前哨戦?
俺達はその後、テントにて夜まで休んでいた。
休んでいる間はリースのブレスレットに魔力を込めたり、レイナの剣を暇潰しがてら研いだりした。
そして時は流れ、満月が空に登った頃.......
「ようやくこの時がやって来ましたね。」
「ああ。ようやく救える。あの時からずっと後悔をしていたんだ。どうして助けてやれなかったのか?と。でもそれも今日終わる。」
「ふふっ。私はどうやってお父様を助けるのか楽しみです。アラン様のお考えになった策ですから、きっと奇抜な物なんでしょうね。」
「いや別に奇抜ではないさ。とても平和な策だと自分の中では思っているよ。」
俺はエリカにそう返す。
本当に奇抜ではないと思うんだが........まぁいっか。
「いやいや、やっぱりアランがする事なんだから私達が考えつかない事なんだろうね。期待して待っているよ。」
レイナがいらない期待をよせてくる。
「ねっ。そう思うでしょ、リース。」
「う、うーん。まぁ確かに元魔王の考える事だから私達には考えつかないって言うのはあり得るかな.......?」
うーん。ちっともフォローしてくれないけど。
俺は自分に自信を持ちながら行こうと思った。そして、元魔王は戦場へ向かう。血生臭い空気が漂う場所へと.......
俺達が向かうと、もう始まりかけていた。正確に言えば、あちらから聖獣の軍団が近づいて、その中には一際大きいライオンのような奴や、少し人形に似ている奴がいた。
恐らく大天使は奥にいるか、遥か空の上とかにいるんだろうな。だいたい戦闘の中盤になった時に出てくる。
「おう、旅の者達。準備万端か?もし必要な物があったら、何でも言ってくれて構わない。」
「平気だよ。」「いえ、大丈夫です。」「お構い無く」
三人は返事をする。やっぱりいつも思うんだよな。レイナって目上の人に対しても敬語とか使わないよな。まぁそれがいい効果を生む時があるから、何とも言えない。
特に周りから普段、敬語で話されている人であれば効果は絶大だろう。
「そうか。なら行くぞ魔王軍!出撃だ!」
魔王の一声で魔王軍は一斉に走り出した。手に各々武器を持ち、獅子の如く駆けていく。
夜の満月が魔王軍と大天使の軍を照らす。
「お前ら、しっかり俺に付いてこいよ!」
大男が先頭に立ち、魔王軍をまとめあげる。こいつこそがエリカの父親のエリスだ。絶対に助けるべき戦友の。
多分まだ暴走状態にはならないだろう。エリスから感じる魔力が平常になっている。あともう少しなのか?
「アラン。どうしてこの戦闘になる前に<一定魔力沈静化>を掛けなかったの?別にいつでも良かったんでしょう。」
レイナは常々疑問に思っていた事を聞く。それもそうだ、この<一定魔力沈静化>を暴走する前の状態で掛けておけば、事態は解決する。
「確かにそうだ。あの魔法は、いつ掛けても効果は変わらない。だが根本的に違う。もし、俺が事前に掛けていれば、この戦闘で命を散らさずに済んだだろう。」
「じゃあ.......?」
「しかしこれから先、エリスは生き続ける。それでは駄目だ。俺達が知っている未来に反してしまう。矛盾が生まれてしまっては駄目なんだ。確か本に書いてあったな............タイムパラドックスだっけ?それが起きてしまう。」
「だから、今この時で助けるのね。」
リースが話に入ってきて納得する。
レイナも「ふーん」と顔を縦に傾ける。しかし......一体いつエリスが暴走状態になるのか分からない。
「アラン様。もうそろそろ行かなければなりませんよ。」
「おう。そうだな。よし!行くぞ!」
アランの掛け声の元、三人は戦場へ駆け出した。
アランは魔法を巧みに使い、レイナはリースと二人で聖獣と一対二になるように、エリカは聖獣に一突きしてそれぞれ各個撃破している。
聖獣の遠吠えが聴こえ、魔族達の掛け声が聴こえる。
数十分が経ち、戦場も激化していく。
アランは今か今かとエリスから発せられる魔力の波長を解析する。
夜の満月が魔王軍、大天使軍を照らす。
アランも意識を敵に向けようとしたその時.........起こった。エリスから感じる魔力の波長がどこか不自然になったのだ。
<思考伝達>を三人に回す。
「三人とも、時が来た。レイナとリースはこっちへ来てくれ。エリカは........もう来てるか。」
「分かった」「分かりました」
レイナとリースは、戦場の激戦になっている所にはいない。そんな所にいたら、すぐに死んでしまう。だから今回は取り逃がした聖獣を相手していた。
二人は聖獣の攻撃に気をつけながらアランのいる場所へと向かった。
「二人とも怪我はないか?」
「特に目立った外傷はないよ。」
「私も特には。後衛でしたし。」
「そうか。なら良かった。恐らくもうそろそろだ。」
アランはエリスのいる方向を指差し、その方向に向かう。
三人も跡を追うように走っていると、周辺から感じる魔力が一瞬にして何かが爆発したように錯覚した。
「感じたか、この魔力。暴走した際に発せられる魔力だ。まるで爆発したみたいだろ?」
「これが....お父様の暴走?」
「なにこれ?止められるの?」
「もうどっちが獣なのか分からないね。これ」
その光景は、今レイナが言ったようにどっちが獣か分からないと言ってもおかしくなかった。
暴走したエリスは目の前の聖獣を大剣を持ち、次々と斬り払っていく。返り血が体に掛かっても、そんな事どうでもいいように進んでいく。
同じ魔王軍の仲間が今のエリスを見て困惑している。そりゃそうだ、急に仲間が理性を失くした獣のようになったんだ。その獣のようなエリスは辺りの聖獣を倒し、次はお前だ、と言わんばかりに仲間を見つめる。
俺は暴走状態のエリスを止めようと、エリスに近づいた。だが、今のエリスを止めようとすれば自分もただでは済まないだろう。
しかし、アランは歩き出した。レイナ、リース、エリカも同様に歩き出す。
その時.........世界が止まった。
いや、止まったと言うよりかは、まるで世界の色が塗り替えられたの方が近い。辺り一面白黒になり、自分達だけがカラーになっている。
「え?アラン、これって.....?」
「落ち着けリース。別にどうってことないさ。」
「<異空間創造>を使われた訳でもないですね。アラン様、一体これは?」
「うーん。なんて言ったらいいのかな?多分もうそろそろ来ると思うよ。あいつが。」
「へぇ。楽しみだね。」
アランは遠くを見つめる。
すると、小柄な少女が歩いてきた。桃色の髪をしていて、身長は小学生のように低い。
「このちっちゃな女の子が、アランの言っていたあいつ?」
「そうそう。よう、久しぶりだな。と言っても知らないか。世界。」
世界と呼ばれた少女は口を開く。
「貴様。あの時に警告した筈だぞ?二度目はないと。だが貴様は現れた。どういう意味だ?貴様とて、大事な仲間を助けたいと思ったがそれは無理だと理解したのではないか?」
「いやいや、ちょっとさあ。試してみたい事があってさぁ。なぁいいだろう?一回だけ、一回だけでいいんだ。見逃してくれないか?」
「ねぇ。あの小さな女の子って何者なの?」
リースが小声でアランに尋ねる。
「信じられないかも知れないけど、あいつは世界そのものだよ。世界の意思って言う方が良いかな?とりあえず、あの幼女は世界。世界はあの幼女って覚えておいて。確か名前は.....」
「ミラだ!」
「あっそうそうミラ、ミラちゃんだよ。」
「ミラちゃんね~。とても世界には見えないけど。まぁいっか、とりあえず写真撮っとこ。」
レイナは収納魔法からカメラを取りだし、幼女の写真を撮る。
まったく、こんな状況なんだから少しは緊張とかしないのかね、うちのレイナさんは。エリカはいつでも戦闘状態になれるようにしているのに。
「紹介は済んだか?」
「ああ。で....俺の提案は呑んでくれる?」
「不可能だ。すぐに立ち去れ。歴史を変えようとすれば、どうなるかはお前も知っているだろう。どうしてもと言うんなら、力を示せ。」
「やっぱりそうなっちゃうか。」
アランは後ろを振り向く。
「みんな、これから世界と戦うことになるけど、準備はいい?」
「オッケー」「勿論です。」「何処までも御供します。」
「それじゃあ、行くぞー!」
「「「おー」」」




