零の魔力
アランは自らの胸に杭を打ち込む。
その瞬間、アランの胸から大量の血が溢れ出す。そしてその杭はアランの魂をも消滅させようと光り輝いた。途端にその光りが無くなったと思ったら、アランは地面にバタッと倒れた。
「ははっ、ナニコレ?バカみたいだね魔王って言うのは。まさか本当にその杭を打ち込むなんて。周りの仲間も呆気に取られてるじゃん。」
「ふっ。これだから常識の物差しで計る神は。アラン様は神程度の頭では理解出来ない程凄いのですよ。」
エリカがホメスを挑発するように言う。
しかしホメスは全く気にしない。あの杭に絶対的な自信を持っているからだ。打ち込めば、魂ごと消滅する杭。
「それではその少女を解放してくれませんか?」
ハニエルが魔王の事など気にしていないようにホメスに尋ねた。
だがホメスはライアの首をきつく絞め、絶対に離さないと言いたげだ。
「へっ、何を言ってるんだ。せっかく天敵とも言える魔王がいなくなったんだ。ここは素直に喜ぼうよハニエル。」
「ふむ。そう言ってはそうですが、ホメス。まずは少女を解放しなさい。」
ハニエルがホメスに近づくと、ホメスはライアの頭に手を当てた。
それ以上近づくのならこの少女を殺すと言いたげだ。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「ええ勿論、安心して良いでしょう。」
状況を見かねたヘイネはエリカに聞くが、安心しきった声が返って来る。
「おや、どうなされたのですか?あなたの言う通りに魔王は杭を自らの胸に打ち込みましたよ。」
「別にその一回の要求だけで、僕が言う事を聞くとは言ってない。」
ホメスは平然と嘘をつく。
それにハニエルは普段ニコニコしている顔を変えた。この表情は、怒りと言うより哀れむようだ。
「はぁ。ホメス、あなたはもう救いようがありません。素直にその少女を解放したのならば私もそれなりの処置を施そうと思いましたが、そこまで堕ちているのであればしかるべき処置を取りましょう。」
「しかるべき処置ってなんだよ。あぁ、神の地位を剥奪するって奴?」
「ええ。私は他の神からの監視の命を与えられています。ですので、他の神にご報告すればあなたは神の座を剥奪されます。」
「へぇ、確かにそれは嫌だね。」
「ならーー」
ハニエルが言いかけた瞬間、ホメスは右手の手刀から<断罪の神刃>を放つ。
咄嗟にこの場にいる者を守ろうとハニエルは<防魔法障壁>で白い刃を防いだ。ジジジッと音をたててぶつかるが、ハニエルが「はっ!」と声を出すと<断罪の神刃>は弾けた。
「それじゃあまたね、大天使と愚かなる魔王の配下達。」
上を見上げれば、ホメスが空中に浮遊しながら<空間転移>を使おうとしていた。
「なっ?逃げる気か!?」
「ロント、このままじゃあ.........」
「ホメス。本当に逃げられるとでも?」
「勿論だよ、ハニエル。例え他の神達が来ても怖くないさ。」
そうホメスが言っている間も段々とその体は薄くなり空気に溶けていく。
さすがのロントとヘイネもこのままではいけないと思い、魔法を展開する。
しかしエリカは左手を出して制止させた。
「ふっ、じゃあね。また会える日を楽しみにしているよ。」
「エリカ殿。これでは!」
「大丈夫ですよ、落ち着いてください。きっとアラン様が何とかしますから。」
そしてホメスの体が消えてい..............................
かなかった。
なんと、完全に魔法が発動する寸前に解かれてしまったのだ。
地面に重力のせいでホメスの体が打ち付けられる。この状況にホメス自身も驚く。
「............は?..........何だよこれ?........魔法発動が阻害され.......た?」
「その通りだホメス。」
ホメスは後ろを振り向いた。
そこには服の胸辺りを血で染めていた、いる筈のないアランがそこに立っていた。
ホメスの顔が絶望に染まり、ロントとヘイネの顔が希望に染まる。ハニエルは「ほう」と感嘆の笑みをこぼす。
よく見れば、アランか自ら打ち込んだ杭は何処にもない。
「.........杭は?...........どういう事だ?............だってあの時。」
「だから言ったろ、もっとマシな策を講じるべきだったと。」
アランがホメスの人質であるライアを助けるのに、時間はかからなかった。
俺はライアをヘイネの近くで優しくおろした。ロントとヘイネの顔が歪んだ。泣いているのだ。
「凄いね魔王。あの杭を打ち込んでも死なないなんて。どういうトリックをしたんだい?」
「確かにあの杭は魂ごと消滅させる効果を持つ。しかし俺の体を流れている血は、とある病気のせいで零へと還す能力を有している。その能力で杭を零へと還した。それからは良いタイミングがないか探っていたんだ。」
「それではアラン様。神が<空間転移>を阻害された理由は?」
「あぁそれは、俺が杭を打ち込んだ事によってそこから全てを零へと還す能力の余波が溢れたんじゃないかな。それでホメスが発動しようとした魔法が発動しなかった。」
一応杭は零へ還したが、さすがに杭を打ち込む時は痛かった。たとえホメスを出し抜く為とはいえ、あんまり進んでやりたくない。
ハニエルは放心状態になっているホメスを[大天技][神機能束縛]で縛りあげた。
ガチャンガチャンと銀の鎖がホメスの体とその能力を縛っていく。
ホメスは脱け出そうとするが、時すでに遅し。銀の鎖はホメスの体をぐるぐる巻きにした。
ハニエルはライアの元へ近づき、何か呪いが掛けられてないか見た。
「どうだ?大天使。やっぱり何か掛けられているか。」
アランの問いにゆっくりと頷くハニエル。
「この少女には様々な呪いが掛けられていますね。能力低下、記憶障害、成長速度低下、視力低下等がありますね。」
「それで、治せるのか?」
ヘイネの真剣な眼差しにハニエルは「はい」と答えた。
その返答にロントとヘイネは安堵する。
「ちょっと離れててください。[大天技][呪毒状態鎮火]。」
ライアの周りに美しい白色の羽が現れ、その一枚一枚の羽がライアの呪いを治していく。
今まで眠っていたライアが目を開けた。その顔は何の曇り一点もなかった。
「ライア!ライア!」
ヘイネがライアに抱き付いた。
寝起きのライアは一瞬戸惑うが、ひとまずヘイネの頭を撫でた。そして周りを見渡して、ロントがいると気付き涙を目に溜めた。
「ふっ。これで前みたいに三人一緒になれたのね。久しぶり........だねロント。」
「あ、あぁ。本当に...........うっ、すまないライア。あの時もっと私に力があればライアが酷い目に会わなくて済んだのに。」
頬を涙で濡らすロントにライアは満面の笑みを浮かべた。
「へぇ、ロント前までは俺って言ってたのに私なんて行儀正しくなったんだね。自分の暴力的な性格を知ったのかな?いや、自分を変える程の存在に出会った?」
ライアは周りを見渡してアランを発見する。
「あなたでしょう。ロントを変えさせてくれたのも、私を助けてくれたのも全て。本当にありがとうございます。おかげでいつもの三人に会えました。」
「まっ、そんな礼を言われるような事はしてないさ。」
涼しげに言うアランをエリカは微笑しながらアランの横腹をつつく。
そしてハニエルもアランに一礼した。
「私の方も礼を申し上げます。千年前、あなたの自分の命を差し出したからこそ今の世界は平和になりました。私に出来る事があったら何でも言ってください。」
「うーん、それじゃあ今の天界の事情を話してくれ。」
「ふっ。あなたが本当に聞きたいのは行方不明になった大天使イシュタルの事では?」
そのハニエルの言葉にアランはそっぽを向いた。
「違う。俺はただ......」
「はいはい分かっておりますよ。安心してください、イシュタルの反応は未だ消えていません。さっきまでもここら辺に反応があったのですが。突然と消えてしまいました。」
「そ、そうか。生きてるのならいい。」
「それと、これは天界の様子についてですが、今現在の天界は平和を望まぬ者と平和を望む者に分かれています。」
「え?平和を望まぬ神とかいるんですか?」
「はい。残念ながら、今までの仲間が殺されたので平和なんて嫌だと言うのが言い分です。」
ハニエルは悲しそうな顔をした。
やはり自分でも思う事があるんだろう。
「まぁ、俺達が抱いてる姿とは違うのだろう。とりあえず俺達のする事は終わったってことさ。さっ帰ろう。」
俺は手を叩き、まずは中に残してきたルミナリエやレイナ、リースを探そうと建物の中に入ろうとする。
「魔王とはもう少し話してみたかったのですが、こちらにも仕事があるのでまた。」
「あぁ、その時はよろしくな。」
ハニエルは縛られているホメスと共に<空間転移>をした。
その時と同時期に建物の入り口から、レイナ達が出てきた。
ミネセスも負傷しているが見た所、死者はいないようだ。て言うかレイナ達の後ろにいるあいつら、まさかと思うが影の集団か。
「あーアランいた。」
「おっ、久しぶりだな。この集団はルミナリエが?」
「もちろんそうよ。ねっ、ルミナリエ。この子ったら魔王に憧れ過ぎて無茶な事までしたんだから。でもそのおかげでこの人達とも和解出来たけど。」
リースはそう言って後ろにいる影の集団達を指差す。
「そうか、良くやったなルミナリエ。」
「え.......あっ、はい。お褒めにあずかり光栄です。」
ルミナリエは膝を付いた。
エリカはルミナリエを見るのは初めてだ。当然の如くその容姿を見てアランの肩を叩いた。
その様子にレイナとリースは「だと思った」と口を揃えて言う。
「アラン様。本当に恋愛感情と言うものありませんの?」
「え?何を言っているんだ?本当にないけど。」
エリカは不思議そうにアランを見つめた。しかしアランの顔は「?」だ。
「それではどうしてアラン様の周りには女が集まってくるのですか?」
「いやいやそんな事はないぞ、ちゃんと男だっている。ちょっと比率が女子の方が高いだけだよ。よくゆう、たまたまってやつ。」
「へぇ。よくもまぁ集まった事ですね。」
エリカはチラッとルミナリエを見る。凹凸のある体。白い肌。そしてアランに夢中になっている。エリカと似ている。強いて言えば髪の色が違うくらいか。
そしてルミナリエの近くに行き、他の人には聞かれないように喋る。
「私はあなたが魔王の事が大好きなのは分かります。それは否定するつもりもありません。」
「えっ...........自分はただ......」
段々と声を小さくするルミナリエにエリカはリースを彷彿とさせた。
「大好きなのでしょう。見てれば分かります。実際私もそうですし。」
「あなたも......?」
「そうです、だからこうしましょう。今からあなたは私の弟子となり、アラン様を魅力する為に全力を尽くすと。今アラン様は恋愛感情を失っているらしいですし。いいですか?」
エリカの凄みを増す言葉の勢いにルミナリエはただ「はい」と答えるしか言えなかった。
ルミナリエの事を離したエリカは「よし」と頷く。
「これからよろしくお願いします師匠。」
「えぇ、よろしくねルミナリエ。」
「ねぇエリカ、ルミナリエに何て言ったの?」
「とりあえず、このまま行くとアラン様に何かしでかねないので師弟関係を築いておきました。これで変な抜け駆けはしないでしょう。」
思わずレイナは「おぉ」と唸る。
アランは物不思議そうにその様子を見たが、影の集団の方に視線を移した。
その時、影の集団のリーダーが前へ出る。そしてリーダーが方膝を付くと、一斉に他の者も方膝を付いた。その一子乱れぬ動作に思わずアランは感嘆する。
「アラン様、いえ魔王様。今までの非礼をお許しください。このデルス、魂尽きるまで魔王様のお供がしたいのです。無礼なのは分かっております。気がすむまで殴られても構いません。」
リーダーもといデルスが頭を垂れる。
その姿を固唾を飲んで見守るアランと影の集団以外の人達。
だが、この後に行う事をその人達は知っている。
「バルデンの下、良く辛い任務を遂行した。たとえ命令とは言え感情を殺すのは心が苦しくなる。その気持ちを知らない俺じゃない。デルス、安心しろ。魔王は個々の意見を尊重する。やりたくない事はやりたくないとはっきり進言して良いんだ。それに、俺は鬼畜悪魔ではない。助けて欲しかったら助けて欲しいと言え。」
「はい。必ずやこの魂尽きるまでお仕え致します。」
「俺の魔王軍の方針は自由だ。千年前も、あれしたいこれしたいと言う奴らが集まり魔王軍が出来た。それに加わるなら、お前達は自由だ。」
自信たっぷりのアランの言葉にデルス達は涙を流して「はい!」と返事をした。
「夜明けか。まぶしいな。」
アラン達を労うように朝日がまぶしかった。
そろそろ今章も終わりに近づいていますね。
もちろん次章のことも考えてますよ。
2019年7月23日誤字修正
ハニエルが言った「天使」を「天界」に修正致しました。
内容的には天界には平和を望む者達と、平和を望まない者達が存在すると言う内容です。その中には神も交じっています。
とのことをハニエルは言いました。読んでいて「?」となった方、申し訳ありませんでした。_(._.)_




