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15話 キノコ鳥

謎の強制筋トレを強いられつつシオンが飛び続けること約2時間・・・


「到着しました~!!」


「ゼェ・・・ハァ・・・!!わらわっ・・・ヒィ・・・!!こんなに・・・背にっ物を・・・乗せて・・・ふぅ!空を飛んだのは・・・は、初めてなのじゃ・・・」


幼女形態になったシオンが言うと、まるで虐待でも受けているかのようである。


「んっんぅ~!汗だくのシオンたんマジきゃわわやよぉ~!!ぎゅーしてやる!!」


ルシエルの歪んだ愛情表現『疲れてる幼女きゃわわ』が炸裂し「ていっ!」っとシオンにダイブ。

シオンは真面目に疲れているので少し迷惑そうに顔をしかめながら、心の中では「どうせなら元の姿の時に飛びついて欲しいのじゃ~」などと思いながらもルシエルのされるがままだったりする。


そんな心身ともに疲れきったシオンに、空気読めない選手権ソノタタス代表と名高いレイアが容赦なく次の行動を促していく。鬼か。


「はーい!はいはい!みんな、道具配りまーす!」


なお、本人に悪気は一切無い模様。


それぞれに採取道具を手渡すレイア。

もう当たり前の様にマントから道具を召喚している。


トドメと言わんばかりにマントから手斧を召喚し、探索開始地点の目印として近くにあった一番大きな木に向かって投擲するレイア。


「そりゃっ!」


なんとも気の抜けた声でブン投げた手斧は、掛け声に似合わずグシャッと突き刺さり、大木を揺らす。

その反動か手斧自体もビーンと細かく揺れている。

どんな威力だ。


「ちょちょいっと」


突き刺さった手斧に地点登録の魔法を掛けたら準備は万端だ。


「抜け目ないのじゃ・・・」


「探索するんだもん!迷ったら困るし当然でしょー?」


よし行くか!と周囲を見渡す四人。

するとルシエルがこの景色を目にした者として当然の疑問を口にする。


「おい・・・これのどこが不浄の地だ」


目の前に広がるのはとてもクリーンで、不浄どころかむしろ神聖さすら感じる生い茂った森林。

草花や木々の周りには微精霊がフヨフヨと舞い、常に清らかな魔力が循環し空気中に漂ってすらいる始末。

滞在するだけで最大MPすら上昇しそうな程、生命の力で溢れている。

ただしマリアを除く。


「ふむ、50年前にアンデッド共を根絶やしにした結果かも知れんな」


「いやいや・・・マンドラゴラなんて居んのか?コレ・・・」


「いるよー!いなきゃ困るしぃ!」


レイアのこれは根拠ゼロのただの願望の垂れ流しである。


そうこうしていると、ガサゴソガサゴソと茂みの奥から物音が聞こえてくる。

四人は揃ってピクピクと長い耳を反応させる。


「!!」


「何かこちらに向かって来ているな、取り敢えず隠れるぞ」


「おっけー」


そそくさと一番近い茂みにそれぞれ潜り込んで様子を伺うレイアたち。


「がるるぅ・・・」


ごそごそっと茂みの中から、頭に立派なキノコを生やした狼が現れる。


「おい・・・キノコ生えてんぞ、アレ」


「うん、キノコ生えてるねぇ」


「あれがマンドラゴラかえ?」


「違うな、確かマンドラゴラの外見は牛蒡に手足が生えたような動く根っこ状だったはずだ」


「なんじゃ~・・・」


マンドラゴラの外見をマリアから聞き、あんまり美味しそうではなさそうだったのか、ガッカリするシオン。


こちらの会話が耳に入ったのだろうか、「がるぅ?」と首を傾げながらその場を離れていく狼。


よくよく見ると、この森の木々には必ず何かのキノコが生えている。

根元であったり、枝であったり、空を見上げれば、飛ぶ鳥の腹からキノコが生えたものまで生息している。

生態系が激変しているのは明らかであった。


「ちょっと様子がおかしいよねぇ・・・」


「キノコの森だな、こりゃ」


しばらく茂みの中から色々観察すると、リスやねずみの小動物にも身体の何処かしらにキノコが生えている。


「うーん・・・キノコ生えてる以外に異常があるわけでもなさそうだしなぁ~。とりあえず・・・」


そこら中の生き物にキノコが生えているのは十分に異常だと思うのだが。


「あれ?あの鳥さん・・・」


「あァ?鳥がどうかしたのか?」


ひょいっと足元に落ちている石を手に取り、おもむろに指で弾き飛ばすレイア。


「えいっ!」


弾いた石はドウッと言う爆発音と共に空へ舞い上がる。

もはや石と呼べないであろう破壊力を保持した物体は上空を飛んでいた鳥に命中。

空気抵抗を計算し、着弾時に丁度威力を減衰させるよう放たれた石のような何かで気を失った鳥はひょろひょろと落下してくる。


それをキャッチしてすぐに気付けの魔法をかけると、目を覚ました鳥は逃げるよりも先にお腹から生えたキノコを翼で覆い隠して丸まってしまった。


「ありゃ、これは寄生されてるねー」


「寄生だと?このキノコが鳥を操っているのか?」


「いやいや、キノコが鳥を操れるなんてこたねェだろ・・・」


「うーん・・・このキノコはもしかしたら、この森の生き物達にとっては生命線なのかも・・・」


「生命線?」


「そうだねー・・・あ、この森全体の魔力の高さが異常なのはわかるよね?」


「そりゃそうだろ、居るだけで魔力回復してるレベルだぞコレ」


「うむ、それは私も感じる。あと、僅かだが神聖力に当てられるな、私の場合」


「混じり者のマリアには少々神聖力が高すぎるかも知れぬのう~、ここの気の質は・・・わらわは動物が美味しそうに見えて仕方ないのじゃ~」


「あ、そのまま食べるのはやめたほうが良いよ?シオン」


「さすがに生食はしないのじゃ!わらわのブレスでこんがり肉にしてじゃな・・・」


丸まった鳥を見ながらよだれが溢れ出すシオン。

神聖力の詰まった鳥を見て、食欲が倍増している様子。


「それもやめといたほうがいいよ?多分大変なことになるから・・・」


「むぅ・・?」


解せない様子のシオンだが、レイアの能力や知見には一目置いている。

おとなしく言うことを聞くことにしたらしい。


「さてさて、このキノコが原因なのはまず間違いないとして・・・ちょっとゴメンね、鳥さん」


丸まった鳥の翼を強引に広げるレイア。鳥は嫌々と細い脚をばたつかせながら抵抗するが、羽根を押さえられて自由が利かず動けないでいる。

極小の《ウインド・エッジ》で腹部のキノコをスパッと切り離す。


「ピィ!!」と鳥が断末魔の悲鳴を上げると同時に、切り裂いた腹部から凄まじい勢いで飛び散る鮮血。

レイアは鳥の本体を傷つけないように、確実に腹部の少し上の部分、どう見てもキノコにあたる部位から刃を当てた。

はずなのだが、ブシュっと切断面から吹き出す血液の勢いは止まない。


「ぶひゃっ!」と完全に不意を突かれたレイアは間抜けな声を上げる。

四人は目を丸くして、ピクピクと痙攣し今にも死を迎えそうな鳥に釘付けになっていた。


「えっ!?うそ!?アレ?なんでなんで~????」


吹き出た血液が顔面に飛び散り、顔中が血だらけになっているレイア。

あたふたとしている内に、大量の血を放出した鳥は失血死してしまった。


「ごめんなさい、鳥さん・・・」


申し訳なさそうに鳥に手を合わせるレイア。


「まさかキノコに見える部位に血が通っていたとは・・・ん?」


何かおかしい、と僅かな異変に気付いたマリア。


「なんだ?どうかしたのかよマリア」


顎に手を当てながら周りを見渡すマリア。


「切断したキノコはどこへ行った?」


そんなもの、地面に転がっているに決まっている、何をわかりきった事を言い出すのか。と考えつつも同様に周辺を見渡すルシエル。


「はァ?そこらへんに落ちてんだろ?・・・ってアレ??」


「おかしいのじゃ・・・レイアが切り飛ばしたキノコが見当たらないのじゃ」


シオンも探しているがやはり見当たらない。


「へ?血飛沫で私何も見えなかったから、全然目で追えなかったよぉ~」


レイアは案の定役に立たない。


そんなに大きく転がって行くようなものでもないはずのキノコが突如として消えた。

一通り周辺を探して回るが、どれも地や草木に根を張ったものばかりで、綺麗な切断面のキノコなど見当たることは無かった。


「うふ・・・うふふふふ・・・これは他にも試さないといけないよねぇ・・・」


「・・・あっ」


「のじゃ?」


「・・・やべェ」


レイアの目が輝きに満ちている。

輝きと言ってもキラキラした類のものではなく、深淵を覗くような鈍い輝きだ。

おまけにその瞳の奥でグルグルと謎の螺旋が渦を巻く。


▼深淵の狂科学者を発動しました。日常生活状態スリープモードを解除。

日常生活状態スリープモード時のデバフ効果のうち、「注意力散漫」、「突発的身体制御不可」が消去され「超観察」、「突発的身体制御(極)」が適用されます。


「んふふー!冴えてきたぞぉー!」


ルンルンのレイア。

それを見たルシエルは嫌な予感がしていた。


「おいシオン、ちょっと来い」


こそこそとシオンを呼ぶルシエル。


「なんですじゃ?主様」


「出来るだけ気付かれないようにレイアに石投げてみろ」


「なんでそのような事を?」


「確認だよ、確認・・・いいから黙って投げろ」


「はぁ?わかったのじゃ」


「割と強めに投げていいからな」


「後で怒られても知らないのじゃー」


シオンはひょいっと足元の石を拾ってレイアに投げつける。

リンゴを踏んでひっくり返るくらいドジな、いつものレイアならギャグ漫画のように頭に石をぶつけられて「もう!急になにするの!」などと喚きながらキャイキャイうるさそうなものだが。


「!」


凄まじい反応速度でシオンの投げた石を避けるレイア。


「もう!いきなり危ないじゃないー!急に何するの!」


口に出す言葉はさほど変わらなかったが。


「あぁ・・・やっぱりか・・・」


「これは・・・外れてるな・・・」


「のじゃ??」


「レイアのリミッターが外れているかどうか、今シオンに石を投げてもらったのはその確認のためだ」


「コイツは今、謎の寄生キノコの生態を確認したい欲に駆られてんだろうなァ」


そんなレイアを見て「これはまずい」と感じたルシエルとマリア。


「放っておいたら森が死ぬな」


「あァついでに、森の全てのキノコを調べ尽くすまで、終わらないキノコ狩りでもはじめんじゃねェか?」


「えぇっ!?マンドラゴラはどうするのじゃ!?」


「興味の対象が変わっちまったっぽいからなァ・・・」


「私は明日から普通に仕事があるんだが」


付き合っていられない、と言った表情でうんざりしている様子のマリア。


仕方ない、とルシエルがレイアにひとつ提案をする。


「おーい、レイア!」


「んー?なぁにー?」


「お前、キノコもいいけどマンドラゴラ狩りどーすんだよ」


「んー?探すよー?キノコ調べながら」


「やっぱ目的変わってんじゃねーか・・・お前、セルバに借金返すためにマンドラゴラ入りポーション作るって来たんだろうが!そんな暇あるか!?」


「うぅっ・・・でもでもぉ・・・この謎キノコが気になってぇ~」


「ガキか!ったく・・・いいか!?キノコはついで!二の次だ!じゃなきゃお前の動きを封じて持って帰るかんな!」


キュルキュルと即効性麻痺毒の仕込んであるダガーを回しながらルシエルが言う。

一度身に受けたことのあるナイフを見て、シオンはマリアに「あれ、身体に回るとほんとに動けなくて困るのじゃ~」とか言いながら顔をしかめている。


そんなシオンの愚痴を「そうか、それは大変だったな」と適当に流したマリアはルシエルの意図を汲んで話を先に進める。


放っておくとレイアが『検証』と称した鳥の大量虐殺を始めてしまうので仕方ない。


「うぅ・・・ひどいよぉー」


「まァ、何も一切キノコを調べちゃダメって言ってるわけじゃねェだろ・・・さっきの狼なんかもキノコ生えてただろ?あいつらなんかは食料にもなるし、血も抜いて練成すればいいポーションの材料になるだろ」


「体内から全ての血を抜いた状態で、あのキノコ・・・?と言うにはもう少々怪しいな、あのキノコのような部位を切断すれば血はそれほど噴出して来ない、切断したキノコも注視していれば目で追えるという算段か」


「そうそう、それに鳥は血液練成するのにアホほど狩らなきゃいけないから面倒くさいだろ?狼なら一頭丸々ブッコ抜けばエリクサー10本分くらいにはなるしなー」


「確認に於いては犠牲は少ないほうが良いし、血抜き作業も一頭の方が楽だな」


「たりめーだ!それに、何かが繁殖出来なくなったら他の何かのメシが減る。採り過ぎ厳禁は自然の掟だ」


「さっすがー!長年森の中で生活してるだけあるぅ~」


「っせ!」


実益を兼ねた遊びであることをレイアに思い出させてキノコ鳥の乱獲を思いとどまらせることに成功した二人だが、会話の間にもそこら辺の地面から指弾用の石ころをせっせと収集していたレイア。

もし会話の間にキノコ鳥が射程範囲に接近していたら、レイアは迷うことなく指弾を放ち鳥を撃墜していただろう。

危うく晩御飯が大量のから揚げになってしまうところであった。

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