お兄ちゃん 本領発揮
今回はお兄ちゃん回!
<零の弾丸>を右手の古銃に装填して、ハイムは立っている。
左を向けばイフンが虫の息になりながらもハイムを見ている。
ミネセスは腹部に手を当てて魔力で応急処置しながらもハイムを見つめている。
「ふむ。アランの監視もめんどいしと思ってここまで来てみれば、禁忌魔法を見れるとは俺も運がいいらしい。」
「お前......は何者だ?」
「だから言っているだろう。お前らの大将の兄貴だと。」
ミネセスも虫の息だが気力だけで会話する。
ハイムはそんなミネセスに近づき、ミネセスを眠らせた。ミネセスは抵抗したがアランとほぼ同等の魔法技能を持つハイムにとってはそんなもの何でもない。
「確かお前は生命力を使ったからか。だとしたら眠らせなくても良いか。お前、しっかりと俺がお前を助ける所を見ていろよ。そうでなきゃあの爺さんに怒られる。」
イフンはハイムが何を言っているのか分からなかったが、その姿を目に焼き付けようと思った。
向こう側にいる影はその言葉に疑問をぶつける。
「おい貴様。お前はこちらサイドの者だろう?ならば争う必要はない。」
「まぁそうだな。もしかしたらお前が上層部にチクッて俺は殺されるかも知れない。」
影は「ならば」と言葉を続けようとするが、ハイムが割り込み
「でもお前を殺せば事は簡単に済む。その隣にいるお仲間もろともな。」
その影がどよめいた。その後、もうバレてると悟った影の仲間は自分に掛けた透明化を解除した。影の奴も合わせて三人。ハイムにとっては何てことのない数だ。
「そうか。なら話は早い。反逆罪で貴様も殺す。命乞いしても無駄だ。」
そう冷たい声が夜の草原の音と一緒に発せられる。
「それはお前らだろ。てか、[魔技]を使うまでもないな。」
ハイムは微笑し、向かって来た二人に<超滅連獄炎><寒零度吹雪>を撃つが相手は意図も容易く凌ぐ。
「へぇ。」
二人は両手に刃物を持ち、挟み撃ちする形でハイムに斬り掛かる。しかしハイムは後方に下がりながらもう一人の遠くにいる仲間を古銃で撃ち抜く。
パンッと言う音が聴こえた時にはもう遅い。
遠くにいた仲間はすでに心臓の部分を撃ち抜かれ、その場に倒れた。
その撃たれた心臓部分がぽっかり無くなっている事に気付き、斬り掛かろうとした二人は遠距離戦は勝つのは不可能と思考し短期決戦を講じる。
「俺に短期決戦を持ち込むならもっと腕を磨いてくるんだな。」
ハイムは右手の古銃で双方の武器を防御し、双方向に<深淵なる暗光>を撃った。
二人は違う方の手の武器で抑え込むが止まらない。ついには左腕を犠牲にし、とりあえず命は守った。
その姿にハイムは「ほう」と頷く。
先ほどの一手で終わるだろうと思っていたハイムは喜びを感じる。何せもっと戦えるのだから。ハイムは戦い以外の行為にあまり喜びを感じない。
アランとはまた別の理由でハイムは恋愛が出来ない。いやただしないと言った方が正しいのか。
イフンはその笑顔のハイムに恐怖を覚える。アランの兄と語るから、それなりに優しくて頼りになる人かと思い込んでいた自分が少し情けない。
「どうした?こい、いくらでも相手してやるぞ。」
相手の二人はどうしようか戸惑う。今すぐにでもハイムは古銃を使えば自分を貫ける。だがそうしない。かといって、そっちに行けばすぐにでも撃ち殺される。
その状況下で相手が選んだ道は..........
「魔法で透明化して俺の気を反らし、攻撃するのか。まぁ何も間違っちゃいないが甘過ぎる。俺の目はお前らをしっかりと捉えてるぞ?」
ハイムは二発、銃のトリガーを引く。
すると透明だった所から二人の死体が出てきた。それも確実に心臓を撃ち抜かれて。
イフンはどう足掻いても勝てない相手だと深く心に刻みつける。
ハイムは銃をしまい、イフンとミネセスに近づく。
「おいお前。歩けるか?」
「....はい。一応、」
イフンは立ち上がった。それを見てハイムは「おぉ」と感嘆した。
通常ならこの禁忌魔法は立ち上がる事は勿論、体を動かすのも出来なくなるのだ。
それなのにイフンは立ち上がった。
「なら俺と一緒に近くの洞窟まで来い。その女は俺が連れてってやる。」
ハイムがミネセスに近づこうとするがそれをイフンが手で防ぐ。
「まだお前の信用に俺は値しないか。面倒だがまぁ良い。そこまで大事だと言うならこれを飲め。」
ハイムは自分の指先を切る。そして一滴の血をイフンに差し出す。
イフンはどうしようか迷うがハイムは強引にイフンの口に血を押し込む。
その血を飲んだ瞬間、体内にある魔力がぐんっと上がった。その魔力を原動力にイフンはミネセスをお姫様抱っこし、ハイムの言う洞窟へと向かった。
(明らかにおかしい。一滴とはいえ俺の血だ。拒否反応くらい出ると思ったが、すんなりと適応した。これは一体?こいつは何者だ?)
考察しても答えが出ないハイムは洞窟に特殊な魔法障壁を張り、立ち去ろうとした。
「待ってください。」
「なんだ?礼ならいらん。」
「ありがとうございました。アランの兄様。」
イフンは深く一礼する。しかしハイムは舌打ちをして
「その女、見た所応急措置しかしてないようだ。この用紙に魔力を注入してやると良い。少なからず回復する筈だ。」
そう言ってハイムは一枚の紙を投げた。
そこには回復魔法陣が書いてあった。ここに魔力を注入すればその回復魔法陣が発動する。
イフンはまた礼を言い、ハイムはそれを無視して洞窟を出て行く。
「おい、そこにいるんだろ。出てこいよ。」
ハイムが言うと森の中から人がぞろぞろ出てきた。
「お前たちはあの赤髪の仲間だろ。」
「今回は救援、ありがとうございました。」
グループから一人の男のような女のような者が現れた。髪をショートにしていて足も全て隠している。
「異形種か。道理で性別の判断がつかないのか。なぁに、礼を言われる事はない。それでお前たちは赤髪の女を助けに行かなくてもいいのか?」
「行きます。それでは。」
後ろを振り向き号令を出す。そしてみんな各々に散らばった。
恐らくもう脱走しているのはバレてるだろう。それを撹乱させる為か。
「おっと、少し長居し過ぎたか。そろそろ帰らないと。これで爺さんにも報告出来る。」
ハイムは<空間転移>を発動し、その場を去った。
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洞窟の中、よく性別が分からない人がやって来て回復魔法陣で傷を癒しているミネセスの前に座った。そしてイフンに頭を下げた。
「この度は我らの同胞を守っていただきありがとうございました。森の中心部で待機しておりましたので発見するのが遅れてしまいました。」
「いやそんな事言われても..........僕はただミネセスさんを守りたい一心だったので。」
「ミネセスの事が好きなのですね。自分はルーティーと申します。本当の姿は人の怨念を喰らう魔物です。訳あって今はとある所に所属しています。」
やはりミネセスさんと言い、そのとある所は変わってる人(?)が多いのだろうか。
魔物が放置されて暴走したりするのは知っているがこんな人間性があるなんて知らなかった。
その時、外の方から爆音が聴こえた。
「おっと、自分もこうしてる場合ではありません。加勢しなければ。それではイフン君しっかりとミネセスを守ってください。」
「はい。分かりました。」
ルーティーは戦いに加勢しようと洞窟を出て行った。
イフンはより魔力を紙に込める。苦しそうなミネセスを見ていられない。
「ミネセスさん。必ず守りますから。」
「.........ん、.......うん?」
ミネセスの目が開いた。そしてゆっくりと体を起こすミネセスをイフンは支えた。
「いっ、.....っ」
「駄目だよ。回復魔法で修復されてるとはいえ、完治してないんだから。」
「イフンか。ここは?」
ミネセスは周りの灰色の壁を見て問う。
「ここは近くの洞窟だよ。なんかよく分からない人が丁寧に魔法障壁も張ってくれたんだ。」
「よく分から...ない?ああ、あいつの事か。ちょっと待ってろ。」
ミネセスは団長であるエリカに報告をする。
そしてひとしきりの連絡が終わったのか耳辺りから手を離す。
「イフン、明日になったらお前を元の居場所へ帰す。」
「え?あ.....うん。ありがと。」
「何もそんな寂しそうな顔をするな。お前と私では生きる世界が違うだけだ。今回はそれがたまたま交わっただけだ。夢だよ、これは。」
ミネセスはイフンの顔を見て言った。その言葉はとても鋭くイフンの胸に刺さった。
深く、忌ましめるように。
その後、ミネセスは体調が優れなくてすぐに寝てしまった。
隣では涙をこらえるイフンが必死に眠ろうとしていた。
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