悪役王女の願望
こんな事で死んでたまるもんですかっ!!
あら失礼、聞いてらしたんですか? えぇ、私も前世の記憶持ちと言われる巡回委員の一員ですわ。
…巡回委員について? えぇ、私は構いませんが…そうですわね、学園内の規律を守る為に存在する風紀委員と表面上は似てますわ。実態は、私達のように前世の記憶やこの世界での繰り返し…つまりループの記憶持ちによる暴走を事前に食い止める事で学園崩壊ルートからの世界滅亡エンドを阻止したいという有志が集まった集団ですけれど。特にループの記憶持ちの方は反応が顕著ですわね。何でもバタフライエフェクトの余波で公式ヒロインが電波系転生者だった世界は大変な事になったそうですから。世界滅亡が可愛らしく思えるスプラッタとグロテスク満載な救いのない欝エンドだったとか、その世界のループから抜け出す為には公式ヒロインを見つけて電波系転生者と入れ変える必要があったとか、その為には隠しキャラである魔王を討伐する前に色々と小細工して手を組んでひと芝居打たななければならなかったとか、それはそれは苦労されたそうですわよ?
…え、あの子も記憶持ち? ライバルキャラの王女が双子なんて設定ありませんでしたから確実にイレギュラーだと思ってはいましたけれど…そうですか、妹は生きる為に全てを切り捨てたんですのね。
えぇ。あの子の言う通り、私の最終目的は公式ヒロインが作るであろう逆ハーレムを奪い取って死亡フラグを粉砕する事ですわ。私が成り代わった「正妃の生んだ第一王女」がゲームで生き延びる事が叶うのは、公式ヒロインにとってのバットエンド…つまりは攻略対象から見切りをつけられ捨てられるルートのみですから。
…何故妹に協力を仰がなかったか、ですって? 死亡フラグ乱立してる危険地帯にイレギュラー招き入れるなんて自殺行為をしたくなかっただけですわ。自分の事だけで手一杯なのに妹の面倒なんて見れませんし。何より、あの子と私は二卵性の双子ですから外見が瓜二つという訳ではありませんし、幼い頃に切り離しておけば間違えられて巻き込まれる事もないでしょう。
ツンデレ? そんなつもりはありませんわ。あの子が生きる為に自分以外の全てを切り捨てたように、私は自分が生きる為に必要なものを選び取っただけ。その為にもイレギュラーという不確定要素は排除しておかなければ、ゲームの知識があっても無意味になってしまうでしょう? そうでなければ、何故魔力の制御ができない落ちこぼれである私がエリートコースでもある魔法科に進学すると? 全てはゲームの流れに沿う事で先を確実に予測出来るよう、そして必要最低限の行動で死亡フラグを折る為ですわ。
攻略対象に好意はないのか、と? 有る筈ありませんでしょう。ツンデレ(第二王子)もヤンデレ(第三王子)も俺様キャラ(第一王子)も寡黙キャラ(お目付け役)もウザカワイイ系の子犬キャラ(脳筋)も、二次元だからこそ許されるんですのよ? 三次元でそんな相手がいたら正直関わり合いになりたくありませんわ。面倒ですもの。ただでさえ、生徒会には影の支配者(腹黒)がいて煩わしいというのに…
だったら何故公式ヒロインをいびるのか、ですって? それが私の役目だからですわ。死亡フラグを折る為に公式ヒロインと一切関わらなかった世界ですら、私は公式ヒロイン(確実に転生者成り代わり)が捏造した証拠によって不当に弾圧され冤罪の果てに処刑されましたから。どう動こうが最終的に公式ヒロインと敵対しなければならないのなら、相手の底の浅さと本性の醜悪さを披露させる方向で追い詰めていけばいいだけですわ。そもそも、私は外部入学者に苦言を呈して学園の規則を自覚してもらおうとしているだけですし。予備知識のない第三者から見れば、同学年の巡回委員が不慣れな外部生に対して注意しているようにしか見えませんわ。
…もっとも、私が悪役顔なせいで苦労している事を知っているクラスの方々からは色々とフォローしていただいてますけれど。基本を知らない外部生のお目付け役を押し付けられてるようなものですからね。
そもそも何故、何も知らない外部生がエリートばかりの魔法科に編入できたのかも不可解としか言いようがありませんが。本来であれば、公式ヒロインは庶民出身(男爵の侍女で妾だった母が妊娠発覚前に正妻に追い出されたので、母の居場所を十数年かけてやっと突き止めた父に迎えに来られるまで自分が貴族である事を知らなかった為)である以上、年齢的に初等部は無理でもせめて基礎科で学園での生活その他を叩き込んでから適正を見て編入させるべきですのに。それこそがゲーム補正だと言われたら反論も出来ませんけれど。
ゲームと現実は違う? 確かに、この世界は紛れもなく現実ですわ。けれど、乙女ゲームに登場しているキャラ…特に顔と名前が公式発表されているキャラに関しては世界の強制力という名の縛りが存在していますの。洗脳や刷り込みと言い換えてもいいかもしれませんわね。事実、幼い頃は同腹の兄妹だからと可愛がってくれていた兄2人も、認められない者同士何となく親しかった長兄も、学園に入学してから…もっと言うなら公式ヒロインと出会ってから、まるで別人のように周囲への対応が変わりましたもの。
…そう。あの子は火の粉が飛んでこない場所から傍観する事を選んだんですのね。良かった。公式発表されていない存在であれば、世界の縛りは働きませんから。死亡フラグ製造機と言う名の生きた傍迷惑と化した攻略対象に関わらなければ無事に生き延びられるでしょう。少なくとも卒業までは。
…え? 何故「卒業まで」と期限を切っているのか、ですって? 簡単な事ですわ。私達巡回委員は、公式ヒロインと攻略対象の巻き起こした諸々の余波を受けて卒業式までに殺される事が確定しているキャラの集まりですから。特に公式ヒロインと同じクラスの子に関しては、接点が多い分死亡フラグの数も他と比べものになりませんもの。だからこそ、巡回委員の目的は「無事に生き延びて卒業する」事なんですの。その為なら、公式ヒロインだろうと攻略対象だろうと彼らの中身が転生者だろうと、思う存分利用させていただきますわ。私達の邪魔だけはさせません。
貴方も、気を付けておいた方がいいと思いますわよ? 公式ヒロインとサポーターがまた何か企んでるという噂を耳にしましたから。巻き込まれたら最後、死亡フラグ乱立地帯から二度と抜け出せませんわ。
悪役王女は無自覚ツンデレさんです