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殺戮機械 La Machine Slaughter  作者: 瀬良 啓 Sera Quei
8/26

第二部 強手/ 寝ている暇があったら現場仕事を手伝え!

 第二部    強手

 二〇一一年一二月二三日

 

  

 奴に従いながらも、俺はただ自分に従っているのだ。

 ──シェークスピア作『オセロ』より

  

 8


 YAHOO! JAPAN

 トピックス

 2時48分更新

 ・フェラーリ 交差点で爆発炎上

 ・マンション爆発 爆弾テロ?

 ・………………………………

 ・………………………………

 ・座間で発砲 会社員殺害される

 ・………………………………

 ・広尾での立てこもり 人質は無事

 ・恵比寿の人体発火現象 殺人か?


 北野がハンドルを握るティアナは、都心環状線、浜崎橋JCTを右に入り、高速1号羽田線を西、神奈川に向かっていた。助手席には、同じ一三係の次席主任・矢木貴恵がいた。

 運転しながら北野は、これまでの出来事を反芻していた。

 特別捜査本部が恵比寿署に設置された。主導するのは組対三課。組織犯罪対策部企画分析課長の西条が統括することになった。捜査一課ではないのは、殺された井川こと河嶋比呂志が帝都聨合に属していたからだ。

 表向きは、一連の殺人に関する捜査である。しかし、犯人が元特殊部隊員の不動であること、その嫁と妹に対する復讐であるということは口外しないことを条件に捜査員全員に伝えていたし、不動の復讐に乗じ、糞生意気な帝都聯合そのものを壊滅させてやるという意思も、ほぼ全員共通の認識だった。

 ただし、さらに高次な目的、帝都連合の上部にいるはずの〝謎の組織〟の解明およびその撃滅については、いまのところ会議に出た五人、すなわち、西条、近田、佐々木、山村、そして北野を除いて伏せられている。

 それにしても、恵比寿、座間、六本木、吉祥寺とあっという間に四人。生き残ったのは、一人だけ。こいつもすぐに殺されるんじゃないか。ガキどもの行方を探し出すには時間がまるで足りない。山村と北野、新倉と静内、そして恵比寿の現場から戻った一三係の捜査員全員で、ガキどもの家族や親戚、友人等、いそうな場所をピックアップ。やっと絞り込み作業が終わり、出向こうとしていた矢先、その絞り込んだガキ、寺岡祐一が殺される。

 出向いたところで空振りに終わるところだった。家族と住んでいるという古い情報に惑わされ、杉並にいくところだったからだ。寺岡祐一は座間で殺されている。しかも〝麻井庄助〟を名乗っていた。これでは、もう手のつけようがない。結局、殺された全員、名前を変えていた。最後の一人も別人になっているはずだ。

 山村は「まあ、最初から要撃捜査なんて表向きだけのことだし、不動の確保は無理だと元同僚の二人はいっているし、ガキが殺されてもなんの痛痒も感じないしで、最後の一人が殺されるまでやることがない」と宣言。一三係は首席の北野と次席の矢木以外、自宅に戻って待機するよう命じた。

 一方、大部屋に残った者はそれぞれ椅子やソファで仮眠をとることにした。矢木だけは、パソコンに向かい、帝都の資料を読み込んでいたが、それでもいつの間にか寝落ちしていたらしい。

 そんなとき、デスクの電話が鳴った。北野が受話器を取ると近田からで「死体だらけで捜査本部はバタバタなのよ。寝ている暇があったら現場仕事を手伝え!」と見ているようにいう。おそらく、寝起きのしわがれた声でばれたのだろう。

 というわけで、山村のおっさんを除く全員が現場に向かうことになる。六本木は新倉、吉祥寺は静内──二人には、それぞれ恵比寿署の若手が迎えにきた──そして俺と貴恵が座間。ただ、座間にいく前に、みなとみらいの病院にいく予定にしている。不動に殴られたという巡査から、状況を聞いておく必要があるからだ。

 それにしても結構、面倒臭い。管轄がお隣さんの神奈川県警だからだ。なんやかや不祥事だらけなので、雰囲気が悪いんだよな。「あーあ……まいったなあ」

「そうね。でも、当然の報いだわ」助手席の貴恵が応えた。独り言のつもりだったが、声がもれていたのだ。貴恵は、別の意味に受け取ってるし。「しかし、実に効率がいいわね。一晩たっていないのに、四人。この調子でいくと、朝になる前に、もう一つ花火が上がるかもしれないわよ。最後は何でしめるのかしらね。ある意味楽しみだわ。不動は、狙撃銃を使うだけではなかった。座間では拳銃。麻布と吉祥寺では爆弾を使って殺したっていうじゃない。しかも、座間ではたまたま私服で出掛けていた巡査が現場に偶然居合わせ、不動に殴られ病院送りにされるというおまけつき。さすが特殊部隊といったところかしらね」

「まるで不動の味方をしているみたいな口ぶりだな」

「そんなの当然じゃないの」

 普通にしていれば貴恵は、細面の美人顔をしているのに、怒ると歪んで般若のようになる。おいそれと近づいてはいけない。中身も危険だ。柔道でインターハイやインカレにも出ている。役についている女は、こんなのばっかりだ。

「強姦された被害女性の取調べなんか、酷いわよ。所轄にいたころ、しょっちゅうやらされたわ。思い出したくないものを思い出させ、より詳しくと、うながさなくてはならない。集団のときは特にそう。一人ひとりを反芻するの。ほとんど泣き出す。調書をとっているこっちも仕事だからといって、割り切ることなんか簡単にできやしない。取調べが終わったと思ったら、今度は裁判。加害者の弁護士に、合意があったのではないか、と理不尽な質問もされる。もっとも、取調べや裁判でかわいそうだからと、あまりにも被害者側に立っていい加減なことをやると、今度は、痴漢冤罪がやたら増える可能性を否定できないのだけど」

 貴恵が声を荒げる。興奮で発汗したせいか、香水の香が鼻に届いた。

「強姦殺人には死刑まである。一方、強姦のみの刑期は有期懲役であって、最高がたったの三年。集団の場合でも、一年加算されるだけ。強姦の再犯率が、統計のとり方にもよるけど、五〇パーセント前後もあるというのによ! しかし、被害女性は……人生が一八〇度変わる! 周囲からの目が痛い。お礼参りするキ印もいる。被害女性の住所を教える、莫迦警官もいるしね。常に、びくびくして暮らさなくてはならない。一体どうすればいいのよ!」

 答えられるわけがない。貴恵も期待はしていないだろう。北野は黙っていることにした。

「不動に殺された連中はみんな会社員の肩書きを持っていた。しかも、所属していた会社は、いずれも帝都のフロントでしょ? 塀の中にいたというのに、そろいもそろって同じところに舞い戻るなんて、まったく反省していないってことよね。しかも、ネームロンダリングまでしている。名前や戸籍は、どこから買ったの?」

「そこまでは聞いていない」

「ネットカフェ難民あたりから戸籍を買ったのだとすれば、売った人間は人知れず殺されているかもしれないわよ」

「可能性は否定できないな」

「やつら、ホント、クズでゲス! 殺されて当然よ。しかし、不動も甘いわね」

 質問しろ、といっているのか。「どういうことだ?」

「〝目には目、歯には歯〟のハンムラビ法典に照らせば、簡単に殺しちゃ駄目よ。せめて、車で轢いてから、一週間、たっぷり時間をかけてからでないと、話にならない! 死んでからだって──」

「おい! 思っていても、それ以上は口に出すんじゃないぞ。俺も同意見だが、少なくても人前ではやめておくんだな。お前の人間性が疑われるだけじゃない。同じ係にいる俺まで同類と思われては、迷惑だ」

「分かっているわよ。冗談に決まっているでしょ!」

「お前、不動の協力者じゃないよな」

「なってもいいけどね。それでもって──」

「ああ、もういい。いいたいことは分かる」こいつ、機捜の二人と同類だ。

「だったら訊かないでよね」鼻を鳴らしたきり、貴恵は口をつぐんだ。

 基本的には、ハンムラビ法典うんぬんの貴恵の意見には賛成だ。会議が終わった後、当時の記録にアクセスした。あまりにも酷いことに驚く。

 不動の女房は、車の前に立ちはだかったのに、構わず跳ね飛ばされた。妹は、監禁され昼夜問わず犯され、その苦痛に耐え切れず自殺。死んでからもガキどもは犯し、身元が分からないよう顔をつぶし、ゴミのように捨てた。赤の他人の俺ですら、怒りで身体が熱くなるほどだ。ましてや当の不動であれば……。だがなあ……。

 浜崎JCT、北野はティアナを右の横浜方面に向けた。

「ところで」貴恵が沈黙を破った。「恵比寿で殺された〝井川比呂志〟は河島比呂志だった。座間の〝麻井庄助〟は寺岡祐一。麻布の〝安住和磨〟は南出孝之。吉祥寺の〝堤 忠雄〟は伊藤弘樹。そして、最後の一人、まだ生き残っている稲城春男。こいつも名前変えているでしょ。探すだけ無駄だわ、不動はもうつかんでいるでしょうけど。どうせ、また殺されてから身元確認。要撃捜査なんて、最初から無理だったんだわ。海外逃亡も視野にいれた、年単位の捜査になるでしょうね」貴恵が思い出したようにいった。「それ、ウチもやるの? だったら、冗談じゃないわ」

「捜査本部が立ち上がったばかりだ。まだ何も決まっていない」北野は貴恵に顔を向けた。目があってしまい、思わず視線を下にそらす。貴恵の両手に目がいく。膝の上に置いた黒皮のトートバッグを押さえていた。メモも手帳も持っていない。名前、そらんじていたのか。そういや、近田もそうだった。北野は視線を前に戻した。「しかし、よく、それだけの名前を覚えられるな」

「後でノートなりメモなりをひっくり返すより覚えていた方が楽でしょ。大体──」

 そのとき、貴恵の携帯電話が鳴った。貴恵の着信音は携帯に最初から入っている、ピリピリという飾り気のない電子音だった。バッグから取り出すと、貴恵は応じた。「知美? ええ、もうそろそろ着くわ。みなとみらいの病院でいいんでしょ?」

 神奈川県警の知り合いからの電話だ。出発する前に矢木は連絡をとっていた。男と違って女同士は、管轄が違っても仲がいいらしい。知美は、近田とも知り合いだという。〝女子会〟とかいうネットワークがあるのだ。比率にして一〇パーセントにも満たない女子が組織の中で生き残るためには、管轄を超えた協力が必要だという。ゴシップをはじめ、さまざまな情報を交換しているとの噂だが、ある意味、監察より恐怖を感じる。

「なんですって?」といったきり貴恵は黙った。

 何かあったな。北野は、貴恵を見た。携帯電話を耳にあてたまま動かない。

「──ええ、聞いているわ。──詳しい話は着いた後で聞かせて。それじゃあ」

「どうした?」

「不動に殴られた巡査だけど、死んだわ」


 山村から特殊犯に内線があった。またもや隣に来てくれということだった。

 捜一に続く廊下を歩きながら鈴森は思いにふけった。報告書を書いていたため残っていたのが失敗だった。報告書なんぞ明日に回し、とっとと帰っていればよかった。そうすれば、面倒な手伝いを山村から頼まれなかったかもしれない。

 山村に呼び出され、恵比寿での事件のあらましを知った。マル被は、不動 真という元警察官。名前までは覚えていなかったが、当時のことはすっかり思い出した。警察にいる人間、いわば身内の家族が悲惨な目に遭ったのだ。忘れるわけがない。

 居合わせた不動の同期だという静内と新倉から、不動が特殊部隊にいたということを聞かされた。特Aの狙撃手だったとか。そして、その不動に協力している人間がいるという。

 俺が不動の立場だとしたら、やはり復讐すると思う。不動ほどのスキルがあれば、迷うことすらしない。協力してくれといわれれば、すると思う、と伝えた。静内と新倉も同じ意見だった。

 で、結局のところ、俺は何をするかというと、山村曰く「俺たちが、当時、事件に関わった糞ガキを見つけ出す。そこに現れるはず不動の説得工作に当たれ。お前は、広尾で一度話しているから、なんとかなるはずだ」だと?

 もうなんともならんな。話を聞いたときは、まだ恵比寿の件だけしか起こっていなかったではないか。それ以降、見つけ出す前に、次々に、いや一気に殺されている。もう一人しか残っていない。

 相手は特殊部隊の狙撃手だぞ。しかも、どこで教わったか知らないが、爆発物の知識まで備えている。六本木ではクレイモア、吉祥寺では携帯電話をかけて起爆させるIEDだったというじゃないか。

 第一、見つけたとして、説得なんかできないだろう。どうやって説得するんだ。「これ以上、罪を犯すな」ってか。ちゃんちゃらおかしい。


 捜一の大部屋は照明が落とされ、一三係の一角だけがスポット的に明るく──311以降の節電のためだ。夜間電力なんて余っているんだから節約する必要なんかないのに──山村の他は誰もいなかった。

 山村は電話中だった。「──なるほど、了解だ。貴恵、北野と県警に残って捜査に当たってくれ。──ああ、それじゃあな」

 山村が電話を架台に置いたのを見計らって鈴森が訊いた。「県警というと、座間の件か。犯行を目撃した巡査が不動に殴られたという奴だろ。どうかしたのか?」

「殺されたそうだ」

「殺された? どういうことだ」

 山村はいった。「まあ、座れ」

 長くなるということか。鈴森は、手近な椅子を引っ張り出して座った。

 山村が切り出した。「巡査は、たまたま殺人現場を目撃、現行犯で不動を確保しようとしたのだが、返り討ちにされ気絶、病院送りにされた」

「聞いている。それがどうした」

「いずれ、巡査には不動の服装やそのときの様子等を訊きたいと思って北野と矢木にいくよういったわけだ。で、巡査の容体を病院に問い合わせた。眠っていちゃあ、話ができないからな。そしたら、対応した医者がもらしたわけだよ。大したケガでもないのに座間から運ばれてきたとな。だが、後から刑事がきて警察官だということで納得したそうだ。おかしくないか?」

「どこがおかしいんだ? 警察官が警察病院に運ばれるのは、普通だろ」

「最初、医者は警察官だと気づかなかったんだぞ。つまり巡査は私服だったということだ。座間署に訊いたら、そいつ、座間駅のPS勤務。夜中、私服で住宅地をうろつくのは普通ではない。官舎は反対側だった。しかも、勤務時間内」

「思いっきり服務規定違反じゃないか。いまどきの神奈川県警の人間だからか」

「本人の勤務評定は極めて良好だったとさ。捜査専科講習を受ける予定でもあったというから、まあ、まともだ」

「だとしたら、違反を巡査自らの意思でやったとは考えにくい。何らかの捜査に駆り出されたとか?」

「座間署では、その事実はないそうだ」

「ハムなら口外しないだろ」

「いずれ末端の巡査だぜ。お前だったら、使うか?」

「いや」

「向うも、事情を訊こうとしていた矢先だったとか。死人に口なしだってよ」

「それは頭の悪い奴の常套句だ。とりあえずは巡査の携帯の履歴、調べてみろよ。それからメール。パソコンのそれもだ。PSに入った電話もある」

「なるほど。さすがだな」

 褒められているのか、それとも莫迦にされているのか。山村の物いいにはいちいち引っかかる。「で、お前は誰が殺ったと思っているんだ?」

「そりゃあ、〝謎の組織〟さ」

「はあ? ナゾノソシキィィィ?」鈴森はビブラートをかけてリフレインした。

「便宜上、そういっているだけだ。気に入らないなら、お前が適当な名前を考えろ。これは、警察庁からの持ち込み企画なんだが、警察庁の人間がいうことには、帝都の背後にいるそれは、帝都を操っているだけではなく、ロシアマフィアとのつながりもあるとのことだ。しかも、警察内部にSを抱えているらしい。その証拠に、帝都のガサ入れがことごく失敗している。巡査殺害も組織が口封じのために行ったとするなら、つじつまが合う」

「なるほど。となると、不動も〝謎の組織〟を追っているのか。こりゃあ、協力者がいるな」

「なぜ、そう思う」

「お前、俺を莫迦にしてるのか」

「莫迦にしてはない。試しているだけだ」

 ちっ、どうしようもねぇな。「不動は、少なくても個人で行動していない。装備が日本で個人が揃えられるシロモノではないし、複数の標的の始末を短時間でスムーズにこなすには、情報収集が必要だ。個人じゃできないだろ。一方、不動の復讐のためだけに協力する、お人好しがいるとは思えない。相当なリスクを負うのだから、見返りがないと話にならない。結局、不動が復讐しまくって得するのは誰か、ってことだろ」

「さすがに、察しがいい。付け加えるとロシアマフィアが絡んでいるという点は見逃せない。CIAあたりなんかコーザノストラを使う。同様にロシアの情報部がロシアマフィアを使っていてもおかしくないからな。だとしたら、ハムの登場だ」

「ハムに任せておけばいいだろ」

「冗談じゃない。出し抜いてやるんだよ、俺たちは。それでもって、非合法な行為は全部、連中に押し付けてやる」

 お前、どんだけハムに怨念があるんだよ。「あんまり人前でいわない方がいいぜ、莫迦だと思われる」

「分かってるよ。だから、お前を誘っているんじゃないか、信用できると見込んで」

「信用? お前の口から出てくる言葉じゃないな」

「俺だっていいたくないが、音声解析の結果がそうなんだから、仕方がない」

「音声解析って何だ?」

「さっき音声解析の結果が届いた。お前は、紛れもなくシロだったよ」

「だから、音声解析って何だ? シロって?」

「ウソ発見のひとつの方法さ。声音の変化でウソや隠し事があるかどうか分かるそうだ。悲しいときには悲しまないといけない。怒ったときは怒らなければならない。そのずれが波形に現れるんだと。会話を解析してもらったら、お前はシロさ」

「どういうことだ?」

「さっき、機捜の二人も含めた打ち合わせをしただろ? それ自体に意味はなかったんだ。音声サンプルがほしかっただけ。大体にして、不動の説得なんて、シチュエーション自体起こりようがない」

 顔が火照ってくるのが分かった。「くそっ、なんて奴だ!」

「悪いとは思っているよ」

「そう思っている口ぶりでは全然ない!」

「そうか?」山村はとぼけた。「ちなみに、いまのところ確実にシロ、正直者といえるのは、お前と〝謎の組織〟なる莫迦ばかしい話を持ってきた、警察庁の西条の二人だけだ。俺は、クロだったよ」

「お前に関しては、まったく異論がない」

「ありがとうよ」山村はニンマリした。

 どうしようもねえな。「疑うのは結構だがな、こんなことばかりやっていると、捜査が進展しない。お前の部下はどうするんだ」

「一旦、全員召集したんだが、目が届く北野、矢木を除いて帰らせた」

「帰らせた人間の中に、どっち側か分からないが、Sがいるかもしれないだろ。それはいいのか?」

「大丈夫だ。Sだったら捜査が気になって、自分から電話してくるなりするはずだ。そいつをお縄にすればいい。簡単だ。まあ、いないと確信はしているんだがな」

 ウソつけ。部下すら信用していないということが見え見えだぞ。「この捜査に参加している人間は?」厳選する必要があるよな。

「警察庁の西条、恵比寿署長の近田、管理官の佐々木、ウチの北野、俺、そしてお前だ。他にも候補がいるが、基本、少数精鋭だ」

「俺は参加になっているのかよ。まだ、やるとはいっていない」

「なんだ、その面倒臭い適応機制は。つまんねぇ葛藤してるんじゃねぇよ。障壁なんかねぇだろ。お前はやるよ。こんな面白そうな事案、滅多にないんだから。欲求充足させていいんだぜ」

 この野郎、教科書的な心理学用語を使いやがって。ああ、俺は心理学を勉強したよ、交渉人になるに当たってな。専門外の人間に専門用語で返されるのは腹が立つ。アメリカ人に、サムライの講義を受けているようなものだ。しかも、こいつ、分かってやっていやがるんだ。怒り、もしくは、それから発した開き直りは、思考を停止させる。「分かったよ。当然、ダマで進めるんだろ。上はどうする?」

「さあな。佐々木がなんとかするんじゃないか? 口外するなよ。組織のSや不動の協力者にばれては話にならない。まあ、口外したところで、莫迦だと思われるだけだろうけど」




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