真理の解析者
翌日、我ら魔王学園の試合が朝から始まった。
今回の試合は俺は出ないことになっている。理由は、フラングス先輩が俺の代わりに出場したいと申し出たからだ。
あの普段やる気のなさそうなフラングス先輩が珍しくやる気のある目をしていたのでその理由を聞いてみると
「あー、そろそろ俺も研究の成果をお披露目しないと本当にただの引きこもりと罵られてしまうからね。いやはや、研究成果をお披露目するとなると楽しみになってくるねー」
フラングスは嬉しそうに頬を上げた。
フラングス先輩のこんな顔を見るのは初めてかも知れない。
そしてフラングスは壁に設置してある時計を見て「おっともう行かなければ」と楽しそうに自室へ戻っていった。最終チェックでもするのだろう。
俺はみんなと合流しようとはや歩きで観客席へと向かう。
その途中、てくてくと歩くオレンジ色の髪を二つの三つ編みにした少女イリスの姿があった。いつも妹のアリスと一緒だと思っていたが、違う場合もあるのか。一応挨拶くらいはしておくか。
俺がそう思って声を掛けようとした時には向こうもこちらの存在に気付いて「こんにちは」と会釈混じりに挨拶してきた。
「こんにちは。今日は妹さんと一緒じゃないんだね。いつも二人で一人みたいなイメージだったけど、それは偏見だったか」
「いえ、あながち間違っていませんよ。ただ今は別行動を取っているだけです」
「あっ、そなのか」
「ところで、アラン君は今回の試合に参加なさらないんですか?ナルクさんが観客席で楽しみにしてましたが」
「まぁね、今回は別の人が出てくれる予定でね。ナルクには残念だけど。でもリースとーー」
俺がリースとルミナリエは出ると言おうとした瞬間、突如後ろから口封じの魔法を掛けられた。当然すぐさま解除して反撃に出られるのだが、それはしない。
なぜなら後ろにいるのはユウノ先輩だからだ。
後ろを振り向いたアランにユウノは人差し指を口に押し当てた。
「喋るな!」そういう合図だろう。
俺は首を立てに振って同意の合図を送る。ユウノは少し目を細めたが、口封じの魔法を解除した。
「ぷはっ。もう、ユウノ先輩。少しは手加減してくださいよ」
「その言葉、そのままお返しするわ。アラン君、そこの女の子に今私達の情報を横流しするつもりだったでしょ?まったく.............あなたって子は。私がたまたま居合わせたから良いけど、もしチャッカスがいたら殺されかけてたかも知れないわよ」
確かに。委員長ならそこまでして止めていた可能性がある。
「はい....。今後は気を付けます」
「分かったならいいわ。あなたも言葉巧みに情報を引き出そうとしないでちょうだい」
「...え、私はその.....そんなつもりは...」
イリスは動揺しながら否定する。まぁイリスもそんなつもりはなかったのだろうな。
とその時、イリスの向こう側からタッタッタと何者かが走ってくる音が聞こえた。もちろん分かっている。イリスがいるってことはおのずとアリスも近くにいる。
アリスは姉のイリスの事を過剰に気に掛けている。
となればこの状況を遠目でも確認すればすぐさま駆けつけるだろう。
「ちょっと待ったーー!」
「え?アリス!?」
アリスの大声に驚いたイリスは後ろを振り返る。
アリスは全速力でイリスの元にたどり着き、状況を確認してイリスの前に立った。
「あんたらまさかイリスに何かしようと企んでた口?でも残念ね、イリスの側には私がいたことを!」
その自信に満ちた言葉に俺とユウノ先輩は顔を見合わせて何とも言えない表情を作る。アリスはその俺達の表情を見て後ろのイリスの顔を伺う。
「イリス、あんたこいつらに何をされそうになったの?こいつらとぼけた顔してるけど」
「もう、アリス!この二人は別に私を誘拐しようととかしてた訳じゃないのよ。ただアラン君が私に大切な情報を思わず言っちゃいそうになって、その人が止めに入っただけだよ」
その説明にアリスは納得し、戦おうとしていた闘志を消した。
「ふーん.....そうゆう事なのね。ならイリス、そろそろ観客席に戻るわよ。なんか魔王学園の研究マニアの人が試合に出たらしいよ。...............ん?てかその桃色の髪の人って...............<真理の解析者>ユウノ・チェレス?」
アリスがびくびくしながら言うと、ユウノは「ふんっ!」と自慢気に仁王立ちした。
<真理の解析者>?そんな二つ名があったとは驚きだ。二つ名が付くと言うことはそれほど名が轟いているのか。
「そうよ」
イリスとアリスは口をぽかんと開けた。
「うわっ!こりゃ凄い人に喧嘩売ろうとしてた。イリス、こうなったら色々言われる前に撤退よ!」
「あっ、分かったわ。って.....そんなに手を引っ張らなくても.........」
アリスはイリスの手を引き、まるで怪獣から逃げているかのように逃げた(本人は撤退と言ってるが。)
なんか俺達が悪いことしたみたいな状況になっているんだが.......。
とりあえず、絡まれたら面倒な事になるアリスは逃げたしいいか。
それよりも気になるな。
「行ったようね。はぁ、あんな面倒なのに絡まれるなんてアラン君は何かの因果でも持ってるのかしら?」
「いやいやそんな変な因果いらないですよ。それより<真理の解析者>って.........?」
「ああ、その名前のこと?まったく、変なあだ名を付けられたものよね。私の魔法解析力がちょっと高かったからって。でもその力のおかげでここまでこれたってのもあるけどね」
ユウノは喜んでるのか嫌がってるのか判断が難しい表情をした。
そして俺はそろそろ観客席に戻ろうとした時、レイナが手を振りながらこっちへやって来た。
「あー、やっぱりここにいた。さっき戦術学園の子が物凄い速度で廊下を走ってたからもしかして......って思ったけど当たりなようね」
「おっ、レイナ。どうした?」
「どうしたもこうしたもないよ、フラングス先輩の試合がもうそろそろ終わりそうだからアランを連れてこいってエリカから言われてね」
「そうか。それは急がないとな。それじゃあユウノ先輩、また」
「ええ、また。それとアラン君」
「はい?」
走り出そうとしたアランをユウノは引き止めた。二人は不思議そうな顔をユウノに向ける。
「あなたが普通の学生でないのは分かるわ、この解析の力でね。今は私達の害とならないと判断したから何も追及したりしない。でも気を付けなさいよ、私以外にも勘づいた奴がいるかも知れないのだから」
その忠告にアランは表情を一切変えずに言った。
「はい、今後は気を付けます。俺も今の環境に居心地を感じてるので」
そして二人は走り出した。
残されたユウノはぽつりと呟く。
「居心地.........ね。と言うことは私達との関係はこのままずっと続いていくのかもね。ふっ、なぜかしら?一手間違えば滅ぼされ兼ねない橋を渡ってるのにこんなにワクワクするなんて」
結果を言っておくと、フラングス先輩の試合は俺とレイナがたどり着いた時には終わっていた。
うーむ、無念。




