鏡を探す道
商家に鏡があるかもしれない、というのは気になるが、その商家の前をセシルと一緒に歩いてもセシルには何の変化もなかった。
もっと近づかないとダメなのかもしれないが、無駄であろうとわかっていた。
それよりも子供の誘拐事件が気になる。
宿の部屋で街の地図を広げ誘拐場所を確認する。
大きな事件なので情報はすぐに集まった。
子供は5歳から10歳まで、貧しい家の子もいれば裕福な家の子供もいる。
そして女の子という以外の共通点がある、年も生活もそれぞれ違うが髪がブロンドなのである。
魔族に攫われた、そう言えば何もかもが納得させられる。
「イヤな世の中ね。」
セシルが呆れて言う。
「まったくですね、魔族のせいにすれば有耶無耶になって終わるというのでしょうか。
気分転換に出かけませんか、美味しいケーキ屋があるそうです。
お土産にはクッキーを買って夜に宿で食べましょう。」
キャーと歓声をあげてセシルがマクシミリアンに抱きつく。
「マクシミリアンだーーい好き。」
階段を下りて宿の出口に向かうと後ろから宿屋の女将が声をかけてきた。
「おや、お出かけですか、夕飯はどうされます?」
「ケーキを食べに行くの!夕飯までには戻るわ。」
セシルがケーキ屋に行くのを言いたくて仕方ないらしい。
「ちょっと遠いけどハンズのケーキは果物がたくさん使ってあるからお嬢ちゃんにいいですよ。
でも人攫いには気をつけてくださいよ。」
はーい、とセシルが手を振って宿を出る。
「ちょっと遠い方が手を繋いで歩くのにいいですね。」
マクシミリアンがセシルの手を取り、恋人繋ぎしてくる。
ボンッと音がしそうなぐらいセシルの顔が真っ赤になった。
あはは、とマクシミリアンが笑うのをセシルが反対の手でつついている。
幼児でさえなければ、仲睦ましい恋人同士である。
店には迷うことなく着いたが、トラブルがあった。
途中に浮浪者のような子供がいたのだ。
セシルはその子に近寄ると手を取りそっと銀貨を握らせた。
もう何日も水浴びさえしてないだろう身体からは匂いが漂っている。
「大人に見つからないようにしまいなさい、何日かは食べていけるでしょう。」
その子はすぐに逃げ去ったがそれを見ていた大人がいたのだ。
「お嬢ちゃん優しいなぁ、俺らにも分けておくれよ。」
見るからに街のゴロツキどもである、5~6人はいようか。
「綺麗な兄ちゃんもいるじゃないか、こりゃいいや。」
「セシル、私にしっかり掴まっているんだよ。」
マクシミリアンはセシルを片手で抱き上げると男達に向き合った。
力を出しすぎないようにしないといけない、ほんの少しの魔術だけでいいだろう。
マクシミリアンの手の動きに合わせて、まだ距離のある男達が浮き上がり地面に叩きつけられた。
「うわぁ!魔術師だ!」
男達が逃げ出すと、見ていた街の人々から拍手が起こった。
「あいつらには困ってたんだよ!」
「あー、気持ちよかった!」
「うちも言いがかりをつけられて困ってたんだ。」
「すごいね、兄さん、偉い魔術師かい?」
マクシミリアンはヒーロー扱いである。
「うちのマクシミリアンはすごーく強いんだから!」
セシルが鼻高々に自慢する、原因はセシルにあるが今さらである。
「セシル、気持ちはわかりますが他国の干渉はよくありません、あの子達だけに施しても仕方ないんです。」
「うんうん、わかってます。でも我慢できなかったんだもん。」
ごめんね心配かけて、とセシルが言うとマクシミリアンも仕方ないですね、と終わる。
マクシミリアンは周りにいる街の人たちに声をかける。
「当分は幻影が見えるようにしましたが、しばらくしたら切れるでしょうから、困った事があれば役人に相談してください。」
周りからかけられた声に対応しているらしい、真面目すぎる。
「ここの役人は私達の苦情なんて聞いてくれませんよ。」
「他国人の私では役にたてませんが、それではご心配がつきませんね。」
ちゃんと返事するマクシミリアン、その間セシルはケーキ屋に行こうと手を引っ張っている。
ケーキ屋の前には立派な馬車が止まっていて、中から立派な服の青年が降りてきた。
「先程のいさかいを見ていました。少しお話がしたい。」
金糸のモールで縁取られた飾り襟の服を着ているだけでもかなり高位の貴族であろう。
「あー、いいけど、ケーキが先。ケーキ食べながらね。もう我慢できない。」
明らかにマクシミリアンに話しかけているのに、返事したのはセシルだ。
青年が驚いている、幼女のセシルが取り仕切っているのだ。
しかも、さっさと店に入って3人の席を用意させている。
「仕方ありません、セシルが貴方との話を許したようですから、中に入りましょう。」
セシルが早く早くと呼んでいる席に、マクシミリアン、謎の青年と座る。
「お腹空いたから、2個食べていい?」
「セシー、夕飯が食べれなくなります。私のを味見させてあげますから選んでください。」
青年は二人の様子に驚くばかりだ。
マクシミリアンは、青年に顔を向けると自己紹介を始めた。
「私はマクシミリアン・ブルーノーツ、こちら婚約者のセシルです。
この街には、古い鏡を探しに来ました。
私達の故郷では結婚に古い鏡を奉納するしきたりがあるのです。」
「婚約者ですか、ああ、確かに貴方からは気品を感じます。
その美貌だ、さぞ由緒のある家柄なのでしょう。」
幼女のセシルを見て、政略結婚だと思ったらしい。
「申し遅れました、僕はランベルト・フォン・リンドソーズ、公爵家の嫡男です。」
「セシルは絶世の美女に育ちますよ、私など足元にもおよびません。」
ランベルトがマクシミリアンの美貌を言ったことが引っかかったらしい、実際に大人になりかけのセシルを抱いている、それはとても美しい少女であった。
「失礼しました、決して彼女を貶したのではありません。」
「リンドソーズさん、ケーキは何にしますか?」
空気は読んでも気にしないセシルが聞いてくる。
「注文しないと遅くなっちゃう。
私はこれで、マクシミリアンはこれね。リンドソーズさんは?」
この3人の上下関係はセシルが最上位のようだ。
一番年上だから仕方ない。