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7 すべからく

2017年5月29日の活動報告を一部加筆修正したものです。

 「すべからく」は本来とは違う意味で使われることが多く、しばしば「誤用」の例として取り上げられる言葉です。


 Weblio辞書(三省堂『大辞林』)では、


『(副)〔漢文訓読に由来する語。「すべくあらく(すべきであることの意)」の約。下に「べし」が来ることが多い〕

ぜひともしなければならないという意を表す。当然。 「学生は-勉強すべし」 〔古くは「すべからくは」の形でも用いられた。近年「参加ランナーはすべからく完走した」などと,「すべて」の意で用いる場合があるが,誤り〕』


と書いてあります。


 私は以前は「全て」の意味で使われていてもあまり気にならなかったのですが、「すべからく」は中国語の“须”だと認識したら、どうも「全て」という意味で使われるのに違和感が拭えなくなりました。だって“须”と“都”じゃ全然違うし……。


 まあ「すべからく」については今まで色々な人が色々なところで語っているので、今さらな感じですが、元は漢文訓読から来ている語だということで、日本語と中国語を比較してちょっと考えてみました。



 中国語の“须”の意味は、上述の日本語の「すべからく」と同じなのですが、一応中日辞典も引いてみます。(電子辞書に入っている小学館『中日辞典』より)


『…しなければならない。…すべきである。』


 この助動詞以外に名詞、動詞の意味も載っていましたが、省略します。

 以下の用例は小学館『中日辞典』から。


(1)须作出很大努力。/大いに努力しなければならない。



 さて、“须”は当為のムードを表す助動詞です。


 「当為のムード」とは何かというと、くろしお出版『基礎日本語文法―改訂版―』によると、「ムード」とは『事態や相手に対する話し手の判断・態度を表す文法形式』を指し、「当為のムード」とは『ある事態が望ましいとか、必要だ、というように事態の当否を述べるムード』とされています。

この辺を詳しく説明すると長くなるので、割愛します。


 話を戻して、“须”は当為のムードを表す助動詞なわけですが、中国語のムードは助動詞に表れることもあれば、副詞に表れることもあります。助動詞としては、“须”と同じく当為のムードを表す“应该”などがありますし、副詞としては概言のムードを表す“大概”(「たぶん」の意)などがあります。

 以下の用例も小学館『中日辞典』から。


(2)大家的事情应该大家办。/みんなの事はみんなでやるべきだ。

(3)现在去的话,大概已经来不及了吧。/今から行ったのではたぶんもう間に合わないでしょう。


 一方日本語では普通、ムードは述語の活用形や助動詞などによって文末に表れるとされています。

上の用例の日本語訳では、「べきだ」や「でしょう」がムードを表しています。

 日本語のムードは副詞には表れないのです。

 じゃあ上に出てきた「たぶん」は違うのか、というと、これは陳述の副詞です。陳述の副詞というのは、文末のムードの表現に呼応する副詞のことで、『基礎日本語文法』には、『文頭に近い位置に現れ、文末のムードを予告する働きを持つ』と書かれています。

 上の“大概”は「たぶん」の意味だと書きましたが、より精確に言うなら「たぶん…だろう」と、「だろう」の部分まで含みます。(なお、文末の“吧”にも推量の語気が含まれます)


 日本語のムードは文末に表れるもの。そういった日本語の性質から、「すべからく」という副詞ではムードを表し難い、あるいは感じ難いため、下に「べし」を伴うことが多くなっているのではないかと思います。


 というか、当為のムードを表すという働きに重点を置くなら、中国語の“须”は日本語の「…すべきだ」に相当すると言えるでしょう。“须”は「すべからく」と読まずに、文末の「べし」だけで良いのではないかと思います。例文(1)の『大いに努力しなければならない』を見ても分かるように、自然な日本語に訳す場合は「すべからく」等の副詞は使わないことが多いです。

 ただ、漢文訓読は翻訳とは違うので、「須」を訓読しようとしたらやっぱり「すべからく」とするしかないのでしょう。



 もう一つ、文化庁のサイトの「すべからく」に関する記事で、小学館『日本国語大辞典』の「すべからく」の意味が載せてあったので以下に一部引用します。


『サ変動詞「す」に推量の助動詞「べし」の補助活用「べかり」のついた「すべかり」のク語法。』


 って、「すべからく」の中に「べし」が含まれてるのに、文末でまた「べし」を使うのって、なんか変じゃないですかー。


 “须”をなんとか日本語にしようとした結果なのでしょうね。

 「すべからく」の扱いづらさの根底には、このように日本語と中国語でムードの表れる部分が違うということがあるのではないか、なんて考えてみました。

【参考文献】

益岡隆志、田窪行則(1992)くろしお出版『基礎日本語文法・改訂版』

小学館『中日辞典』

文化庁 文化庁月報平成24年7月号 連載「言葉のQ&A」「すべからく」の使い方

http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2012_07/series_10/series_10.html

weblio辞書 https://www.weblio.jp/


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