月光に当てられて
二話目
「なっ?どうして...?もう起こらない筈だ。だってあの時にエリカにはあの魔法を掛けた。」
アランはひどく動揺する。理由は簡単だ。エリカのあの目、紅い目が現れると言う事はさっき話した暴走状態になっているからだ。
その体からは、吸血鬼特有の魔力が溢れだしている。
「わた....し...のとうさま..をかえ......せ」
目を紅くしたエリカが、掠れるような声で喋る。
レイナとリースは身構えた。
「ど、どういうわけよ?アランが魔法を掛けて、暴走状態にならなくなったんじゃないの?」
「その筈だ。だが、今まさにその暴走状態になってる。こうなったら、また掛け直すしかない!二人とも手伝ってくれ。」
「当たり前。でも少し難しいと思うよ。あの魔力.....リースも気をつけてね。アランは大丈夫だと思うけど。」
俺は心配無用ってことか。まぁ、そこまで信頼されていると言う事だろう。決して心配して欲しかった訳じゃないからな。
俺はこの家の周りに<周囲魔法障壁>を展開する。
この効果は外からの光景を遮断したり、大抵の魔法を外に漏らすのを防ぐ。
今は夜だし、もしこの町の住人に見られたりしたらさすがに誤魔化しきれない。しかも変な噂が起ったりするとも限らない。
アランが<周囲魔法障壁>を唱えると同時にエリカは収納魔法から黒い槍を取り出し、アランに向かって襲い掛かる。
「そうはさせない<大地獄炎>」
リースは魔法陣を二つ描き、二つの炎が吹く。
だがエリカは顔色一つ変えずに槍を横一文字に斬り、二つの<大地獄炎>を消滅させる。
レイナが咄嗟にリースの前に出て、エリカの槍を受け止める。
ガキンッと言う音が冷たい夜空に鳴り響く。
「後ろがガラ空きだぞ?<強制拘束鎖>」
エリカの後ろにアランが現れる。
アランが唱えるとエリカの地面や上下左右に魔法陣が出来、エリカを拘束しようと魔法の鎖が飛び出す。
ギュイイイインンンと音をたて、エリカの体が拘束される。
これでひとまずは安心したと、この場の誰もが思っただろう。だが.......
「かえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせ」
エリカの魔力が急にはね上がり、魔法の鎖を引きちぎる。
パンッと音をたてて鎖が切れる。その姿はまるで、獣のようだ。エリカは鎖から逃げ出すと空高く飛ぶ。
アランは逃がすまいと<超滅連獄炎>を連発する。
もちろん、加減はしているが俺の配下だったし加減し過ぎてはこっちも危うくなってしまう。
エリカはすぐさま後ろを振り向き、いくつもの<超滅連獄炎>をかき消す。エリカは安心しただろう。
だが、それはアラン一人と戦えばの話だ。
「おりゃー!」と言う掛け声と共にレイナが背後から斬り掛かる。
エリカは咄嗟に槍を後ろに回すが、槍ごと地面に叩きつけられた。立ち上がったエリカは息を「はぁはぁ」とあらげる。
「まだ終わってないわよ。<大地獄炎>」
リースは<大地獄炎>を連発して放つ。
エリカは後ろを警戒しながら、後方に飛んで避ける。横からレイナが奇襲を仕掛けるが、エリカは槍を横にしてレイナの剣を止め、槍をくるりと回しレイナ目掛けて突きを繰り出す。
危険だ、回避しろ、そうレイナの頭に警告が鳴り響く。
レイナは避けようと体を反るが間に合わない。その時だった。アランがエリカの槍を素手で掴み、そのままエリカを槍ごと遠くに飛ばした。
「危なかった。あのまま行けば、今頃レイナの腹に大穴が開いていたぞ。」
「ありがとうアラン。でもこの調子で戦っても、こちらが魔力切れになるだけだわ。何か策を講じないと駄目。」
「そうだな。」
リースがアランとレイナの側まで来る。
レイナは体力を、リースは魔力がもう底にきてしまいそうだ。何とかしなければ..........
アランは目を瞑り、少し考え込む。そして数秒した後、何か思いついたように「よし」と頷いた。
アランは思いついた策を二人に耳打ちする。
「オッケー」
「分かりました」
「よし、じゃあ作戦開始!」
俺はすぐさまレイナとリースに<全身透明化>を掛け、二人をエリカの視界から消す。
エリカは二人が消えると周りをキョロキョロし、何処に行ったか探し出す。
「二人には転移してもらったよ。やっぱり足手まといだからね。君も一対一の方が集中出来るでしょ。」
エリカはアランを睨み付ける。
これって肯定してるって事でいいのかな?うんともすんとも言わないけど。
それじゃあ、ほんのちょっと本気だすか。
アランは収納魔法の中に手を突っ込む。そこから出てきたのは、以前見つけた俺の剣リエスベスタだ。
リエスベスタを見た瞬間、エリカの目が笑ったような気がした。それもそうだろう、リエスベスタは所々錆びていて切れ味も悪そうな見た目をしている。
だが今の戦況にはぴったりだ。切れ味も悪く、主に打撃になるしな。まぁ本気で振れば危ないけど大丈夫だろう。
「さぁ行くぞ。<超滅連獄炎>」
エリカはアランの<超滅連獄炎>を槍で一閃し、その勢いのままアランに突きを繰り出す。
やっぱりこの程度の魔法じゃ止まらないよな。正直、エリカの槍さばきに追いつけるか心配なんだよ。
でも仕方ないか。
アランはエリカの槍を剣で振り払い、腹部に向かって剣を振るう。
だが尋常ない速さでエリカは槍で受け止めた。その速さは、アランでもギリギリ目視出来た。それほど速いのだ。
それからは、アランの剣とエリカの槍がガキンッガキンッと言う音が聞こえ、その姿は達人vs達人だった。
一進一退の攻防が続き、二人は互いの武器で押し合う光景になった。
アランは槍に込められた力を地面に流し、後ろに後退した。
「今だ!」
すると、エリカの背後から透明化していたレイナとリースが現れる。エリカはすぐさま槍で後ろにいるレイナとリースを斬る。
だが、槍は空を斬る。何故なら今エリカに襲い掛かろうとした二人はアランが作った幻影だったのだから。
「本物はこっち(よ)」
本物のレイナとリースは動揺しているエリカを押し倒し、押さえつけた。
その隙にアランは魔法を発動させる。
「<一定魔力沈静化>」
アランが発動させるとエリカの周りに紋様の付いた包帯のような物が現れ、エリカの体を包み込んでいく。
そして包帯のような物が剥がれていった。
そこにいたエリカは穏やかな顔をしていて眠っていた。俺達は一安心し、眠っているエリカをお姫様抱っこし、家に戻った。
扉を開けると執事のイルシュがそこに立っていた。
「イルシュ。この事、知っていたな?」
「はい。知っておりました。今日にでもお話しようと思っていましたが、外から尋常ない魔力を感じ、もしやと思いお待ちしておりました。この度は申し訳ありません。」
イルシュは頭を下げる。
「いや、今はいい。それよりもエリカを寝室まで連れていってくれ。」
イルシュは「はい」と頷き、エリカを連れていく。
その後、俺達は客間に集まった。勿論、エリカの事を聞くためだ。俺は千年前に暴走しなくなる魔法を確かに掛けた筈だ。
イルシュは紅茶を三人分出して、話し始めた。
「少し余計な話が入ると思いますが、ご了承ください。」
「構わない(です)」
「時はアラン様が転生なさった千年前まで遡ります。あの後から話は始まります。」
イルシュが自分の紅茶を注ぎ、口を潤す。
「ちょっといいか?エリカは千年前からもう.........?」
「いえ。ただ、あの時のエリカ様のご様子を伝えておきたいと個人的に思いましたので。あの時のエリカ様は、それはもう大泣きでずっと「アラン様!アラン様!」とベッドで叫んでいました。あの時はとても苦労しました。」
レイナとリースが、アランを見つめる。
いやそれはまぁ、いいじゃんか。な、なんだよ、その目は!俺は何もエリカにしてないぞ!
イルシュはその光景を見て、笑いを堪えている。
「栄養となる魔力瓶の方は、アラン様から沢山頂きましたから問題ありませんでした。」
「ん?ちょっと待ってくれ。エリカは千年もの間、生きていたのか?そうだとしたら、俺が渡した魔力瓶はもう底をついただろう?」
「はい。しかし、勇者が何故か魔力瓶を提供してくれました。今でも提供してくださいます。」
へえ~。あの勇者がねー。と言う事は、勇者も千年もの間生きてたんだ。
普通なら転生とか使うのに。それほどエリカの事が心配だった?そんな理由で?謎は深まるな。
「あの~イルシュさん。どうしてそれが、エリカさんの暴走してしまうのと関係が?」
リースが質問する。
イルシュは「いえ」と言って
「特に関係はありません。すいません、本題に入りますね。エリカ様のご様子がおかしくなったのは、数年前の事です。何か夜になるとベッドから居なくなる事がありまして、ふと気になり、後をつけて見ると............」
イルシュは口ごもる。
「そこには目を紅くした暴走状態のエリカがいたって事か。」
「作用でございます。この状況をアラン様にもお話しようとしましたが、転生したと言うのは分かりましたが場所までは分からず......」
あ~まぁ確かに。数年前なら特に強い魔法も使ってなかったし、魔王学園で魔法を打った時も威力は抑えたしな。
「大体は分かった。にしても、おかしい点があるな。」
イルシュも同意して頷く。
レイナとリースは何の事か分からず、首を傾げる。その様子をアランが見て「ああそうか」と納得し、二人に説明する。
「二人は知らないよな。あの暴走状態って、目で認識出来る範囲に生物がいると無差別に襲い掛かるんだ。だから、まず自分の家にも帰ってこない。この事から、俺が建てた仮説も立証出来なくなった。」
アランは当初、魔王である自分が来たから魔王の魔力と月の魔力が相乗効果を生んで暴走状態になったと考察していた。
「じゃあ、一体原因は何なのよ?」
リースが考え込む。三人も考えるが、なかなか出てこない。
「今ここで考え込んでも分からないなら仕方ない。今日の所はここまでにしておこう。あまり考え過ぎても分からない物は分からない。」
「そうね。紅茶ありがとイルシュさん。」
「礼など必要ありません。」
レイナとリースの二人が扉から出ていく。
「アラン様は今回の件、どう思われますか?」
「どうって言われてもな~。さっき言った通りだ。分からない。だが一つだけ言えるとしたら.........」
「したら?」
「絶対に第三者がエリカに何かした。」
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