刹那の願い
あれから数日後ーー
ある授業中のこと
俺は、いつもの如く暇をもて余していた。
一応、授業中に何も机に置いてないのは駄目かと思って、最近はちゃんとノートを用意している。模範となる生徒を演じなければ。
ルー先生はそのアランの姿を見て、「うん」とうなずく。
すると、小声でレイナが話しかけて来た。
「ねぇ、あなたさぁ。リースに何かしたの?リースってば、何か落ち込んでいるように見えるわよ。」
「確かに、それは私も思いました。」
後ろにいたロントが話しに参加する。
ロントは、あの一件の後「よりアランに近づきたい」と言い、俺の後ろの席に移動したらしい。
「別に何もしてないけど.....」
俺はリースの様子を伺う。
まぁ、確かに言われて見れば落ち込んでいるように見えるな。
下を向いて、悲しそうな目をしている。まるで、絶望したようだな。
「うーん。何故だろう?」
「いっそ、本人に訊いてみたらどうです?」
「でも、こういうのって言いずらいわよね。」
「うーん」
「うーん」
「うーん」
「はいそこ!しっかり話しを聴きなさい!」
しまった、怒られてしまった。
さすがに自分が悪いと思っているから、罪悪感がする。
しかし、どうしよう?
直接「どうした?」と言っても、自分の言いたくない事だったら素直に話してくれないと思うし。
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はぁ、どうしてかしら?
こんなにも希望を抱いたのは?
私は生け贄になる存在なのに、あいつは「どうにかなる」と言った。
そう、あの話しは嘘じゃない。全て本当
覆るのかしら?そんな運命に.....?
憂鬱な気持ちと、もしかしたら覆るかも知れないと思う気持ちがせめぎ合っている。
嗚呼、明日だ。
私がいなくなるのは...........もしかしたら、アランに相談したら.........助けてくれるのかな?
いや、駄目よ。そんな..........
私は学校へ帰って来て、夕食を食べる。
「なぁ、リース。お前、何か悩みでも抱えていないか?」
「え?」
しまった、つい声が裏返ってしまった。
まさか、こんなにもドンピシャで当てて来るとは思わなかった。
どうしよう?言っちゃおうかな?
いやいや、ちょっとまて私。ここで話しても、あの竜には勝てない。アランも強い、でもあの竜の方が強いと思う。
レイナも心配そうにリースを見つめる。
「はぁ、なら聞いて。私ね、ここの所あんまり魔力がうまく扱えないの。それで、最近憂鬱になっちゃって。」
「へぇー。そうか。」
「良かった。そんな大したことなくて。魔力の操作の練習なんて、いくらでも付き合ったあげる。」
私は嘘をついた。
ごめんね、でもこの方法の方がいいと思っている。そんな私の事に付き合う必要はない。
そのまま私は、寝床につく。
何かアランは疑っていたようだけど、バレる恐れはないと思う。
と言うか、アランの目がどこか私の心を見ているかのようで、少し怖かった。
翌日ー
ついに、来てしまった。
今日でこの世界、この人々ともお別れか。
そうよね。生け贄として産まれたのに
「せめて、その年になるまでは自由にさせてもいいんじゃないか?」
と、私の両親は言ってくれた。
アランの家に暮らす事を伝えても、すんなり許してくれたのはそれが理由だ。
あっ、もう行かなくちゃ。
学校は祝日とやらで休みなので、行かなくても良かった。
まぁ、生け贄として行く日がまさか祝日だなんて、縁起が悪いわね。
でもいいのかしら、これで救われる命がある。それを考えると、私の命くらい仕方ないじゃない。
「ん....うっ......」
リースの目から涙がこぼれる。
ああ、やっぱり死にたくないのね。頭では決心ついても、心の中では「生きたい」と思っている。
それでもリースは涙をこらえて、窓から外へ出る。
もしも、ドアから出れば、アラン達に気づかれてしまう可能性があるからだ。
「よいしょっと。ふぅーこれが、人生で最後の朝日か。」
リースは眩しくて、手で日差しを遮る。
そして歩み出す。
リースが歩んだ先は暗い洞窟だった。
場所は、家から遠くもない所で山の中にあった。
竜が住む場所は、リースの家に代々伝わっている。
リースも実際に行くのは二回目だったが、その竜が放つ魔力がひしひしと伝わる。
小さい頃に一回行ったことがあるのは、リースが興味本位で行ったしまったのだ。
その時両親は、血相を変えて「まだ早い!」「お願いだから!」と言って連れ帰ってくれたが、今考えると確かにそうだなと思う。
そしてリースは洞窟の最深部へ進む。
「うっ、ここね。」
リースは気持ち悪くなる。それほど、この空気の魔力が濃いのだ。
「ほう、今回の生け贄は上物だな。」
野太い声が洞窟内に響く。
よく目を凝らすと、そこには竜がいた。
青い鱗を身に纏い、その目は様々な死地を掻い潜った強者のようだ。
いや、実際に掻い潜ったのだろう。
竜は喋り出す。
「そう、畏まるな。どうせは喰われる運命。」
「はい。」
「ふふっ、なんだか今は気分がいい。どうしてだろうな?生け贄が来たからか?」
リースは竜をよく見る。
すると、竜の翼に傷が付いているのを発見する。
竜はそのリースの行動に
「ああ、これか。これは勇者にやられた傷でな。まぁ、もういないが。」
「あ、あの!一つ宜しいでしょうか?」
リースは勇気を振り絞って言う。
「なんだ?」
「何故、生け贄を求めるのでしょうか?」
「不満か?」
「い、いえ。少し気になって。」
竜は「ふんっ」と鼻を鳴らし、話しだす。
「まぁ良いか。今は気分がいいからな。理由は単純だ。我はこの世を支配したい。その為に生け贄を喰い、強くならねばならない。」
「何故?」
「我の前に必ず来るだろう強者のためだ。あの頃に勇者と一度戦ったが、勝てなかった。ならば、もっと生け贄を喰い、また強くなろうと思った。まずは勇者だな。その後はあいつ、アラン・イェーデホルムを葬るとしよう。」
「魔王様を?」
「そうだ。あの魔王は色々と邪魔になること間違いない。最終的には勇者と結託までしよる奴だものな。」
竜は一つ息を吐く。
「まぁ、長い話しもここまでにしよう。さあ、もう終わりの時間だ。」
竜が立ち上がる。
「なあに、苦痛なくしてやる。」
そして、竜は大きく口を開ける。
リースは目を瞑る。分かってはいた。自分はいなくなる事で救われる命があることにも。
生け贄を捧げることが、最善の策な事も。
でも、彼女は願ってしまう。
「お願い、助けて」と
竜は食べようと、口をリースの所へ向ける。
そして口を近づけ竜は食べようとする。
「助けて!」
リースは叫んだ。竜はお構い無しに口を閉める。
だが............
「当たり前だ。いつでもどこでも助けてやる。」
「そうよ。どんな時でもね。」
竜は目を見開いた。
其処には、リースをお姫様抱っこしているアランと、その隣にレイナがいた。
魔王様のグッドタイミング




