飽きたし転生します
なろうで、魔王系が好きなので書いてみました。
・ご注意・
物語の路線が他の魔王系の作品と似ている所があると思いますが、大目に見てください。
神々は恐れ、人々は恐怖し、魔族は尊敬した存在、魔王。この世界に魔王を知らぬ者などいない。俺こと魔王は今現在、本拠地である魔王城にいる。
魔族にとって最後の砦であり人々にとって、難攻不落の城だ。神々にとっては、絶対に手を出せない場所であろう。
その魔王の前に、勇者が立っている。
勇者の名前はテラン。その目には、覚悟しているのが良く分かる。兜をしていて実際には見えないが身に纏うオーラで大体分かる。
俺は椅子に座り、待ち構える。
恐らく、途中で仲間を失ったんだろうな。
この時代では仲間の死はよくある事だが、悲しい物だった。
「魔王、貴様に話がある」
「ん、話?我にか?」
勇者テランは肯定する。
よく見ると、殺気が感じられない。
いつもなら魔王を見つけると殺気をばら蒔いて攻撃してたんだがな。
「魔王、この世界に飽きたのか?」
「ほう?よく気がついたな」
「当たり前だ。ここに来るまでの魔族は弱い奴ばっかだったし、お前の忠実の部下達がいなかった。と言う事は、私に何かを伝えたいんだろうとな」
「おう、その通りだ」
俺は、魔王城の警備を、自分では行動しない適当な魔物にしていた。
俺の忠実な部下に警備させては、勇者テランがここまでたどり着くか分からなかったからだ。
途中で死なれては、元もこうもないからな。
「なぁ、勇者。我は飽きた。この魔族と人間の戦争は、いつまで続くんだろうか?いやどちらか一方が絶滅すれば話は別か。だが、いい方法を思い付いた!」
俺は立ち上がった。
「お前達が恐れているこの魔王」
俺は自分の胸に手を置く。
あぁ、もう飽きたんだ。人間ばっか殺して、神を殺し、仲間を殺され。
そしてお互いが、仇討ちのために殺し合うなんてうんざりだ。
「その首を人間側に渡す。そして俺は転生する、どうだ?」
勇者テランは驚きを隠せない。
まさか自分の首を持っていけ、とは言われると思っていなかっただろう。
「そして、この戦争を終わらせる。その後はこの魔界と、仲良くでもしといてくれ。だが、魔族を見下したりはするな」
「そんな事、出来るとは分からない。実に身勝手な言い分だな。一応、勇者が言えばましになるとは思うけど」
「だから言っている。平和がそこに在るのだぞ、それくらい何とか出来るだろ。なぁ勇者?」
勇者の顔が険しくなる。
「でも、本当に私がその言葉を信じると思うか?」
「もちろんだ。故にお前は、勇者の剣を今手に持っていないしな。もし、本当に信じて無かったら、我はもうこの世にいないだろう。」
勇者はため息を漏らす。
だが、何か嬉しそうな表情をしているように見える。
「はぁ、分かったよ。でも魔族が人間を襲ったら?」
「その時は処罰してよい。まぁ、この事を魔族は大体知っているから大丈夫だろう」
俺は横に付いている窓から魔界の景色を見る。活気溢れた街は今は静まりかえっている。
これが見納めか。
「それでは勇者、俺はもう転生する」
俺は、魔法陣を書いていく。
転生魔法は、魂だけに効果を発揮する。故に魔王の首を差し出せると言う事だ。
「ああ、魔王。いつの時代に転生するんだ?」
「あ~、まずは千年後だな」
「そうか」
ん?何か寂しそうだな。
俺の体から、光の粒が出ていく。
恐らくこれが魂なのだろう。俺も詳しく調べなかったからわからないが、美しいな。
転生したら、その辺も詳しく調べておくか。
「最後に一ついいか?」
「ああ」
「お前の名前は?」
ああ、そういや勇者は知らないか。
毎回魔王と名乗っていたからな。部下達には、教えているが。まぁいいか。別に減る物でもないし。
「俺の名前はアランだ。アラン・イェーデルホルム」
俺の体から光の粒が出ていく。
もうそろそろ限界だな。まぶたが少し重い。
勇者は手を出してきた。
「アラン、千年後に会おう。その時は、勇者と魔王の地位なんか忘れて」
勇者は泣いていた。兜をしているが、涙が床に落ちている。
それが嬉し泣きか、悲しいから泣いているのか、俺はわからない。
俺も手を出して、握手する。
そして、俺の意識が薄くなり、光の粒は魔王の体から出ていかなくなった。
「絶対に会おう。千年後、ね」
勇者は兜を取る、長い艶やかな銀髪が露になる。白い肌、整った顔立ち。いわゆる美少女だ。
それは泣いて目を赤くした少女だった。