最後の問い
「はい、これがアラン君の鍵ね。」
「ありがとうございます。えっと.....305号室か。」
俺はユウノ先輩から渡された鍵の番号を確かめる。同じくユウノ先輩から鍵をもらったリースはアランの番号を見て「あー」と呟く。
「結構遠いわね、私315号室だからね~。」
そっと誰にも聴こえないような声でリースは耳打ちした。
だが普段から諜報系の訓練をしているルミナリエには十分に聴こえる声だった。
「あっ、リース。そうやってわざと自分の番号を明かすなんて小賢しいです。アラン、自分は314号室ですから。」
普通に周りの人に聴こえる音量で言おうとするルミナリエの口をアランは塞いだ。
がしかしそれはルミナリエにとっては逆効果で、みるみる顔が紅くなるだけだった。
「そういう事大声で言うな!いくら兄弟とはいえおかしいと思われ兼ねないだろ?」
「..............はぃ.........」
ルミナリエが理解したと判断したアランは手を離す。ルミナリエはそのままもどかしそうに自分の部屋へと向かって行った。
周囲を警戒するが、先輩達には気付かれていないようだ。ほっと安心したアランは一息付くが隣のリースに横腹をつねられた。
「いたっ!何するんだよリース。」
「何するんだよじゃないわよ、今のルミナリエを見た?顔真っ赤にしてたじゃない。」
「してたけど............俺のせいなのか?」
かなり本気で悩んでいるアランにリースは呆れ気味に
「当たり前よ、てか異性にあんな事されちゃ誰だってああなるわよ。」
「そうか......。」
あまり分かっていなさそうなアランにリースは先ほどと同じようにアランの口を塞ぐ。突然な出来事に対応しきれていないアランにリースは「いい?分かった?」と指を差す。
コクコクと頷いたアランにリースは手を離す。
「こんな事をあなたはしたのよ。以後、気を付けるように。」
「わ、分かった。それにしても..........」
「も?」
「なんかエリカに似てきているような気がする。」
「エリカに?」
深く考えたリースはムキーと怒りを露にし「愛に溺れてるあいつと一緒にしないでもらいたいわ。」と言い残し、自室へと向かって行った。
「うーむ。やっぱりみんなエリカに感化されてるよな............。そのうち暴走しなきゃいいが。」
アランのその声は虚空に消えていった。
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コンコンッ。扉をノック音が聴こえ、昼寝でもしようかと寝そべっていたアランは起こされた。重い足をずるずると引きずり扉を開けた。
「はい~、何でしょうか.........」
「眠そうねアラン君。ちょっと話があるんだけど、良いかしら?」
そこに立っていたのはテセス先輩だった。
勿論、話というのは他でもない学園交流祭を廃止しようとするアレだろう。
「拒否権はないんですよね。別にいいですよ。」
「あら、話が早くて助かるわ。」
「テセス先輩が空砲の銃を太ももに隠し持ってる事なんて俺は知りませんから。」
「なっ!どうして気が付いたの?しかも空砲だなんて。」
テセスは驚きのあまり冷や汗をかく。
だが、今の反応で空砲というのは真実だと分かった。ただ俺は冗談のつもりで空砲だと言ったのだが。
テセスは今の動揺がよりアランに確信を与えたのだと悟り、これ以上は隠さなければと押し黙った。しかしもう遅い。
「それで、今度はなんですか?また勧誘に来たんですか?」
「そう、とりあえず細かい話がしたいから部屋の中へ入ってもいいかしら?」
「ええ、良いですよ。と言っても出せる物はお茶くらいなものですが。」
テセスは部屋の中の椅子に座り、アランから出されたお茶を飲む。先ほどの動揺のせいか一杯分全部飲み干してしまった。
アランがお茶を補充しようとするが、それをテセスは制止した。
「それで最終確認よ、私達の仲間にならない?もちろんそれに見合うだけの対価は保証するけれども。」
「対価ですか................。」
「そっ、対価。金銭?地位?まぁ対応しかねる物は無理だけど。」
「いくら先輩が言おうと俺はそんな野蛮な事しませんよ。それより先輩、こんなバカみたいな作戦止めて俺らと学園交流祭で勝ちませんか?よっぽどそっちの方が燃えますがね。」
ガチャン!テセスは右の拳を机に叩いた。その拳には憎しみが乗っていた。
「バカみたいな作戦?学園交流祭をぶち壊すのどこがバカだと言うの!?あなたには分からないかも知れないけれども、親を殺されるのは心にくるのよ。」
テセスは目に涙を溜めながら怒る。
確かにテセス先輩の言うことはごもっともだ。大切な人を殺されるのは耐え難い心の痛みだ。
だが、果たしてそれだけの理由でテセス先輩はこの作戦に乗ったのか?
「テセス先輩。一体誰が先輩を焚き付け、この作戦に参加させようとしたんですか?」
「...........え?.................」
意表を突かれ、テセス先輩は止まる。そしてその意味を理解するまで数十秒かかった。
アランはちゃんとテセスの目を見る。真っ直ぐと。
「ど.......どういう訳よ。焚き付けられたって。そんなことある訳ないじゃない、これは私自身が志願したことなのよ。」
「本当にそうなのですか?何かあったら俺に相談してくれて構いませんよ。」
「....................交渉決裂のようね。アラン君、もしあなたが私の前に立ちはだかると言うなら容赦はしないわよ。それだけは知っておいてね。」
テセスは言いたい事だけを言って、出て行こうとした。
だがアランはテセスの肩を叩き呼び止める。
「何よ、安心していいわ。アラン君がちょっかい掛けないかぎーー」
「目を瞑っててください。」
その言葉に反射的に目を瞑ってしまうテセス。そしてアランが何をしているのか確かめようとしたテセスはすぐに目を開けた。
だがその時にはアランは何食わぬ顔をしていて分からなかった。
「ちょっと何よ、まさか盗聴魔法とか掛けているんじゃないんでしょうね?だったら無駄よ、学園交流祭では試合前に出場者は検査されるんだから。」
「特に何もしていませんよ。ただ肩のゴミを払っただけです。」
テセス先輩は疑心暗鬼になりながらも、扉を開け出て行った。
俺は先ほどテセス先輩に掛けられていた監視魔法を破壊した。
タイミングを見計らったリースが扉を開ける。その表情は信じられないと言いたげだ。
恐らく今の話を盗み聞きしていたのだろう。
「ルミナリエはいないのか。」
「.......えぇ.....。ルミナリエなら自分の部屋で仮眠を取っているわ。アランに夜ちょっかいを掛けるみたいよ。気を付けなさいね。それより..............」
「安心しろリース。テセス先輩はやっぱり誰かに唆されている。それも巧妙に、まるで自分の意志のようにな。しかも監視魔法まで掛けられていたんだ、絶対に何者かがいる。」
「監視魔法?一体どうしてそんな魔法が?」
「もちろんテセス先輩の動向を調べる為だろう。それに、テセス先輩は自分が監視されてる事を知らない。だからどんな言葉を言われたのか知ってるそいつからしたら、どんな言葉を使えば先輩を上手く誘導出来るか分かるしな。」
「ねぇアラン、一体そのテセス先輩の裏にいる奴らは何がしたいのかな?」
リースがアランのベッドにすとんと座る。
俺は椅子に座り、新しく入れたお茶を一口飲む。
「ただ学園交流祭をぶち壊しにしたいのなら、こんな回りくどい方法は使わない。テセス先輩を操る意味が分からない。なら............」
「なら.......?」
「もっと別の何かを始めようとしている。学園交流祭をぶち壊しにするのは、人々の注意をそっちに向ける為のフェイクだ。」
アランは遠くの何かを見据えるようにそう言った。
ちなみに、仮眠を取ったルミナリエの努力は身代わり人形を用意したアランによって水の泡になったとさ。




