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20 「愛している」と言わないでくれ

 今回はとても個人的な感覚の話で、同じように感じる人はあまりいないかもしれません。


 私は以前から、恋愛関係にある人の間で使われる「愛している」という言葉に、違和感というか、引っかかりを覚えていました。実際に私自身がユーモアを交えず言ったり言われたりしたことは無いので、主に創作物で出てきた場合です。



 この「愛している」に対する私の違和感が何なのか考えたところ、二つの点に思い至りました。



 まず一つ目。

 「愛している」って、なんとなく上から目線な感じがするのですが、こう感じるのは私だけでしょうか。


 コトバンク内の『精選版日本国語大辞典』の「あいする【愛】」の項目を見ると、「語誌」の部分に次のような記述があります。


【[語誌](1)対象となるのは人・動植物・物事などさまざまであるが、対象への自己本位的な感情や行為を表わすことが多い。また、人に対して使う場合は目上から目下へ、強者から弱者へという傾向が著しかった。

(2)明治中期love lieben などの翻訳語として採用され、西洋の「愛」と結びついた結果、人に対しては、対等の関係での愛情を示すようになる。】


 元々日本語の「愛する」は上下関係のある間柄で使われる言葉で、対等な人間関係でも使われるようになったのは明治中期以降だということですね。


 もしかしたら、私の中にどこか古い日本語の意識があって、そのせいで恋愛関係にある人の間で使われる「愛している」を上から目線に感じているのかもしれません。

 でも私だって現代人ですから、対等な関係で使われる「愛している」に触れる機会だってありますし、そういう用法に慣れていても良さそうなものです。

 それでもなお上から目線に感じるのは、創作物で使われる「愛している」の影響でしょうか。なんとなくですが、「愛している」というセリフはハイスペスパダリヒーローとかが言っていそうなイメージがあります。もちろんそうでない人物や女性が言っている例も多いでしょうけど。


 言葉だけで見ると、私にとって人に対しての「愛する」はやっぱり、「よしよしと可愛がって庇護する」ようなイメージなのです。



 二つ目は、誰が誰に言っているか、という部分に関係があります。

 私は恋愛関係にある人の間で使われる「愛している」に違和感があると言いましたが、実は例外があって、洋画の吹き替えや字幕など、外国人が使う「愛している」に対してはそれほど違和感がありません。

 この場合の「愛している」は訳語であって、本来話されている言葉は外国語だと分かっているからだと思います。つまり、この場合「愛している」=「I love you」で、「I love you」は対等な関係で使えるので問題無し、ということです。

 異世界恋愛作品での「愛している」も同様に、訳語だろうということで受け入れられます。


 しかし、日本人が日本人に対して言う「愛している」にはやっぱり馴染めません。「I love you」だから対等で上から目線ではないと考えても、気取っている、あるいは芝居がかっているというような印象を受けてしまいます。

 私にとって「I love you」の訳語としての「愛している」は日本語であって日本語でないような感覚なのかもしれません。



 こういった理由から、私は「愛している」に違和感を持っていたようです。すごく個人的な感じ方の話で、同じように感じる人はいないかもしれませんが、そういう考えもあるんだな、くらいに受け止めていただければと思います。




 ところで、「愛している」で思い出すのが、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという有名な都市伝説です。

 漱石が本当にそう言ったかどうかはともかく、「I love you」をどう訳すかという議論は当時の人々の間で実際にあったのではないかと思うのです。

 それまで日本語の「愛する」は対等な人間関係では使われなかったということですから、当時は「愛している」では「I love you」を正確に表現できなかったでしょう。きっと当時の人々もしっくりこないと感じていたはずです。

 昔の翻訳小説を調べたら、「I love you」の「愛している」以外の色々な訳し方が見つかったりするのかもしれませんね。



【参考文献】

コトバンク『精選版日本国語大辞典』

https://kotobank.jp/word/愛-23564

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