獣の襲来
白い毛皮で覆われた巨大な獣はガオオォォォオオオとクラスの生徒を威嚇した。
試合はすぐに中断され、ルー先生は生徒を守るように動いた。
生徒達は急に現れた獣に怯えながらも魔法を使用しようと構えた。無論、中には予想外の事に何も動けない生徒もいる。当たり前だ、この時代の生徒に巨大な獣がやって来るなんて想像出来ない。
「く..........くそ!」
テセスは怒りに任せ<黒き手>を使い、巨大な獣を攻撃する。
その黒き手は巨大な獣の体に当たらなかった。テセスの技術がない訳ではない。単に獣の方の反射神経が良いのだ。
「............いい加減当たりなさいよ!」
「テセスさん!危ない!」
獣は優先順位をテセスへと変え、その牙にて食い千切ろうと襲い掛かった。
俺は助けようと動くが、その前に動いていた人物が二人。
ガキンッ。金属の当たる音が聞こえた。
「ふっ、驚いたような顔してるね。」
「レイナ、この顔は驚いているのですか?」
レイナとルミナリエだ。彼女達は剣と小刀で獣の牙に対抗している。
しかし獣の力も強い。少し苦しそうに見える。
(エリカ!)
(ええ!)
エリカはルー先生、テセス、レイナ、ルミナリエ、そしてアランを囲む形で<周囲魔法障壁>を発動した。これで外界からは何も見えない。今のエリカはクラスの中でも超エリートだ、少々勝手な事をしても大丈夫だろう。
「これは..............魔法障壁?」
「すいませんテセス先輩、ルー先生。」
俺はテセス先輩とルー先生に<睡眠促進術>を掛け、眠らせた。
レイナとルミナリエもそろそろ限界が近いようで徐々に押されている。
「レイナ、ルミナリエ。もう離れていいぞ!」
「分かった!」「了解しました!」
そう言い、レイナとルミナリエは獣の力を地面に流すようにして一時退却した。
獣は地面に突っ込みそうになるが、何とか耐えた。そしてまた吠えながらこちらへ突進してくる。
「アラン、」
「大丈夫だ、エリカが<周囲魔法障壁>を使ってくれたおかげで本気が出せる。」
「あの、そんな話してる場合でもない気が.................」
それもそうだ、獣は真っ直ぐ突進してきている。
もう間もなく衝突する寸前だ。
ルミナリエが前へ出ようとするが、俺は左手でそれを制し右手を突き出す。
「礼を言うぞ、獣よ。あのままじゃテセス先輩に勝つ所だった。<超滅連獄炎>」
ただそう唱えるだけで、灰すらも燃えさせる業火が獣を包み込んだ。
ボオオォォォォオオと燃え上がり獣はそのままその場に倒れ込んだ。
白い毛皮は黒くなり、少しでも触れれば空中と溶け込みそうだった。
「あらー、アラン。結構やっちゃったんじゃないの?」
「大丈夫だ。これから適当に俺達に傷痕みたいなのを付けて、<睡眠促進術>を掛ければ終了だ。」
「でも魔王様、この獣は誰が倒した事にするのでしょうか?」
「テセス先輩の<強魔爆裂罠>にでもしとこうか。見た感じ、黒焦げだし大丈夫だろう。それじゃ、みんなの服を所々風魔法で破って顔とかに黒煙でも付けとこっか。」
「ふっふ。破ってとかいやらしいね~、ルミナリエも破られちゃうかもよ?」
ルミナリエは赤面する。そしてもじもじしながら
「それが魔王様のご命令とあらば.........................やりま.......す。」
「んなっ!ルミナリエ、俺はそんな命令絶対しないから。本人の意思をねじ曲げるような命令はしないって。」
「はい...................分かりました。」
「でも実際、エリカって命令でわざとあんな事してるらしいよ。」
レイナがぼそっとルミナリエに耳打ちする。
ルミナリエは「え?そうなんですか?」とアランを見た。アランは頭を押さえ
「嘘をつくな!嘘を!エリカの行動は全部俺の意思が介入してるんじゃないんだ。なっ、俺を信じてくれ。」
「アラン、それって無理にねじ曲げてない?」
「............ぐっ。..........」
アランは押し黙った。
「もうどうにでもしてくれ.....................」
そしてアランは自分に<睡眠促進術>を掛けた。
たちまちアランは地面に倒れ込み、ぐぅーぐぅーと眠り始めた。
「あっ、アラン拗ねちゃった。」
「レイナが悪いんじゃ..................」
「まぁまぁルミナリエ、こうなったら私達で後始末しとこうか。良い頃合いになったらエリカが魔法障壁を解除すると思うし。」
「そうですね。では始めましょうか。」
その後、エリカが魔法障壁を解除しみんな眠っていた事に多少なりと疑問を抱いたクラスであったが、エリカとリースの口添えもあってそれは打ち消された。
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保険室にて。
「.............うっ、............」
テセスはゆっくりと目を開けた。
日は沈み欠けて夕暮れだ。床に夕日が写しだされる。
隣のベッドを見るとアランが包帯を腕や足に巻いて本を片手で読んでいた。
一体どうしたのだろう。そう考えると、自分の意識が飛ぶ前の記憶が蘇ってきた。アランとの試合の終盤になった頃、何処からか白い毛皮の獣が現れて................
そこでテセスは、はっとした。
「どうかしたのですか?先輩?」
隣のアランは話し掛ける。
「アラン君、あの白い獣ってどうなったの!?」
「何を言ってるんですか?あの時ルー先生とテセス先輩が俺達を守りながら倒してくれたんじゃないですか。もしかして忘れたんですか?」
テセスは自分の記憶を辿るが、そんな記憶はない。
しかしアランの言っている雰囲気は嘘をついてるようには見えなかった。ただありのままを説明してるような。
「もしかして、本当に覚えていないんですか?」
「えっ?あ、ああそうみたい。」
「最後のテセス先輩の<強魔爆裂罠>は流石この学園の五位の実力だと思いました。」
「へぇ、そうなんだ。ところで、アラン君って戦闘する時になると口調が変わるけど何か訳でもあるの?」
アランは一瞬言葉に詰まる。確かに思い返せばそうだったからだ。
戦闘している時のアランは魔王として戦っていた時の名残が強く出てしまう。普段から様々な人に対しての言葉使いを慎重に選んでいるから、戦闘中のアランに疑問を抱くのも無理はない。
「いえ何も。これからは気を付けます。」
アランはぺこりと謝る。
「ん、いや特に謝られても............。ただ気になっただけだし。」
「分かりました。」
ふと気になった事を聞いただけなのに、自分が悪いような雰囲気になりつつあるのにテセスは申し訳なさを感じた。
これからもよろしくお願いいたします。




