15 許すまじ
私はツイッターはやっていないのですが、たまに話題のツイートまとめなどを見たりします。そこで最近、『許すまじ』を「本当に許す」という意味で使っている人がいるらしい、という話題がありました。考えてみるとなるほど、『許す、マジ』ということみたいですね。
果たして本当にそんな使い方をしている人がいるのだろうかと、ウェブコーパスやツイッターで検索してみましたが、それらしい用例は見つかりませんでした。でも、「絶対に許さない」という意味での『許すまじ』を「本当に許す」と逆の意味に読み間違う人はいるのかもしれません。
それにしても、ツイッターを検索していると、『許す、マジ』は「誤用」だと言う人の多いこと。私はそうは思いません。
従来の『許すまじ』は動詞「許す」に打消しを表す助動詞「まじ」が付いて、「絶対に許さない」という意味になります。
それに対し「本当に許す」意味の『許すまじ』は、動詞「許す」と「まじめ(真面目)」の省略形と言われる「まじ(マジ)」に分解されます。この「まじ(マジ)」は俗語ですが、「マジで」や「マジに」など、副詞的に使われることが多く、この『許すまじ』も『許す、マジ』から『マジで許す』と類推して解釈されたと思われます。
さて、『許すまじ』を『許す、マジ』として使うことは日本語としてどこが誤っているのでしょうか。多少くだけた表現ではありますが、どこもおかしくないと思います。むしろ、倒置法という修辞技法を使っている分、日本語レベルが高いと言えるのではないでしょうか。
二つの『許すまじ』は語形は同じですが、全く違う言葉です。つまり、同音異義語なのです。
もちろん、「絶対に許さない」という意味で使われている『許すまじ』を反対の意味に解釈してしまうのは問題です(その逆もしかり)
ですが、『許す、マジ』のつもりで『許すまじ』を使うことは、TPOを誤らなければ全く馬鹿にされるようなことではないと思います。
この新しい『許すまじ』が生まれた背景には、現代の若者がよく目にする書き言葉として、ごくごく短い、一言だけとも言えるような短文が多くなっていることがあるのではないでしょうか。ツイッターなどのSNS、LINEでのメッセージのやりとりなどがそうです。
たとえばポツリと『許すまじ』とだけ書かれたツイートがあったとします。この表現を初めて見た人は、意味が分かりませんが、自分の持つ語彙から『許す、マジ』と解釈し、「本当に許す」という意味だろうかと類推します。前後の文脈があれば、この解釈がおかしいことに気がつき、きちんと調べて正しい意味を理解するかもしれません。しかしツイッターなどでは、何の脈絡もなく呟かれ前後の文脈が無い場合も多々あります。
また、ネットのやりとりは流れが速く、よく分からない言葉があった時にいちいち立ち止まっていては、流れに取り残されてしまいます。それも、調べないままになる要因の一つかもしれません。
新しい語彙に出会う場が、本の中ではなく、ネットの中になったということなのでしょうね。




