本当の魔法
ー翌日ー
「ん~。朝か」
俺は起床する。
そして俺は何やら美味しそうな匂いがするのに気づき、階段を下りる。
そこには朝食を作っているレイナの姿があった。
なるほど、この匂いか。
レイナは俺が来た事に気づき
「おはよう。案外起きるのは得意なのね」
「まあな」
いつでも戦闘体勢になれるようにしてたからな。
まぁでも今の平和な時代では必要ないだろう。
俺はレイナの作った朝食を食べ、学園へと向かう。
道中、何人かが俺を睨んでいたが、無視しておいた。
なんかしたか?
「ん?ここか?」
「あ!アランってそこ?隣ね」
俺は紙に書いてある座席表を見て、指定の席に座る。
しばらく待つと、紫色の短い髪をした女の先生が来た。
「えー、それでは皆さん。授業を始めます。あ!私の名前はルーと言います。覚えておいてください」
ルー先生か。
見た感じ優しそうだな。
しかし、人を見た目で判断するのは良くないか。
ルー先生は黒板に魔法陣を書いていく。
「今日の授業は、この前のテストで出た魔法<大地獄炎>を勉強します」
ほう、特に俺が勉強する事はないな。
こんな魔法くらい、魔王にとっては遊び感覚だしな。
ふと、周りを見ると皆机に向かってノートを書き始めている。
勉強熱心でいいことだ。古の時代は、勉強よりどうやったら相手を倒せるか、とか物騒な事ばかり考えさせられてたし。
平和な時代が訪れた証拠とも言えるな。
と言うか、あれは本当に<大地獄炎>か?
何か違う気がする。
ああ、そういう事か。
「あの~、アラン君。しっかりとノートに書いてください。そうでないと、もう<大地獄炎>は極めていると見なされますよ」
「そう見なして構わない。何なら、今ここで発動しましょうか?」
おっと、俺とした事が、つい魔王の頃のように喧嘩腰で言ってしまった。
学園生活で、普通な生徒はこんな事言わない。少し気をつけよう。キザな男は嫌われてしまう。
すると、ある少女が立ち上がった。
金髪の髪をポニーテールにしている。顔もスタイルも申し分ない。
学園の中では、さぞモテるであろう。
しかし、なんかお嬢様気取りだな。
「ふっ、あなたに出来るわけないでしょ。先生、この人の魔力検査、知力検査の結果を見てください」
ルー先生は、名簿を見て察したように「あ!」と声を出した。
「アラン君。別に私は結果論で物事をあまり決めません。ですから、しっかりと勉強を重ねてください。私はあなたの味方ですから」
ん?何を同情しているんだ?
俺は首を傾げる。
それについて、金髪の少女は答える。物凄く上から目線で。
「まさかあなた、自分の結果を知らないの?なら教えてあげる。あなたはね、この学園で落ちこぼれなのよ。魔力検査D、知力検査D。こんなの学園創立以来、初めてじゃないかしら?しかも、そんな奴の名前がアランなんて、魔王様にも失礼よ」
ここで、少し話しが逸れてしまうが一応言っておこう。
俺の名前がアランでも何も言われないのは、昔の俺が「赤子の名前をアランと付けてもよい」と言ったからだ。それからは、別にアランを名乗っても良いと法律まで変えたのだが効果は俺しかなかったのか。
法律まで変えなければ、自分が転生した後で自分の名前を使えないからだ。
まぁ、自分で「魔王です」と言えば良い事だが、普通の暮らしもしてみたかったし、言っておいて良かったな。
話しを戻すが、知力検査D?
どういう事だ?
あのテストでは、様々なジャンルの魔法陣や魔王のした行いやらだったぞ。
特に魔王のした事なんか、俺が魔王なんだから正解して当たり前だろう。
「そんな不思議な表情してるけど、本当に <大地獄炎>を極めたの?ならここで発動してみなさいよ。まぁ私はもう極めているけどね」
「なら、聞くが。本当にあれが<大地獄炎>なのか?」
俺は黒板に書いてある<大地獄炎>の魔法陣を指差す。
「はぁ?当たり前でしょ」
「ならば、俺が本物の<大地獄炎>を教えてやる」
俺は立ち上がり、窓の方へ行く。
そして外へ向かって<大地獄炎>を放つ。
魔法陣から地獄のような炎が一直線に校庭に放たれた。
地面は燃え上がり、今でも小さな炎がゆらゆらと燃えている。
しまったな。転生して、威力のある魔法を久しぶりに発動したから加減を少し忘れていた。
クラスの生徒達は口をポカンと開けている。
「う、嘘。あなた、本当に<大地獄炎>を撃ったの?どう見てもあれは、<大地獄炎>の領域を越えていたわよ」
「本当だ。それと一つ、お前達が正しいと思って使っているこの魔法陣は、本物の<大地獄炎>じゃないぞ。本物はこうだ」
俺は黒板に本物の魔法陣を書く。
元々、黒板に書いてあった<大地獄炎>の魔法陣は、簡略化され過ぎて魔法の威力が半減してしまう。
これでは、生徒が可哀想だ。
ルー先生は俺の書いた魔法陣を見て、「ほ~、確かにそうすれば。凄い、威力が2倍にもなる。」と感激している。
さすが先生だな。
初見ですぐに理解するとは。
「どうだ?何なら、解説してやろうか?」
金髪の少女は決まりが悪そうにこちらを見た。
その後の休み時間は、何やら俺を指差して「あれが校庭を燃やしたのよ。」「本当に魔族?」など会話している。
別に話す事はいいのだが、その程度のヒソヒソ話しは聞こえるぞ?
普通なら<静かな音>で話し声を静かにする物だけどな。
まぁそれはもう昔の価値観か。
レイナが席を立ち、俺に近づく。
「アラン、何であの魔法陣が簡略化されているって分かったの?」
「小さい頃に本で見たことあった魔法陣と違っていたからな」
俺は嘘をつく。
ここで俺が「まぁ俺が魔王だからな。」と言えば、俺が転生した魔王だとバレれば普通な学園生活が送れなくなるからな。でも皆信じないか。
でもやはり、あの時<大地獄炎>を撃たなければ良かったな。
こんな調子でいったら、魔王だとバレかねない。
反省しよう。
これからは、普通の生徒らしくしなければ。
「へぇー凄いね。でも本当に?おっと、次の授業が始まっちゃう」
チャイムが教室に響き渡った。
何かレイナは言いたげだったな。
それからは特につまらない授業だった。
さっきの一件でノートを取らなくても許されたが、物凄く暇をもて余した。
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「はい、では今日の授業はここまで」
みんな一斉に帰りの準備を始める。
俺も帰りの準備を始める。
そして俺は下校しようと、靴を履いた。
「おい、お前。ちょっとこいよ」
何やら柄の悪そうな三人組がやって来た。
なんだ?その格好は?
変な制服の着方をしているな。
「それはいいが。制服の着方がなってないぞ。そんなだらんとした服装で恥ずかしくないのか?ダサイぞ」
三人組はその言葉に頭がきたのか、口調をつよめる。
俺は三人組の後ろを付いていく。
周りからは「あいつ終わったな。」「やれやれ!」など聞こえてくる。
三人組は人気のなさそうな場所へ行く。
そして三人組は同時に<大炎>を唱え、アランに攻撃する。
周りに煙が立ち込める。
「へっ、やったな」
「レイナ様と登校するからそうなるんだ」
「もう死んだか?」
だが、煙から出てきたのは死体ではなく、
「ほう、その程度の魔法で俺が殺せるとでも?」
無傷のアランだった。
三人組はゾンビでも見た顔になった。