観戦
「あら、アラン様。ルミナリエより遅いなんてどうかされましたの?」
「まぁちょっとな、戦術学園の奴に絡まれてた。」
「戦術学園?あぁ、あの天才一年揃いの。」
「リース知ってるの?」
レイナに驚かれたリースは戦術学園の現状を説明する。
「そんな人が戦術学園に?だったら結構ピンチじゃないの?」
「確かに。本気で勝ちに行くなら団長も出た方が良いんじゃ?」
イフンは少し慌てた表情になり、アラン達を心配した。
ミネセスも心配しているが、アランは特に問題視していないような素振りだ。
「私はアラン様から別件の仕事がありますから出場していないのよ。」
「別件とは?」
ロントが後ろの席から身を乗り出す。
その別件の話はエリカ以外には説明していなかったっけ。いや、リースとルミナリエには言ったか。
「何かの組織がこの学園交流祭にちょっかいを掛けてくるかも知れないと報告があってな。その対策としてエリカを<魔王学園戦撃委員会>に入れずに、自由に行動させようと思ったんだ。」
「ちょっかいですか..............それはアラン様のお兄様が在籍していると思われる組織なのですか?」
「だとしたら厄介だな。あそこにいる奴らはそこら辺にいる戦闘員より強い。以前、イフンを救出しに行った時に会った戦闘員は強かった。」
「アランのお兄さんが助けに来てくれなかったら死んでいたよ。」
「でもそのアランのお兄さんがいる組織とは限らないんでしょ?」
リースの言葉にアランは頷く。
「リースの言う通りだ。別の違う組織なのかも知れないし、はたまたお兄ちゃんの組織かも知れない。ただ今言える事は、警戒を怠るなってことだけさ。」
「警戒ねぇ。まっ、怪しい奴がいたらそいつをボコせば良いって事でしょ。」
レイナは腕をまくる仕草をした。すべすべとした艶肌が目に入る。
ちなみにテセスとホーネスのダブルスの試合は行われない。俺とルミナリエが三戦中、二勝したからだ。消化試合は行われない。
まずは一回戦を勝ち抜けたと言う訳だ。
明日は魔王学園は試合も組まれていないし、適当に他校の試合でも見るか。
「リース、次の試合はどことどこですの?」
「うーん、確か戦術学園と封麗学園じゃなかったっけ?」
「早くも戦術学園が出てくるとは........見物ですね。」
「あっ、みんなもうそろそろ始まるみたいだよ。第一シングルスは...........ナルク・シュード?」
掲示板を読んだイフンに聞き覚えのある三人は「「「ナルク?」」」と復唱する。
ナルクの名を知らないレイナ達はきょとんとした。
「ん?みんな知ってるの?」
「もちろん。戦術学園のトップエース、戦い方やその素性が分からないにも関わらずこの予選に選ばれている。ユウノ先輩が対策法を考えられなくて嘆いてた。」
「そんな不詳の奴を初手で置いてくると言うことはーー」
「確実にアランを意識してるねコレは。」
レイナはナルクの事を見定めようと前屈みになる。
ナルクは黒よりの青を基調とした<魔法的衣装>を着ている。勿論胸には制服と同じ紋章が印してある。
ナルクの手には二丁の銃。これも<魔法的衣装>の配色と似せている。二丁拳銃と言うことは遠距離タイプか?
だがその情報だけで判断するのは愚考か。実際ナルクは俺が魔法タイプじゃないのかと疑っている。俺が使った騙し戦法を真似てるのかも知れない。
対戦相手は一般的な剣術タイプか。
片手に剣を。そして空いている手には特殊な手袋を付けている。恐らく魔法威力や魔法構築速度を上げる為の魔導具だろう。
試合開始のアナウンスが入る。
「どう戦うのか見物だな。」
そうアランはナルクの姿を見ていた。
相手は初手から<強制拘束鎖>でナルクの動きを封じ、突撃した。
銀色の鎖がナルクの回避範囲を奪う。だがナルクの表情は何一つ変わっていない。
次の瞬間、ナルクは二丁拳銃の引き金を素早く引いた。
その弾丸は<強制拘束鎖>の鎖をすべて撃ち抜いていく。
その早業に相手は驚きを隠せないが、その加速した足は止められない。そのまま押しきろうとさらに相手は加速する。ナルクに銃を撃たせる暇を与えないように。
「おりゃーーー!」
(引き金を引く余裕を与えないのは賢明な判断だがーー)
相手の渾身の剣をナルクは銃を盾にして受け止める。そしてその剣の勢いを右方向に受け流して、相手が体勢を崩した所に蹴りを入れる。
その蹴りに相手は体をくの字に曲げ大きく吹き飛んだ。
「ぐはっ........」
(体術くらいは心得ていると踏んだ攻撃を仕掛けた方がいい。)
そしてナルクはとどめの弾丸を撃ち込んだ。
だが相手も必死だ。苦痛に呑まれそうな体を動かし致命傷となる箇所は避けた。
「.......くっ、....<魔法障壁>」
相手は魔法障壁を展開してもしもの場合に備える。
ナルクは遊んでいるのかはたまた動けない理由でもあるのかまったく動かない。
「アラン、あのナルクって人完全に遊んでるじゃん。さっき見せた早撃ちの技術があれば<魔法障壁>なんて破壊出来るのに。」
レイナが何やら退屈そうに愚痴をこぼす。
「にしても、あの弾丸..。ただの弾丸ごときに<強制拘束鎖>を破壊するだけの威力があるとは思えないな。」
「ミネセスの言う通りね。対魔法性能を上げた弾丸ならあり得るわ。」
「でも恐らく違うなこれは。多分あれはーー」
「自身の魔力を圧縮した弾丸を使用している。ですわね?」
俺の言い欠けていた事をエリカは言う。
周りのみんなは不思議そうにナルクの二丁拳銃を見る。と言っても見た目からは分からない代物だ。ナルクは弾丸を発射する瞬間に魔力を圧縮して弾丸にしている。
今はただの銃だ。
「その通り。ナルクは自らの偏った破滅の力を弾丸に装填してる。俺とおんなじ事をする奴がいたとは驚きだが。」
「でもそんなアラン様ほどの高等な技術をこの時代の生徒が再現出来るとは思えないが.............」
「ミネセスは千年前からの転生者だと疑っているのね。あながち間違いだとは断言出来ない内容ですけれど。」
「でも、もしもナルクが転生者だったらアランに自分が転生して来ましたって報告しないのかしら?アランって同じ名前使ってるんだし。」
「気付いてないふりをしてるとか?」
イフンは首を傾げながら言う。
「それはないんじゃない?だってアランは千年前誰も知らない人はいなかった程、名前を知られてたんだから、気付いてないふりをしようもんなら不敬よ。」
レイナの反論にアランは「一理あるな」と答えた。
「千年前では俺に魔王の座を取られたが、この現代になって新たに自分が魔王になろうとするのはありえる。そういう野心を持つ者もいておかしくない。」
「逆に千年前が異常だったのですよ。あんなにアラン様の元に集うなんて異例中の異例です。それでも反逆者や下克上を狙う輩はいましたけどね。」
「やっぱりいたんだ。歴史の教科書で習ったみたいに。」
「でもあの教科書、結構誇張されて書かれてたからイフンもあんまり信じちゃだめだぞ。例えばアラン様が反逆者の軍勢を指を鳴らしただけで壊滅状態にしたとか嘘だからな。」
「「「「え!?」」」」一斉にイフン、ロント、レイナ、リースが驚いた。
それをクスクスとエリカは笑う。俺は頭を抱えた。
「何を驚いてるんだ?そんな非現実な事などある訳ないだろ。」
「てっきりアランならやってそうだけど。」
「はぁ。あれは罠魔法を無数に張っておいて一度に発動しただけだ。トリックを知ってしまっては造作もない。頑張ればリースだって出来る。」
「えっ......そうかしら...。」
「でも数千の罠魔法を張るのはリースには難度が高過ぎますけどね。」
ちょっと浮かれ気味になっていたリースの心をエリカは落とす。
その言葉にムカッときたリースは「それよりまずはナルクの事を見ていないといけないでしょ!」と怒った。
レイナは「あーあ、怒っちゃった~。」と小声で茶化す。リースは目力を込めた視線をレイナに向けた。
「まぁまぁ、落ち着けって。それより今はナルクの情報を得る事に集中しないと。」
俺はリースを宥める。正直こんな事で怒るか?と思う所もあるが、人それぞれかそれは。
現在、試合はナルクが一方的に押している状態だ。相手はもはや根性で戦ってるようなものだろう。だがそんな防戦一方の状態も終わった。
最後の気合いを込めた剣撃をナルクは華麗にかわし、相手の胸に向けて銃の引き金を引いたのだ。
すぐさま試合終了のコールが会場全体に鳴り響く。
その時のナルクはアラン達の方向を見て小さく頷いたように見えた。
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