魔王直々の不良更生
見てくれてありがとうございます。
「まったく、このくらいで驚いては駄目だぞ」
三人組は後ろに後退する。
「ど、どういう事だ?三人同時で<大炎>を打ったんだぞ?」
「簡単な話しだ。俺は常時、防御魔法を張っている」
俺は三人にも見えるように、防御魔法を透明化しているのを止める。
アランの周りに、防御魔法が張り巡らされているのがくっきり分かる。
それを見て、三人の顔が絶望に染まる。
その姿はまるで、開いてはいけない箱を開いてしまったようだった。
うーむ。どうしようか?
今ここで、教育させても良いが、少々広さが足りないな。
「そうだ。<異空間創造>」
俺が発動すると、世界がぐにゃりと曲がり、別の空間へと転移する。
その世界は何処を見渡しても真っ白だ。
そこにいるのは、俺と三人組だけだ。
三人は置かれた状況が分からず、あたふたしている。
俺は今の魔法を説明する。
「何を驚いている?簡単だ<異空間創造>を使っただけだ。<異空間創造>とは、異空間を作る魔法だ。主に決闘などに使われていた。まぁ今の場合は、ただ広い所へ行きたかっただけだがな」
三人は無理やりにでも、理解しようとする。
別にこれくらいは今の時代でも有名な魔法だと思ったけどな。
ただ、異空間を作ってそこへ転移してきただけだぞ。
「これから三人には、俺が直々に教育してやろうと思う」
「はぁ?」
「なめてんのか?」
「ふっ」
「おいおい、さっきは凄い恐怖している顔をしていたのに、もう治ったのか?ほら、ありったけの魔法を打ってこい」
俺は三人を焚き付ける。
自分からしないと、教育とは言えないからな。
三人はやる気になったのか、はたまたアランに怒っているのか、魔法を打ち出した。
まぁ怒っているのだろうがな。
「「「<大炎>」」」
三人は同時に<大炎>を発動した。
三つの炎がアランに向かって行く。
アランは左手をかざし、防御魔法<魔法障壁>で受け止める。
少し威力が上がっているな。
怒りが魔法の威力を上げているのか。
魔法という物は本人の気持ちによって変わる物だ。
気弱な心で<大炎>を放てば、それはマッチの火くらいの威力になる。
三人は憎しみの心で、俺に様々な魔法を放つ。
「ふっ、俺はこの場所に静止しているぞ?それでいいのか?」
おっ、少しずつだがまた威力が上がったな。
三人は別々の方向から魔法を打つのを止め、集まって何か策があるのか話し合った。まぁ今の時間に魔法を打てばより教育になるのだが、そこまで厳しくしなくてもいいか。
古の時代では、策を講じてる間も攻撃をするのが普通だった。
よく、「ちょっとは黙ってろよ!」とか言っていたが、戦闘中にそんな事をすれば一発即死だろう。
三人は案が固まったのか、互いに「よし!」と頷く。
そうだ、考えろ。そうして試行錯誤していけばよいのだ。
三人は俺の目の前に立ち、一斉に<魔槍突>を放つ。
<魔槍突>とは、相手の防御魔法を打ち砕くのに重宝する魔法だ。基本的に防御魔法を壊す以外では使用しない。避けられる可能性があるからだ。
しかし、今の状況では良い選択だ。三人同時にする事でより威力を増す事が出来る。
俺は<魔法障壁>で<魔槍突>を受け止める。
三人の打った<魔槍突>は威力を無くし、崩壊し始める。
まぁまぁだな。
「うむ。確かにいい魔法だったが、足りないな。せめて、これくらいの強さの魔法でなければな。」
俺は<空中移動>で空中に移動し、三人に向かって<大炎>を放つ。
その炎を、やっとの事で三人は別々の方向へ飛び、かわす。
だが、炎が地面についた瞬間、炎が周りに燃え上がり三人に襲い掛かる。
「はぁ?くっそ!<水吹雪>」
一人は氷魔法<水吹雪>を何とか発動させ、炎を食い止める。
残りの二人は「うがっ。」「あああぁぁーーーー!!」と言って、焼かれた。
俺は二人の所へ行き、<回復>を掛ける。
たちどころに傷が回復していく。
そして俺は二人を元の世界へ転移させる。
この二人には、少々過酷過ぎて精神が保ちきれないかもしれない。
そうなってしまえば、教育と言うより、ただの腹いせだからな。
「帰すのか?」
恐る恐る、男は聞いた。
「ああ、この程度の魔法でこうなってしまえば、これからする事に付いてこれなくなってしまうからな。別に自分から「教えてください」と言えば教えるが」
「ほーう」
「と言うか、聞きたいんだが。お前の名前は?」
「ロントだ......いやです」
「ロントか。覚えた。ではロント、続きを始めるぞ」
俺はロントに向かって<水吹雪>を打つ。
ロントは必死に逃げる。
「ほらほら、どうした?魔法で対抗してみろ。でないと死んでしまうぞ?」
「はぁはぁ、<大炎>!」
「そうだ、その調子だ。だが魔力が足りてないな」
あれから30分くらい経った。
こいつ案外体力あるな。普段から鍛えているのが分かる。
もうこの辺にしておくか。
「では、最後の仕上げだ。この魔法を相殺してみろ。<水吹雪>」
「やってやるよ!いっけぇぇぇー<大炎>!!」
ロントは渾身の魔力を込めて<大炎>を放つ。
俺の打った<水吹雪>とロントの打った<大炎>がぶつかり合う。
せめぎ合う中、俺の撃った<大炎>が押し、ロントの水吹雪を押し潰す。
「うっ、マジかよ」
ロントがその場に倒れこむ。
うーむ。結構無理やりに教育させたが、案外教育になったか?
いやでもかなり成長したな。
やはりこの時代でも教育さえ整っていれば強くなるのだな。別に戦力的に欲しい訳でもない。ちょっとした実験だ。
まだ十分の一も出してないが、あそこまでいければ上出来だ。
俺は倒れこんだロントの所まで行く。
「<大回復>」
みるみると傷が治っていく。
意識が回復したのか、ロントは目を開ける。
「うっ、これは?」
「なあに、<大回復>を掛けただけだ。それにしても、お前いい線をいっていたぞ」
「ああ、そうか」
ロントは何かを考え、結論を出したのか立ち上がり、アランに頭を下げる。
「お願いだ。俺に魔法を教えてくれ。さっきの事は謝る。どうか、この通り」
ロントは膝をつき、土下座をする。
ん?なんだ?
何かありそうだな。恥を忍んで頼み込んでいるようだし。
「まぁ、別に断りはしないが。何故だ?」
ロントは頭を上げ、説明した。
「他の学園に、負けたくない奴がいるんだ。どうしても。そいつはイケメンで、しかも凄い強い。俺は前、そいつに負けたんだ。だから.......」
そういう事か。
別にそういう理由なら、いいか。ライバルは自分を強くする。
「ぶっ殺したい奴がいる」とか言われたら、その場で<大地獄炎>でも打とうと思ったが、それなりの願いだったな。
「そうか、ならば教えてやろう」
「本当か!?」
「無論だ。嘘はつかない。だが、そのイケメンとやらに会ってみたいな。そいつは今、どこにいる?」
「いや。そいつは今、交換留学生として、人間界の方にいる」
人間界?ああ、そういえばそんな名称になったのか。
昔は陣地の取り合いをしていたから、そんな名前は無かった。
俺が転生した後、明確な境界線を作って魔族がいる所を魔界と言い、人間がいる所を人間界と名称した。
人間界とか言うから、人間は別の世界を作ってそこにいるのではないかと勘違いしてしまったぞ。
しかし、交換留学生か。
そんな事を今はしているのか。昔ではあり得ないな。
まぁだからこそ、いいのだが。
「そうか、なら帰って来るまで楽しみにしておこう」
「は、はい」
「何をそんな畏まっている?楽にしてよいぞ?」
ロントは「はい。」と言い、立ち上がった。
「ふぅ、そうだな。もうここにいる必要もないし、帰るか」
俺は元の世界に、転移の魔法<空間移動>を唱える。
空間が歪み、目を開けると元の位置に戻っていた。
あの二人は.......
いた。ロントに任せとくとしよう。
ロントは「分かりました」と言って二人を抱える。
少し二人には厳し過ぎたか?
ちょっと反省だな。古の時代では俺に教育されると聞けば、すっとんで来たからな。
しかし、いいな。この時代では、反省する事が多々ある。
「さて、帰るか。レイナも心配しているだろうし」
俺は家まで<空間移動>した。
ブックマークしてくれた人に感謝を