炎の頂点の魔法
「ほう、そんな自信がある魔法か。」
リースがそれだけ自信を持っていると言う事は、それなりの威力がある魔法なのだろうな。
リースは得意げに
「ええ、そうよ。さすがのあなたでも、これは防ぎ切れないはずよ。」
「そうか、なら俺がその魔法を打ち消すだけの魔法を使えれば、俺の勝ちは決定だな。」
「そうよ。まぁ、無理だと思うけど。」
リースは魔法陣を書き始める。
その動作は目を見張る物があった。
美しい。よほど練習しているのが分かる。
「これよ、食らいなさい。<寒零度吹雪>!」
万物全てを凍らす吹雪が解き放たれる。それは、見ているだけでも寒々しい。向かう吹雪の周りは氷つく。
リースは確信した。
この魔法を上回るのは不可能だと。
しかし、魔王と言われたアランは、不可能を越える。
「いい魔法だな。だけど、俺を倒すには威力が足りない。<超滅連獄炎>」
アランの魔法陣から、地獄の炎を凝縮したような巨体な炎が放たれる。
その炎は、リースの<寒零度吹雪>にぶつかる。
二つの魔法は、ギリギリで攻めぎ合う。
その姿は天変地異をも想像させるだろう。
「くっ、負けない!」
リースは歯を食い縛る。
そして、リースの<寒零度吹雪>が徐々にアランの<超滅地獄炎>を押していく。
「ほう、いい気合いだ。だが、」
アランは魔法に力を込める。
すると、リースの<寒零度吹雪>を押し返す。
「まだ、魔力の込め方が足りない。」
さらにアランは力を込め、<寒零度吹雪>を相殺する。
リースはその場に倒れこんだ。
俺はリースの元へ行く。
ふむ、よくやったな。
現代では相当な使い手なのだろう。将来有望な存在になる。
「さすがの実力だ。」
「そうかしら?これくらい、その辺にごろごろいるわよ。」
「いや、そういない。お前が良いのだ。他人と比較する必要はないと思うけど。」
その言葉に少しリースの顔が赤くなる。
照れているのか?
俺は倒れているリースに手を出す。
リースは恥らいながらも、アランの手を掴み、立ち上がる。
「負けちゃったか。はぁ」
「何を悲観する必要がある?美しかったぞ、お前の姿。」
「は、はぁ!?」
あれは美しい魔法だった。
だが、どうしてまた顔を赤くしているのだ?褒められた事がそんなに嬉しいのか。
あの洗練された姿はデモクレスと並ぶかもしれない。
まぁ、これからが重要だけど。
「もう、私は行くわよ。」
「ああ。あっそうだ。どうせなら俺が、転移してやるよ。」
「いいわよ!自分で転移出来るし!」
リースは<空間転移>を使い、戻る。
「俺も戻るか。<空間転移>」
空間が歪み、俺はデモクレスの所へ戻る。
周りは俺を不思議な顔をして見ている。
「え?どういうわけだ?」
「あいつは、DDだろ。」
「しかもあの魔法は?」
などざわめいている。
と言うか、クラスでは俺は<DD>と呼ばれているのか。
まぁ、俺の検査結果から取ったのだろうな。
もうちょい、いいセンスの奴はいないのか?
<DD>って安直過ぎだろ。
そんな事を考えていると、デモクレスがパチパチと拍手した。
「いやぁ、良い戦いではなかったか。皆も、参考にするといい。あのような、奇想天外な行動も戦いの中では効果を発揮する。」
奇想天外な行動か。
ただ、土を掘っただけの事だがな。
これでデモクレスの授業は終わりを迎えた。
だが、まだ終わっていない事がある。
勝負をする前にした約束の事だ。周りの生徒も、その話で次の授業も落ち着かなかった。
そして、休み時間になるとリースの方から話し掛けて来た。
「ねぇ、あの約束。覚えているかしら?」
「ああ、もちろん。従者になるんだろう?」
「そうよ。」
リースは何かもじもじしている。
そして、俺の隣の席に座る。
反対側にいるレイナは、「ふーん」と言って状況を楽しんでいるように見える。
「だから、私があなたと一緒にいても仕方ない事だからね。」
「仕方ないと言うわりには、嬉しそうだけど?」
「はぁ?そんな訳ないわよ。」
リースは反対側を向く。
ふふっ、こんな奴、千年前にはいなかったから新鮮な気分だ。
周りの生徒の目が凄くこちらを見ていたが、気にしなかった。
そして全ての授業が終わる。
俺達は帰ろうとすると、ロントがやって来る。
何事か?
「アラン様、デモクレス先生がお呼びです。」
「そうか、わかった。今すぐ行く。悪いな、先に行っててくれ。」
そして俺は指定された場所へ行く。
そこには、転移扉があった。
転移扉とは、ドアに転移の魔法を掛けてあるドアの事だ。
非常に使い勝手が良い。遠く離れた場所でも、自分で魔法を使わずにいいのだからな。
俺は扉を開ける。
そこは、魔王城に似ている所だった。
「お帰りなさいませ。魔王様。」
デモクレスが出迎える。
ここにいるのは、デモクレスだけか。
「頭を上げよ。」
「はっ。」
デモクレスは頭を上げる。
「デモクレス。ここは何処だ?周りには誰もいないが。」
「ここは、魔王城にございます。と言っても地下に隠していて、日当たりは悪いですが。」
「魔王城?だとすれば、あの魔王学園は一から作ったのか?」
俺は最初、魔王城を作り変えたと思ったが、違うのか。
だとすれば、長い時間がかかっただろうな。
あの魔王学園には、魔王城よりは弱いが、様々な武装や魔法障壁があった物があった。
「はい。魔王城は、魔王様が帰る場所ですので、地下に隠しておきました。」
「へぇ、そうか。他の奴らは今?」
「世界中に散らばっています。その内、ふとした機会に会う事もあるでしょう。しかし、いざという時は瞬時に集まれるようにしています。」
「そうか、わかった。」
まぁ、いざと言うのはない方がいいがな。
世界中か。会ったら驚くだろう。
くくっ、楽しみだ。
それより今は
「デモクレスよ。警戒しろ。我が転生したと知れば、殺しにやって来る奴等が現れるやも知れん。」
「はっ。その事について、少し奇妙な話しを聞きました。」
「なんだ?」
奇妙な話し?
あのデモクレスが言うのなら、それ相応な事なんだろう。
「この近くに、生け贄を求む竜が住んでいると。しかも、その竜はずいぶんと昔から存在していたとも聞きます。」
「生け贄?そんな生き物は、千年前に滅ぼしていなかったか?」
そう、千年前には生け贄を供物に捧げる所がかなりあった。
そんな状況を、俺も勇者も良しとはしなかった。
生け贄が人間だけではない場合があったからな。魔族を生け贄にしていると聞いた瞬間、滅ぼしたけど。
今思えば、その時が初めてだな。魔王と勇者が一時休戦したのは。
「はい。全てを滅ぼしました。恐らく、あの後に産まれたのではと考えております。それか、嘘の情報か。」
「ふーむ。どちらの可能性もあるな。なら、警戒しておこう。」
「了解しました。これくらいですかな。今お話しする事は。」
竜か。
どんな奴だろう?
居たら、必ず抹殺するが。
「わかった。では、最後に聞こう。俺が転生した後、勇者はどうなった?」
「魔界にちょくちょく来ていましたね。あの勇者は良くやっていましたよ。たまに「あの魔王、投げやりにして行ったな」とか愚痴をこぼしていました。恐らく、転生でもしていると思います。」
「ははっ。そうか、確かに投げやりにして行ったもんな。会ってみたいものだ。」
「そうですか。しかし、今は所在が掴めず。」
分からないか。
いつかは、出会うだろう。
魔王と勇者はいつか出会うものだからな。いや、今はそんな立場なんて気にしない。
そして、俺は魔王城を後にする。
見ている人に感謝を