表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

5 書き言葉の話し言葉化

 小説家になろうでは、文章作法についてエッセイ等で色々と書かれることがよくありますね。句読点の打ち方や誤字脱字、顔文字について等々。その多くは、従来の作法に則らない文章に批判的な内容です。

 私もそういった文章は読みにくいと感じるのですが、最近この問題について考えることがありました。



 前回のKY語についての回で参考にした北原保雄氏の著書『KY式略語―ローマ字略語がなぜ流行るのか』の中で、KY語が氾濫する背景について書かれた部分に、「書き言葉の話し言葉化」というものがありました。以下に引用します。



『携帯電話のメールやインターネットについて注意しておかなければならない重要なことがある。それは、その普及が「書き言葉」の「話し言葉」化を促進したということである。(中略)最近の若い人たちの携帯メールやチャットにおけるやりとりでは、「話し言葉」そのままを書いて送る習慣がついているようである。その結果、不完全な「書き言葉」にも慣れてしまっている。』


 引用ここまで。



 書き言葉は、インターネットが普及する以前には、紙媒体の書籍や手紙などで使われるものでした。そういう場合、読み手が書かれた文章を読んで意味が分からなかったりした時に、書き手に確認するのは困難で、また時間がかかることが多かったでしょう。そのため、書き言葉は、極端に省略したりしない完全な文にする必要がありました。

 しかしネットの掲示板やメール、チャット、今ならLINE、これらの登場で、書き手と読み手のやりとりがほぼ即時的に行われるようになりました。音声での会話と同じように、文字で会話をするようになったのです。

 音声での会話というのは、相手が何か言ったら普通はすぐに返事をしますよね。文字による会話でも同様で、素早く入力する必要があり、そのため次第に省略され、誤字脱字や文法的な不備があってもあまり推敲はされず、不完全な文になっていったのです。そして、不完全な文だったとしても、読み手はすぐに書き手に確認することができるので、問題はありません。こうして、書き言葉が話し言葉に近付いていったのです。



 「書き言葉の話し言葉化」について現状を考えると、ビジネス等の改まった場面では従来の完全な書き言葉が使われ、ネット等での気軽なやりとりの場面では不完全な書き言葉が使われることが多いというように、二つの書き言葉が共存し、使い分けられているようです。私自身も普段は不完全な書き言葉も使いますし、時と場合で使い分けています。



 かつて日本語では言文一致運動が起こり、書き言葉は文語体から口語体へと変わり、話し言葉との差は小さくなりました。今、インターネットの発達に伴い、書き言葉はさらに話し言葉へと近付いています。また、顔文字等の記号を使った、従来の書き言葉とも話し言葉とも異なる、新たな表現も増えています。



 ここで冒頭の文章作法の話に戻ります。

 小説家になろうに掲載されている作品など、所謂「web小説」というのは、「小説」の一形態という側面を持つと同時に、「インターネット文化」の一形態という側面も持っていると言えるのではないでしょうか。

 そう考えた時、従来の文章作法に則っていなかったり、スラングや顔文字を多用したり、不完全な書き言葉で書かれたりすることは、それ自体は不自然なことではないのかもしれません。



 昨今では、ケータイ小説の書籍化から始まり、web小説が書籍化されることも多く、それまで完全な書き言葉で書かれることが求められていた紙媒体の本でも、不完全な書き言葉が使われることが増えてきていると考えられます。不完全な書き言葉が使われる場面は、ますます広がっているのです。

 書き言葉は、今後どうなっていくのでしょうか。言葉は変化するもの。分かっていても、なんだか少し恐いような、そんな気持ちになりました。

【参考文献】

『KY式略語―ローマ字略語がなぜ流行るのか』北原保雄編著(2008)大修館書店

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ