魔王
あんなに感じた圧迫感はなんだったんだろう、という目の前の光景にランベルトは笑うしかなかった。
「ランベルト、ごめんね。意地悪しようとしんたじゃないのよ、ちょっと試しただけで。」
「言い訳はいりません。」
「はい!」
いつの間にかランベルト呼びになっている。
マクシミリアンとセシルを身近に感じる。
「僕も貴方達を名前で呼んでいいかな?」
「もちろんよ、セシルとマクシミリアンよ。」
セシルが飛び起きて答える。
「貴方達はとんでもない魔力をお持ちのようだ、それは隣国の魔術師など足元にも及ぶまい。」
そう、魔族のようだと思う。
「魔王。」
ランベルトの口からでた言葉はそれだった。
セシルとマクシミリアンはランベルトを否定もせずに見る。
「魔王マクシミリアン。」
「違う!!ちがーーう!!!」
セシルが飛び出し、自分を指してアピールしている。
「私、私が魔王!」
「嘘だろう。」
魔王の名前はマクシミリアンと噂があるのだ。
それに、どう見たって、セシルは魔王に見えない。
魔王より天使という容姿なのだ。
「ほら、約束を破るから魔王に見てもらえないんですよ。」
マクシミリアン、それ違うから。
「魔王は魔族の手本となるべく、謙虚に誠実、堅実、清貧、清楚であるべきです。」
ランベルトは聞いた言葉を疑う、本人達は魔族と言っているが。
「本気で言っているのか?」
ランベルトが問いかけるが、マクシミリアンは真剣である。
「当たり前です、王は人民の手本です。
魔族とは貴方達が勝手につけた呼称であり、自分達に都合のよい存在にしたいだけだ。
我々にとって力の差は歴然、まともに取り合わないのが普通です。」
そうだ、魔族の姿を見たものはいない、なのに噂だけがでてくる。
「はい。」
セシルが手を伸ばしてきて、思わずその手を握り返した。
「これで、オデッセア女王と未来のトアルコ王で友好条約が結ばれたわ。」
そうだ、僕は未来の王なんだ、僕が切り開けばいい。
「セシル・オデッセア、オデッセア王国の女王。貴方達が魔王と呼ぶ存在よ。」
「マクシミリアン・アスラフェフ・イヴァン・シュレンガー・ブルーノーツ、宰相をしている。爵位は公爵だ。」
「マクシミリアン長すぎーーー、女王様より長いってどうなの?」
「トアルコ王国、王太子ランベルトです。僕達は間違っていたんだろうか。」
「遥か昔はそういう時代があったと聞いたけど、時代は進んでいくのよ。」
これから良くなればいいのよ、とセシルは笑う。
「さあ、本題に入りましょう。この公爵家で起こっている事を調べましょう。
それが我々の汚名を晴らすことになりますからね。」
「ね、ね、マクシミリアン真面目すぎ、ここは感動シーンだったのよ。」
「セシルはプリンの方が感動するでしょ。」
聞いているランベルトも情けなくなってくる、この二人はこういうものだと思う事にした。魔族のイメージは木っ端微塵にくだけ散った。
「こちらです。ここの地下の部屋に子供達がいます。」
「確かに複数の生命体を感じるな。」
「ね、顔見られていいの?」
3人はランベルトの案内で、ランベルトが子供を見た場所に来ていた。
「今は、こっそり見るだけです。事情が分かってから解放しましょう。
公爵家の大きなスキャンダルになれば、ランベルトは王太子でいられなくなる。
出来るだけそれは避けたい。」
それを聞いてセシルが口を閉じる、バレないようにしているらしい。
「貴女を見ているだけで幸せですよ。」
マクシミリアンが小さく笑いながら言う、全くだとランベルトも思った。
子供達は食事も与えられ、部屋に閉じ込められているだけのようだった。健康に問題があるようには見えなかった。
「子供達は後で問題なさそうですので、原因を探りに行きましょう。
ランベルト、妹さんの部屋に案内してください。」
「妹の部屋には魔術がかかっているらしく近寄れないのです。」
「魔王様がいるのよ、お任せ!」
幼女が偉そうに胸張っている、後ろに転げそうだ。
その場の緊張感がなくなり、マクシミリアンとランベルトが顔を見合わせて笑っている。
「マクシミリアンの魔力なら何だってできるから、部屋の中に入れるわ。」
「セシルは魔力は強いし豊富なんですが、使えないんですよ。」
マクシミリアンが笑いながら説明する。
「実践向きじゃないだけよ、念話ぐらいなら凄く遠くても飛ばせるわ!」
ほらほら、とマクシミリアンがセシルを抱き上げる。
「歩くのはマクシミリアンの方が速いから、落ちないようにしがみついてあげる。」
小さな手がマクシミリアンの身体に回されて、マクシミリアンが幸せそうに笑っている。
二人の姿はランベルトに、魔族というのは人間が作った幻想を当てはめたのだろうと思わせた。