マクシミリアンの憂鬱
魔族の中では、セシルは恋をするまで子供の体型だと思われています。
そういう能力のあるものがいるからです。
私はマクシミリアン・アスラフェフ・イヴァン・シュレンガー・ブルーノーツ。
長すぎる名前で皆が間違えて覚える。
ブルーノーツ公爵で宰相をしている。
157歳
セシーより48歳年下なのが悔しい。
セシーは、何も出来ない癖に年上なのだ。
幼児体型で魔力も下手くそで、考えなしの行動をして、怖がりで、よく泣いて、プリンが大好きで、私に直ぐ頼る、甘えん坊で、よく笑う。
第一に腹が立つのは、いつまでも幼児体型な事だ。
私に恋すれば、直ぐに母親と同じボンキュボンに成るはずなんだ。
私のどこが不足なんだ、魔力は飛び抜けているし、魔界を動かしている頭脳、どんな美女より麗しい容姿。
確かに生まれて直ぐの頃にセシーが先に大人に成らないように成長を止める魔術をかけたが、もう切れているはずた。
48歳年上のセシーが先にボンキュボンに成ったら他の男に取られてしまうからな、赤ん坊ながら正しい選択をした。
仕方ない休みを捻出してセシーを森の湖に連れていってやるか、暇してたからな。
セシーはサーモンとチーズのサンドイッチが好きだから作ってやろう。
また手伝いたがるだろうな、挟みやすいようにサーモンは小さく切らないといけないな。
お手伝いのエプロン姿は可愛かったな、ボンキュボンでなくともいいか。
バスケットを私が持ってセシーには昼寝用のブランケットを持たせよう。
「マクシミリアン、寝れないの。」
お昼寝が出来ないセシルが執務室に入ってきた。
「仕方ないな、おいで。」
マクシミリアンは書類を集めると動かなくても仕事ができるように準備して椅子に座った。
その膝の上にセシルが登ってきた。
マクシミリアンがセシルの髪をなでるとほどなく寝息が聞こえてきた。
どこから見ても親子である。
しかも、背の高い母親に見える。
マクシミリアンは美女も霞む美貌の持ち主なのだ。
セシルは涎を垂らして熟睡している、マクシミリアンは仕方ないなとハンカチで拭いて胸に抱きかかえた。
この母親体質がセシルから男性に見られない一因だとは周りは思っている。
「宰相。」と補佐官が部屋に入ってきたが、女王が昼寝中を見て声を落とす。
宰相室ではありふれた風景なのだ。
「寝顔は天使ですね。」
おいおい、お前達魔族だろうと思うが、
「起きていても天使だぞ。」
と答えているから当人達は気にしていないらしい。
「宰相、最近人間たちの間で怪しいものが流行っているらしいですよ。」
「ふむ、怪しいとは。」
「魔界の植物です。人間には効きすぎるのが流行っているんです。」
「密猟か。」
「魔界に協力者もいるかもしれません。」
「魔の手に落ちるとは、情けない魔界人がいたものだ。」
おかしい、魔界という名前に不似合いな会話が続く。
人間と魔族は圧倒的に力の差がある、対峙するのも馬鹿らしくなった魔族は人間を無視しだした。
元は同じ人間であったが、魔力の強い者が集まり魔族と呼ばれるようになった。
そして独自進化をしたのだ、自分達の能力をさらに高めることに没頭した結果、さらに力の差がついた。
姿形が同じだけで、人間と魔族には能力の大きな違いがあり、ライオンと猫程の違いがある。
魔力の強まりと共に寿命も長くなり、周りの木々や動物も影響を受けた。
魔族の暮す魔界は魔力の影響で人間界とは別世界となっている。
魔族にとって悪は簡単なことなのであり、その簡単な事はつまらなくなった。
自分達より格段に能力の劣る人間を騙す、誑かす、貶める事が楽しくないのだ。
そうして長い年月が過ぎるうちに性質自体が変わったのかもしれない。
魔族とは名ばかりで優良な人々ができあがったのだ。
自分達とは異質であった者を人間が魔族と呼んだだけなのである。
魔族は変わったのに、人間の方は相変わらず魔族を悪者にしている。
同じように時間は過ぎているのに進歩していないということである。
誰か人間の国に偵察にやるか、私が見に行ってもいいな。
「マクシミリアン、おはよう。」
「起きたかい、セシー。オヤツを運ばせよう。」
もぞもぞとセシルがマクシミリアンの頬におはようのキスをする。
マクシミリアンもキスをしている、しかも口にだ。
これでどうして両思いでないのか、周りには不思議である。
全てはセシーが成長しない、これに尽きる。
「来週、森にサンドイッチを持ってピクニックに行こう。
久しぶりに湖の妖精達に会いに行くのもいいだろう。」
「マクシミリアン、大好き。」
「愛しているよセシー。」
マクシミリアンとセシルは婚約者だ、だがいつまで経っても結婚できない。
セシーが幼児のままで止まっているからだ。
セシルは楽しみで仕方ないようだ、アキに何度もサンドウィッチの作り方を聞いている。
「マクシミリアンは玉子のサンドイッチが好きなの、大人なのにね」
クスッと笑う顔は恋する乙女だ。
これで何故に成長しない。