言動で性別は分かりません
暗い。周りを見ても、トイレや壁しかない。いや当たり前か。牢の中に豪華な物とか花瓶とかあったら逆にシュールな光景になるだけか。
「でも暇過ぎないかい?」
その声は牢の壁に吸い込められる。この所、三食の食事以外に楽しみな事がないのだ。
本当に暇だなぁ。とアランは内心思いつつ、ここに救出に来るであろう仲間の心配をしていた。あの隠れ家に連絡出来たのは良かったが、果たして何時来るのか分からないアランにとっては今の時間は拷問に近い。
また寝ようかなと横になろうとした時、不可思議な気配が近づいて来るのが分かった。
「どうして透明になってまで来たの?」
アランは牢の向こう側の空気に聞く。
するとビクッと人形の輪郭が震えた。そして自身の存在に気が付かれたと知り、透明化を解く。黒い衣装を着ていて、THE・隠密っていう感じだ。
「やはり気付いていましたか。」
「確か君って、よく<全身透明化>してた子だよね?」
「はいそうです。魔王様、急で申し訳ありませんがすぐにここを脱出してください。魔王様の処刑の日が明日の日付が変わる頃。つまり今日の夜中なのです。」
「え?今日なの?と言うか君、今魔王って言った?」
敵として見ていた相手から脱出してくださいと言われるのも、想定外だがこの子は「魔王」と確かに言った。どういうわけだ?
「はい、魔王様なんですよね。ヘイネと言う男と、うちのボスが話している所をたまたま盗み聞きしてしまって.......」
「あ、あぁそうなんだ。でもなんで君は命懸けでその魔王を助けようとしてるの?」
普通に考えたらこのまま魔王を処刑してしまった方が組織内にいる者ならば安全だろう。
それを命懸けで救おうとしてるのには何か意味があるのだろうか。
「自分は小さな頃から親もいなくて愛も他人を敬う事も知りませんでした。同じ孤児だった仲間でさえ別に死んでも良いような性格をしていました。その時です、たまたま任務で魔王の本について読む機会がありました。その本の中で自分は心を知りました。数々の苦難を乗り越え、数々の伝説を創った魔王様、自分はその魔王様を尊敬してるのです。」
なんかめちゃくちゃ褒められてるけど、たかだか魔王についての本を読んだくらいで心を知れるのか?いやそんな事言ったら失礼だな。本人が良かったと言っているんだ。
「分かった分かった。それで俺を助けようとしてるんだろ、君名前は?」
「自分はルミナリエです。ちょっと待っててください、今鍵を開けるので。」
ルミナリエは鍵を取り出し、牢の鍵穴に差して回した。
ガチャリと音を出して牢の扉が開いた。
「お、開いた開いた。それじゃあこの手錠もよろしく。多分これって俺が無理やり壊しても警報が鳴るシステムでしょ。」
この手錠のシステムは昔からの常套手段だったからな。懐かしきシステムは今だ残ってるとは意外だけど。
俺がそう聞くと、ルミナリエはペコリと頭を下げた。
「すいません、その手錠の鍵はバルデン様しか持っていなくて.................牢の鍵は自分でも取れる所にあったので。」
「そうか、なら別にいいさ。じゃあ逃げますか。あっ、一つ質問して良いか?」
「はい」
「この辺りで俺を助けようとしている奴らっている?」
ルミナリエは不思議そうに首を傾げた。
この反応からして向こう側にはエリカ達の存在は気が付かれてないか。
そして俺とルミナリエは牢の部屋から出ていった。
ちょっと長い廊下があり、ルミナリエは奥の扉ではなく横に付いてある扉の方を開けた。
「ちなみにこの奥の扉には何があるの?」
「そこは本部から来た人がいます。魔王様にとっては弱き弱者ですが、自分にとってはそれなりに強いのでこの扉から逃げる事にしました。扉の先は巨大な迷路になっていますが、熟知していますのでご安心を。」
「へぇ。そうなんだ。」
俺はその扉の横に引っ付いてるスイッチの方が気になったが、先を急ごうと無視しておいた。
その巨大な迷路とは、水色の透き通った綺麗な色でちゃんと向こう側が見えないようにされている。しかも天井まで壁が伸びているので空を浮遊しても無駄な設計までしてる。
ルミナリエはアランの腕を引いてその迷路の中をスルスル進む。
俺はそのルミナリエの手と、明るい場所に出たので改めてルミナリエの体を見て驚いた。白くてすべすべな手。凹凸がある体。
「え?女の子だったの?」
「えっ...逆に男の子だと思ってたので?」
お互いに顔を合わせながら驚く。ルミナリエは顔まで被ってる衣装を少し外す。
バサッと髪の毛が擦れる音がして茶色の長い髪が露になった。むちゃくちゃ女忍者......いや、くの一と言ったかそれと同じだな。
ルミナリエは自分の手を見て「あっ」と声をあげた。
「もしかして自分の手が気に入りませんでしたか?そうだったらすいません。」
ルミナリエは手をアランの腕から離した。
「この迷路で迷子になれば再び会うのは難しいので、出来れば肌と肌が触れあっていた方がよろしいのですがやはり気に入りませんでしたよね。」
ルミナリエがしょんぼりするのをアランは「違う、そういう意味じゃない!」
「ただ気になっただけだよ。別にルミナリエの事が嫌って訳じゃないから。」
「....良かった。それでは失礼しますね。」
ルミナリエはアランの腕を改めて掴む。
ルミナリエは角を右へ左へと進む。アランが本気を出せばこんな迷路、魔法で吹き飛ばせるのだが。
進んでいる中、何やら男女が喋ってる声が聴こえた。一人は若い少年か?もう一人は.........ってこの声.....
「ん?何やら人の声が聴こえますね。」
「あー、ちょっといいか?そいつ俺の知り合いだと思う。」
「知り合いですか?ここまでよく来られましたね。」
ルミナリエは特に動揺する訳でもなく、そのまま進んだ。
いやいや普通何か反応しないのかい?例えば驚くとか疑うとかさ。うーん。それ程信じられてるって事なのか。でもなんか俺が嘘っぱちしてもすぐに信じそうだし............なんかな~。この子の前では変な事言わないようにしよ。
「よし、この位壊すか!」「いやいや出来ませんって!」
丁度角を曲がった所で、大きく腕を引くミネセスをイフンが必死に止めている姿が見え、声を掛けた。
二人はそのアランの声に驚いてすぐに振り向いた。
二人にとってアランを救出する為に来たのにその本人がいたって普通に声を掛けてくるのだ。動揺だってする。しない方がおかしい。
「え!?どうして?」
「あ.......アランだよね?偽物なんかじゃなく?」
「偽物?貴様らの目にはそう見えるのか?」
イフンの「偽物」と言う言葉にムッとするルミナリエ。
それをアランは「まぁまぁ」となだめる。その様子からルミナリエの存在に気付いたイフンとミネセスは頭の上に「?」を浮かべる。
「アラン、その人は?」
「馴れ馴れしいな、このお方をーー」
「こ、この人は色々あって共に行動しているんだよ。」
ルミナリエが完璧に「魔王」と言おうと分かったアランはルミナリエの口を塞ぎながら答える。ルミナリエの方はアランに口を触られて赤くなっている。
また、そのルミナリエの顔やアランに対しての言動から察したミネセスは左手を頭に当てため息をついた。
「こりゃまた団長が激怒しそうな感じだな。」
ミネセスは他人の恋愛等は感じ取れるが、自分に向けられている感情には疎い。
いわゆる鈍感系ステータスの持ち主だ。
ルミナリエの事を話したアランはイフンから今の状況について詳しく聞いた。
「そうか。リースとレイナは別か。ならーー」
突如、目の前にあった迷路の壁が消えた。
最初薄くなって段々と消えていくタイプでもなくて、一瞬にして消えた。その壁に寄り掛かっていたミネセスはよろける。アランは急に敵襲が来ても良いように構える。
ルミナリエはすぐに状況を判断した。
「恐らく扉にあった解除のスイッチを切ったのでしょう。確かお仲間が別の道に行ったとおっしゃっていましたよね?」
「ああ、そうだ。レイナとリースと前の分かれ道で二手に分かれた。」
「なら多分あの扉の所まで到達したと言う事ですね。普通なら喜ぶ所ですが、一つ問題があります。」
「問題?」
アランがルミナリエに聞き返す。同時にイフンとミネセスも「?」状態だ。
「はい。あのスイッチの切り替えをすると、即座に自動報告が届くようにしてあります。ですので....」
ルミナリエが最後まで言い切るまでにその結果を知った。
何しろ、入り口にある扉がバンッと勢い良く蹴破られて黒い格好をした者達がぞろぞろと出てきたからだ。この事態を避ける為にルミナリエはスイッチを切らずに迷路を抜けようとしたのだろう。
その者達は目の前の光景に驚く。
味方である筈のルミナリエがアランの側にいるのだ。無論、ルミナリエが何らかの魔法を掛けられていて無理やりに従わせていると言う線もなくはないが、それでも主力とも言えるルミナリエが敵として立っていること自体がマズイのだ。
黒い格好の者達のリーダーが一歩前へ出る。
「貴様らっ!ルミナリエに何をした!?洗脳か!?」
ルミナリエも一歩前へ出る。
「一つだけ言わせてもらう。自分は洗脳やその他の類いの魔法を掛けられていない!これは自らの意思だ!」
まるで誇らしげに言うルミナリエを黒い格好の者達はその目から本当に洗脳系魔法を掛けられてないと判断したのだろう。これは相手側にとって見ればかなりショックだ。
つい最近まで仲間だったのに、ある日裏切られるのは。
「アラン様。今が好機です、自分が外までアラン様を<空間転移>させますので外にいる仲間と合流してください。」
小声でルミナリエはアランに案を出した。それについてイフンは困惑の表情をする。
「え?この地下から外への魔法干渉は出来ないようにされてる筈じゃ?」
「確かにこの地下空間にはそういう対策を講じていますが、自分は可能です。仲間だと認知されてる者には魔法干渉は可能な仕組みですから。」
「だから今が好機な訳か。分かった。今すぐに<空間転移>をしてくれ。」
ルミナリエは頷き、早速魔法を掛けようとした。
しかし相手は甘くはない。妨害しようと多種多様な魔法攻撃を繰り出す。ミネセスが防御しようとするが、とても捌き切れる数ではない。
「まぁバレた事だし、無理やり外してもいいか。」
アランは手に力を込めて無理やり手錠を外し、ミネセスを庇うように移動して普段より魔力を入れ、サイズを大きくした<深淵の暗光><貫魔王槍突>を撃った。
そして自分の周りには<防魔法障壁>を掛け、もしもの危険もないようにする。
バババッッッーーバチバチバチバチッと激しい音が鳴り響く。
その魔法衝突で生まれた隙に乗じてルミナリエはアランを外へ転移させた。
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