衛費の底上げと危険手当の増額で豊かな生活を送りたいか選択させる。

黒い。黒の騎士団とでも名称変更したほうが良いのではないだろうか?

だが、そこは平和なソノタタスの兵士達だ、なんだそんなことか。給料増えるならいいんじゃね?と反対するものも誰一人出ず。


マリアとルシエルのやりとりを見ていた兵士達は、あの小型のフレアドラゴンがルシエルにべったりなのを確認している。

ルシエルが狂わない限り、あのフレアドラゴンが脅威になる可能性はゼロだ。

そして万が一、ルシエルとフレアドラゴンがソノタタスに牙を剥いたとしても、ソノタタス大好きなレイアが居る。

レイアが居る限り、ソノタタスが外敵の襲来によって脅かされることはまず無いと、タカを括っているのだ。


その足で兵士達は住民に、今後の脅威から身を守るため、我々のキャンペーンに参加して欲しいと署名を集め始めた。

先日襲来した「野生の」フレアドラゴンがソノタタス上空を旋回している。と説明。

当然、住民は恐怖に怯える。大丈夫なんですか?避難したほうがいいですか?と問われる。

そこで、現在は攻撃の意志は見受けられないが、今後を考えれば、皆が怯えながら生活を送るような状況は避けたい。

防衛予算を増額し、防壁等の強化予算など頂ければ、住民の不安も解消出来ると考え、住民から署名を集めている、と署名用紙を差し出す。


木を隠すために街全体を森に仕立て上げた騎士団。

あとは、気まぐれで街にルシエルがやってきた時に詰め所前でお願いするだけだ。

「フレアドラゴンが居ると住民が怯えてしまうから、せめて上空で待機させておいてくれ」と。

こうして、嘘で塗り固められた「フレアドラゴンとの戦闘による被害状況と経過」報告書はソノタタス詰め所の中でもトップクラスの黒い報告書としてファイルに綴じられている。


当然、莫大な予算を割く必要があるため、現地調査班は現れる。

詰め所の兵士連中は鉄の意志で事実無根の戦闘記録を話しながら現地調査班を案内する。


ストーリーはこうだ。

野生のフレアドラゴンが襲来し詰め所を襲うが、被害を受けつつも、これを市街地から遠ざけるため水源地へ誘導。

誘導した水源地で戦闘を行った結果、水源地の一部を焼き払う強力なブレスを放つ個体であることが判明。

決死の攻防の末、フレアドラゴンを退ける。


現地案内時に、ルシエルが保護した石釜の残骸があり、明らかに一部だけ原型を留めた地形が残っている事に疑問を抱きつつも、そこは適当に誤魔化していた。

その後、数度フレアドラゴンがソノタタスの上空を旋回する(ルシエルが遊びに来た)が、攻撃の意志は見られず、先の戦闘での結果攻めあぐねているものと推測する。

との報告により、なるほど、それは危険だ。と納得する調査班。無能である。


このようにして、防衛費の増額申請やその他諸々は無事受理されたが、この嘘だらけの台本を一体誰が考案したのか?もちろんマリアである。

騎士団大好きなマリアはそのロジカルな思考をフル活用し、騎士団の上長にこんな案がある、我々も豊かになるし、住民のためにもなる、と吹聴した。

数ヶ月をかけたが、全ての稟議が通ったとき、薄ら笑いを浮かべながらマリアは思った。

チョロいな。と。

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