黒い春
氷の匂いが遠くへゆくとね
黒い風が吹いてくるんです
湿って重たい
嫌な冷えかたをして
熱がやってくるって
べったり笑って
黒い風が吹いてくるんですよ
桜の枝も染めますよ
ぬうと生えたビルヂングも染めますよ
そこいらの道行く人の
笑みも瞳も染めますよ
ぜんぶが真っ黒く染まったならば
じわじわ膨らむ熱と一緒に
薄桃色の花がひらくんですよ
それが合図でね
いっせいにひらくんですよ
ぜんぶがね ひらくんですよ
そのときだって
黒い風は吹いてるんです
そしてね やっぱり
湿って重たい
嫌な冷えかたなんです
ほうら熱がやってきたって
べったり笑って
ぜんぶをひらかせようとするんです
氷の匂いが遠くへゆくとね
黒い風が吹いてくるんです
黒い風が吹いてくるんですよ




