魔王と勇者の対決
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毎日、ご馳走に綺麗なドレス。
魔王こと魔界の女王セシルは暇をもて余していた。
父がセシルの為に全ての基盤を整えて譲位したからだ。
優秀な役人達のおかげで、何もすることがない。
居なくてもいいのでは、と常々思っている。
父も死ぬまで王様していればいいものを、ボンキュボンの母と遊ぶ為にセシルに王位を押し付けたのだ。
母のように育つはず、父のように魔力溢れるはず、予定は未定である。
真面目な部下達が今日も魔界を回している。
宰相を筆頭に勤勉、実直、公正、彼等の為にあるような言葉である。
だが、ここは魔界、セシルは魔女王である、どこかが違う。
今日こそは悪の女王になってやる、とセシルはオヤツを持ってきた侍女のアキに言った。
「毎日同じものばかりで、どういうつもりかしら。」
「とうとう飽きたのですね。」
アキは嬉しそうにオヤツを下げた。
あ、今日のオヤツが無くなってしまう、大好きなキャラメルプリン。
「シェフもたまには違うもので腕をふるいたいと喜びますわ。」
そうだった、毎日プリンがいいとごねた記憶がある。
アキはお茶を入れ始め、プリンはワゴンに下げられてしまった。
「それは明日からでいいわ、今日は食べてあげるから。」
「女王様、無理してはいけません、好きな物ばかり食べてますと飽きてしまいますし栄養が偏ります。」
何故に魔族のくせに栄養管理までする。
「クッキーがありましたのでが頂いて参りますね。」
大好きなプリンは出戻ってしまった、セシルはすでに後悔していた。
女王セシルは膨大な魔力を秘めているが簡単な魔術しか使うことができない。
女王セシルは妖艶な母そっくりだが、幼児体型で止まっている。
女王セシルは神童と言われた知能の持ち主だが実践向きではない。
女王セシルはヒマを持て余しているが冒険する勇気はない。
女王セシルは深窓の令嬢を目指しているが健康優良児でよく笑う。
「え?
また勇者が来たの?」
数十年に一度の割合で勇者が魔王を倒しに来る。
ほとんどの勇者は洗脳され、魔王を倒した気になって帰って行く。
好奇心に負けてセシルは勇者がいる広間を覗きに行った。
そっと覗いたつもりなのに大きな音をたててしまい、勇者に見つかった。
「誰だお前は!」
勇者はクマであった、いや熊のようにいかつい男だった。
だが、勇者の連れはイケメンである。
クマよりイケメンがいいのは本能だ。
「こんにちは、セシルといいます。」
もちろんクマは無視でイケメンに挨拶する。
「ここに来るまで魔族に一度も出会わなかったんだが、ここは魔王城であっているかな。」
セシルはウンウンと頷いている。
「どうして誰もいないか知っている?」
「無用な殺生はよくないって、先生が言ってたからじゃないかしら。」
「難しい言葉を知っているね、セシルはいくつかな?」
にこっと笑って片手を開き、もう片方の手でブイをする。
「7歳か、賢いね。もっと小さいかと思っていた。」
違う、205歳だが、年を言いたくないのは女性ならばどこの世界でも同じ。
せっかく若く思ってくれてるのだ、真実を言う必要はない。
しかも何気にコンプレックスの幼児体型を指摘してくる。
「貴方は?」
「僕はイザーク・バンダイン。魔術師だよ。25歳だ。」
おお、180歳年下ですか、年上女はダメかな。
「おい、イザークそんな子供にかまってる時間はないぞ。」
「この子以外、いないじゃないか。」
「あ、あのケンカはいけないわ。お茶にしましょう、すぐ用意するから待っていて。」
もちろんセシルにそんなことは出来ない。
セシルの影の中から話を聞いていた魔族たちが準備するのだ。
「こちらにいらして。」
セシルはイザーク達を隣の部屋に案内した。
そこにはお茶の準備だけでなく、軽食まで用意されていた。
「これは?」
「お疲れではないかと、用意したのです。」
クマ男がさも危険な食べ物のように手をヒラヒラさせる。
別に貴方に食べてなんて言わないです!
「大丈夫だ、これには毒は入ってない。安心して食べよう、マクシモヴィ。」
クマはマクシモヴィと言うのか、やはりクマでいいなとセシルは思う。
イザークは魔術師としては中々ではないか、毒の有無を魔術で確かめたぞ。
「ポットは重いから、貸してごらん。火傷すると大変だ。」
イザークがお茶を入れようとしたセシルからポットを取り上げる。
完全に幼児扱いだが、セシルには女性扱いを見える。
「どうしてセシルしかいないの?」
「さっき言ったでしょ、殺生はよくないからよ。
貴方達が魔王を倒そうとすると戦わないといけないもの。
貴方達を殺しちゃうわ。」
「僕達は勇者と魔術師だから、簡単に殺せるほど弱くないよ。」
「だって貴方達、皆ここにいるのに見えないのでしょ。貴方達に感知できない魔術をかけているだけだもん。」
セシルが空になったカップを差し出すと、ポットが浮いてお茶を注いだ。
ぎょっとしたのは勇者と魔術師だ。
「どうして魔王を倒すの?」
反対にセシルが聞いてきた。
「魔王が悪い事ばかりして皆が困っているからさ。報償金も出ている。」
「魔王はそんな事しないわ、第一人間の国に興味ないもの。
悪い事する人が魔王のせいにしているだけよ。」
「セシルはよく知っているね。」
「魔族なら誰でも知っていることよ。」
「そうか、帰るよ。」
「おい、イザークそれでは報償金が手に入らないぞ。」
「マクシモヴィ、僕達は勇者だ、魔術師だとおだてられていい気になっていたが、ここでは歯が立たないよ。」
パチンとイザークが指をならすと侍女のアキと侍従のモロゾフの姿が見えた。
モロゾフは警護も兼ねている。
「貴方中々ね。」
「ヒントをもらったからね。」
クマは剣を取ろうとしたがイザークが手で制した。
「マクシモヴィ、無理だよ。レベルが違うのがわからないのか。」
「報償金がないとミアと結婚式を挙げれないじゃないか。」
あれ、話が変な方向へ行ったぞとセシルは興味津々だ。
「ミアはただの幼なじみだ。」
イザークが言うとマクシモヴィが食って掛かる。
「ミアはお前が好きなんだ、結婚するべきだ。」
「僕はどうでもいい。マクシモヴィの方がミアを好きなんだろう。」
「でもミアはお前がいいんだ。」
そうだろうな、イケメンとクマ。能力もイケメンの方が高い。
「僕はここに残るからマクシモヴィだけ帰れよ。ミアはしつこいから。」
どうやら三角関係らしい、ミアはどっちとも関係しているのか。
はあ、とセシルはため息をついて呼んだ。
「マクシミリアン。」
「どうしましたセシー。」
目の前に男が突如現れた二人はびっくりして会話を止めた。
「飽きちゃった。」
「おやおや、久しぶりの客でしたのに、困った子ですね。貴女の退屈凌ぎにもなりませんでしたか。」
マクシミリアンと呼ばれた男はセシルを抱き上げると二人の方に向いた。
「セシーのお昼寝の時間なのでお帰りください。」
えっ、と勇者と魔術師は思ったが、一瞬で魔界の入り口と言われる森の外にいた。
1週間前に自分達はここから魔界に入ったのだった。
それから僅かな間に魔王の名前はマクシミリアンだと密やかな話が流れた。
間違った情報だが、あの状態では誰が見てもマクシミリアンが魔王に見える。