過去改変
凄まじい熱気が爆発し、ミラは吹き飛ばされる。
アランは腹に突き刺さる剣を抜き、回復魔法を掛ける。ミラによって金縛り状態になっていた三人も、解放された。
三人は解放されるとすぐにアランに駆け寄った。
「大丈夫?今回復魔法を掛けてあげるから!」
リースはアランの腹部に手をかざす。しかしアランは顔を横に振り
「大丈夫だ。これくらいの傷は自分の回復魔法で治るし、安心して。」
アランの腹部の傷はあまり治ってないように見える。一応自分で回復魔法を掛けたが、いまいち治りが遅く感じる。ミラの魔力によって回復が遅延されているらしい。
「でも、悔しいね。私はあの次元の戦いについていけない。」
「それについては同感ですわ。」
レイナとエリカが下をうつむく。
「いや別にこの次元の戦いなんてこれから先ないと思うし、無理して強くなる事はないぞ。ここまでのレベルになると、自分が生き物なのか分からなくなっちゃうし。」
「大丈夫です。私達もそのレベルにしてアラン様のお役にたてるように頑張りますわ。レイナやリースだってそうでしょう?」
「もっちろん。」「絶対に」
二人は声を揃えて決意する。
「あ、ちょっと。いい話の中失礼するが、あのちびっこ起き上がろとしてるけど......」
蚊帳の外にいた魔王は、傷だらけの中なんとか起き上がろうとしているミラを指差す。
あれだけの魔法を受けてなお、まだ活動しているミラはその体を起こし立った。
アランはミラに近づく。
「これで分かってもらえたか?」
「はぁ。分かった。この私に勝ったのだ。意見を言ってみるがいい。まさかそこにいる過去のお前が秘策とは考えたものだ。ふっふ。私自身も過去のお前がこの時間停止した世界を自由に出来るとは思わなかった。」
俺はあらかじめ、魔王に絶対にこの世界を停止させる魔法が繰り出されると伝えていた。
エリスを救おうとすれば必ず干渉してくると分かっていたしな。それさえ分かれば、その干渉する時に備えて対策する事は可能だ。
なにせ魔王だ。それくらいの事など、別に出来るだろう。
魔王はミラに見られて、手をふる。その姿にミラは「ちっ」と舌打ちした。
「ねぇ。だったら私達はなんでこの時間停止した世界に来れたの?」
「まぁ、過去改変しようとする当事者だからじゃない?当然すぐに無力化されたけど。」
リースの推論は正しい。
だから、その当事者ではない魔王を切り札に使うと言うのが一番効果があると睨んだ。
その切り札が無ければ、結果は変わっていた。
アランは「あっ」と話を戻す。
「それで、俺がお前に対して言いたい意見はこうだ。エリスを救おうのに協力してくれ。なあに、お前が言いたい事も分かるさ。世界はありのままにするのが一番良いんだろう?」
「そこまで知っておいて、何を協力して欲しいのだ?」
ミラは自分の体を回復して魔力で服を創り、羽織る。
「単純明快。これから起きる事に目を瞑って欲しい。」
俺の言葉にこの場にいる全員が心の中で首を傾げた。言っている意味が分からない。普通、世界であるミラに何かしら要求するだろう。
「説明求む。」
「ああ。俺は今からエリスを別の場所に転移させ、暴走するのを止める。そして千年後まで目覚めぬ呪いを掛ける。そうすれば、結果、エリスはこれから先いなくなるに等しい。勿論、歴史通りに魔王が殺したように見せかける。」
首を傾げていた疑問が解けた。
歴史通りにいかなければならない。しかし、過去は合っていて未来を変えれば何も問題はない。過去改変で、現在の事象を変えてしまえば深刻なタイムパラドックスが起こる。
それでは駄目だから俺はこの方法を見つけた。いや考えた。
世界であるミラにはこれからやる事に目を瞑れば良い。そうすれば、これからやる事を知っているのはこの場にいる奴らだけになる。要はみんな知らなかったのだ。
みんなも一度は経験した事あるだろう。自分の知っていた知識が、実はちょっと違っていたことぐらい。今回はそれが、世界全部になっただけだ。まぁ誰しもがその違いを知った所で、「ふーん」となる位だな。
「ふむ。よく考えたと言えば、よく考えたな。みんな知らなかっただけ......か。ふっ、面白い。乗ってやろう。」
「そう言うと思ってたよ。お前も人の形をして、人のような心があるんだ。共感してくれると思ったよ。」
「そのお前の提案を開始する為には、ひとまずこの時空停止を止めるか。」
「時空停止?時間停止じゃなくて?」
リースは不思議そうな顔をする。
ミラはその顔にニヤッと笑い、子供のように自慢気に説明する。その体を相まって本当に子供のようだ。
「そうだ!時間と言うちっぽけな物ではない。そう、時空だ。凄いだろう?」
「時空ですか。それは凄い。しかし、そのような相手にも負けないアラン様はやっぱり素晴らしい。本当にいとおしく感じますわ。」
そのエリカの言葉にミラは「は?」と予想外の言葉に左肩をガクンと落とし、レイナは「はいはい」と適当に流す。リースは「この場で言うとか.....」とぼそぼそと地面に向かって言葉をこぼす。
「あの~。蚊帳の外にいる俺はどうしたら?」
「ん。ああそうだな。俺には、その手でエリスを殺したように見せかけて、転移魔法で俺達の所に送って欲しい。そうしたら、後の事はこっちで何とか出来る。」
「分かった。でも、エリスがいなくなっちゃうとはな。世の中何があるか分からん。いやだからこそなのかも知れないのか。分からないからこそ良い。そんな博打の世界が。」
ふと魔王はこぼす。
その言葉は空に消えていき、アランの作戦が始まろうとする。
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魔王の腕は確実にエリスの腹を貫いている。その腹からは赤い赤い深紅の血が出る。吸血鬼であるエリスの吸った血をそのまま地面に出したように、その血は地面を深紅に染める。
「エリス。お前は親友の中の親友だよ。ありがとう。そしてごめん。」
「魔王であるお前からごめんなんて、世の中変わってるな。おも....し..ろい....」
エリスはその場に倒れ込む。魔王はそのエリスの体に魔法を掛け、消滅させる。
昔は死体の火葬とかの風習はあったが、戦争した後の火葬は、した後に違う人の骨やらが混じってしまう可能性があるので、それは勇ましく戦った者に対する無礼だと誰かが言っていたので、それからは魔法になった。
魔王はその魔法を利用して、エリスの体をアランの所に送る。
ここにいる魔王軍はその光景をただ見ている。その胸に身を焦がす程の炎を宿して。
救えなかった者を忘れまいと魂に焼き付けて。
そして魔王は涙を流しながら
「頼んだぞ、魔王...いやアラン。」
その言葉はしっかりとアランに伝わっている。
「おいおい、死ぬんじゃねぇぞ。もう暴走する危険がないとは言え、これは傷付き過ぎだろ。」
「我の魔法でもこれとは。凄まじい破壊力を持ってこやつを止めたのが分かる。」
地面に横たわっているのはエリス。つい先ほど送られてきたのはいいが、傷の状態がはっきり言って酷い。一応、回復しても大丈夫なように<一定魔力沈静化>を掛けたが、回復させるのが難しい。
横にはミラがエリスに回復魔法を掛けてくれている。
最初はただ見ているだけかと思ったが、「見ているだけなどしない。我も責任くらいはある。」と言い手伝ってくれている。
それからリースとちょっとローテーションしながら回復魔法を掛け続け、ようやくエリスの容態は安定していった。
俺達は安堵した。最初は絶対に死んでもおかしくないと思うような状態だったんだもの。
「それじゃあ、ここからは俺の出番か。」
「どうして魔法じゃなくて、呪いなの?」
レイナは疑問をぶつける。
「魔法だと、高位な者がエリスを見つけた時それを解除してしまう可能性がある。封印も然り。だが呪いは、そう単純ではない。高位な者でも、魔王級の呪いならば解けはしない。」
魔王級の封印とかは、デモクレスなどであったら、簡単ではないが解けてしまう。
アランはそっとエリスに近づく。
「アランの名で告げる。貴様を千年は目覚めぬ精神の牢獄へと送る。せいぜい苦しむがいい。[呪縛]」
アランがそう告げた瞬間、エリスの体が闇の衣で包まれた。




