イフンとミネセス
翌日、ホテルの自室で目を覚ましたイフンは隣のベッドにミネセスが寝てる事に対して何とも言えぬ罪悪感を持っていた。
いくら護衛だと言っても、一緒の部屋までしなくても......と言うのがイフンの見解だ。
だが二人の悪魔によってその見解は砕かれた。
そして今日。ミネセスが都市アードゥノアの街に行ったことないので行ってみたいと言い出し、イフンと一緒に行くことに決まったのだ。
横ではミネセスがすやすやと寝ている。
綺麗だなぁとイフンはまじまじと見ている時に「....う...ん?」とミネセスが起き出した。目を擦りながら直立不動になってるイフンを見て「おはよう」と挨拶する。
「あ、うんおはよう」
「しかし.........どうしたんだ?今はまだ6時30分だぞ、約束の時間はまだまだじゃないか。ふぁ~あ」
ミネセスはまだ眠たそうにあくびをする。
イフンは覚めている頭で言い訳を考える。ミネセスとのデートで夜も眠れなかったとか言える訳がない。当のミネセスはデートだと考えていないようだが。
「ちょっと今日はたまたま目が覚めちゃってね。ごめんね起こしちゃって」
「いや大丈夫だ、うーん.....そうだな。このまま二度寝するのも良いが、どうせならイフン、早めに街へ出かけないか?」
予想外な提案にイフンは隙を突かれた。
「街に?さすがに早すぎだと思うけど............ミネセスが言うならいいよ、行こうか」
「そうだな!じゃあ支度したらすぐに出発だ!」
起きたばっかなのにこんな元気な声が出るんだー、とイフンは少しびっくりした。
この予想外な展開にイフンとミネセスのデートを尾行しようとした者達は計画を狂わされたのであった。
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都市アードゥノアの朝はそこまで早くない。
別に漁業を運営している訳でもないし、この都市にはこれと言った産業はない。本当に大会や練習の為に利用する施設が5割を占めている。
残りの2割は魔界最先端の技術を牽引する研究施設、そして最後の3割が商業施設なのだ。
だから朝早くホテルを出たイフンとミネセスはろくに開いてない商店街の通りを気ままに歩いている。だが人はある程度はいるし、ぽつぽつと数える程だが店も開いていた。
恐らく朝早くトレーニングする人達の為だろう。
「ふぅん、ここが都市アードゥノアか。なかなか面白そうじゃないか」
「そ、そう?僕にはあんまり栄えてないように思えるけど...........」
「そこもまた都市アードゥノアの顔なんだよなぁ。まっ、お子ちゃまには分からないか」
ミネセスはイフンの肩に手を回す。その一つ一つの所作でもイフンの胸の高まりはより早くなる。それを気付かずにミネセスはやってるもんだからイフンとしては何も言えない。
そんなこんなで歩くこと二分。
突然後ろから声を掛けられた。その男性は動きやすそうな服装をして見るからに走っている途中だろう。もしかして走る道の邪魔でもしたかな?と考えてると
「君たち、まさかこんな朝早くから観光でもしてるのかな?」
「はい。もちろんそうですけど....」
イフンの答えを聞いたその人は「あー、」と決まり悪そうに頬をかいた。
「なら止めた方がいいかも知れないな。」
「ん?どうしてだ?そこまで治安が悪いんだったら安心してくれて構わない。誰が相手でも私は負けなく自信があるからな」
「あー、いや別に治安は悪くないんだ...........むしろ逆に良すぎると思う。」
自分の思ってた返答でもなく、曖昧な分からない返答に二人は戸惑う。
「ほら、この都市って基本的にトレーニングとか盛んじゃない?だから鍛えたその力を何処かで試したくてしょうがない奴らが結構いるんだよ。もちろんそのおかげで不良とかは減ったけどね............」
「その不良達に向けられていた感情がこちらに向き始めたのか」
「そゆこと。だから君たちも人通りがいっぱいいる昼間に出直した方がいいよ、そうじゃなきゃーー」
「我らのような強さの高みを目指す者達の実験対象になるからな」
急に現れた謎の集団。みんな見た目は筋肉質でよほど毎日鍛えているのが分かる。
着ている服は白くて体より一回り大きいのだが、一発でムキムキなのが感じて取れる。
これが男性の言っていた人達で間違いないだろう。
「くそっ.....間に合わなかったか」
「てことはやっぱりあの人達がそうなのか。ふーん、せっかくのイフンとの観光を邪魔してくれたな。血祭りとまではいかないが、それ相応の対価は支払ってもらうぞ」
ミネセスが怒ってる。ミネセスが不機嫌になる所なんて僕を助けてくれた時にちょっと見たくらいだ。
正直言って嬉しい。そんなに僕の事を気にしてくれた事が。
自然と頬が柔らかくなってるのが分かる。
ミネセスのやる気になった姿に相手達は「おおっ」と闘志全開になる。
「まずは.....っと、<異空間創造>」
ある男が手を上げ、<異空間創造>を発動させる。
目の前の空間が歪んだように見え、灰色の地面がいくつまでも続いてそうな景色になった。
「こうなったのも何かの縁だ、微力ながら協力しよう」
先ほど注意してくれた男性は軽くストレッチをした。
「あー、ミネセス。まさかと思うけど......本気で戦うつもり?」
「当たり前だ。せっかくの時間を邪魔しやがって..........」
「すいません、なら多分助力は必要ないと思います」
イフンは男性に頭を下げる。
その行動に相手達は笑う。ミネセス一人で何になるのだと。そりゃそうだ、見た目は普通の女の子。相手達が舐めてるのは通常の反応だ。
だがその反応は次の瞬間には変わる。
ミネセスが初速トップスピードで相手の集団の中に突っ込み、五人ほどの相手を遠方へ吹き飛ばしたのだ。他の人達はそのあり得ない光景に冷や汗をかく。
自分達は眠っていた破壊神でも起こしたのだろうか、と。
「な、何をしている!?いくら相手が優れた武道の達人だとしても数には勝てん!牽制しつつ包囲するのだ。」
相手達のリーダーのような者は規格外の実力を見せたミネセスに対して迅速に対応する。
筋肉質の男達は言われた通りに魔法で牽制しつつ、ミネセスを中心に包囲陣を敷いた。だが男達は安心していない。怖いのだ、こうやって包囲しても敵わないんじゃないかと。
その不安がより男達の士気を奪っていく。
「数で押したら勝てるとでも......?考え方が甘いね、昔なら数より質がものを言う世界だったのに。これも平和と言う理なのか」
ミネセスはそう言い、拳に魔力を纏わせ男達に突進した。
千年前ならこんな強引な手段はしないのだが、こいつらは多少強引にしても勝てるとミネセスは確信していた。
結果はその通りだ。
次々と巨体の男達は四方八方に吹き飛ばされ、戦意喪失していった。
そして最後に残った一際鍛えてる者との一騎討ちとなった。
最後の相手は「すぅー」と息を吐いて心を落ち着かせながら集中する。一方ミネセスはその様子をめんどくさそうに見て、両手の拳を叩いた。
「いま![魔技][剛拳の嵐]!」
「ならこっちは[魔技][分身攻撃術]」
日々鍛え上げた男の力強い拳がミネセスの目の前にいくつも現れる。その一撃は普通の拳より何倍も重く、強力だろう。
だが三人に分身したミネセスはそのいくつもある拳を華麗にかわす。
「なに!?俺の拳を避けきるだと?」
「一発の拳は強いけど、当てられなければ意味がない!」
そう言いきると同時に三人のミネセスは一斉に男に拳を叩き付ける。
男はミネセスの拳に脳震盪でも起こしたのか、その場でバタッと倒れた。無論、殺していない。他の襲い掛かってきた男達もそうだ。
この圧倒的な状況に何も出来なかった二人は唖然としている。
「助けは.............不必要だったみたいだね」
「あっ、はい。お気持ちだけ受け取ります。なんか.............すいません」
乾いた「ははっ」と言う笑いが<異空間創造>の空間に響いた。




