Summer Dreaming Girl
先日日帰りで旅をしてきて実際にあったシチュエーションをもとにしたSSです。
ネタバレを避けるため、ある語句はキーワード・あらすじ・前書きからあえて外しています。
ある夏の日、女1人での旅の途中。
3両編成の電車に乗っていると、ある駅でセーラー服姿の女子高生が乗ってきた。
彼女が座った場所はロングシートの、海側に背を向ける席のうち、私の真向かい。
今まで見た女子高生と比べていろいろ大きかったり小さかったりすることはない、平均的と言っていい体型。
ややきつめの性格に見える顔。
かわいいなと思いつつも、それほど気に留めず、彼女の背後に広がる景色を見ていた。
彼女もロングシートに腰かけるとすぐに、やや大きめの目を右手に持ったスマートフォンの画面に向けていた。
海のそばを走る区間で、夏の日差しを受けて輝く海面と青空という風景を楽しんでからふと彼女を見ると、最初は目を細めてこちらに視線を向けているように見えた。
ところが、よく見ると彼女の目は焦点が合っておらず、眼球がやや上転していた。
口も力が抜けたように少し開いている。
どうやら、目を開けたまま眠っているようだ。
それでも右手のスマートフォンは微妙なバランスで落ちずにいた。
無防備な姿をさらす彼女がとてもかわいくて、つい見惚れてしまい、海沿い区間の素晴らしい景色そっちのけで、他の乗客に怪しまれないようにしながらずっと彼女の、特に顔を見続けていた。
しかし、その間にも電車は進み、旅の目的のためには次の停車駅で乗り換えないといけない。
乗り換え駅につくまで、彼女の寝姿を見ながら
「予定通り次で乗り換える」「この電車の終着駅か彼女が降車するまでこの電車に留まる」
のどちらを取るか悩んだ。
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ほどんどの乗客は新幹線に乗り換えられる大きな駅で降りた。
その後も駅に着くたびに乗客は減り、駅前に商店が1件もない終着駅まで乗り通したのは私と、虚ろな目をした女の子の2人だけだった。
かつては蒸気機関車や電気機関車に牽引された長編成の客車列車が発着していた長いホームに短い3両編成の電車が差し掛かった時、一番後ろの車両に乗っていた私は、席から立つと虚ろ目の女の子に近づく。
持っていた旅行鞄で車掌から見えないようにしながら、女の子に顔を近づける。
そして、彼女のかすかに開いた口へ、自らの唇を重ねた。
十数秒の後、唇を離すと私は彼女の耳のそばで何事か囁く。
「ハイ…オネェサマ…」
抑揚のない声で返事した彼女は、電車が終着駅で完全に停車し、チャイムとともにドアが開くと、虚ろな表情のまま立ち上がった。
彼女の体は動いているが、表層意識は眠ったままなので、彼女は自分がどこで何をしているか分かっていない。
私が手を引くと、何の抵抗もせずそのまま一緒に電車から降りた。
駅周辺が寂しくても、電車の終着駅になっている以上それなりに重要な駅なのか、ホームと駅舎を隔てる改札口にはICカード対応の自動改札機が1台だけ設置され、向かって右の窓口を兼ねたスペースからは中年の男性駅員が顔を覗かせていた。
女の子の持ち物を確認すると、私は再び彼女の耳元で囁く。
彼女は少しふらふらとしながらも改札口に歩いていき、自動改札機に交通系ICカードをタッチして改札を無事通過。
私は有人改札で、この駅もフリー乗降区間に含まれている企画乗車券を駅員に見せて改札口を抜けた。
私は再び彼女の手を引きながら、駅近くの、自然公園と称しながら整備がほとんど放棄された森へ向かう。
そして、半ば朽ちた木製ベンチに腰掛け、2人以外に誰もいないことを確認すると、お互いの唇を重ねた。
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そんな妄想を捗らせていたら、車掌による、次の停車駅を告げた後に
「ドアから手を離してお待ちください」
と続けるアナウンスが車内に流れた。
結局、当初の予定通り、次の駅で乗り換えのため電車から降りた。
虚ろな目で私のほうを向いていた、彼女のかわいい顔をよく目に焼き付けてから。
「新幹線乗り換え駅」、「終着駅」から「自然公園でのキス」まではフィクション(妄想)、それ以外(降車駅手前までと最後の降車シーン)はほぼノンフィクションです。
無防備な姿の女の子と、彼女の背景になっている青い空&青い海のどちらも見たいと葛藤したこととか、本気で乗り換え駅を多少過ぎても彼女の寝顔を見続けようか迷ったことなど、業の深いフェチ要素入りで一部の好事家以外からはドン引きされそうですが。
これからもたまに短編を投稿するかもしれませんので、よろしくお願いします。